どんなにすばらしい治療や薬も、アドヒアランス(medical non-adherence, MNA)がよくなければ意味がない。アドヒアランスを保つのは難しく、それは医療者自身にとっても例外ではない。血中濃度やリフィルの回数などで確認できるが、簡単なのは患者に「この4週間で飲まなかったことがありましたか?」「この4週間で続けて飲まなかったことがありましたか?」と聞くことである。
MNAのリスクは、
・医療制度/医療者:保険、診療へのアクセス、医療者-患者間のコミュニケーション、小児から成人への移行
・社会疫学的な面:思春期/若い成人、マイノリティー、低い社会経済ステータス、家家庭内不和
・患者関連の心理社会面:過去のアドヒアランス不良、ヘルス・リテラシーや病識の低さ、心理的な問題を抱えている、自分で考え行動する力(self-efficacy)が低い、社会的支援が少ない、忘れやすさ/認知機能低下、日々のルーチンの変化
・治療関連:頻回な内服、内服薬の多さ、副作用、味/大きさ
・その他:移植後の経過が長い、生体ドナー、自分は健康だという思い込み、身体的な問題
さらに、テーマとして:
・Nonadherence:拒否、人生における大きな出来事、忘れっぽさ、費用、薬を手に入れる大変さ
・Partial adherence:副作用を最小限にしたい、忘れっぽさ、ルティーンの変化、処方の変化、人生に起きるさまざまな障壁(仕事、育児など)
・Total adherence:移植臓器を守る、ドナー/医療者への感謝、自分の健康に責任を持つ、副作用を忍容する、飲まないことによる結果を恐れる、リマインダーや予定表を使う、人の助け
などがある。
・・それは、そうだ。単に忘れるだけなら、さまざまな工夫がある。コストなども、さまざまな支援がある。言うほど簡単なことではないが、取り組んでいけばよい。
・・一方で、考えさせられたのは、演者の薬剤師(奇しくも筆者と同じ施設!)が紹介した、Amy Silversteinさんのエッセイ、"My Transplanted Heart and I Will Die Soon"だ(New York Times 2023年4月18日付)。
高い教育を受け臓器(心臓、2度の移植)を守るために完璧なケアをしてきた彼女は、免疫抑制薬の副作用と言える悪性腫瘍のため、エッセイがでてすぐの5月5日に59歳で世を去った。
医療者が簡単にアドヒアランスを守ればよい、と一概に言えるようなものではない、移植患者が経験するさまざまな苦悩と困難がある。彼女は"Sick Girl"と"My Glory Was I Had Such Friends"の2作品を残している。読んでみようと思う。
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(出典はNew York Timesの追悼記事) |