移植臓器といえば氷で冷やして届けられるイメージを持つ方も多いだろう。獲得されてから運搬等にかかる時間をCIT(cold ischemia time)と呼ぶのも、そのためである。米国ではUPSが請け負うことが多いが、近年はUAV(unmanned aereal vehicle、要はドローン)による輸送も試みられているという。
CITが長いとDGFのリスクは高くなる。そのため、輸送による臓器の質低下を防ぐ試みもなされており、一つはpumpである。冷やすのは同じであるが、機械によって潅流液を循環させる。
発想自体は1800年代からあり、1849年にはマールブルグの Carl Eduard Loebellがブタの腎臓に潅流液を注入し、腎静脈から血液がでてくる(尿管から尿がでてくる)ことを確認している。以後忘れられた時期もあったが、臓器保存のために再認識され現在に至る。
Pumpingには、栄養を内皮細胞に届ける、微小循環を維持するなどの長所が考えられている。では実際にはどうかというと、2009年にオランダのグループが発表したEUROTRANSPLANT RCTスタディ(NEJM 2009 360 7)でDGFが有意に低下していた。
機械循環のほうがコストがかかるが、DGFによる入院費用とグラフト予後の低下、Pumpがないことで捨てられる腎臓(とくにDCD)の問題を考えれば、見合ったコストと考えられるようになってきた。現在、少なくともイリノイ州ではすべてのDCDがon pumpで搬送される。
・・ということは、次世代の方法も試みられているということである。それが、normothermic regional perfusion(NRP)である。早い話が、ECMOである。DCDドナーに対して、死亡確認後に大動脈と右心房にカニュレートしてECMOを回す。脳循環は不要なため、大動脈弓の3分枝はクランプされる。
ここまで大掛かりなことをやれるのは心臓外科医くらいである。というわけで、腎グラフトのためだけではなく、心グラフトのためでもある(他国では、腎臓により特化した腹部だけのperfusionも行われる)。
限られた施設でしか行われないが、UNOS/OPTNデータベースの解析(Transplantation 2024 108 516)によれば、2022年にはNRPによって91件の心移植と170件の腎移植が行われた。ドナーは対照DCDに比べ若く、KDPIも平均20%と低かった。
アウトカムではDGFが有意に低く、総グラフト予後も低い傾向にあったがサンプル数が少ないこともあってか有意差はなかった。
観察期間が短いため長期の生命・グラフト予後のベネフィットは未知だが、DCDの質をDBDに近づけようとする試みである。そうすればDCDの捨てられる割合を減らせるかもしれない。その割合はNRP群で8%と、対照DCD群の29%よりも有意に低かった(が、これはそもそもKDPIが低かったためであろう)。