献腎移植のためにprocure(獲得、調達)された腎臓のうち、20%以上は使われない。既往症・肥満など、ハイリスクなドナーからの腎臓の場合その割合は高くなり、KDPIが85%以上の腎臓は60%以上が使われない。※婉曲的にunused/not usedとも言われるし、批判的にdiscardedとも言われる。
「良い腎臓」を届けたいという外科医の気持ちもあるし、腎臓を受け入れた際のさまざまな手間、施設の移植成績がさがる懸念、受け入れに対するインセンティブのなさなども原因と思われるが、ハイリスクな腎臓でも十分に生命予後を改善させることから、近年使われない腎臓の割合を減らす圧力が強まっている。
そんななか、2023年12月21日に(やや唐突に短い準備期間のあとで)国の移植を司る機関、OPTNから発表されたのが、Expedited Placement Varianceである。Open offer、out of sequenceなどとも呼ばれる。
これは、これまでの移植待ちリストとは関係なく、「高リスクの腎臓を受け入れます」と意思表示した移植施設に優先的に高リスクの腎臓を受け入れる権利を与える。さらに、移植施設は自分たちで「この腎臓で最も利益を得られるのは誰か」を考えて、その患者をレシピエントにすることができる。
移植待ちリストの順番にやると、A市のX病院に断られ、次はB市のY病院に・・と言っている間に臓器のCITが延びてしまうだけでなく、手間も大きく、最終的にその腎臓は使われなくなりがちだ。しかし、新しい提案では、たとえ第一候補患者が急遽無理になっても(当日COVIDにかかるとか、移植までに感作されてクロスマッチが陽性になってしまうとか)、第二候補患者に待機してもらうことができる。
しかし、米国腎臓学会と米国腎臓財団は、いずれもこの提案に懸念を示している。
もちろん両団体ともに臓器が使われるようにすることには賛成だ。しかし、いちばんの問題は、透明性と公平性だという。「そもそも、新しいvarianceという例外を認める前に、今の割り当てシステム(allocation system)を直すべき」「utility、equity、transparencyはいずれも大事な3本柱であり、1つのために他の2つを犠牲にしてはならない」と言うわけだ。
それでも、米国らしく、とにかく第一歩から始めなければならない(You've got to start from somewhere)という認識は全員一致しており、両団体とも「ここをこう直しましょう」という提案で文書を締めくくっている。