11/27/2024

Remembered experience

 経験している最中の、経験そのものと、後から「こうだったなあ」と思い出す経験。あとあとまで影響を及ぼすような、経験。苦労したが、今となっては笑い話、とか。こういうところがためになった、とか。あの時こうしておいてよかった、とか。

 Road trips aren’t measured by mile markers, but by moments. Difficult roads often lead to beautiful destinations. It’s not the destination, it’s the journey.

  – Ralph Waldo Emerson

11/24/2024

B cell maturation

 B細胞の成熟は何段階かあり(Front Immunol 2019 10:1787)、まず同じ抗原によって活性化されたB細胞とT細胞が、リンパ節の濾胞の外側、B-T境界で接触する。これをレクチャの先生は「アプリか何かで知り合った二人が出会う」と表現しており興味深かった。

 そのあとB細胞はリンパ節から出ていくものと、リンパ節で胚中心(GC)非依存のメモリーB細胞になるものと、濾胞深くに入って胚中心を作るものに分かれる。

 B細胞のなかで抗原との特異性が高いものがリンパ節から出ていき、即応力として働く(initial burst)。そして、こうしてオプソニン化された抗原は貪食されて組織の樹状細胞に提示され、胚中心の特異性を高めることになる。特異性の低いものは、GC非依存のメモリーB細胞になる。Bach2、ZBTB32、KLF2、ABF-1、STAT5など遺伝子が関わっている。

 胚中心には暗帯(dark zone, DZ)と明帯(light zone, LZ)があって、DZでは抗原受容体(BCR)にsomatic hypermutationが起きる。変異したB細胞はLZに移り、濾胞樹状細胞に提示された抗原との結合を試みる。結合できたものだけが、生存シグナルを受けることができる。そしてDZに戻って更に変異してはLZで選択を受ける。

 その結果、特異性の低いメモリーB細胞と、特異性の高い形質細胞がGCから卒業する。形質細胞になるには、Tfh細胞の助け(Tfhの分泌するIL-21など)が必要で、じっくり作られる。Bach2発現は弱められる。メモリーB細胞は、Tfhの助けをあまり受けないうちに濾胞から早期に卒業する。Bach2発現は強いままだ。

 移植免疫においては、免疫抑制薬が効いているので、GC後のB細胞がでてくることは少なく、GC前のB細胞が問題になる・・ようなことをレクチャで言っていた。録音されているので、もう一度聞いてみよう。


 

Tolerogenic Cell Therapy

  移植免疫では抗原提示、感作、免疫活性化、拒絶・・をいかに抑えるかの話が中心になるが、免疫にはそもそも寛容の仕組みが備わっている(Trends in Immunology 2022 43 8)。CD4+/CD25+/FOXP3+のレギュラトリーT細胞(Treg)のほかにも、間葉系幹細胞、寛容原性(tolerogenic)樹状細胞、レギュラトリーマクロファージ(Mreg)、骨髄由来免疫抑制細胞、レギュラトリーB細胞(Breg)など。

 これらの細胞をドナー特異的に育ててレシピエントに注入すれば、免疫抑制薬なしに移植免疫だけが寛容されるのでは?と誰もが考える。じつは治験も行われていて、有名なのはONEスタディだ。ポリクローナルなTregを注入し免疫抑制薬を減らせないか調べた。また、HLA-A2を認識させたCAR-Treg細胞をHLA-A2ドナー腎を移植されたレシピエントに注入するfirst-in-human phase 1 studyも計画されている(NCT04817774)。

 どうやってTregを採取し育てるか、どれくらいの量でどんなふうに注入するか、どんな免疫抑制薬と組み合わせるか、注入した細胞はどれくらい長生きするのか・・など分からないことがたくさんある。今のところは拒絶リスクの低い例にしか試されていない。移植特異的でなければ、腫瘍や感染に対する免疫も抑制されるだろう。

 でも、期待がかかる。移植学会などでもホットトピックと思われ、日頃の診療の合間にも機会を見つけて勉強していきたい。


Semi-direct Pathway

 抗原提示といえば、ドナー由来の抗原提示細胞によるdirect pathway、レシピエントの抗原提示細胞がドナー抗原を提示するindirect pathwayの二つと思っていたが、EV-mediated MHC transferを介したsemi-direct pathwayもあると知った(World J Transplant 2020 10 330)。

 細胞は細胞膜で囲まれているが、膜は動的で、つねに小胞を放出している。そして小胞の細胞膜にもMHC分子(すべての細胞にあるのはClass I)は載っているので、ドナー由来の小胞がレシピエント細胞膜と癒合すると、ドナーのMHC分子がレシピエント細胞に載る。
 
 ただし、ドナーMHCを持つレシピエント抗原提示細胞を認識するCD8+T細胞の運命を握るのは、CD4+T細胞とPD1/PD-L1だという。CD4+ヘルパーT細胞の助けを受けると活性化し、拒絶に向かう。いっぽうCD4+レギュラトリーT細胞(FOXP3+、Nat Rev Clin Onc 2019 16 356)に抑えられるとアナジーになり、寛容に向かう。
 
 PD1とPD-L1が結合すると寛容がもたらされるので、たとばレシピエント提示細胞のPD-L1(レシピエント由来かもしれないし、ドナー小胞に載っていたものかもしれない)がCD8+細胞やCD4+ヘルパー細胞のPD1と結合すれば、寛容となる。

 なお、チェックポイント阻害薬は寛容をもたらせないようにして腫瘍免疫を活性化するため、移植患者に用いられると、移植免疫まで活性化されてしまう。腫瘍免疫に特化したチェックポイント阻害薬があればよいのだろうが・・。


Single-cell transcriptomic analysis

  腎病理と言えば、難解なわりに(今となっては)見方が粗大で、「炎症細胞」「リンパ球」などで話が止まってしまうとしばしば指摘されるが、近年はもっと詳細に調べることが研究レベルでどんどんできるようになっている。

 そして、免疫学のレクチャによれば、昨年JCIに、免疫抑制薬の種類によって、急性細胞性拒絶の腎病理にみられるCD8細胞の特徴に差があることが示された(JCI 2023 133 e170191)。

 実際の患者から得られたデータであり(免疫抑制薬はタクロリムス、ベラタセプト、そしてCD40モノクローナル抗体イスカリマブ)、今後こうしたデータが蓄積すると、免疫抑制薬Aで起きた拒絶にはX、Bで起きた拒絶にはY、といった個別化ができるかもしれない。

 おそらく血液・腫瘍内科では、化学療法Aで起きた再発にはX・・といった診療が行われていると思われる。また、遺伝子B異常のある癌には分子標的薬Y、といった診療も行われているだろう。

 急性細胞性拒絶といえば、ざっくりステロイドとrATG、と相場が決まっており、臨床的にはそれで何とかなっているが、実際には治療後も拒絶が残存・再発する症例がけっこう存在する(AJT 2022 22 761、DR/DQミスマッチが多いほど高リスクという)。これから治療が変わっていくかもしれない。

 

11/23/2024

Heparin

 インスリンの1単位は(歴史的に)ウサギを低血糖で死に至らしめる量だが、ヘパリンの1単位はなんだろう?と調べてみたら・・(歴史的に)ネコの血を0度で24時間固まらせない量だった。では、カルシトニンの1単位は?と調べてみたら・・動物はみつからなかった(由来するサケは別にして)。1mgが6000単位なのだという。

Morart and COD

 モーツァルト生誕268年の今年は、ライプチヒの図書館で彼の未発表作品が発見されて話題になった。が、2009年にも、モーツァルトの死因についての論文(Ann Int Med 2009 151 274)が発表されていた。

 モーツァルトといえば、1791年9月にプラハに行ってから体調が悪く、奇しくもレクイエムを製作中に「浮腫を伴う」疾患で急逝したことはよく知られている。毒殺など諸説あるが、この論文は当時の死因統計に基づき、溶連菌後の腎炎であった可能性が最も高いとしている。

 2009年8月17日付New York Timesにも記事が載っているので、この論文を知っている人も多いかもしれない。筆者は、透析医療業界を告発する"How to Make a Killing"を読んで知った。腎臓病の治療が進んでいたら、モーツァルトも長生きできた・・かもしれない。

 

11/22/2024

AIN

  一般腎臓内科の病理カンファレンスに参加し、病歴と検査などを少しずつ提示してフェロー達が考えを述べたり、病理スライドをみながらコメントしあったりするのが教育的だった。それはともかく、「急性間質性腎炎の病変は皮髄境界にみられる」という諺の元になる資料が参考になった。

(原典はJ Exp Med 1898 3 393)

 原典を紹介するレビュー(Clin Nephrol 2014 82 149)によれば、ハーバード大学ブリガム病院病理医のCouncilman医師が、感染後の「非化膿性(感染性)炎症性間質病変」を報告した際、こうした病変がおもに皮髄境界に見られることを示していた(上図)。


11/17/2024

Hyperkalemia

  移植後は腎機能が回復し、カリウム制限は必要なくなる・・と思いがちだが、タクロリムスの影響や、腎機能がそこまで回復しないこと、糖尿病合併例で(ステロイドなどの影響で)血糖が高いことなどから、けっこう高カリウム血症を診る。

 体液が少ない場合や血圧が低い場合はfludrocortisoneをよく用いる。そうでない場合は、カリウム喪失性利尿薬を用いる。緊急の場合、細胞外液を数L輸液しながらフロセミド静注(100mgなど)を行うこともよく見る。

 そして、頻回に用いられるのがLokelma、次に用いられるのがVeltassa、保険などの理由で用いられない時に用いられるのがKayexalateである。Lokelmaの実物、アメリカに来て初めて観た。パケットを水に溶かすが、意外と溶けづらいので、けっこう多めの水に混ぜている。無味で、フレーバーなどはついていないらしい。




11/15/2024

Nikolai Dahl

 ニコライ・ダールといえば、ピアノコンチェルト第一番がものすごく不評で落ち込んでいたラフマニノフを救った医師で、不朽の名作である第二番は彼に捧げられている。

 彼がラフマニノフに行ったのは、催眠療法だった。

 毎日ラフマニノフはダールの部屋の肘掛け椅子に座り、「あなたはコンチェルトを書く・・とても簡単に書く・・それは素晴らしいものになる・・」と聴き続けたのだという。彼はのちに、「信じられないだろうが、この治療はとても私に効いた」と語っている。

 1900年の秋にコンチェルトの2つの楽章を完成させ、1901年11月9日、本人のピアノ演奏によって初披露された。

 人間、いくら気にするなと言われても、他人の評価に弱いものである。だから、どうせなら、毎日「あなたはできる」と言われ続けているほうがいい。コンチェルトは書けなくても、自分らしく色々挑戦できるだろう。

 ただ、第一番の不評を経験しないと、第二番は書けなかったのかもしれない、とも思う。となると、大事なことは、やはり他人の評価を乗り越えることなのかもしれない。


11/12/2024

こぼれ話

  ニフェジピン徐放剤は、錠剤の殻に点の孔をあけることによって薬が徐々に出ていく仕組みなので、殻は便に排出される。知らないと、患者が「毎日便に白い球状のなにかが排泄される」とびっくりして、医者も「寄生虫の卵か?」などと慌てる。・・というケースレポートが、あるそうな(doi:10.1155/2017/3718954)。

Collapsing glomerulopathy

 今いる街にある移植5施設が一緒に話し合う腎病理カンファレンス(もちろんZoom)があって、鑑別診断を挙げる役目を仰せつかった。APOL1とCMVとTMAとFSGSがつながらない・・と、きれいな発言はできなかったが、そのぶん、(振り返れば明らかな)collapsing glomerulopathyの概念を忘れないよい機会になった。

 最近のレビュー(Curr Opin Nephrol Hypertens 2023 32 213)によれば、HIVAN・パミドロネート・SLEなどとの関連もさることながら、一番大きな関連はAPOL1だという。

 APOL1はインターフェロンによって誘導される。ウイルス感染(HIVだけでなく、B19、CMV、HTLV、そしてCOVID-19など)や自己免疫疾患などのセカンド・ヒットを受けると、・・さまざまな機序で足細胞を傷害する。APOL1はpore-forming proteinなので、細胞膜やミトコンドリア膜に孔をあけるのではと考えられている。また、足細胞だけでなく内皮細胞も傷害すると考えられる(そもそもAPOL1は内皮細胞から単離された)。

 NON-APOL1-associated glomerulopathyは、内皮細胞傷害が主因と考えられる。たとえば抗VEGFA抗体(bevacizumab)、TMA、移植腎における血管傷害など。HIF1・HIF2などの関与が推察され、APOL1の有無にかかわらず発症する。他にはコエンザイムQ10生合成に関わる遺伝子異常(COQ2、COQ6、COQ8B)など。

 パミドロネートはミトコンドリア傷害が機序と言われているが、足細胞は通常時には解糖系をエネルギー源にしているので、それが本当の機序なのかははっきりしない。

 臨床的にはここまでだが、反応して増殖する上皮細胞の起源についての研究や、腎生検標本から遺伝子発現パターンを調べる研究などが進められているという。


 

ある日の学び

  Alport症候群の責任遺伝子はCOL4A3、A4、A5で、A5はX染色体にある。キプロスにCol4a3遺伝子変異の集積が、ユタ州にCol4a5遺伝子変異の集積がみられる。Jackson Labというメイン州にある多種多様な実験マウスを生み出し供給する施設で、Alport症候群の原因や治療に関係する可能性のある遺伝子がいくつかみつかっている。たとえばアクチンに結合するFormin1(基底膜陥入にも関係する)、mTOR経路の上流にあるDgke、Pik3r1など。

 クマの冬眠について。クマの冬眠に関わる未知の遺伝子はないが、クマの冬眠で特異的に調節される遺伝子は166ある。そして、同様に冬眠するマダガスカル等に住むテンレックとも共通する遺伝子はTDRD5、CISH、SOCS2、SLCO1C1、SERPINC1、NDST3、RTN4RL2・・・など。なかでもTDRD5遺伝子は、ボウマン嚢の血管極よりの、上皮細胞が足細胞に分化するところに発現しているという。

 クマの実験は非常に実現しにくいが、マウスも、冬眠に似たtorpor状態になるという。ただし、簡単に起きてしまうので、測定器具を埋め込んでからtorporに至らせるなど工夫が必要だそうだ。

 冬眠もtorporも腎臓に限らず長寿などの健康効果が期待されている。筆者も昼寝にもそうした効果があればよいのだが。


 

11/11/2024

夜中の検査

  入院診療で気づくことはたくさんあるが、その一つが夜中の検査である。CT、超音波などの画像検査は、夜中にも行われる。時間外のほうが検査室が空いており、入院患者はいつでも院内におり、人員を配置して検査室が夜も稼働しているためと思われる。

11/06/2024

忘れられない一言 78

 当院の腎移植内科はコンサルタントなので(施設によってはプライマリーなところもあるが)、患者・家族・医療スタッフとのかかわりは薄めである。しかし、時にはプライマリーより先に現場に駆けつけることもある。今週はそれが多めだ。

 プライマリーではないうえ、アテンディングでもないので、どうしても何をすべきかを言いづらい。そのため、正直あまり役に立っている気はしない。それでも、いることで、患者家族やスタッフから、けっこう感謝される。

 とくに家族は、誰かが来るまで不安で不満な気持ちでいることが多い。なので、誰が来ても有難いのだろうが、今日はアテンディングに「あなたは人を落ち着かせる」と言ってもらえた。

 以前(ずいぶん前のことだが)「一緒にいて安心したことがない」と言われたこともある筆者としては、ちょっと信じられなかったが、そう見えるのなら有難いことだ。