6/16/2015

Dr. Atul Gawande

 昨日のバンドルについてのお話は、尊敬する母校の教授から「いいですね」とのお言葉をいただき、大変ありがたいことだ。それで、どうしていまの職場ではバンドルやチェックリストの考え方が発達しているのか気になり聞いてみると、Dr. Atul Gawandeの著作に影響を受けたQI(quality improvement)-mindedな先生方がイニシアチブを取って来たことがわかった。確かにバンドルを作れば漏らしがないし、ケアの質も担保される。ではDr. Atul Gawandeとはどんな人物なのか?興味を持って調べてみた。

 Dr. Atul Gawandeは1965年にニューヨークでインド系アメリカンの医師夫妻の間に生まれ、オハイオ州で育ち、スタンフォード大学に入学した。在学中に1年間Rhodes Scholarshipでオクスフォード大学に留学して政治、哲学と経済を学んだ。帰国後にハーバードの医学部に入学。学業と同時に政治活動も行っており、学生時代にはGary Hart、Al Goreのキャンペーンに参加し、Al Goreのキャンペーン中にはhealth care researcherでもあった。

 医学部時代に1年休学して、Bill Clintonのキャンペーン中にhealth care lieutenant、大統領就任時にはsenior advisor in the department of health and human service、政権中はClinton health care task forceの委員会のひとつのディレクターになった。その後復学して医学の学位を取り、そのあとハーバード大学の公衆衛生でMPHを取っている。

 学業と政治活動だけでなく、レジデンシー時代に雑誌編集者の友達にオンラインマガジンの連載を頼まれて外科レジデントからみた医療のエッセーを書いた。それがThe New Yorker誌の編集者の目に留まり、スタッフライターとしていくつかのエッセーを書いた。そのひとつがテキサス州の二つの街(二つの病院)を比較して、一方が他方に比べて医療費がいかに非効率的に使われ質が低いかを説いたものだった。

 これがWashington Post誌のEzra Kleinに"the best article you'll see this year on American health care—why it's so expensive, why it's so poor, [and] what can be done."と絶賛され、Barack Obamaの医療政策に対する考えに非常に大きな影響を及ぼし、また米国最大の投資家Warren BuffetのパートナーであるCharlie Mungerが2万ドルをDr. Gawandeに寄付した(彼はこれを全額Brigham and Women's Hospitalの外科と公衆衛生に寄付した)。

 その後も彼は著作を重ねて、2002年にThe Best American Science Writing、2003年にThe Best American Essays、2009年にThe Best American Science Writing、2011年にBest American Science and Nature Writingを受賞している。New England Journal of Medicineなど医学雑誌へも投稿している(surgical checklistの導入に関するスタディはNEJM 2009 360 491、批判も受けているようだが)し、WHOのGlobal Patient Safety Challengeのディレクターでもある。そんななかBrigham and Women'sで臨床もしており、専門は内分泌外科だ。

 チェックリストについての著作としては2009年に書いた"The Checklist Manifesto: How to Get Things Right"が有名で、2011年に邦訳されている(邦題は『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】』晋遊舎)。で、これを読んだうちの職場の先生方が感化されて、うちの病院にバンドル・チェックリスト文化が定着してきたというわけ。うち以外にもそういうことをやっている病院はきっとたくさんあるのだろうが、私にとっては新鮮で、広めるのに少しでも貢献できればと思う。