9/29/2007

引き出し

 米国医師国家試験の勉強で得た知識は、そのあと引き出されずに忘れられたかと思ったら、役立った。抗生剤を変えてからどうにも調子が悪く、むかむかするという男性。薬の影響かとは思ったが、まず肝臓の障害をうたがい診察。肝臓を肋骨の上からたたくと痛がる。もともと大酒家で、肝疾患も他に有していることから、薬剤性肝障害が起こりやすいのかな、と考えた。血液検査や肝臓のエコー検査をオーダーして、カルテを書いていら…。
 出されていたのはメトロニダゾールという抗生剤、そして、大酒家であるという事実。メトロニダゾールは、断酒剤の作用が知られている薬である。これが、米国医師国家試験の対策でよくでてくる知識。断酒剤とは、断酒したい人が、絶対に飲まない、という強い決意と見込みがある場合に、自らの意思で内服するもので、これを飲んだが最後、少しでも酒を口にすればひどい悪酔症状がおこる。
 そんな作用の薬を、大酒家に何の注意も換気せずに飲ませたら…。患者さんは、気持ち悪さをしのぐため酒を飲んで寝るしかない、と思ってがんばって飲んだそうだ。おそらく、もっと知識がフル回転で検索できる人なら、話を聞いた時点で「ははあ、これは」と当てていただろう。ワンテンポ遅れて、カルテを書いているときに気づく。頭を整理しながら、考えながら診察するのは、まだまだ課題である。