結節性硬化症という遺伝疾患がある。血管筋脂肪腫という、いろんな成分が混じった腫瘍が肺や腎に出現することが知られているが、遺伝子異常により腫瘍細胞でmammalian target of rapamycin (mTOR)なる受容体が恒常的に活性化され増殖することが明らかになってきたそうだ。
そこに作用するsirolimusなる薬があって、この投与により腫瘍が縮小し、投与の中止により増大したという報告が医学雑誌に載っていた。この薬はイースター島の土壌に住む菌が産生する抗生物質として発見されたが、現在は免疫抑制剤・抗がん剤として注目されている。
遺伝疾患については、原因遺伝子が調べられるのだから病因の解明が今後一気にすすむ可能性がある。治療法もそれに合わせて開発されていくだろう。この物質が悪いので、その働きをおさえよう、というのが分子標的療法である。遺伝子が悪いなら、それを取り替えよう、というのが遺伝子治療である。
免疫抑制剤も、移植医療の発展などと共に開発が進んでいるようだ。たとえばmycophenolate mofetilという薬は、こんどは真菌が産生する物質だが、核酸代謝(de novo経路)を抑制し免疫細胞の増殖を抑える働きがある。副作用が少ないことから米国では好んで使われ始めている。日本では、医師ですら知る人は少ない。
私は研究の話をするのは結構好きだが、研究自体が好きかというとそうでもない。大学病院で研修すると、自分は研究しないまでも、研究者達とこういった話をもっと身近にできるかもしれない。しかし大学病院で研究しない者に居場所はあるのか。臨床研究、教育に従事するなら可能だろう。