2/21/2025

Letermovir and Tacrolimus

  CMVの予防でValgancyclovirの代替で用いられるLetermovirは、CYP450の阻害作用があるため、タクロリムス濃度を上げる。Fluconazoleやitraconazoleもそうだが、こういった薬が入っている患者は、それを気にしていないと、薬が終了したときにタクロリムス用量調節が変わるのでワタワタする。

 それにしても、あたかもワーファリンのようにチョコチョコ濃度を測って、ワーファリンよりも狭い治療域(6-8、8-10など、幅にしてみれば2ng/mlしかない!)を狙って用量調節するのは、腎障害や振戦と並び、タクロリムスの不都合な点の一つである。用量調節の不要な薬がでないかな・・と思う。もちろんベラタセプトはあるが。治験中の薬では、Tegoprubartが最も実用に近いかな。

Feels so good

 移植腎生検を経皮的に超音波ガイドで行っている者からすると、手術室で露出された腎グラフトを目視で生検するなんて、それ以上に簡単な手技はないように思われる。・・が、針を深く進めて髄質しか取れなかったり、処理を間違ってしまったり(凍結してしまう、別の保存液に入れてしまう・・)で、有益な情報が得られないことがある。

 そんな時には、自分が手術室に入って実際に正しいやり方を見せるのが、最も効果的である。ただ、そのためだけに手術室に行くのは手間だし忙しいので、結局「こうやるんだよ」というだけでなかなか解決せずにいた。それで、このあいだ研修の一環で手術を見学した際にpost-perfusion biopsyを実演した。

 すると、最初は「それじゃあ検体は取れていないのでは?」と不審がられ、適正な検体が取れているとわかると「こうやるのか!」と驚かれ、「これからはそのやり方でやるよ!」と感謝された。さらに、腎臓内科スタッフも腎病理医もカンファレンスで非常に喜んでいた。ちょっとしたことで大きなインパクトを残せるのは、気分がいい。

2/17/2025

扉の向こうから、扉のこちら側へ

  日本の腎移植は世界一、とよく言われるが、べつに過大評価ではない。腎グラフト予後・生命予後については、本当に世界一なのだろうと思う。極めて限られた少数の低リスク症例に行ったあと、極めてきめ細かにフォローするからだ。それに、生体腎移植がほとんどだ。

 もし日本がもっと献腎移植をするようになって、もっとリスクの高い患者(高齢、多くの併存疾患、肥満、長い透析年数、高度のHLA感作)にも移植するようになったら、腎グラフト予後と生命予後は、現状より下がるかもしれない。

 それをどこまで許容するかは、医療者側と、患者側と、社会が決めること。

 ただ、自分は移植がもっと一般的な医療がどんなかを診てきた。元気な人もいたし、元気でない人もいた。順調な人もいたし、大変な人もいた。透析のほうがましといった人もいたし、それでも透析よりはましといった人もいた。かなりアグレッシブでリスクを取る移植施設で学べたおかげで、夢ばかりでなく現実も診られて、よかった。

 腎臓内科医(少なくとも、今回勉強するまでの私)にとって移植は「扉の向こう」の遠い話だった。でも扉の向こうにいる今は、腎移植がもっと一般的な医療のほうがいいなと思う。

 いずれにせよ、もっと腎移植をするようになったら、もっと人手が必要になることだけは、間違いない。

 たとえば、外科医、泌尿器科医(外科医が泌尿器科医でない場合)、腎病理医、HLAラボの医師とスタッフ、感染症科医、循環器科医、麻酔・ICU医、手術室スタッフ(献腎移植は緊急になるうえ、生体腎移植はドナーとレシピエントの入室時間をコーディネートしなければならない)、移植前・移植後コーディネーター、薬剤師、臓器移植ネットワーク(献腎の意思確認などを行う係)、臓器の摘出を行う係、搬送する係、透析室スタッフ(入院中、退院後の不規則な透析スケジュールに付き合ってもらわなければならない)・・まだまだ、ある。

 つまり、腎臓内科医が一人いたって何にもならない。でも、人は考える葦だから、考えを伝えることはできると信じたい。

 

 

Inauguration

  米国大統領就任式をinaugurationと言うが、その語幹であるaugurとは、古代イタリア(エトルリア、ローマ)にあった神職で、主な役割は「鳥の鳴き声や飛翔状況を観察して、その状況を基に神の意思を示すこと」だったという。Augurは、当時はAuspex(avis「鳥」+spicio「観る」)とも呼ばれたが、そのうちAugurに統一された。

 なおローマ時代のVは現在のUだから、avisといっても「アウィス」と読む。そう聞くと、フランス語で鳥を意味するoiseau(オワゾ)、ガチョウを意味するoie「オワ」の元になっていることにも納得できる。ただし、ガチョウのoieは元々oeで、12世紀にoiseauに合わせてiが加わったという説もあるという。

GLP1RA and CKD

  SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず心不全、慢性腎臓病などに適応が拡大した。いっぽうGLP1受容体アゴニストは、糖尿病に適応が通ったあと、同じ薬が違う名前で肥満治療に適応され、SGLT2阻害薬と違う展開になっている。

 だが、GLP1受容体アゴニストも、SGLT2阻害薬と同様に心血管系疾患と慢性腎臓病の進行を遅らせることが示されていることに代わりはない。心血管系疾患についてはすでに「確立した心血管系疾患のある糖尿病患者で心血管系疾患のリスクを下げる」という適応が通っていた。

 そして2025年1月28日には、Ozempic(セマグルチドの、ジェネリックではなく、肥満用でもないほう)が「CKDのある糖尿病患者で腎臓病の進行・腎不全(末期腎不全)・心血管系死亡リスクを下げる」というFDAの適応承認を受けた。

 ただ、糖尿病のないCKD患者に適応が拡大したわけではない。糖尿病のない患者を対象にした大規模スタディにSELECT試験があるが、プライマリ・アウトカムは心血管系イベントであった(腎臓はセカンダリ・アウトカムであった)。適応拡大には、別にスタディが必要だろう。

  

Meds alarm

 8時に外来が始まり、一人目か二人目の患者を診ていると9時が来る。すると、患者のスマートフォンにセットされたアラームが鳴る。12時間ごと(あるいは徐放で24時間ごと)に内服する、タクロリムスを飲む時間だ。

 9時である必要はないが、内服時間は決まっているので、アラームはよい考えだなと思う。ついでに薬と水も持っていなければならないが(外来では、給水機でも提供できる。薬は、さすがに皆持ってきている)。

 薬と言えば、旅行に出かける際には薬を手荷物に入れておくように、と必ずコーディネーターがアドバイスしている。預け荷物に入れて、荷物ごとどこかに行ってしまったら困るためだ。 

 

Resulted, 100%

  検査結果が出ることを、resultedと言うのは、今回初めて聞いた。It's not resulted yet(まだ結果が出ていない)などのように用いられる。また、「まったくその通り」という意味で100%(hundred percent)という表現も、今回新たに耳にした。Absolutelyなどよりよく使われている印象がある。

2/12/2025

VXM 2

  VXMについて10月に少し勉強したが、先日ASTのレクチャがあって、フローではなくVXMを基準にして腎移植を行っている施設の先生が講演していた。VXMが陰性なら、たとえフローが陽性でも構わず移植を行っている(2003年から)というが、大丈夫なのだろうか?

 結論から言うと、「VXM陰性+フロー陽性」群と、「VXM陰性+フロー陰性」群の間にグラフト予後・急性拒絶・急性抗体関連拒絶などに有意差はなかった(AJT 2016 16 1503)。

 なぜか?

 VXMといっても要はDSA検索であるから、「VXM陰性+フロー陽性」とは:

・DSAによらないフロー陽性

・VXMで見つからなかったDSAによるフロー陽性

 の二つが大きく考えられる。前者にはnon-HLA抗体、自己抗体などの可能性があるが、DSAではないので、そんなフロー陽性に臨床的な意味はないということなのだろう。その立場に立てば、フロー偽陽性が多くの移植機会を逸していることになる。

 いっぽう後者には①VXM検体採取から移植までの間におきた感作イベント、②VXM性能が不十分(DP、Cwなどは検知していなかった時代もあった)、③歴史的DSA、④共有抗原などが考えられる。

 ①は、より最新な検体を使用することや、感作の病歴をチェックすれば防げるかもしれない。②は、いまではVXMの性能が上がってすべてのHLA DSAを測定するようになった(ただし、「VXM陰性+フロー陽性」率は10数パーセントのままで、その割合は下がらなかった)。

 ③は、記憶されている以上リスクであり、定期的にHLA抗体をフォローしている場合は、過去の抗体歴を知っておくに越したことはない。しかし、だからといって移植をしてはいけないというほどのリスクではないかもしれない。④は、エピトープ解析が進んだ現在はピックアップできる。

 論文には感作(PRA>0)患者118例も含まれていたが、腎予後に有意差はなかった(PRA≧80に限っても、有意差はなかった)。

 Terasaki先生による歴史的なクロスマッチの論文(NEJM 1969 280 735)が発表されて56年。あれから、超急性期拒絶は過去のものとなりつつあり、免疫抑制薬も進歩し、DSAの検出能力も進歩した。現場にいても、多少であればDSAが移植におよぼす影響はほとんど感じない。DSAによく効くbelataceptもある。

 HLA labの負担も考えて、そろそろVXMに移行する時期なのかなと思う。

 それにしても、すごい時代だな。


OOS

  半年前に話題にしたexpedited placement varianceが、AJTの表紙に取り上げられた。いまでは論文・学会などではout of sequence、OOSと呼ばれることが多い(移植施設内では、自分たちでどの患者に移植するかを決められるためopen offerと呼ばれる)。衝撃なのは、いまやOOSが米国腎移植の20%を占めるようになったことだ。

2025年2月号AJT表紙

 移植待ちリストに従って移植施設に声を掛けても断られ続けた腎臓をOOSに回すことで、捨てられる運命を回避しているはずで、絵のように待っている人がいるのに「横入り」をしているわけではない・・はずである。

 しかし、「捨てるべからず」のプレッシャーが強くかかっているOPO(臓器調達機関)にしてみれれば、OOSで受け取ってくれるという当てがある移植施設は有難い存在で、中には通常の手続きを経ず直接OOSに回しているケースもあった。特定の移植施設との「パイプ」も、明らかになった。

 問題は、OOSの腎臓と通常手続きの腎臓の質が必ずしもはっきり分かれていないことである(赤が通常手続き、緑がOOS、青が移植されなかった腎臓)。これでは、横入りといわれても仕方がない。患者にしてみれば、OOSをたくさん受けれる施設に登録した方がお得、ということになる。


AJT 2025 25 343

 また、OOSで移植された患者はより高齢(腎臓の耐用年数が短いと見込まれるため)なだけでなく、白人・アジア系・女性がより多いといった偏りも明らかになり、公平性に大きな疑問符が付いた形だ。

 OOSを始めれば、移植件数を増やしたい施設がどんどん参加して、いろんな偏りと不透明さが生まれるであろうことは目に見えていた。通常手続きのなかで何とかする方法があればよかったのだろうが、見つけられなかったのだから、仕方がないとも言える。

 今後「OOSありき」になれば、移植施設ごとのOOS件数や、OPOごとのOOS腎臓の提供先などが開示されるようになるかもしれない。あるいは、通常手続きのなかで何とかする方法を誰かが編み出すかもしれない(そして、その人達には臓器割り当てで2度目のノーベル賞が与えられるかもしれない?)。



2/11/2025

Orthostatic test

 移植腎の機能に最も高頻度で影響するのは、拒絶・・ではなく血行動態で、体液量や血管調節機能の評価に最も重要な診察の一つが起立性低血圧のチェックである。ただし、臥位→座位→立位で血圧と脈拍を測定するのは結構手間だが、巨大な診察台を傾斜させて行うtilt testよりはずっと簡便なので、わりと高頻度で行われる。

 今いる施設の外来では、医師が自らやらなくても、バイタルサインを測定する係(physician assistantか)に言えばやってくれるし、結果を知らせてくれる(カルテにも載せてくれる)ので有難い。入院では担当看護師さんにお願いするが、バイタルの表には載らず、看護記録に載るので、探すのが少し大変なことがある。

 ただ、グラム染色などと同じで、医師がやるとinter-operator variabilityがまちまちになるうえ、それを基に点滴するか(グラム染色ならどの抗菌薬にするか)などを決めることも考えると、いつもやっている慣れた人がやってちゃんと記載するほうが質が確保されるようにも思われる。