7/31/2017

レシート幾何学 101

 以前から素数に関心を持っていたが、本屋さんで『素数姫の素数入門』(「素数に恋する女」製作委員会)という本があるのをみつけ楽しく読んでいる。そのなかにスタニスワフ・ウラムという数学者が、学会でほかの発表が退屈だったため手元のメモ用紙に落書きしていて「ウラムのらせん」をみつけたというエピソードがあった。

 きょうは、それに触発されて書いている。

 通勤電車のなかで、胸ポケットに入っていたレシートをいじっていた。下図の長方形をレシートとして、AとCをくっつけるように折る。




 そして開く。




 すると、A・P2・C・P1というひし形ができる。




 これだけでも感動したが、AとCをつけるように折らずにP1、P2の位置を決めることはできないか?という疑問がうまれた。さいしょは長方形の長い辺と短い辺の2変数で表そうとしたが複雑そうなので、短い辺を1、長い辺をx、求めたい長さをyにしてみた。




すると求めたい長さyは、三角形ABP1でピタゴラスの定理をつかえば求められる。




 得られた二次方程式を、解いてみる。




 y = 1/2 ( x - 1/x )。ひし形らしい、対照的で簡潔で美しい式。きっと、何百年、あるいは、何千年も前に発見されているだろう。名前もあるかもしれない。でも独力でたどりついたのはうれしいし、作業に没頭するのは楽しい。学ぶ楽しみを、続けて生きたい(「レシート幾何学」なんて本になるかも;写真はこちらから)。






 




 

 

7/21/2017

Livin' On A Prayer

 PK対決でPKを決めるのには、フィジカルな能力もさることながら、精神力がおおきいのだろうなと思う。長谷部誠選手が「心を整える。」で書いているのも、そういう内容なのだろう。

 医療で「うまくいきますように」と医療者が神頼みしたら、危なっかしいだろうか。実力や経験がないのに「神様がついているから大丈夫」ではこまるけれど、実力や経験があっても、自分のベストの力がだせるようコンディションを保つのにお祈りしても怒られないだろう。

 それでも不測の事態とか、困難なケースというのはあるし、そういうのもふくめて「うまくいきますように」と時間をとってお祈りしても、いいと思う。いくら完璧な手術をしても、患者さんが助からなければ残念すぎる。

 そんなわけで、ロッカールームで術衣に着替える時にお祈りしてみた。

 うまくいってよかった。





 

6/26/2017

忘れられない一言 40

 忘れられない一言も、ついに40回を迎えた。途中は本や論文から見つけた一言もあるが、いまでも忘れない大事な一言だ。

 40回目は、学生さんとのやり取り。緩和ケアを見学している彼に、見学した印象で、どんな特徴があるか聞くとこう返ってきた。

患者さんや家族の思いや考えを、否定せずに傾聴するのが他の科とちがうと思いました。
否定しないのは、技術だ。賛成するとか、言いなりになるとかじゃなく「そうだったんですね」と受け止めてあげる。夫婦円満の秘訣であり、営業のキホンであり、医療に限った話じゃない(教育でも使われる例はこちら)。

 まして緩和ケアだけに限った話じゃないから、身に着けたいものだ。



 

6/23/2017

忘れられない一言 39

 患者さんのプライバシーを守るのが難しい環境というのは、ある。たとえば病室に複数の患者さんがいるとき。また、隣のベッドにも患者さんが横になっている透析クリニック。隣の人に聞こえないようにするにはどうすればいいか?

 声のトーンとボリュームを落とすこと。半年くらい前、患者さんに「先生の声が大きいから、頭が痛い…」といわれるまで気づかなかったのは反省だ。でもそれからは、心得ている。耳が遠い人には、耳元で話すようにしている。

 落ち着いた、ゆっくりした、堅実な口調。それには、癒しの効果と説得力があると感じる。パブリック・スピーキングの基本だ。触れる手、選ぶ言葉、みつめる眼差しも、治療の一部。やり方次第で侵襲的にもなるから、使いようだ。






 


6/21/2017

忘れられない一言 38

 17時33分、上司の先生が電話をくださった。17時ころにやってきた患者さんが入院するので、明日から診てほしいと。

 それじゃ、と電話を切ろうとされたので、あわてて

「今日やっておくことはありますか?」

 と聞くと

先生は帰る時間だから今日は俺がやっとくから

 とおっしゃった。さらっと、なかなか言えることじゃないと思う。



信じぬくこと

 数ヶ月の入院を経て、なんども状態が悪くて希望を失いそうなときがあって、それでも元気で退院される方をみると心が動かされる。

 そういう方から得られる教訓は、入院が長くなった方を元気にするのに活かせるかもしれないから自分なりに感じたことをリストにしてみる。

 退院先が自宅でないこともあるが、それでも自宅を最終的なゴールにしている方が多い気がする。

 そして、おうちに帰れないと嫌だ!と言い張るのではなく、いつかはおうちに帰ります、と静かに信じて強く願っている人が多い気がする。

 信じるといえば、信仰、つまりfaithをもつ方も多い印象だ。宗教を信じると、治療者・家族・患者といった立場が神さまのしたで横並びになる。

 怒りや悲しみを神さまにゆだねると、心が落ち着くかもしれない。すべてを人間相手に解決してもらおうと思っても、人間は完璧じゃないから。

 とにかく、信じる、というのがカギかもしれない。大事MANブラザーズ『それが大事』(1991年)にあげられた、

・負けないこと
・投げ出さないこと
・逃げ出さないこと
・信じぬくこと

 という「ダメになりそうなときに大事な4つの態度」にも挙げられている。妄信、盲信はいけないけれど、見えないものを信じられるかどうかが差を分けることは、ある。
  
 音楽療法とかいうけど(ここにも書いたけど)、音楽療法っていうのはご老人の耳に心地よい民謡を流せばいいってもんじゃない。そのときに必要な効果を期待して選曲したほがいい。だからたとえば「それが大事」「TOMORROW」「負けないで」なんか、希望をなくしそうな闘病生活には有効だと思う。





5/14/2017

お引っ越ししました(^o^)

 以前にも触れたつもりではあったが、腎臓内科関係の内容はお引越しした。お引っ越し先は、私だけのブログではない。3人(2019年5月現在)で書いている。だから、僕たちのキセキ。

 お引越し先は、こちら

 検索するときは「僕たちのキセキ」と入れれば出ます。

 腎臓内科以外にも、人工子宮(フィラデルフィア小児病院の研究、写真はEconomist誌)とか、話題は事欠かない。細々とでも、こちらのブログも続ける予定だ。


 

12/15/2016

大事な本

 「どうしても、何が何でも、理屈がどうでも、説得されても、情に訴えられても、危険でも、命の保証ができなくても、とにかく入院は絶対にいやだ」という人にあうと、9年前のことを思い出す。救急的なシチュエーションならよくある話で、世の中にはできる事とできない事があるのは分かるけど、それでも何とかならないのかなと思う。それで、11年前にシカゴにあるNorthwestern大学病院(写真)の総合内科に留学した時に書店で買った本を開いてみた。

 Frederic W. Platt先生とGeoffrey H. Gordon先生が書いたField Guide to the Difficult Patient Interview(2004年)は、何回引越ししても私のそばにある。STEP(日本の国家試験参考書)もハリソン内科学もどこかにやってしまったけれど、こういう本は蔵書に残るんだなと思う。で、調べてみるが本の目次に「入院や検査を拒否する患者さんとの接し方」という章がない。仕方ないからパラパラ読んで探したらUnderstanding the Meaning of Illness(病気の意味を理解する)章にかいてあった。

 「Aだから入院が必要」だと了解可能なのに「『Aだから入院が必要』だろうが何だろうが関係なく、とにかく入院はしない」と患者さんがいっているとき、私達はおそらく患者さんにとって病気が何を意味するかを分かっていない。だから患者さんが自己破滅的で真実から目を背けていると責めるのではなく、私達の側に、みつけるべき事実がもっとあることを受け止めるべきだとこの本は言っている。

 まず「あなたが絶対に入院しないことは分かりました」で「そうだ!」というYesをひとつもらう。そのあとで、説得するためというのではなく相手を理解しようという誠実な関心を示す。そこで知りたいのは、患者さんはどうして自分が病気になったと考えているか、病気になったことについてどう思っているか、入院することで何を失うか(お金、社会的な役割、インターネット環境、能力)、病気や入院や治療による負担を軽減するためのどんなサポート(家族、友人、保険)を持っているか、など。

 It's not their problem, it's your problem。Paul Farmer先生が言っていたのにも通じるが、患者さんがどうしても入院したくないとおっしゃるのは患者さんの問題ではなく、患者さんの理解不足な私達の問題(だから章タイトルが「理解すること」になっている)。人のせいにするのは簡単だ。こういう状況では患者さん一人が聞かん坊の悪者みたいになっているから、誰もあなたを責めない。でも喧嘩別れみたいに帰すのが正解ではないと思う。まだまだこの本にお世話になりそうだ。



12/02/2016

キュア!

 トランプ氏が次期大統領になって、オバマ大統領はTPPも通せないし、残り任期でできることはメルケル氏の4選を応援するくらいだと思っていた。しかし、それでも共和党と民主党が一緒に可決できる法案というのはあるもので、昨日可決したのが21st Century Cures Actだ。やっぱり医療は人類共通の課題だから、党派を超えて賛同を得られる。予算の48億ドルは、薬や医療デバイスの認可を速く簡単にする規制緩和のほかに、NIHの研究、プレシジョン・メディシン・イニシアティブ(ゲノム情報などをもとにして一人ひとりに合わせたいわゆる「テーラーメイド医療」)、BRAINイニシアティブ(脳疾患についての詳細な脳マッピングプロジェクト)などに使われるという。
 キュアなんていうと言葉の響きがいい(下図)けれど、要は製薬業界の圧力を受けた規制緩和法案で、何も知らない患者さんが薬害や副作用に簡単にさらされると懸念する声もある。それでもやっぱりキュアっていい響きで、撲滅したい病気はたくさんあるから頑張ってほしい。例えばこないだアルツハイマー病に対する抗アミロイドβモノクローナル抗体のSolanezumabが治験で失敗したけれど、似たような抗体はたくさんあるし、beta secretase cleaving enzyme(BACE)拮抗薬という別のクラスの薬もたくさん治験中だ。Roche、Biogen、Lilly、Merck、AstraZenecaがリードしているようだが、日本の製薬会社も研究しているといいなと思う。
 



 

11/25/2016

Positive Strokes

 電子カルテもいいが、紙カルテにもいいところがあった。たとえば筆跡で誰が書いたかわかった(内容は読めないこともあったが)。それから、何をしてもうまくいかず周囲が敵ばかりに思える時に、「カルテの字がきれい」と言われただけで救われる人がいた。電子カルテになって、さまざまな職種の多くの人がカルテを簡単に読めるようになった。「字がきれいです」と言われることはもうないけれど「わかりやすいです」と言われることはできる。

 人間は周囲から日常に無限のストロークというフィードバックを受けていて、それがポジティブだったりネガティブだったりする繰り返しで自己肯定や自己尊重などが生まれると、交流分析という分野の心理学の本に書いてあった。振り返ると、ポジティブなストローク(下図)ばかり受けて育ったなと思う。運がよかったのかもしれない。いつでもどこでもポジティブなストロークが受けられるとは限らない。だから、自分で自分に、また自分から周囲に、ポジティブなストロークを与える人になりたい。

 そこで自分ですぐできるのが、祈りだと思う。シンプルに、現状において自分がいかに恵まれているかを再認識して感謝する。悩みや目標を言語化して、自力または他力の解決を願う。神様がいてもいなくても、祈り自体に自分を支えてくれる力があると思う。これはまやかしというより、心理学や行動科学でいう自己充足預言(self-fulfilling prophecy)、つまり思考は現実化するということだ。また自分を支えるだけでなく、河原和音『青空エール』にでてくるピグマリオン効果(Rosenthal効果とも;対義語はゴーレム効果)のように相手も支えるかもしれない。