9/14/2024

CD3

  T細胞関連拒絶は軽症ならステロイドパルスだが、重症例(や形質細胞・好酸球優位の例、ステロイド不応例)ではThymoが用いられる。

 Thymoを用いると、胸腺細胞すなわちT細胞がいなくなるはずである。そのため血算と白血球分画をモニターし、白血球があまりにも減ると連用しづらい(休薬して数が回復してから少量で投与するなど、工夫する)。

 しかし、いなくなってくれないと、効いているか疑問である。そこで、T細胞が血中からいなくなったかを確認する方法が、CD3 flowである。CD3はCD4+、CD8+を問わずT細胞に共通して存在するT細胞受容体を構成するため、T細胞のマーカーになる。

 それにしても、移植内科にいると血液内科かと思うくらい血液のことを勉強する(もっとも、血液内科にいたらこんな程度では済まないのであるが・・)。


Synopsis

 初めての入院コンサルト5週間が終わった。患者の情報をいかに把握するかが、最大の焦点だった。そして、工夫して至ったのが、synopsisである。例えば(もちろん架空の患者である):

 65才男性、既往に睡眠時無呼吸症候群、EF低下心不全、心房細動でエリキュースを内服、末期腎不全(原疾患は糖尿病、腎生検なし)で2017年から左上腕内シャントで血液透析(Dr. Reedが診ていた)、2020年12月4日に献腎移植(脳死ドナー、KDPI 60%、cPRA 0%、2/2/1ミスマッチ)、Thymo 4.5mg/kg導入、リンパ嚢腫を合併しドレーン排液後、ベースラインのクレアチニンは2.0mg/dl(移植腎生検2023年3月11日、拒絶なし、小動脈硬化あり)で維持免疫抑制はベラタセプト(次回9月21日)、タクロリムス2/2mg(目標トラフ3-5ng/ml)、プレドニゾン5mg(Dr. Reedが診ている)。9月13日に過大シャント血流(6L/min)によるとみられる心不全で入院。Cr 2.5mg/dl、利尿薬を使いつつシャント結紮を検討中。

 といった具合である。

 米国のカルテはすべからくこうした「1行サマリー」が必ず記載されるが、実際には誰かが作ったものをコピーすることが多い。とはいえ、移植についての情報が満載のこの文章を自分で作ると、把握は半分くらい終わる。

 ※あとは、いかにこれを覚えておくかである。今の工夫は、上記の文章を全員分集めて印刷した紙を持ち歩いている。幸い略語が多いので、英語で書くと20人いても3枚くらいで済む。面白いから上記文章を英語に直すと:

 65 yo M with PMH of OSA, HFrEF, Afib on Eliquis, ESKD 2/2 DM2 (no biopsy) on HD via LUE AVF since 2017 seen by Dr. Reed, s/p DDKT on 12/4/2020 (DBD, KDPI 50%, cPRA 0%, 2/2/1MM), Thymo 4.5mg/kg induction, c/b lymphocele s/p drainage, baseline Cr 2.0 (biopsy shows arteriosclerosis, no rejection) on bela (next 9/21), tacro 2/2mg goal 3-5, prednisone 5mg seen by Dr. Reed. Admitted on 9/13 for HOHF (AVF 6L/min), diuresed, AVF ligation being discussed.

 残りの半分は、リアルタイムのバイタルサイン、検査値、処方薬一覧である。これらを全部含むハンドアウトを印刷することは可能であるが、かさばるのでしていない。スマートフォンから参照できる電子カルテアプリ、Haikuを利用することもあるが、抜けがでることもある。

 これらをどのように把握するかが、今後の課題である。そのうち、コツが見つかるだろう。


9/11/2024

CMV prophylaxis and treatment

  CMVの予防内服はリスクによって異なり、施設にもよるが高リスク(D+/R-)でvalganciclovir 900mg1日1回を6ヵ月、中リスク(R+)でvalganciclovir 900mg1日1回を3ヵ月、低リスク(D-/R-)でacyclovir 400mg1日1回を3ヵ月などと決まっている。

 治療用量はvalganciclovir 900mg1日2回ないし静注ganciclovir 5mg/kg1日2回。腎用量はCrCl 40以上60未満ml/minで valganciclovir 450mg1日1回、25以上40未満で450mg隔日(または週3回)、10以上25未満で450mg週3回、10未満またはHDで100mg週3回(透析後)、CRRTで静注ganciclovir 2.5mg/kg1日1回。

 ganciclovirは1988年、valvanciclovirは2001年から使用されているが、いずれもCMV DNA polymeraseの阻害薬である。理想の世界ではウイルスのDNAのみに作用するはずであるが、現実の世界では宿主細胞のDNAにも作用し、とくに骨髄抑制が問題になる。

 代替薬には、LetermovirとMaribavirの二つがある。

 Letermovirは造血細胞移植レシピエントのCMV予防内服に対して2017年に承認された。CMVのエンベロープにCMV1個分のDNAを切り取って注入するterminase complexを阻害する。

出典はViruses 2019 11 219
 

 他の臓器移植患者に対しては未承認だが、昨年CMVハイリスクの腎移植レシピエント601人をvalganciclovir群(900mg1日1回)とletermovir群(480mg1日1回、CMV以外のヘルペスウイルス予防にaciclovir 400mg1日2回を併用)を比較した試験結果が発表された(JAMA 2023 330 33)。

 結果、52週までのCMV疾患は両群とも約10%で、letermovir群はvalganciclovir群に対して非劣性であった。そして好中球減少はletermovir群で2.7%で、vaganciclovir群の16.5%よりも有意に少なった。Letermovir群で多かった有害事象は下痢、振戦、尿路感染症だが、これらはvalganciclovir群と同程度だった。

 なお、原疾患や免疫抑制レジメンなどは両群間で調整されたが、letermovirはCYP3A4を阻害するため、CNIやmTOR阻害薬の減量が必要になる。逆に、シクロスポリン内服患者ではletermovir用量を半減しなければならない(シクロスポリンがOAT1B1/3を阻害するため)。Double-masked, double-dummyではあるが、用量調節で患者がどちらの群か分かった可能性はある。

 いずれにせよ、骨髄抑制でvalvanciclovirを中止せざるを得ない患者には新しい選択肢として使用が広がっている。

 Maribavirは、pUL97 kinase inhibitorであるが、同種幹細胞移植患者の予防内服で第三相試験がアウトカムを達成できなかったため、他薬に不応のCMV感染に対する治療薬として2021年に認可された。


King and Four Wives

 17時、ERで入院になる患者に会いに行った。問診や診察をしていたが、患者には何となくたくさん話したい気持ちが感じられた。そして、こちらも会話を切り上げようとするのをやめた。そうはいっても話は終わったかなと、closingに「腎臓は良くなると思いますよ」と言った。気休めなどではなく、可逆的な増悪であることが分かっていたからだ。

 すると、どういうわけか患者が「君はどこの国の出身だい?」と言った。そして日本だと答えると、「君は王と4人の妻の話を知っているか?いつかGoogleで調べるといい」と言った。そして、調べる前に話をすっかり教えてくれた。彼のバージョンは次のようなものだった(もとは四婦喩経という仏教の説教のようだ)。

 死期を悟った王が、一人で死ぬのがさびしくて4人の妻に一緒に死んでくれないかと頼んだ。

 最も愛する何でも買い与えた4番目の妻は、何も言わずに去った。最も自慢のどこにでも連れて行った3番目の妻は、「この世が好きなのであなたが死んだら再婚します」と言った。最も信頼していた2番目の妻は、「申し訳ないけれど無理です、葬式はしてあげます」と言った。
 
 しかし、最も尽くしてくれていたが王がまったく顧みることのなかった1番目の妻が「いつまでもどこまでも一緒に行きましょう」と言った。王は、「そんなことならあなたをもっと大切にすればよかった」と言った。
 
 4番目の妻は身体、3番目の妻は所有(財産、地位、名誉など)、2番目の妻は家族の比喩である。いずれも、あの世に持っていくことはできない。そして1番目の妻は、患者によればsoulの比喩だという。
 
 なぜ患者がこの話をしたのか?彼の見たこの説話の動画にでてくる東洋人の雰囲気に私が似ている、というような話だった気がする。ただ、なぜあのタイミングで話し始めたのかはわからない。おたがい前回入院時から知っていたので、関係ない話もしやすかったのだとは思う。

 患者は翌日退院した。まさに、一期一会である。もちろん、再入院しないことを願う。


9/08/2024

ALECT2

  ALECT2とは、leukocyte chemotactic factor 2(LECT2)によるアミロイドーシスのことで、初めに報告されたのは2008年のことである(参考文献:J Investig Med 2022 70 348)。主に腎臓、次いで肝臓に沈着するが、他のアミロイド蛋白は変異したものだけが異常に重合してアミロイドとなるが、LECT2は変異がないものもアミロイドとなる。

 Hispanic ethnicityに多いと言われ、米国の陽性例は約90%がそうである(とくに、Mexican Americans)。だが、現在ではBanjab、Han Chinese、Egyptian、First Nations People(British Columbia)など他のethnicityにも見られることが分かっている。

 腎臓のアミロイドーシスと言えば、ALアミロイドーシスをはじめ糸球体に沈着して蛋白尿・ネフローゼ症候群などを起こすものが多い。しかし、LECT2は主に間質に沈着し、CKDパターンをきたす。

 なので、蛋白尿のない(あるいは目立たない)原因不明のCKDに腎生検を行い、皮質の間質におかしな沈着があるのでアミロイドの染色をしたら陽性(strikingly positive、かつAA・AL・ATTRではない)・・という具合に診断される。生検されず未診断の患者も多いと思われる。

  なお、LECT2そのものは脂肪肝などで惹起される炎症にともない異常に肝臓から産生されることが分かっているが、なぜ腎臓の間質に目立って沈着するのかは分かっていない。肝臓由来の疾患であるため、腎移植後も再発しうる(CJASN 2015 10 2084)。

上図がCongo Red、下図がLECT2の免疫染色
(出典はAJKD 2019 74 563) 

 移植においては、移植腎生検で見つかることが多い。つまり、ドナーにもともと腎疾患があったことになり、ドナーにとってもレシピエントにとっても「移植してよかったのか?」という話になる。少なくともレシピエントにとっては、5例ながら腎機能低下はみられなかったという報告がある(AJKD 2019 74 563)。


9/07/2024

Fodder for growth

  フェロー生活をしていると、指導医と1対1の時間が多く、「これはどう?」「あれはどうだった?」という知っているかの質問や、「どうしてこうだと思う?」といった考えさせる質問をたくさん受ける。そして、今はまだ「・・・(知りません)」と返すことが多い。

 「こんなこともわからないとは・・」とちょっと残念に思うこともあるが、これは成長の機会である。指導医もそれは分かっている。知らないことを指摘し、知らないことに気づかせるのが指導医の役目。

 そもそも、最初からすべて分かっているなら、フェローシップをする必要はない。コンフォート・ゾーンから少しだけ外れた成長のエッジ(根の先端や骨端線のような、成長していく部分)に自分を置いてこそ、自分を拡大・進化させることができる。

 そうした部分にいると、常に工夫する。今日はこうしてみよう、明日はこうしてみよう、うまくいったならよかった、うまくいかなくても、次がある・・という繰り返しである。自分を卑下するのでも相手を逆恨みするのでもなく、ただ、努力すること。

 それが、成長の秘訣であろう。日本で同じことをしていては得られなかった貴重な機会に、感謝しかない。


HD

  腎移植内科といえども、透析と無縁ではなく、たとえばDGF(術後1週間以内の透析)、あるいはfailing allograft(年余を経てグラフト機能が廃絶すること)のために透析を必要とする患者のために透析オーダーを入力することは稀ではない。

 筆者が主にかかわるのは入院血液透析(acute hemodialysis)であるが、日本との違いも少なからず目につく。たとえば:

・透析用ベッドが7床と、本館だけで436床(ICU 52床)ある施設としては非常に少ない。そのぶん、3シフトで回している。そして、第一シフトは朝4時ころから始まる。

 ※早朝から始まるのは外来透析も同じである。

・透析室では体重を測らない。したがって、だいたいの感覚で除水量を決める(2000-3000ml、MAP目標65mmHg以上、など)。体重は、病棟で測ったものを参考にするが、ベッドの秤は当てにならないこともある。

 ※外来透析では、もちろん体重を前後で測定している。

・短期カテーテルは基本的に用いない(ICUでは病棟で短期カテーテルを挿入するが、一般病棟の場合はトンネルカテーテルを放射線科で挿入してもらう)。以前触れたが、腎臓内科医がカテーテルを挿入することは、ない。

9/06/2024

Living donor

  米国は「2026年までに年間6万件の移植を」をイニシアティブにしており、確かに献腎移植は増えているが生体腎移植は増えていない。とはいえ、生体腎移植を増やす工夫も行われている。大きくは①リスク評価、②免疫学的評価、③金銭面に分けられる。

 ①のリスク評価については、よりリベラルに生体腎ドナーを認めるようになった。ランドマークスタディは2016年に発表された、複数のESKDリスク因子を総合的に評価するツールを実証したものだ(NEJM 2016  374 411)。

 それにより、たとえば「30歳のアフリカ系女性で蛋白尿はないが血圧が140mmHgあり降圧薬を内服している非喫煙者」のドナー候補は、ドナーをしない場合の生涯ESKDリスクが1.9%、などと算定できるようになった。

 そのうえで、ドナーになった場合にそのリスクがどれくらい増えるかを加味して、総リスクが(たとえば)5%未満ならドナーを認めましょう、といった枠組みが2017年のKDIGOガイドライン(Transplantation 2017 101 S7-S105)に採用された。

(出典はTransplantation 2017 101 1783)

 もっとも、移植によるESKDリスクは個別化されておらず、より厳しい基準の生体腎ドナーについて調べたスタディしかないため(15年で0.27%とされる)、上図はいまだ架空の概念である。しかし、今後ドナーの移植によるESKDリスクがより正確かつ個別に予測できるようになれば、認定する際の大きな助けになるだろう。

 ②と③については以前にも触れたが、皆が生体腎を望む裏で、唯一かつ最も負担を強いられるの生体腎ドナーである、という主張が昨年Kidney360に発表された(Kidney360 2023 4 987)。前述のNKR(national kidney registry)のほか、国の支援機関であるNLDAC(National Living Donor Assisstance Center)もある。

 しかし、金銭・雇用面の負担や保険の差別などから生体ドナーを守ろうというLiving Donor Protection Actが共和党・民主党両方の議員達から提案されているものの、10年以上たった今なお採択には至っていない。

 それにしても、生体ドナー支援センターなどと聞くと、どうしてもKazuo Ishiguroの”Never let me go”を思い出してしまう。生体ドナーがリスクフリーなわけではないので、異種移植に期待がかかる。筆者が引退するまでに実現するだろうか、とふと思う。

To be a specialist

  入院(コンサルト)診療は、患者の入れ替わりが激しく、患者情報をチェックする時間も限られているため、いかに大事な情報を把握するかが課題となる。そして、少なくとも今は大事な情報さえもすべての患者で把握することはできないので、穴があく(指導医に尋ねられても、答えられない)。

 しかし、その過程を経なければ、成長することはできない。毎日、工夫の連続である。すくなくとも、

・移植日

・移植施設

・フォローする施設、腎臓内科医

・免疫抑制薬と目標トラフ(月1回のBelataceptなら、最終投与日)

・ベースラインのクレアチニン

・蛋白尿

 くらいは、知っておかなければならない。考えてみれば、腎移植内科コンサルトなのだから、当たり前である。腎移植内科以外の情報も集めようとするあまり、もっとも基本的な情報が後回しになっていることに気づいた。