8/09/2025

TRANSCEND Trial

 Felzartamabの第2相試験を受けて、第3相試験TRANSCENDに期待がかかる。CD38は形質細胞だけでなくNK細胞にもあって、Felzartamabはその数を著減させるため、NK細胞が抗体依存性(ドナー特異抗体のFc部分がNK細胞にあるCD16と結合することによる)・非依存性(KIR、killer immunoglobulin-like receptorを介した)にグラフトを傷害するのを防ぐ効果も期待される。また、MMDx(腎生検の検体で行う遺伝子発現パターン解析)によれば、IFNγによって誘導される炎症関連遺伝子の活動が抑えられていたという。

 もっとも、全体的な拒絶傷害への効果は、治療しているあいだしか続かなかったようだが(第2相、6ヵ月間の治療で改善も、12か月後には再発兆候あり:第3相は12か月の治療期間)・・・。それでも、確実な治療が「ない」(経験的に行われるが効果が実証されていない治療ならあるが)現状では、十分素晴らしいことなのだろう。

Sensationalism

  2025年7月20日付で、New York Timesに、急増する循環死後の臓器提供(DCD, donation after circulatory death)の裏を告発する記事が載った。OOSを告発したのと同じ著者によるもので、死亡していない(意識がある)患者が臓器提供された事例(と、あわや臓器提供されかけたがキャンセルされ、意識を回復し今も元気に暮らしている事例)を紹介している。

 非常にセンセーショナルな記事で、「99%はうまくいっている」「助かった例もあるように、最悪の事態が起こらないための仕組みもある」など、なんと記事の著者までもがフォローしているが、臓器提供意思の登録者数が激減するなど、社会の信頼を大きく損なう事態になっている。ケンタッキー州では、事態を重く見た連邦政府の捜査が始まっている。

 日本でも1968年の心臓移植時に同様の事態となり、以後約30年にわたって移植医療が止まった一因になった。ただ、それとちがって今回は、死の定義や基準の議論や法制化が確立し、診断のプロセスやシステムなどもすでにあるなかでの出来事であるから、移植医療が止まることはないと思われる。

 OOSと同様、求められるのは透明性(暴かれる前に知らせる)だろう。また、記事で遠因と暗示されているような「少しでも多くの臓器を摘出し、少しでも多くの臓器を移植するように」という(とくに臓器調達機関、OPOに対する)重圧についても、直視しなければならない。個々のOPOに、成績に応じた統廃合の重圧があるのは確かだ(もちろん、そんなことでwrongdoingをするようなことはないとOPOの団体は記事に断固抗議しているが)。

 さらに、OPOは連邦政府との契約を結ぶ非営利機関であるが、何に対してどのようにお金が払われているのかを、良くも悪くも知る必要がある(筆者は、臓器調達のためにひょいっとプライベートジェットが飛ぶたびに、理由はわかるが仕組みが分からないと疑問を持ってきた)。

 (人からもらう限りは)善意と社会的合意・信頼によって初めて可能になる臓器移植が、今後もベストな治療選択肢であり続けるためにも、膿を出して、よりよく改善していかなければならない。



ASTN

  2025年3月26日付で、New York Timesに、レバノン国籍の腎移植内科医が帰国後に再入国を拒否されたという記事が載った。レバノンに帰国後に何か月も再入国できなかった、旅行はアメリカ国内に限るようにしている、といった話は聞いたことがあったが、入国できずに勾留され追放されたという話は初めてでびっくりした。

 それもさることながら、この記事で私がもう1つ注目したのは、最後に加えられた訂正文だ。この医師は腎移植内科医であるが、記事は腎移植外科医としていた。そして、「外科医はスケジュールが大変すぎてアメリカ人のなり手が少ない」といった説明をしていた(現在は差し替えられている)。

 移植外科と腎臓内科のあいだにある、腎移植内科医は、アメリカですらまだ一般には知られていない。一般の人々に腎移植内科医だと言っても、じゃあ移植しているのか?と聞かれることは多い。「腎臓内科医のASN、移植医のASTともちがう、ASTN(American Society of Transplant Nephrology)という団体を作って、認知度やプレゼンスを高め、ロビー活動なども頑張ろう」という機運もある。


Fitzpatrick and Monk Scales

 移植後の皮膚がん(とくにSCC)と免疫療法は移植領域でもっともホットな(未解決な)トピックの一つであるが、先日の世界移植会議では皮膚科医からも話を聴く機会があった。皮膚科医にも「どうしても免疫療法をすべき」という人から「拒絶リスクがあるなら使わない」という人までさまざまのようで、どうにも困っているのが伝わってきたが、餅は餅屋というわけで、皮膚科医にとっての常識を初めて聞いた、というようなこともあって、たとえばそれがFitzpatrickスケールだ。要は皮膚を人種に関係なくスケール化したもので、同じ人種でも日光にあたってburn(赤くなる)の人は、そうでない人よりも相対的に皮膚がんリスクが高いという。なお、2023年には人間の皮膚の色をよりくまなく分類する目的でMonkスケールが(Monk医師とGoogleによって)開発されたという。




DCA-siRNA

 移植医療は他領域から進歩を取り入れる精神が他の医療にくらべて多い印象がある。たとえば、siRNAといえば次世代分子標的薬(兼、間接的な遺伝子治療)であるが、それを応用する試みを知った。JAK1遺伝子に対するsiRNAを、心筋に取り込ませやすくするためDCA(docosanoic acid、ベヘン酸)をくっつけることで、siRNAが心移植後の心筋細胞に取り込まれやすくなり、虚血後再灌流傷害が起こりにくくするかもしれない、という。

Village people

  It takes a village to raise a childというが、移植医療はwhole bunch of peopleが集まって行われているだけでなく、「移植ムラ」とも言うべきやや狭い世界である。そのため、「あのXで有名なA先生」、「あのY病院にいるB先生」、「そのB先生とY病院時代に一緒で、いまはC病院にいるZ先生」というようなつながりが濃い。日本でも他国でも同じだ(先日の世界移植会議では、iBoxを作ったフランスのDr. Alexandre Loupyをパネリストで見かけた)。フェローシップによる恩恵の一つは、そのネットワークに入れたこととも言える。私の役目は一般腎臓内科と腎移植内科の架け橋になることだが、どちらにもいなければ橋にはなれない。

(先日イタリア政府が予算を承認した、シチリア島への橋予定地)



CBMKT

 CBMKT(combined bone marrow and kidney transplantation)とは、ドナーとレシピエントの免疫キメリズムによって臓器に対する寛容を目指す試みである。ただ、骨髄移植は全身放射線照射や毒性の強い前投薬を必要とする上、その後もGVHD(ドナー→レシピエント)の怖れや、DSA(レシピエント→ドナー)による拒絶リスクなどがあって、なかなかうまくいっていない。

 あんまり長い間うまくいかないと、"It's the hope that kills you(叶わぬ希望は持たぬ方がよい)"とか、"It has been the future of transplant, and it will always be(いままでもこれからもずっと未来でありつづける=実現しないだろう)"とか言われてしまうが、この分野にも進歩はあって、全身照射などの代わりにTregを注入する、その際のサイトカインストームを抑えるために毎週トシリズマブを打つ、免疫抑制薬はCNI-sparingにしてみる(Belatacept and sirolimus)など、工夫されている。

 また、免疫抑制が不要な移植を目指すもう一つの道は、再生医療である。こちらも険しい道だが、臓器まるごとを作らなくてもよい膵島細胞移植では進歩がみられている。自分の細胞を(Yamanaka factor遺伝子の1つだけを誘導し、あとは培地の化学物質で)β細胞に再生できるようになった。さらに、現在(FDA未認可ながら)試みられているように門脈に注入するのはなく、腹直筋鞘に経皮的に注射すればよいという。

 Never say never、あるいは、Ted Lassoコーチ(Apple+で放映されたドラマシリーズ:アメリカのフットボールコーチがイギリスのサッカーチーム監督を任される)が言うように"Do you believe in miracles?(1980年冬季五輪のアイスホッケーでソ連に逆転したアメリカチームに実況のAl Michaelsが終了直前叫んだ言葉)"である。




HOPE

 循環死後の臓器潅流といえばSCS(static cold storage)からpump、さらにNRP(normothermic regional perfusion)が行われるようになったが、ex vivoで次に注目されているのがHOPE(hypothermic oxygenated organ preservation)だという。とくに肝臓で試みられている。Mitochondria protectionによって臓器のviabilityを高めるのが目的である。そして、ミトコンドリアへのダメージを測る指標として、潅流液中のFMN(flavin mononucleotide)濃度が調べられている。

Novel antifungals

 Olorofimは真菌に特異的なDHODH(ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ)の阻害薬で、   Aspergillus、Lomentospora、Scedosporium、Coccidioidesなどに使われる。弱いCYP阻害作用があるほか、肝障害が10%程度起こる。Fosmanogepixが阻害するのはGPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)を介した細胞壁の架橋で、Fusarium、Scedosporium、Aspergillus calidoustus(Azolesに耐性)、Mucormycosis、Candidiasisなどに幅広く有効。中枢神経系にも浸透する。主な副作用は、消化器症状。IbrexafungerpはβDグルカン合成を阻害する。Amphotericinにはliposomalに加工されたタイプのほか、encochleated(ナノ結晶)経口製剤がある。腎障害・電解質異常などの副作用を低減させるための工夫である。Azoleのなかでは、Opelconazoleの吸入剤があって、肺移植後などに用いられ、経口にくらべて薬剤相互作用が少ない。

Azoles

 ポザコナゾール(Posa)はUDP glucuronidationによっても排泄される。イサブコナゾール(Isavu)は約100時間と長い半減期を持つため、中止後もしばらくCNI減量が必要となる(目安は半減期×5)。CYP3P4の阻害作用が特に強いのは、イトラコナゾール(Itra)、ボリコナゾール(Vori)、Posa。ポサコナゾールはmTORiとの併用が添付文書上は禁忌になっている。だから、PosaからIsavuに変更するときには他薬(CNIなど)用量を二倍にする。また、Isavuを除くAzolesはステロイドの曝露を30%上げる可能性がある。いっぽう、IsavuはMPAの曝露を増やす。AzolesはおおむねQTcを延長するが、Isavuは短縮する。LetermovirはCYP2C19/2C9を誘導するため、Voriの濃度を低下させる(いっぽう、シクロスポリンはLetermovir濃度を上昇させる)。


(Azores諸島)