メトホルミンは腎障害を起こすわけではなく腎障害時に使えない(Black Box Warning、実際には乳酸アシドーシスのリスクはフェンフォルミンよりずっと低い)のだが、米国に来てから「メトホルミンのせいで腎臓が悪くなった」と信じている患者さんに数多く遭遇した。
SZD
人と外国語と音楽が好きで、世界に通用する実力と癒やしをもったお医者さんを目指しています。国内外いろんなところでいろんな経験をしてきて、逆境も多かったけど、そのぶん得られたしなやかな強さと優しさをもって、周りの世界を少しだけ幸せにできたらなと思っています。
1/11/2025
1/07/2025
1/01/2025
Immune Atlas of T Cells
CD4+T細胞をTh1、Th2に分類したのはロチェスター大学のMosmannらで、1986年のことだった。Th1はIFNγやIL-12によって誘導され、STAT1転写因子によってT-betを発現する。そして主にIFNγを産生し、pro-inflammatoryだ。Th2はIL-4などによって誘導され、GATA3などの転写因子が活性化している。IL-4やIL-13を産生し、TNF-αやIFN-γに拮抗する。ただ、Th2サイトカインはB細胞を形質細胞に分化させる働きもあり、必ず移植臓器保護なわけではない(腎移植において、Th1/Th2浸潤細胞比が低いほどplasma cell-rich rejectionが多かったという報告もある、Blood 1993 82 2781)。
Th1とTh2以外で初めて見つかったTh17(2005年)は、pro-inflammatoryだ。誘導にはIL-23が必須で、RORγtなどの転写因子が活性化している。主にIL-17を産生し(IL-17AからIL-17Fまである)、炎症や拒絶に関係する。
番号の付いたCD4+T細胞のサブセットは、ほかにTh9とTh22がある。それぞれIL-9とIL-22などを産生するが、役割はコンセンサスを得ていない。
番号はついていないが重要なサブセットに、TfhとTregがある。
Tfhは胚中心でのB細胞成熟に決定的に重要だ。CXCR5を発現し、これによって濾胞のCXCL13と結合して局在することができる。ICOS、PD1、IL-21などを介してB細胞を胚中心に残すか形質細胞にして出すかを決める。腎移植で言えば、DSAの産生に欠かせない。
Tregは2003年に発見され、CD4+CD25+(IL-2Rα※)で、マスター転写因子はFOXP3だ。炎症抑制・免疫寛容に働く(TGF-β、IL-10、IL-35などの抗炎症サイトカイン、granzymeによる細胞傷害、APC活性化の抑制、CD39による細胞外ATPの加水分解、IL-2の消費など)。
※IL-2Rはα、β、γがあるが、αが加わるとIL-2の親和性が何千倍も向上する。
おまけに、Tfr、CD8+Treg、γδT、NKT(natural killer T-cells)、ILC(innate lymphoid cells)などがある。面白いのはγδTで、TCRがγとδサブユニットで作られている変わり者なのだが、サブセットのひとつであるVδ2neg γδT細胞は、末梢組織でウイルスを監視する。そして、CMVなどの感染時に急速に増殖する(J Infect Dis 1999 179 1)が、なかにはIL-17などを産生するものもあるため(Transplant Int 2014 27 399)、「ウイルス感染を契機に拒絶」の機序の一つかもしれない。
参考文献:AJT 2023 107 2341、Nat Rev Drug Disc 2014 13 379
12/23/2024
Month, Day, Year
移植後外来のカルテでは、移植日、退院日、ステント抜去日、生検日、超音波日、BKV-PCRチェック日、donor-derived cell-free DNAチェック日など、さまざまな日付が重要になる。そして米国の日付は月/日/年で記すが、面倒なので月/日で書くことが多い。
しかしそれは、年余にわたってフォローする文化で診療してそれを大事に思っている指導医からすると、「年がないなんて!」という思いを起こさせると知った。「私たちは移植後1年しか気にしません」と暗に言っているように感じさせるのだという。
なるほど、と思った。年を4ケタで書くのは大変だから、下2ケタ(24、25など)で書くようにしようと思った。
Social Support
Social supportはとても重要で、移植前に「よい(great)」サポートがあると評価された患者さんが、移植してみると全然そんなことはなかった、ということは、残念ながらよくある。
自分で何でもできるしっかりした患者であっても、サポートしてくれる家族がいたほうがよいのは間違いない。しかし、自分で何でもできない、さほどしっかりしていない患者となると、サポートしてくれる家族は必須である。
そして、ただ家族がいるだけではだめで、サポートには「検査や受診に連れていける」「自分の家に住ませることができる」「住ませるだけでなく、世話することができる」と段階がある。
さらに、状況が変わったときのバックアップサポートも必要だ。患者の状態が変わることもあれば、サポート側の状況が変わることもある。
より高齢でよりフレイルでよりハイリスクな移植(腎グラフトの成績があまりよくない、そして移植後にさまざまな合併症が起きる;あるいは、再移植、再々移植)をどんどんするようになった昨今のアメリカでは、サポートへの配慮不足がより一層問題になっていると感じる。
「それでも透析にままでいるよりはよい」ことになっているため、今後もその傾向は続くだろう。いままでの選りすぐりで健康的な優良ケースに対応したモデルが通用しないのは当たり前である。もうすこしグダグダした(社会的資源をより投入した面倒見の良い)モデルにシフトしていかなければならない。つまり、予算か。
Talk via Zoom
カンファレンスがすべてZoomだ、と面接時に聞かされた時には、つまらないなあ、と思った。
しかし実際仕事が始まると、聴く分には非常に便利である。会場まで行く必要がないし、オフィスにいれば聴きながら調べものをしたり、忙しいときには仕事をすることもできる。画面は小さいが、スマートフォンで参加することもできる。
ただ、発表するとなると話は別だ。
先日Journal ClubとM and Mで発表してみると、相手の反応が返ってこないのに戸惑った。観客のいないスタジオでTV向けに漫才をするような感じだろうか。相手の反応が見えないのに、相手は見て(聴いて)いるのだから、余計に「大丈夫かな」と感じる。
それで、「ええい、こうなったら構うものか」という気持ちになる。結果的には好評価で一安心であったが、どっと疲れた。そのうち慣れるだろう。
なお、今でも少ないながらin-personのカンファレンスはある。それは、lunch-onのカンファレンスである。そんな日は、たとえハイブリッドでも会場に(何なら少し早めに)着くようにしている。
Bandaid and Bottom
時代と場所、誰が使うかで英語の表現にも違いがあって、今回の渡米で初めて聞いたという表現もいくつかある。たとえば、band-aid。問題の原因を解決しない応急処置、といった意味合いで使われる。それに対して、問題の原因にたどり着きたいときには、get to the bottom of ~という表現を使う。
12/17/2024
Living donor only
高齢の移植候補が評価に訪れた際に、多くの移植施設はliving donor onlyのオファーを提示する。年齢だけでなく、たいていは併存疾患やフレイルなどもあるので、よほど待ち時間が長くない限りは、献腎移植を受けるまでに5年くらいかかる。そうなると、70歳の患者は75歳というわけで、それまでにsickerになってしまうこともある。そうはいっても、皆にpotential living donor(s)がいるわけではないので、いない患者はdeceased donor transplantをオファーしてくれるまで他の(よりアグレッシブな)施設をあたる。
さっとたどり着く診断
移植後に腎機能が今一つな場合、考えることはたくさんあるが、すべての鑑別診断に等しく可能性があるわけではなく、こういう場合はX(Y、、)というパターンがある。DCDや高KDPIなら急性尿細管傷害、血圧が管理不能でCrが体液量に敏感ならTRAS(移植腎動脈狭窄)、術後にドレーンが挿入されたなら尿リーク(排液のCrをチェック)、FSGSで蛋白尿がすぐに多量にでるならFSGS再発、利尿薬や下痢といったシチュエーションで高カリウム血症を伴っていたら「血行動態(hemodynamic)」、つまり腎前性+タクロリムス濃度が高い、高度感作例やアドヒアランス不良例であれば拒絶(ただし、CNIを怠薬しているとCrは却って低くなることもあるが)、、といった具合だ。指導医たちは、こうしたアルゴリズムを持っているので、その患者ごとに必要な情報を最短距離で得ることができる。一緒に診療しながら、貯めていくしかない。