10/10/2025

抗原対策

  脱感作とは、要は抗体対策であり、抗体を抜いたり減らしたりするわけだが、このたび抗原対策の研究も進められていることを知った。 Nat Commun 16, 1506 (2025)では、Bacteroides fragilis由来のα-galactosidase(B-zyme)を混ぜ、Dextran-40という高分子こみあい(溶媒を占有させてB-zymeの実効濃度を上げること)を用いたところ、B型赤血球をほぼECO(enzymically converted O、フコースの位置がO型と違うがユニバーサルな型とみなせる)にすることができた。

 さらに、臓器摘出されたものの移植されなかった腎臓をB-zyme入りの潅流液で潅流し、3時間で腎内皮細胞のB抗原をECOにすることができた。それをO型で抗B抗体価がIgGで128倍の脳死患者(もうpatientではないので、decedentと言う)に移植したところ、全身状態がわるく尿は初日すら120ml/dしか出ず、結局63時間で摘出となった。

 ・・のであるが、不適合の病理像はまったくみられなかった。

 B抗原は48時間程度でふたたび徐々に表出されるようになり、IgG・IgM・C1q・C3も沈着していたが、C4dは陰性で、C5-9もみられなかった。

 なお、研究は中国四川省で行われたが、周術期の免疫抑制はサイモグロブリン・リツキシマブ・ステロイド・(なぜか)シクロスポリン・MMFであった。63時間で摘出になってしまったので、もっと経つと拒絶していたか、意外と平気だったかはわからない。

 B型だけでなく、A型の肺を酵素で同様に除去する報告もある(ただしex vivoで、実際にpatientやdecedentに移植された例はまだない)。Sci. Transl. Med.14,eabm7190(2022).

 やはり、酵素で処理した後に抗原がふたたび出てくるので、それをどうするかが課題だろう(ただ、抗体も移植前に減らしてもまた増えてくることがあるのだが)。酵素を補充すれば抗原を除去し続けられるのではないかという提案がdiscussionに載っていた。

 また、処理に3時間はかかるので、献腎ならよいが、生体腎でわざわざ摘出後に3時間待つのはもったいない気もする。脱感作の負担が減らせる利点との、トレード・オフかもしれない。

 

8/09/2025

TRANSCEND Trial

 Felzartamabの第2相試験を受けて、第3相試験TRANSCENDに期待がかかる。CD38は形質細胞だけでなくNK細胞にもあって、Felzartamabはその数を著減させるため、NK細胞が抗体依存性(ドナー特異抗体のFc部分がNK細胞にあるCD16と結合することによる)・非依存性(KIR、killer immunoglobulin-like receptorを介した)にグラフトを傷害するのを防ぐ効果も期待される。また、MMDx(腎生検の検体で行う遺伝子発現パターン解析)によれば、IFNγによって誘導される炎症関連遺伝子の活動が抑えられていたという。

 もっとも、全体的な拒絶傷害への効果は、治療しているあいだしか続かなかったようだが(第2相、6ヵ月間の治療で改善も、12か月後には再発兆候あり:第3相は12か月の治療期間)・・・。それでも、確実な治療が「ない」(経験的に行われるが効果が実証されていない治療ならあるが)現状では、十分素晴らしいことなのだろう。

Sensationalism

  2025年7月20日付で、New York Timesに、急増する循環死後の臓器提供(DCD, donation after circulatory death)の裏を告発する記事が載った。OOSを告発したのと同じ著者によるもので、死亡していない(意識がある)患者が臓器提供された事例(と、あわや臓器提供されかけたがキャンセルされ、意識を回復し今も元気に暮らしている事例)を紹介している。

 非常にセンセーショナルな記事で、「99%はうまくいっている」「助かった例もあるように、最悪の事態が起こらないための仕組みもある」など、なんと記事の著者までもがフォローしているが、臓器提供意思の登録者数が激減するなど、社会の信頼を大きく損なう事態になっている。ケンタッキー州では、事態を重く見た連邦政府の捜査が始まっている。

 日本でも1968年の心臓移植時に同様の事態となり、以後約30年にわたって移植医療が止まった一因になった。ただ、それとちがって今回は、死の定義や基準の議論や法制化が確立し、診断のプロセスやシステムなどもすでにあるなかでの出来事であるから、移植医療が止まることはないと思われる。

 OOSと同様、求められるのは透明性(暴かれる前に知らせる)だろう。また、記事で遠因と暗示されているような「少しでも多くの臓器を摘出し、少しでも多くの臓器を移植するように」という(とくに臓器調達機関、OPOに対する)重圧についても、直視しなければならない。個々のOPOに、成績に応じた統廃合の重圧があるのは確かだ(もちろん、そんなことでwrongdoingをするようなことはないとOPOの団体は記事に断固抗議しているが)。

 さらに、OPOは連邦政府との契約を結ぶ非営利機関であるが、何に対してどのようにお金が払われているのかを、良くも悪くも知る必要がある(筆者は、臓器調達のためにひょいっとプライベートジェットが飛ぶたびに、理由はわかるが仕組みが分からないと疑問を持ってきた)。

 (人からもらう限りは)善意と社会的合意・信頼によって初めて可能になる臓器移植が、今後もベストな治療選択肢であり続けるためにも、膿を出して、よりよく改善していかなければならない。



ASTN

  2025年3月26日付で、New York Timesに、レバノン国籍の腎移植内科医が帰国後に再入国を拒否されたという記事が載った。レバノンに帰国後に何か月も再入国できなかった、旅行はアメリカ国内に限るようにしている、といった話は聞いたことがあったが、入国できずに勾留され追放されたという話は初めてでびっくりした。

 それもさることながら、この記事で私がもう1つ注目したのは、最後に加えられた訂正文だ。この医師は腎移植内科医であるが、記事は腎移植外科医としていた。そして、「外科医はスケジュールが大変すぎてアメリカ人のなり手が少ない」といった説明をしていた(現在は差し替えられている)。

 移植外科と腎臓内科のあいだにある、腎移植内科医は、アメリカですらまだ一般には知られていない。一般の人々に腎移植内科医だと言っても、じゃあ移植しているのか?と聞かれることは多い。「腎臓内科医のASN、移植医のASTともちがう、ASTN(American Society of Transplant Nephrology)という団体を作って、認知度やプレゼンスを高め、ロビー活動なども頑張ろう」という機運もある。


Fitzpatrick and Monk Scales

 移植後の皮膚がん(とくにSCC)と免疫療法は移植領域でもっともホットな(未解決な)トピックの一つであるが、先日の世界移植会議では皮膚科医からも話を聴く機会があった。皮膚科医にも「どうしても免疫療法をすべき」という人から「拒絶リスクがあるなら使わない」という人までさまざまのようで、どうにも困っているのが伝わってきたが、餅は餅屋というわけで、皮膚科医にとっての常識を初めて聞いた、というようなこともあって、たとえばそれがFitzpatrickスケールだ。要は皮膚を人種に関係なくスケール化したもので、同じ人種でも日光にあたってburn(赤くなる)の人は、そうでない人よりも相対的に皮膚がんリスクが高いという。なお、2023年には人間の皮膚の色をよりくまなく分類する目的でMonkスケールが(Monk医師とGoogleによって)開発されたという。




DCA-siRNA

 移植医療は他領域から進歩を取り入れる精神が他の医療にくらべて多い印象がある。たとえば、siRNAといえば次世代分子標的薬(兼、間接的な遺伝子治療)であるが、それを応用する試みを知った。JAK1遺伝子に対するsiRNAを、心筋に取り込ませやすくするためDCA(docosanoic acid、ベヘン酸)をくっつけることで、siRNAが心移植後の心筋細胞に取り込まれやすくなり、虚血後再灌流傷害が起こりにくくするかもしれない、という。

Village people

  It takes a village to raise a childというが、移植医療はwhole bunch of peopleが集まって行われているだけでなく、「移植ムラ」とも言うべきやや狭い世界である。そのため、「あのXで有名なA先生」、「あのY病院にいるB先生」、「そのB先生とY病院時代に一緒で、いまはC病院にいるZ先生」というようなつながりが濃い。日本でも他国でも同じだ(先日の世界移植会議では、iBoxを作ったフランスのDr. Alexandre Loupyをパネリストで見かけた)。フェローシップによる恩恵の一つは、そのネットワークに入れたこととも言える。私の役目は一般腎臓内科と腎移植内科の架け橋になることだが、どちらにもいなければ橋にはなれない。

(先日イタリア政府が予算を承認した、シチリア島への橋予定地)



CBMKT

 CBMKT(combined bone marrow and kidney transplantation)とは、ドナーとレシピエントの免疫キメリズムによって臓器に対する寛容を目指す試みである。ただ、骨髄移植は全身放射線照射や毒性の強い前投薬を必要とする上、その後もGVHD(ドナー→レシピエント)の怖れや、DSA(レシピエント→ドナー)による拒絶リスクなどがあって、なかなかうまくいっていない。

 あんまり長い間うまくいかないと、"It's the hope that kills you(叶わぬ希望は持たぬ方がよい)"とか、"It has been the future of transplant, and it will always be(いままでもこれからもずっと未来でありつづける=実現しないだろう)"とか言われてしまうが、この分野にも進歩はあって、全身照射などの代わりにTregを注入する、その際のサイトカインストームを抑えるために毎週トシリズマブを打つ、免疫抑制薬はCNI-sparingにしてみる(Belatacept and sirolimus)など、工夫されている。

 また、免疫抑制が不要な移植を目指すもう一つの道は、再生医療である。こちらも険しい道だが、臓器まるごとを作らなくてもよい膵島細胞移植では進歩がみられている。自分の細胞を(Yamanaka factor遺伝子の1つだけを誘導し、あとは培地の化学物質で)β細胞に再生できるようになった。さらに、現在(FDA未認可ながら)試みられているように門脈に注入するのはなく、腹直筋鞘に経皮的に注射すればよいという。

 Never say never、あるいは、Ted Lassoコーチ(Apple+で放映されたドラマシリーズ:アメリカのフットボールコーチがイギリスのサッカーチーム監督を任される)が言うように"Do you believe in miracles?(1980年冬季五輪のアイスホッケーでソ連に逆転したアメリカチームに実況のAl Michaelsが終了直前叫んだ言葉)"である。




HOPE

 循環死後の臓器潅流といえばSCS(static cold storage)からpump、さらにNRP(normothermic regional perfusion)が行われるようになったが、ex vivoで次に注目されているのがHOPE(hypothermic oxygenated organ preservation)だという。とくに肝臓で試みられている。Mitochondria protectionによって臓器のviabilityを高めるのが目的である。そして、ミトコンドリアへのダメージを測る指標として、潅流液中のFMN(flavin mononucleotide)濃度が調べられている。

Novel antifungals

 Olorofimは真菌に特異的なDHODH(ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ)の阻害薬で、   Aspergillus、Lomentospora、Scedosporium、Coccidioidesなどに使われる。弱いCYP阻害作用があるほか、肝障害が10%程度起こる。Fosmanogepixが阻害するのはGPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)を介した細胞壁の架橋で、Fusarium、Scedosporium、Aspergillus calidoustus(Azolesに耐性)、Mucormycosis、Candidiasisなどに幅広く有効。中枢神経系にも浸透する。主な副作用は、消化器症状。IbrexafungerpはβDグルカン合成を阻害する。Amphotericinにはliposomalに加工されたタイプのほか、encochleated(ナノ結晶)経口製剤がある。腎障害・電解質異常などの副作用を低減させるための工夫である。Azoleのなかでは、Opelconazoleの吸入剤があって、肺移植後などに用いられ、経口にくらべて薬剤相互作用が少ない。

Azoles

 ポザコナゾール(Posa)はUDP glucuronidationによっても排泄される。イサブコナゾール(Isavu)は約100時間と長い半減期を持つため、中止後もしばらくCNI減量が必要となる(目安は半減期×5)。CYP3P4の阻害作用が特に強いのは、イトラコナゾール(Itra)、ボリコナゾール(Vori)、Posa。ポサコナゾールはmTORiとの併用が添付文書上は禁忌になっている。だから、PosaからIsavuに変更するときには他薬(CNIなど)用量を二倍にする。また、Isavuを除くAzolesはステロイドの曝露を30%上げる可能性がある。いっぽう、IsavuはMPAの曝露を増やす。AzolesはおおむねQTcを延長するが、Isavuは短縮する。LetermovirはCYP2C19/2C9を誘導するため、Voriの濃度を低下させる(いっぽう、シクロスポリンはLetermovir濃度を上昇させる)。


(Azores諸島)


CNIによる血管収縮

 CNIによる腎障害は主に血管収縮によるが、その証拠となる写真がこちら(Transplantation 1987 44 135-141)。



6/28/2025

foscarnet and maribavir

  永らく移植患者を苦しめてきたCMVも、valcyteが登場してCMVが予防可能になったうえ、CMV diseaseもコントロール可能になってきた・・と言いたいところだが、感染症の常で、耐性が問題になってきた。とくに腎移植患者はvalcyteの用量調節が難しく、減量したらundertreatmentになってしまい・・ということもある。

 耐性CMVの第一選択薬は、Foscarnetである。腎毒性が知られているが、経験的にはあまり困らない。むしろ、腎毒性予防に用いられる生理食塩水が、とくに心腎同時移植患者などで問題になりうる。MaribavirもCMV治療に認可されている(予防に認可されたのはLetermovir)が、治験時代からウイルス量が多いと(何十万copies/ml)治療に失敗しがちと知られている。

Cresemba

  Cresemba(isavuconazonium)という薬がinvasive Aspergillusやmucormycosisに用いられていることを知った。Isavuconazoleのプロドラッグだという。移植患者の真菌症ほど心配されるものはなく、ちょっとした副鼻腔の所見であっても軽く考えてはいけない。また、免疫抑制薬を中止するわけには行かず、減薬したらしたでこんどは拒絶を招く(かえって免疫抑制の強化が必要になる)など、とても厄介である。なお、一見azole系にみえない名前なので、タクロリムスとの相互作用などの考慮を忘れないようにしたい。

Greater than the sum of parts

 The whole is greater than the sum of partsとは、チームのシナジーやケミストリーを表す言葉である。アリストテレスがそれに近いことを書いている(が、少し違うので、misquoteとされる)。うまくいっているチームほど、観ていて気持ちの良いものはない。また、チームを越えて、さまざまな職種・部門が協力・連携して大きな力を生み出しているのを見るのも、気持ちが良い。そうありたいものだ。

当て推量

  診断や病状が分からないなかで検査や治療を試みなければならないことは、臨床で起こりうることだが、そうした状況をshooting in the dark / fishing in the dark(当て推量)と説明することがある。

SRL and angioedema

  シロリマス(シロリムス)の副作用と言えば蛋白尿・創傷治癒遅延・高脂血症・下腿浮腫・口腔潰瘍・間質性肺炎などが有名だが、血管浮腫もある(報告はAJT 2004 4 1002-1005)。

Square 1

 Back to square 1とは、「振出しに戻る」「元の木阿弥」という意味で、直観的にはすごろくを想像する言葉である。すごろくに似たsnake and ladder gameというゲームがあって、出発点がSquare 1である(ゴールはSquare 100)。

 また、アメリカの小学校で九九の代わりに用いられる掛け算の表、multiplication table(12×12まである)のはじまり、1×1も、文字通りsquare 1(squareとは平方、二乗の意味)。
 
 ただ、正式な語源は1920年代の英国で、サッカーのラジオ実況だという。コート上の位置をラジオで説明するため、ゴール近くの領域をsquare 1と称していたという。ラジオ野球中継で「三遊間」などと言葉で場所を説明するのと似ている。
 
 ところで、木阿弥とはなんだろうか?諸説あるらしいが、ある武将の死を隠すために代わりをつとめされた木阿弥なる人物が、その武将の子が成人して死を隠す必要がなくなったため、元の木阿弥に戻ったという伝説に基づくとか。

6/20/2025

Karius test

  Cell-free DNAといえばドナー由来cell-free DNAを移植後臓器拒絶のモニタリングに用いるが、感染症科領域ではantimicrobial cell-free DNAを用いることがある。培養で菌が生えない場合も、血液を流れる菌の欠片を見つけることができるというわけだ。ただ、もちろん最初から用いることはまずなくて、培養・生検など手を尽くしてもわからない時の最後の手段という感じである。結果も、みつかった欠片が起因菌とは限らず、解釈が難しいことがある。

CGM

  アメリカの薬局に行くと、家電(あるいはスマートフォン)店かと思うような一角がある。各種の血糖測定器を扱うコーナーだ。処方箋がなければ買えないかというと、そんなことはない。アメリカにはなんでも自分のことは自分でやる気風がある。自分の健康をチェックするために自分で買いたいという人には、スマートウォッチのように血糖測定器も売ってくれる。CGM(持続血糖測定モニター)も売っていて、身近な人がつけていたりする。