日経をよむと、ときどき医学雑誌かと思うくらい紙面が医療関係で占められていることがある。透析だけでも、ドイツの世界最大手フレゼニウス社(透析だけでなく欧州43の病院を傘下に持つ巨大グループ)がBrexit後もドイツ株を牽引しているし、東レは香港、ニプロはインドでそれぞれダイアライザの量産に走り、アジアの爆発的な医療需要に商機をみている(こないだ医療経済は糖尿病なしでまわらないと書いたが、現実に増え続けているのでしかたない)。ほかにもPD-1拮抗薬のライセンスをもつ小野薬品が最高益をだしたり、GlaxoとGoogle子会社Alphabetが生体電子工学事業を立ち上げたり、いろいろだ。
それだけ企業が医療に進出してくる時代なわけだが、そこにやってくるのを周到に準備しているのではないかと私が密かに思っているのが、ほかのサイトや商業を食いつぶし(ついにYahoo!も経営破綻した)税金を巧みに節約しながらTrillion Dollars(1兆ドル)企業に成長するとみられるビッグ4、Google、Facebook、Amazon、Apple社だ。彼らを地獄の黙示録にでてくる四騎士(子羊が封印を解くたびに世界の破滅のために現れる、白、赤、黒、青ざめた馬にのったhorseman;図)に比較するひともいるが、私は医師で希望を持つのが仕事だから、そうは考えたくない。
イギリス帝国の平和のもと植民地経営と貿易で富を集めた東インド会社とちがって、これらの4企業は利便性や快適性といったサービス(すなわち人類への奉仕)でお金を儲けているので、きっと儲けに儲けたあとには医療と教育分野に進出すると思いたい(NYUのScott Galloway教授はこれをMeaningfulからProfoundへの変化と呼んでいる)。Google Docsはドキュメント、Google Scholarは論文検索だが、いまにAIを使ったGoogle Doctor、Google Teacherができるかもしれない。もっともGoogleはプラットフォームを作る会社だから、自己参加型の高水準のe-learningと効率化された教師によるフィードバックを実現したKahn Academyのようなシステムが動く環境を整えるかもしれないが。自前でつくるとしたらApple社か(iDoctor、iTeacherなど)。
これらの企業が医療に本気で進出してきたら、どうなるのか。セキュリティと責任の所在の問題があるので、現実にiDoctorがモニターで「どうしました?」ということはないと思う。来るのはAI-guided medicineだろう。主診断名をいれたら疾患の基本診断・治療情報が表示されるようにはできる。初学者が好きな診断アルゴリズムなどもAIが得意とする分野だからすぐ代行してくれそうだ。オーダーミスや院内合併症なども人間より正確に監視してくれるだろう。画像診断のことはこないだ書いたし、外科でもロボット手術だけでなくスマート・スレッド(手術の糸にセンサーがついていて張力などを測定し傷の治りをモニターする)などが開発中だ。また、今はやりのI of T(internet of things)でバイタル端末、電子カルテ、ナースステーション、SPD(在庫)などがひとつにつながるだろう。
これらを取り入れたスマートホスピタルを、ビッグ4のどこかが建設するかもしれないし、経済特区で国と協力して実験を始めるかもしれない。お金のことは、知らないがなんとかするだろう。スマートホスピタルとAIへの質問は、これが医療の質をあげるかということと、医療従事者の仕事を奪うかということだ。最初の質問だが、おそらく上がると思う。AIが人間の脳を置き換えるものではなく、アシストするものとして使われる以上は。ふたつ目の質問は、放っておけばある程度は奪うだろうが、やはり医療はAIがすべてを置き換えることはできない領域だと思う。
ただ働き方は大きく変わり、医師のばあいAIを作る側にいける知識・経験をもったエキスパートと、AIが手を出せない技術系のテクニシャン、AIのガイダンスをもとにきちんとした診療をしつつ、患者さんとの時間を大事にして人間性の高いプライマリケアを提供するジェネラリストに三極化するかもしれない。医師の負担を減らすことと職を確保することと患者さんに益があることがすべて満たされれば一番いいのだが。と、Google Medicineなどがあるわけでもないのに勝手なことばかり書いたが、彼らが考えてないとは思えない。歴史を知り情報を得るほど私たちは未曾有の社会変化を経験している気がするので、杞憂に終わってもよいから準備は必要だと思う。
人と外国語と音楽が好きで、世界に通用する実力と癒やしをもったお医者さんを目指しています。国内外いろんなところでいろんな経験をしてきて、逆境も多かったけど、そのぶん得られたしなやかな強さと優しさをもって、周りの世界を少しだけ幸せにできたらなと思っています。
8/03/2016
7/25/2016
人類補完計画
人類は氷河期と飢餓に適応して生き延びてきたので、血糖を上げるホルモンは何個もあるのに下げるホルモンはインスリンしかなく、いまだ経験したことのない未曾有の飽食時代に肥満と(2型)糖尿病のパンデミックがおきている。みたいなくだりは陳腐になるほど聞かれる。アメリカ時代に今は亡き私が最も尊敬する臨床と教育の師で、糖尿病撲滅のため慈善財団に寄付をもらい研究もしていた先生が、ICUでの回診中に「これを見ろ。みな糖尿病の結果だ」と言ったように、糖尿病の下流に感染症があり心筋梗塞があり心不全があり心房細動があり足壊疽があり脳梗塞がありCKDがあり末期腎不全がありショックがある。
で、このワクチンも核兵器も効かないインディペンデンス・デイなみの人類の敵である糖尿病を、本気で滅ぼす気があるのかわからないときがある。糖尿病が医科診療医療費に占める割合は4.5%(厚生労働省『国民医療費』、平成22年)というが嘘である。上記合併症のこともあるし、おそらく平成22年以降に新規経口血糖降下薬がたくさんでた。ということは、糖尿病は巨大市場なのである。この病気があるおかげでクリニックと病院と透析センターとカテ室と製薬会社が食べていける。もしこの病気がなくなったら大変なことになる。
糖尿病と肥満は、薬を使わず治すことも不可能ではない。生活習慣について、生活習慣についての気持ちの持ち方、また病気についての気持ちの持ち方をしっかり聞いて、動機付けを助けて適切にアドバイスを行うことで、BMIも血糖もさがる。気持ちは晴れやかに、身体は軽くなって生まれ変わってくれる。外食産業やコンビニと敵対しなくても、高級スポーツクラブに通わなくても、これらを実現することはできる。全員にできるとはいわないし、清濁併せ呑む医療を理想だけで生きていくことはできないが、患者さんに教わったこのことを私は忘れずにいたい。
さてその肥満について、キーとなる遺伝子をターゲットにした治療をおこない成功したパリとベルリンの研究者による論文が出て(NEJM 2016 375 240)、個人的には衝撃だった。メラノサイト刺激ホルモン(MSH)の上流にあるPOMCの欠損症はたしかにまれな病気だが、MSHがmelanocortin−4 receptorを介して食欲低下を起こすleptin-melanocortin経路の異常は一般的な肥満にも関係している。論文ではPOMC欠損症(と合併する副腎不全へのステロイド補充)による過食肥満でBMI 50kg/m2程度のloss-of-functionのヘテロ接合体とホモ接合体の2例に対してSetmelanotideの1日1回皮下注射を行い、レプチン値の著明な低下、空腹感スコアの改善、BMIの著明な改善、耐糖能の改善を認めた。このクラスの薬の重要な副作用である高血圧はみられなかった。
2例の結果で人類全体のことを話すのは針小棒大だし、この手の脳内を改造する薬は行動異常とか自殺とかの副作用がでることがあるのでポシャるかもしれない。人類を飽食時代に適応させるために人類補完計画が必要だなんて言ったら、マッドサイエンティストだと思われるかもしれない。でも、人類とまでいかなくても身近な人達の心身の健康を置かれた環境から守るためにできることを考えている私にとっては、この論文はとても意味のあるものに思えた。臓器を治療する時代から、脳を治療して行動を治療する時代がきているのかもしれない。それは手術とか薬ではなくてもいい。私が患者さんにみせてもらったのも、結局は脳の改造だ。
で、このワクチンも核兵器も効かないインディペンデンス・デイなみの人類の敵である糖尿病を、本気で滅ぼす気があるのかわからないときがある。糖尿病が医科診療医療費に占める割合は4.5%(厚生労働省『国民医療費』、平成22年)というが嘘である。上記合併症のこともあるし、おそらく平成22年以降に新規経口血糖降下薬がたくさんでた。ということは、糖尿病は巨大市場なのである。この病気があるおかげでクリニックと病院と透析センターとカテ室と製薬会社が食べていける。もしこの病気がなくなったら大変なことになる。
糖尿病と肥満は、薬を使わず治すことも不可能ではない。生活習慣について、生活習慣についての気持ちの持ち方、また病気についての気持ちの持ち方をしっかり聞いて、動機付けを助けて適切にアドバイスを行うことで、BMIも血糖もさがる。気持ちは晴れやかに、身体は軽くなって生まれ変わってくれる。外食産業やコンビニと敵対しなくても、高級スポーツクラブに通わなくても、これらを実現することはできる。全員にできるとはいわないし、清濁併せ呑む医療を理想だけで生きていくことはできないが、患者さんに教わったこのことを私は忘れずにいたい。
さてその肥満について、キーとなる遺伝子をターゲットにした治療をおこない成功したパリとベルリンの研究者による論文が出て(NEJM 2016 375 240)、個人的には衝撃だった。メラノサイト刺激ホルモン(MSH)の上流にあるPOMCの欠損症はたしかにまれな病気だが、MSHがmelanocortin−4 receptorを介して食欲低下を起こすleptin-melanocortin経路の異常は一般的な肥満にも関係している。論文ではPOMC欠損症(と合併する副腎不全へのステロイド補充)による過食肥満でBMI 50kg/m2程度のloss-of-functionのヘテロ接合体とホモ接合体の2例に対してSetmelanotideの1日1回皮下注射を行い、レプチン値の著明な低下、空腹感スコアの改善、BMIの著明な改善、耐糖能の改善を認めた。このクラスの薬の重要な副作用である高血圧はみられなかった。
2例の結果で人類全体のことを話すのは針小棒大だし、この手の脳内を改造する薬は行動異常とか自殺とかの副作用がでることがあるのでポシャるかもしれない。人類を飽食時代に適応させるために人類補完計画が必要だなんて言ったら、マッドサイエンティストだと思われるかもしれない。でも、人類とまでいかなくても身近な人達の心身の健康を置かれた環境から守るためにできることを考えている私にとっては、この論文はとても意味のあるものに思えた。臓器を治療する時代から、脳を治療して行動を治療する時代がきているのかもしれない。それは手術とか薬ではなくてもいい。私が患者さんにみせてもらったのも、結局は脳の改造だ。
7/14/2016
Era of Artificial Intelligence
人工知能の発達により仕事がなくなるという心配は、産業革命のときなどと同質だがより影響が深く広いかもしれない。インスタグラムがフェイスブックに10億ドルで買収されたとき同社に従業員は14人しかいなかったのに、同時期に14万5000人の従業員をかかえたKodak社が倒産した(どちらも写真をあつかうというだけで因果関係はないようだが)。
それに備えてuniversal basic income(一定額の収入を全員にあたえる一種の社会保障)が本気で議論されて、スイスでは国民投票になった。産業革命時のThomas PaineやJohn Stewart Millの思想をもとにしているが、働く意欲をなくすのと逆進的だということで圧倒的多数で否決された。それでも、フィンランドやオランダで真剣に検討されている。
人工知能じたいが映画のように人間に立ち向かうことは考えにくいにしても、人が悪用することは十分にあり、悪用された人工知能は核兵器より恐ろしいとも言われる。たとえばロシアは警察が顔認識システムFaceFinderをつかい、中国はソーシャルネットワーキングサイトを検閲して反乱分子をみつけている。さらに軍事利用までされたら大変だ。
人工知能が取って代わりやすい仕事はルーチンで思考をあまり要しないもの(たとえばテレホンアポインターなど;実際に自動音声案内がすでに使われている)とされるが、Alpha Goで有名なディープラーニングによって他の仕事も危うくなってきた。医療は比較的守られていると思っていたが、たとえば放射線画像の読影システムEnliticなどが開発されている。内科でも、症例をたくさん覚えさせたら人間よりよい鑑別診断を挙げてくれるかもしれない。
物理学者Stephen Hawkingも人工知能を公に心配しているらしいし、元英国王立協会会長のReeds卿も人工知能が安全で有益であることを保証するよう求める公開書簡を書いている。だからというわけでもないが、私も人工知能の爆発的な発達(intelligence explosionという)をどう受け止めるか考えている。
人工知能を活用できればそれに越したことはないが、私は人工知能と対になる集合知能(collective intelligence)が重要だと思っている。この言葉じたいは経営用語として日本で生まれたそうだが、要は人々が知識と知恵を共有するということだ。それでこのサイトがあり、また知識や経験をすすんで吸収する姿勢をもってどんな人々からもいろいろ学習し続けたいと思っている(他のブログもよく読むし)。
しかし人間は完璧じゃないから(このサイトだってそうだから免責している)、脳が集まりお互いに指摘しあって協力しあうことも大事だと信じている。Google社で研究するJulia RosovskyらがおこなったProject Aristotleは人と人が協働するときにプロダクティビティを最適化するにはどうしたらいいかを調べたものだが、それによればメンバーの能力にかかわらず、以下の三点があるグループがもっともプロダクティビティが高かった。すなわち①メンバーが均一に参加している、②お互いを配慮する力が高い、そして③女性が多い(!)という点だ。
もう一つ人工知能にできないのが、心であり愛を注ぐことだと思っている。患者さんの痛みをとるのは痛み止めだけではない。共感することであり、理解しようとすることであり、そばにいることであり、眼差しであり、笑顔であり、手をかざすことであり、言葉をかけることである(本当にそれで痛みが消えることはある)。人倫として当たり前かもしれないが、医療従事者にとってこれからその重要性はいよいよ増すかもしれない。
それに備えてuniversal basic income(一定額の収入を全員にあたえる一種の社会保障)が本気で議論されて、スイスでは国民投票になった。産業革命時のThomas PaineやJohn Stewart Millの思想をもとにしているが、働く意欲をなくすのと逆進的だということで圧倒的多数で否決された。それでも、フィンランドやオランダで真剣に検討されている。
人工知能じたいが映画のように人間に立ち向かうことは考えにくいにしても、人が悪用することは十分にあり、悪用された人工知能は核兵器より恐ろしいとも言われる。たとえばロシアは警察が顔認識システムFaceFinderをつかい、中国はソーシャルネットワーキングサイトを検閲して反乱分子をみつけている。さらに軍事利用までされたら大変だ。
人工知能が取って代わりやすい仕事はルーチンで思考をあまり要しないもの(たとえばテレホンアポインターなど;実際に自動音声案内がすでに使われている)とされるが、Alpha Goで有名なディープラーニングによって他の仕事も危うくなってきた。医療は比較的守られていると思っていたが、たとえば放射線画像の読影システムEnliticなどが開発されている。内科でも、症例をたくさん覚えさせたら人間よりよい鑑別診断を挙げてくれるかもしれない。
物理学者Stephen Hawkingも人工知能を公に心配しているらしいし、元英国王立協会会長のReeds卿も人工知能が安全で有益であることを保証するよう求める公開書簡を書いている。だからというわけでもないが、私も人工知能の爆発的な発達(intelligence explosionという)をどう受け止めるか考えている。
人工知能を活用できればそれに越したことはないが、私は人工知能と対になる集合知能(collective intelligence)が重要だと思っている。この言葉じたいは経営用語として日本で生まれたそうだが、要は人々が知識と知恵を共有するということだ。それでこのサイトがあり、また知識や経験をすすんで吸収する姿勢をもってどんな人々からもいろいろ学習し続けたいと思っている(他のブログもよく読むし)。
しかし人間は完璧じゃないから(このサイトだってそうだから免責している)、脳が集まりお互いに指摘しあって協力しあうことも大事だと信じている。Google社で研究するJulia RosovskyらがおこなったProject Aristotleは人と人が協働するときにプロダクティビティを最適化するにはどうしたらいいかを調べたものだが、それによればメンバーの能力にかかわらず、以下の三点があるグループがもっともプロダクティビティが高かった。すなわち①メンバーが均一に参加している、②お互いを配慮する力が高い、そして③女性が多い(!)という点だ。
もう一つ人工知能にできないのが、心であり愛を注ぐことだと思っている。患者さんの痛みをとるのは痛み止めだけではない。共感することであり、理解しようとすることであり、そばにいることであり、眼差しであり、笑顔であり、手をかざすことであり、言葉をかけることである(本当にそれで痛みが消えることはある)。人倫として当たり前かもしれないが、医療従事者にとってこれからその重要性はいよいよ増すかもしれない。
6/27/2016
Direct-to-Consumer Personal Genome Testing
先日DTC PGT(direct-to-consumer personal genome testing、消費者直接販売型パーソナル遺伝子検査)の購入者にとったアンケート調査PGenスタディの結果が米国内科学会誌にでて(Ann Intern Med 2016 164 513)、日本ではまだ関係ないなと思っていた。しかし、郵便ボックスを開けると国内会社のチラシが来ていた。なんと。ということはこれをみた人たちがたくさんいて、なかには検査を購入する人もいるだろう。DTC PGTには自分のことを知りたい病気を予防したい長生きしたいという人間の根本的な誘惑に訴える力があるが、チラシにある「本検査は医療行為に該当せず、診断ではありません」という小さな文字を誰が読むだろうか。
で、購入者が結果について予防・治療の相談をしに病院にやってくるかもしれない。海外のデータではおおむね、DTC PGTを購入した人の2-3割が結果について医師に相談にくる。その多くは一般内科医だが、知識がなく結果の正確さと臨床への応用に疑問をもち外来時間が足りないなど準備ができていない(私も含めて;2009年の日本のアンケート研究では回答した非専門医の6割が検査そのものを知らなかった、J Hum Genet 2009 54 203)。そして今回のPGenスタディで患者側のアンケートを取ると、主治医に相談して「非常に満足」は35%、「まったく不満足」は18%、医師に知識がありそうで話し合う気があり診療に活かそうとするほど満足度が高かった。
で、購入者が結果について予防・治療の相談をしに病院にやってくるかもしれない。海外のデータではおおむね、DTC PGTを購入した人の2-3割が結果について医師に相談にくる。その多くは一般内科医だが、知識がなく結果の正確さと臨床への応用に疑問をもち外来時間が足りないなど準備ができていない(私も含めて;2009年の日本のアンケート研究では回答した非専門医の6割が検査そのものを知らなかった、J Hum Genet 2009 54 203)。そして今回のPGenスタディで患者側のアンケートを取ると、主治医に相談して「非常に満足」は35%、「まったく不満足」は18%、医師に知識がありそうで話し合う気があり診療に活かそうとするほど満足度が高かった。
主治医を飛ばして専門家にかかることもあるだろう。べつのスタディで、遺伝専門家でDTC PGTの知識と結果の解釈能力を持っているべきだと感じている人は回答者の約半数とさほど多くなく、自分たちから勧めるという人は4%だった(Genet Med 2011 13 325)。なお日本遺伝カウセリング学会が認定する臨床遺伝専門医一覧をみると千数百人いらっしゃるようだが小児科と産婦人科の先生が多い。生殖医療や遺伝病を主に扱っておられるのだろう。また同学会が認定する遺伝カウンセラーは2015年12月現在182人いらっしゃるが、地域差が大きくたとえば九州には6人しかおられない。どちらも名簿が公開されているが、成人の購入者が来始めているだろうか。
チラシにあるもうひとつの小さな文字が、「本検査のお申し込みにあたりお客様よりご提供いただいた個人情報は会員規約に基づき利用できるものとします」。「規約以外の目的で利用されることはありません」と書かないのは、規約に基づき利用するからだろう。6月25日付の英Economist誌にAll about the base(Meghan Trainorの歌、All About That Bassと掛けている)という記事が載って、ゲノムシーケンス市場規模は2020年までに200億ドルに達するとみられる。技術革新が著しく、最大手米Illumina社は、4種の塩基がナノ孔を通過する電気抵抗の違いを読む英Oxford Nanopore社、PCR不要で走査型電子顕微鏡の原理で電気抵抗を読む日本のQuantum Biosystems社はじめとする次世代シーケンサーに抜かれるかもしれない。
そしてシーケンスされたゲノム情報は、天文学的に膨大なデータベースとして集められ、集めた会社が製薬会社と契約を結ぶ。たとえば米Human Longevity Inc社はAdstra-Zenecaと(10年で数億ドル)、英政府がつくったGenomics England社はAbbVie、Biogen、Roche、Takeda、GSKと。またデータベースのプラットフォームとなるクラウド会社は、使用料をもらう。たとえばHuman Longevity Inc社はAmazonに月100万ドル払っているという。ほかにもGoogle、中国のHuaweiなどがすでに参入して、情報処理や分析のパフォーマンスを向上させシェアを争っている。
研究で病気がおこる遺伝的しくみが解明されたり遺伝子を標的にした治療がうまれたりするのはすばらしいことだし、ビッグデータがそれを可能にするかもしれない。カネになるから国や経済的には乗っかったほうがいいと思う。ただ現時点でのDTC PGTの臨床応用は、止めることはできないけれどどうかなと思う。米国内科学会誌は、9つの遺伝子異常(SNP)を組み合わせて糖尿病の発症を予測できるが、それよりBMIのほうがよほど強い予測因子だという臨床医的なコメントをしていた(Ann Intern Med 2016 164 564)。医師患者関係があるのでせっかく相談してくれたからには無下にしないが、患者さんに届くレポートに具体的な遺伝子名やSNPの場所などは載らないだろうし検査会社も「診断ではない」と断言してあるのでやっぱり困りそうだ。
6/25/2016
Naked mole-rat
やっぱり動物の話は楽しい。Science誌が2013年のBreakthrough of the Yearに選んだのはがんの免疫療法で(Science 2014 342 1432)、抗PD-1抗体やchimeric antigen receptor T cell(CARとも)など研究も盛んだが、同じ年にScienceがVertebrate of the Year(今年の脊椎動物)に選んだのはnaked mole-ratだ(Science 2014 342 1444)。
英語を直訳してハダカモグラネズミと言ってあげたいが、和名はハダカデバネズミ、裸出歯鼠。歯がでているのには理由があって、それは彼らが地中を歯で掘りネットワークになった道を作って、コロニーで社会生活を営んでいるからだ。それもアリやハチと同じ「真社会性」をもつ2種しかいない哺乳類のひとつだ(1匹の女王と繁殖能を持つ数匹のオスがいて、残りは繁殖力のない働きネズミ)。
大きさは10cmくらい、アフリカ東部にいて毛がなく透き通った皮膚をしている(図;本物はちょっとここには)。注目されて日本でも上野はじめいくつかの動物園でみられる。
彼らの受賞理由は、その年に彼らの驚異的な長寿(30年以上生きる)とがん抵抗性(今年になって初めて報告されるまで1例もなかった;Vet Pathol 2016 53 691)の機序を説明する研究がたくさん出たからだ。
リバプール大学を中心とする多研究施設が2011年にゲノム解析して(2014年にscaffoldとcontigの完成度が高まり、naked mole rat genome resourceとして公開されている;Bioinformatics 2014 30 3558)、その後の研究で細胞間基質の高分子ヒアルロナン(high molecular-mass hyaluronan)分解酵素(HAS2)遺伝子に特殊なシーケンスがあるためヒアルロナンが分解されず、細胞がヒトなどの5倍も厚いヒアルロナンに覆われがん化が防がれること(Nature 2013 499 346)、リボソームが極めて正確な転写発現能を持ちエラーたんぱくをつくらないこと(PNAS 2013 110 17350)がわかった。
ほかにも抗がん遺伝子p16とp27が異常に発現しているとか、代謝を極力落として酸化ストレスを受けないとか(そもそも酸素の少ないところに住んでいるし;ミトコンドリアや酸化還元に関する遺伝子発現に差があるらしい)、DNA repair transcriptomesの発現がつよくDNA復元経路が活性化しているとか、いろいろある。
なお彼らは栄養分のある地下茎を掘り当てて、その内側を食べて外側を残して成長させて、を繰り返すし、代謝を落とせるので、地下茎1本でコロニー全員が何年も食べていけるという(腸内細菌がセルロースを分解できる)。ほかにも真社会性動物に固有のフェロモンに関係した食行動があるのだがここには書かない。
この動物は長寿とがん抵抗性だけでなく、痛みを感じない(substance Pがない)、哺乳類なのにまれにしか恒温機能をつかわない(寒いと群れでくっついて暑いと深くもぐる)、などユニークすぎる。
ちなみに私がこの動物を知ったのは、彼らにビタミンDがないからだが、よく考えたら一生地中にいる彼らにビタミンDが必要ないのは当然か。カルシウムは受動的に吸収され、あとは骨プールと腎の出納でなんとかしているようだ。
もっとも祖先は地上にいたのでビタミンD受容体は腸、腎、Harderian腺(眼の奥にある毛づくろいの脂をだす腺)に残っているが(Gen Comp Endocrinol 1993 90 338)。彼らだけでなくUV暴露の少ない動物(コウモリなど)ではビタミンD必要量が少ないかほとんどない。
[2019年6月追記]本物についに会って来た(写真)!いうほどグロテスクでもなく、愛らしかった。
英語を直訳してハダカモグラネズミと言ってあげたいが、和名はハダカデバネズミ、裸出歯鼠。歯がでているのには理由があって、それは彼らが地中を歯で掘りネットワークになった道を作って、コロニーで社会生活を営んでいるからだ。それもアリやハチと同じ「真社会性」をもつ2種しかいない哺乳類のひとつだ(1匹の女王と繁殖能を持つ数匹のオスがいて、残りは繁殖力のない働きネズミ)。
大きさは10cmくらい、アフリカ東部にいて毛がなく透き通った皮膚をしている(図;本物はちょっとここには)。注目されて日本でも上野はじめいくつかの動物園でみられる。
彼らの受賞理由は、その年に彼らの驚異的な長寿(30年以上生きる)とがん抵抗性(今年になって初めて報告されるまで1例もなかった;Vet Pathol 2016 53 691)の機序を説明する研究がたくさん出たからだ。
リバプール大学を中心とする多研究施設が2011年にゲノム解析して(2014年にscaffoldとcontigの完成度が高まり、naked mole rat genome resourceとして公開されている;Bioinformatics 2014 30 3558)、その後の研究で細胞間基質の高分子ヒアルロナン(high molecular-mass hyaluronan)分解酵素(HAS2)遺伝子に特殊なシーケンスがあるためヒアルロナンが分解されず、細胞がヒトなどの5倍も厚いヒアルロナンに覆われがん化が防がれること(Nature 2013 499 346)、リボソームが極めて正確な転写発現能を持ちエラーたんぱくをつくらないこと(PNAS 2013 110 17350)がわかった。
ほかにも抗がん遺伝子p16とp27が異常に発現しているとか、代謝を極力落として酸化ストレスを受けないとか(そもそも酸素の少ないところに住んでいるし;ミトコンドリアや酸化還元に関する遺伝子発現に差があるらしい)、DNA repair transcriptomesの発現がつよくDNA復元経路が活性化しているとか、いろいろある。
なお彼らは栄養分のある地下茎を掘り当てて、その内側を食べて外側を残して成長させて、を繰り返すし、代謝を落とせるので、地下茎1本でコロニー全員が何年も食べていけるという(腸内細菌がセルロースを分解できる)。ほかにも真社会性動物に固有のフェロモンに関係した食行動があるのだがここには書かない。
この動物は長寿とがん抵抗性だけでなく、痛みを感じない(substance Pがない)、哺乳類なのにまれにしか恒温機能をつかわない(寒いと群れでくっついて暑いと深くもぐる)、などユニークすぎる。
ちなみに私がこの動物を知ったのは、彼らにビタミンDがないからだが、よく考えたら一生地中にいる彼らにビタミンDが必要ないのは当然か。カルシウムは受動的に吸収され、あとは骨プールと腎の出納でなんとかしているようだ。
もっとも祖先は地上にいたのでビタミンD受容体は腸、腎、Harderian腺(眼の奥にある毛づくろいの脂をだす腺)に残っているが(Gen Comp Endocrinol 1993 90 338)。彼らだけでなくUV暴露の少ない動物(コウモリなど)ではビタミンD必要量が少ないかほとんどない。
[2019年6月追記]本物についに会って来た(写真)!いうほどグロテスクでもなく、愛らしかった。
5/23/2016
What questions do you have for me?
"It is easier to act your way into a new way of thinking than think your way into a new way of acting."とはJerry SterninがMonique Sternin、Richard Pascaleと一緒に書いたThe power of positive deviance(2010年、ポジティブな逸脱者、未訳、Dr. Atul Gawandeがforewordを書いている)に出てくる言葉だ。昔からの慣習や文化、固定観念などを変えるには行動から変えるのがよい、のを例を挙げて示した本だ。
Ann Int Med 2016 164 566は、回診の最後に"Do you have any questions?"という時には(please don't)と思っているし、たとえ思っていなくても患者さんにはそのように伝わることから、これからは"What questions do you have for me?"と聞くようにしよう、と決めたUCSFの先生のお話だった。
わたしもこの違いを意識していて、とくに病状説明の時に相手の心象や聞き足りないことなどを引き出したい時には「ここまでお聞きになっていかがですか?」「何か聞いておきたいこととかお感じなっていることとかいかがですか?」と無理やりopen-endedにして(たぶん日本語としてはおかしい)聞き方をしている。
そして待つ。するとだいたい何か答えてくれる。何がわからないかわからない、という一言でもそこから会話を広げてお互いの理解を深めることができる。日本では病状説明は昔ムンテラ(mouth therapyを意味する和製ドイツ語)といい医者からの一方通行でよかったが、いまはIC(informed consent)と言う。つまり患者家族が状況を理解して同意することを確認するのがゴールである。
このエッセイが言いたいことは無意識に使っている言葉が文化を作っていて、それをちょっと変えるだけで文化を変えることができるということだ。筆者は他にmorning reportでチーフレジデントに"What studies do you want to order?"(変わった検査をたくさん挙げて)という代わりに"How will that test change your management?"(それをやってマネジメントはどう変わるの)と聞かせるようにしたという。
あと病室を出るときに"Good-bye"や"I'll come back and see you again later"(私もこれは嘘なこともあると思ってきた)の代わりに"Thank you"というようにしたという。これはちょっと言い慣れない。家族に病状説明するときには「お父様(お母様)を診させてくださってありがとうございます」と言ったことはあるが。ただそれこそ冒頭の引用のように、言い続けていると「診させてくれてありがとう」という気持ちや考え方が定着してくるのかもしれない。
Ann Int Med 2016 164 566は、回診の最後に"Do you have any questions?"という時には(please don't)と思っているし、たとえ思っていなくても患者さんにはそのように伝わることから、これからは"What questions do you have for me?"と聞くようにしよう、と決めたUCSFの先生のお話だった。
わたしもこの違いを意識していて、とくに病状説明の時に相手の心象や聞き足りないことなどを引き出したい時には「ここまでお聞きになっていかがですか?」「何か聞いておきたいこととかお感じなっていることとかいかがですか?」と無理やりopen-endedにして(たぶん日本語としてはおかしい)聞き方をしている。
そして待つ。するとだいたい何か答えてくれる。何がわからないかわからない、という一言でもそこから会話を広げてお互いの理解を深めることができる。日本では病状説明は昔ムンテラ(mouth therapyを意味する和製ドイツ語)といい医者からの一方通行でよかったが、いまはIC(informed consent)と言う。つまり患者家族が状況を理解して同意することを確認するのがゴールである。
このエッセイが言いたいことは無意識に使っている言葉が文化を作っていて、それをちょっと変えるだけで文化を変えることができるということだ。筆者は他にmorning reportでチーフレジデントに"What studies do you want to order?"(変わった検査をたくさん挙げて)という代わりに"How will that test change your management?"(それをやってマネジメントはどう変わるの)と聞かせるようにしたという。
あと病室を出るときに"Good-bye"や"I'll come back and see you again later"(私もこれは嘘なこともあると思ってきた)の代わりに"Thank you"というようにしたという。これはちょっと言い慣れない。家族に病状説明するときには「お父様(お母様)を診させてくださってありがとうございます」と言ったことはあるが。ただそれこそ冒頭の引用のように、言い続けていると「診させてくれてありがとう」という気持ちや考え方が定着してくるのかもしれない。
2/24/2016
Terminal Intubation
いくら医学的な適応があってフルコードだからといっても、この人は挿管されたらきっともう家族と話すことはできないのだろうなというシチュエーションには心が痛む。いくら事態が緊急でも、手術室に向かうストレッチャーの横で話すくらいの会話を家族や大事な人とさせてあげてあげられればいいなと思う。とくにまだ患者が話せる状況にあるなら。患者も家族も医療者も救命一心でいるときには気づかないかもしれないが、それが最後の会話になるかもしれないのだ。日本人は面と向かって家族や大事な人に自分がいかに彼らを愛してるかを伝えたりはしないかもしれないが、親しい人と手を握って「がんばって」でも「ありがとう」でも声を掛け合えることは、人にとっての最低限の尊厳ではないかと思う。そういう演出を考えることも、医療者の役目ではないかと思う。
2/05/2016
よろしくお願いします
日本に帰ってきて未だになれないのが記号としての「よろしくお願いします」だ。回診で患者さんとお話して、何をどうよろしくお願いするのかよくわからないがとりあえず最後に「よろしくお願いします」という。私は言葉を額面通りに受け取ってしまうので当惑を隠せず日々を送っていた。私なら「病状はよくなっていますから治療を続けましょうね」とか「おつらいとおもいますけどお薬を用意していますからナースコールを押してくださいね、また見に来ますね」とか具体的な内容のある言葉をかける。
が、こないだ珍しくある日本のドラマ(写真も参照)を観ていたら、告白してお付き合いすることになった男女がお互いに「よろしくお願いします」と言っていた。しかも何度も。これに及んで、「よろしくお願いします」は何かを具体的に依頼する「お願いします」ではなく、日本においてコミュニケーションを潤滑にする記号なのだと悟った。その証拠に、「よろしくお願いします」といわれた患者さんは「は?何をお願いされたのか聞いてないんだけど」と混乱することはなく、(ああなるほど回診の締めくくりだな)と納得するのか「はいどうも、よろしくお願いします」とか「ありがとうございます」とかいう。
そもそも「よろしくお願いします」という言葉は私の知る限り日本語と韓国語にしかなく、英語に直訳するとplease treat me favorablyとなるそうだが、そんなゴマすりみたいな用法で日本で使われることはない。「今日も一日よろしくお願いします」みたいな、もはや挨拶、記号なのだ。とおもって、わたしも最近は患者さんに何かをお願いするわけではない「よろしくお願いします」を使えるようになってきたが、いつか患者さんに「は?何をよろしくお願いされるか分からないしそんなこと言われても困るんだけど」とたしなめられないかビクビクしている。
が、こないだ珍しくある日本のドラマ(写真も参照)を観ていたら、告白してお付き合いすることになった男女がお互いに「よろしくお願いします」と言っていた。しかも何度も。これに及んで、「よろしくお願いします」は何かを具体的に依頼する「お願いします」ではなく、日本においてコミュニケーションを潤滑にする記号なのだと悟った。その証拠に、「よろしくお願いします」といわれた患者さんは「は?何をお願いされたのか聞いてないんだけど」と混乱することはなく、(ああなるほど回診の締めくくりだな)と納得するのか「はいどうも、よろしくお願いします」とか「ありがとうございます」とかいう。
そもそも「よろしくお願いします」という言葉は私の知る限り日本語と韓国語にしかなく、英語に直訳するとplease treat me favorablyとなるそうだが、そんなゴマすりみたいな用法で日本で使われることはない。「今日も一日よろしくお願いします」みたいな、もはや挨拶、記号なのだ。とおもって、わたしも最近は患者さんに何かをお願いするわけではない「よろしくお願いします」を使えるようになってきたが、いつか患者さんに「は?何をよろしくお願いされるか分からないしそんなこと言われても困るんだけど」とたしなめられないかビクビクしている。
2/03/2016
Paracentesis
米国でBaxter社がプロモートしている(がどれほど効果があるかは不明な)PD universityでのことだったと思うが、1744年に赤ワインを腹水の治療目的に腹腔内に注入した記録が残っていると聞いたなあ、などと研修医の先生が腹腔穿刺するのをスーパーバイズしながら思った。Peritoneumとはギリシャ語のperitonaion(stretch around)に由来し、紀元前1550年ころに書かれた古代エジプト医学書Ebers papyrusにも記載があるという(どうやって解読したのかしらないが・・・ロゼッタストーンか)。
歴史上の人物で腹水穿刺を受けたのはベートーヴェンで、1827年のこと。パンパンに膨れたお腹から水が放たれ「楽になった」と喜びの涙を流したが、残念ながら末期肝硬変だったようで、その二日後にはエリーズィウムに旅立ってしまったという。この手技もレントゲンも超音波も使わずに行われたのだろう。ベートーヴェンの直接死因が血圧低下だったのか、あるいは腹膜炎だったのかはわからないが、穏やかに亡くなったのだとしたらやはり「うどんは傷つかなかった」もなかったのかもしれない。
さて今回、超音波で左下腹部に当たりをつけてブラインドで穿刺して腹水の流出があったにもかかわらず、すぐ出なくなった。で、超音波ガイド下でダグラス窩付近にカテーテルを入れなおしたが、今度はカテーテルからは自然流出があるのにチュービングをつけると出ない。それで、途中に三方活栓をつけてシリンジをつかい、手動で50mlずつ研修医の先生に抜いてもらった(しばらくしたら重力で落ちるようになったが)。手技はこういうトンチのような工夫ができるのが面白い。なお、私がいままでいた施設ではみたことがないが、持続吸引につないで腹水を排液することもあるらしいから、そうしてもよかったかもしれない。
歴史上最初に腹腔穿刺を記載したとされるのは紀元前1世紀ころ古代ローマの医学書De Medicinaを著したAulus Cornelius Celsusで、青銅の管でお腹を刺す方法だったという。そういえば私が初めて初期研修病院の見学にいった日に初めて救急にきた患者さんが、自分でお腹をナイフで刺したという人だった(突き刺さったままやってきた)。「学生さんおいで」といわれて手術見学に入らせてもらったら腸管が無傷で、指導医の先生が「汁の入ったうどんに箸を刺してもうどんは傷つかないでしょ」と平然と言っていたのに驚いたのもいい思い出だ。
歴史上の人物で腹水穿刺を受けたのはベートーヴェンで、1827年のこと。パンパンに膨れたお腹から水が放たれ「楽になった」と喜びの涙を流したが、残念ながら末期肝硬変だったようで、その二日後にはエリーズィウムに旅立ってしまったという。この手技もレントゲンも超音波も使わずに行われたのだろう。ベートーヴェンの直接死因が血圧低下だったのか、あるいは腹膜炎だったのかはわからないが、穏やかに亡くなったのだとしたらやはり「うどんは傷つかなかった」もなかったのかもしれない。
さて今回、超音波で左下腹部に当たりをつけてブラインドで穿刺して腹水の流出があったにもかかわらず、すぐ出なくなった。で、超音波ガイド下でダグラス窩付近にカテーテルを入れなおしたが、今度はカテーテルからは自然流出があるのにチュービングをつけると出ない。それで、途中に三方活栓をつけてシリンジをつかい、手動で50mlずつ研修医の先生に抜いてもらった(しばらくしたら重力で落ちるようになったが)。手技はこういうトンチのような工夫ができるのが面白い。なお、私がいままでいた施設ではみたことがないが、持続吸引につないで腹水を排液することもあるらしいから、そうしてもよかったかもしれない。
それも大事、これも大事
ICU、とくに内科ICUという所は原疾患を正しく診断し治療するまでのあいだ支持療法で時間を稼ぐ場所だから、初動で診断がまちがっていたり、現疾患の治療が遅れてしまっては「なにかをしているつもりでなにもしていない」ことになる。
それは、たとえば「なおらない肺炎」の触れ込みで来ても、漫然と広域スペクトラム抗生剤を投与して待つのではなく、初療時にANCA関連血管炎や抗GBM病による肺胞出血の兆候を見逃さないで、自己抗体結果を待たずに血漿交換に踏み切る観察眼と勇気を持つということだ。そして、その結果を予見(免疫抑制、凝固異常など)しておかなければならない。
またリンパ節生検結果待ちの悪性リンパ腫うたがいにともなう致死性自己免疫性溶血性貧血や急速に進行する臓器障害の人がいたら、外注の生検結果を漫然と待って輸血するのではなく、一日でもはやく化学療法が始められるように病理結果を問い合わせHE標本だけでもうちにあるなら見に行き、血液内科医の意見を得る(在院していなければ連絡する)ことが律速段階であり助かるための道である。化学療法の副作用も覚悟しておかなければならないが、元を断たなければ仕方ない。
こんなとき、現場はとりあえず救命することでいっぱいいっぱいなので、手が余った人が分担してあげることも大事だなと思う。なにごともチームワーク。私が集中治療フェローシップをあんなに勧められたのにすすまなかったのは、生命維持のスペシャリストになるより重症疾患のただしい診断と治療ができる人になりたかったからだ。
そういえば初期研修医時代に、救急搬送されてきた患者さんの救急対応でみんなのアドレナリンがあがっているあいだに、ひとりロビーで家族からながながと病歴をとって怒られたこともあった。
それは、たとえば「なおらない肺炎」の触れ込みで来ても、漫然と広域スペクトラム抗生剤を投与して待つのではなく、初療時にANCA関連血管炎や抗GBM病による肺胞出血の兆候を見逃さないで、自己抗体結果を待たずに血漿交換に踏み切る観察眼と勇気を持つということだ。そして、その結果を予見(免疫抑制、凝固異常など)しておかなければならない。
またリンパ節生検結果待ちの悪性リンパ腫うたがいにともなう致死性自己免疫性溶血性貧血や急速に進行する臓器障害の人がいたら、外注の生検結果を漫然と待って輸血するのではなく、一日でもはやく化学療法が始められるように病理結果を問い合わせHE標本だけでもうちにあるなら見に行き、血液内科医の意見を得る(在院していなければ連絡する)ことが律速段階であり助かるための道である。化学療法の副作用も覚悟しておかなければならないが、元を断たなければ仕方ない。
こんなとき、現場はとりあえず救命することでいっぱいいっぱいなので、手が余った人が分担してあげることも大事だなと思う。なにごともチームワーク。私が集中治療フェローシップをあんなに勧められたのにすすまなかったのは、生命維持のスペシャリストになるより重症疾患のただしい診断と治療ができる人になりたかったからだ。
そういえば初期研修医時代に、救急搬送されてきた患者さんの救急対応でみんなのアドレナリンがあがっているあいだに、ひとりロビーで家族からながながと病歴をとって怒られたこともあった。
登録:
投稿 (Atom)










