10/27/2024

忘れられない一言 77

  先日紹介した"Sick Girl"を読んだ。移植医療の患者視点を、非常に深く正確に(理解できるように、あるいは理解できないことを理解できるように)これでもかと教えてくれる本だった。

 一番の衝撃は、人生の意味についてのやりとりだった。もうこれ以上は無理であると絶望的に伝える患者に対して、主治医が「あなたの人生に意味を与えるものは何ですか?」と聞いた。

 こんな質問をすることはまずない医師であったが、移植後10年以上の診療を経ての、絶望と怒りの果てに出た訴えに対するやり取りなので、そういう話にもなったのだろう。医師はまず仕事、そして家族を例に挙げる。

 しかし、家族を置いて治療を放棄するのは無責任、といった批判でひっこめるほど単純な苦しみではない。たとえ非難されても仕方ない、自分のことは自分で決める、と思えるほど作者は追い詰められていた。

 移植以来ずっと、作者にとって人生の意味は生きること(survival)だった。生きていなければ、その他のことなど何もない。だから、いつ拒絶するかもしれない、いつ感染やがんになるかもしれない、と思いながら必死に「患者」を生きてきた。

 だから、主治医の質問に答えるには、移植をいったん脇に置いて、想像したこともないことを想像して、夢をみなければならない。そして、彼女から出た一言は:

 "I'd like to write."

 だった。

 主治医は「じゃあ、書けばいい」と言う。書こうとしたが駄目だった、大学時代にクラスに何度か行ったが心臓病になり行けなかった、今からやろうとしても合うクラスがない、やっぱり無理だから薬(免疫抑制薬)を飲むのをやめる!

 ・・と、彼女は言い放った。

 主治医はさらっと「免疫抑制薬を減らして、2週間後にレベルをチェックしましょう」、「それまでは毎週会いましょう」と言った。そして去り際に、「大学に確認して、個人教授のレッスンを組むこともできます、あなたのスケジュールに合わせられますよ」と言った。

 この時のことを彼女は、I was caught up with olive branches(ノアの箱舟の例え)、と書いている。結果的に、そのおかげでこの本ができた。

 二つ考察しなければならない。一つには、人生の意味について考えさせられた。生存、所属、愛情、・・自己実現と言ってしまえばそれまでだが、そこにこそドラマがある。単純に「次のレベルはこれかな?」とすくすくやっていけるほど、人生は甘くない。

 もう一つは、医師に求められる落ち着きである。患者に「人生の意味は何ですか?」と聞くほど思い上がる気はないにしても、「治療をやめたい」という問いかけにどう向き合うかはどの医師も経験することだ。

 この時主治医がとった対応は、患者が生きる意味を持っていて、でも心理的に溺れかけていて、「オリーブの枝を必要としていた」からこそ正解なのだろう。患者中心医療といっても、このようにリードすることが必要な場合もある。



10/10/2024

移植腎生検あれこれ

  ピアノレッスンは、先生の演奏を観て聴いて学ぶことはあまりなく、先生はアドバイスをすることが多い(ピアノが2台あって、マスタークラスのようなレッスンなら別だろうが)。しかし、いまの施設での腎生検は、指導医の手技を診て学ぶ機会もけっこうある。

 指導医の手技は自分(針先)がどこにいるのか、そしてどこにいるべきなのかが分かりやすい。浅すぎず、深すぎず。たいていは、ちょうどよい当たりで押し付けすぎずにトリガーを引く。かといって、引き気味というほどではない。トリガーを引くときには、しっかりその位置を保つようにしないと、組織が固めの時に発射の内筒が刺さらず跳ね返ってしまう。

 いまの施設での腎生検は、超音波技師が描出してくれる。そして、生検する際は腎臓の下極(尾側)を少しだけ横断面で写す。そのため、刺入範囲に髄質や腎門がない。また、ドップラーで腎周囲に血管がないことを確認する。

 

Medical Non-adherence

 どんなにすばらしい治療や薬も、アドヒアランス(medical non-adherence, MNA)がよくなければ意味がない。アドヒアランスを保つのは難しく、それは医療者自身にとっても例外ではない。血中濃度やリフィルの回数などで確認できるが、簡単なのは患者に「この4週間で飲まなかったことがありましたか?」「この4週間で続けて飲まなかったことがありましたか?」と聞くことである。

 MNAのリスクは、

・医療制度/医療者:保険、診療へのアクセス、医療者-患者間のコミュニケーション、小児から成人への移行

・社会疫学的な面:思春期/若い成人、マイノリティー、低い社会経済ステータス、家家庭内不和

・患者関連の心理社会面:過去のアドヒアランス不良、ヘルス・リテラシーや病識の低さ、心理的な問題を抱えている、自分で考え行動する力(self-efficacy)が低い、社会的支援が少ない、忘れやすさ/認知機能低下、日々のルーチンの変化

・治療関連:頻回な内服、内服薬の多さ、副作用、味/大きさ

・その他:移植後の経過が長い、生体ドナー、自分は健康だという思い込み、身体的な問題

 さらに、テーマとして:

・Nonadherence:拒否、人生における大きな出来事、忘れっぽさ、費用、薬を手に入れる大変さ

・Partial adherence:副作用を最小限にしたい、忘れっぽさ、ルティーンの変化、処方の変化、人生に起きるさまざまな障壁(仕事、育児など)

・Total adherence:移植臓器を守る、ドナー/医療者への感謝、自分の健康に責任を持つ、副作用を忍容する、飲まないことによる結果を恐れる、リマインダーや予定表を使う、人の助け

 などがある。

 ・・それは、そうだ。単に忘れるだけなら、さまざまな工夫がある。コストなども、さまざまな支援がある。言うほど簡単なことではないが、取り組んでいけばよい。

 ・・一方で、考えさせられたのは、演者の薬剤師(奇しくも筆者と同じ施設!)が紹介した、Amy Silversteinさんのエッセイ、"My Transplanted Heart and I Will Die Soon"だ(New York Times 2023年4月18日付)。

 高い教育を受け臓器(心臓、2度の移植)を守るために完璧なケアをしてきた彼女は、免疫抑制薬の副作用と言える悪性腫瘍のため、エッセイがでてすぐの5月5日に59歳で世を去った。

 医療者が簡単にアドヒアランスを守ればよい、と一概に言えるようなものではない、移植患者が経験するさまざまな苦悩と困難がある。彼女は"Sick Girl"と"My Glory Was I Had Such Friends"の2作品を残している。読んでみようと思う。


(出典はNew York Timesの追悼記事
 

10/09/2024

拒絶のマーカー探し

・kSORT(Kidney Solid Organ Response Test):レシピエント血液の遺伝子発現パターンを調べて拒絶を予測しようとするもの。近年の大規模試験では予測できなかった(AJT 2021 21 740)。

・PIRCHE(relevance of predicted indirectly recognizable HLA epitopes):DSAがClass IIMHCの抗原提示によって間接的にCD4T細胞に提示されることから、CD4T細胞の認識するエピトープを解析することでDSAリスクを予測しようとするもの(AJT 2017 17 3076)。

・mRNA signature、ddcfDNA:以前紹介した

・Gene expression profile(GEP):120の遺伝子を分析するTruGrafアルゴリズム。CTOT-08スタディ(Am J Transplant 2019 19 98)でvalidateされた。AlloSureと組み合わせたスタディがKidney360に最近でた(DOI:10.34067/KID.0000000000000549)。

・尿中マーカー:RNA(NEJM 2013 369 20、CTOT-04スタディ)、CXCL9(AJT 2013 13 2634、CTOT-01スタディ)、CXCL10(JASN 2023 34 1456)、exosomal RNA(JASN 2021 32 994)。

・Implantable Bioelectronic Systems:拒絶したら腎臓が熱くなるのでは?というわけで、腎臓に電極を貼り付けて温度を測った実験(Science 2023 381 1105)。

(出典はScience 2023 381 1105)


VXM

 クロスマッチといえばCDC(補体依存細胞傷害)とFlowの二つと思っていたが、Virtual XM(crossmatch)というのもある。CDCとFlowをあわせてPhysical XM(PXM)と呼び、ドナーとレシピエントどちらの検体も必要なため、それを運んできて、実験室で混ぜて・・と手間と時間がかかる。とくに献腎ドナーの場合に、レシピエントを探す時間がかかってしまう。

 それに対してVXMは、レシピエントの抗HLA抗体とドナーのHLAさえわかればよい。レシピエントに抗HLA抗体がなければ、ドナーがどんなHLAでもPXMは陰性になる・・はずである。問題は、本当にないのか?という偽陰性の可能性と、抗HLA抗体がある場合である(KI Reports 2022 7 1179)。

 偽陰性の可能性として、検体への添加物や希釈の影響、共有する複数のHLA抗原に抗体が分散して結合してMFIが低くなる(ある意味、希釈される)、プロゾーン効果(抗体が多すぎて希釈しないと検出できない)などが挙げられる。

 また、HLA抗体を検出するソリッド・フェーズ・アッセイのビーズは100個程度なので、そこに含まれない抗原に対するHLA抗体の有無はわからない。

(出典はBr Med Bull 2014 110 23)

 抗HLA抗体があった場合、MFIなどによってどこまで許容するかが問題になる。許容できない(unacceptable)抗原としてリストすれば、そのHLAを持たないドナーであればVXMは陰性で、おそらくPXMも陰性になるはずである。

 MFIが低いなどの理由で許容できる(present but weak)抗原とみなせば、そのHLAを持つドナーも対象となり、抗体はDSAとなる。その場合、VXMを陽性・陰性とするかは施設の判断となる。

 PXMをすればはっきりするが、PXMは自己抗体などがあると陽性になってしまうなどの限界もある。

 VXMをPXMに代替してよいかについては議論があり(反論はKI 2020 97 659)、VXMとPXMを比較するUCLA Virtual Crossmatch Exchanges(Transplantation 2023 107 1776)なども行われた。

 その結果、2023年12月28日にCMS Final RulesでVXMを最終クロスマッチとすることが許されるようになった。現在、CMS guidance document on virtual crossmatchingが編集中だという。


10/08/2024

Epitopes and Paratopes

 HLAの話は遺伝学と免疫学が交差して複雑な上、色んな概念が抽象的に説明されることがおおく理解しにくい。そのため何度も何度もrevisitして多面的に理解しようとしているのだが、今回エピトープに相補的なパラトープという言葉を習った。

 抗体にはH鎖とL鎖に3つずつ相補性決定領域(complementarity-determining region CDR)があり、6つ合わせて抗原受容体を形成する。そして、1つのIgG分子には二つの抗原受容体がある。

(出典はWikipedia)

 CDR6個による約50アミノ酸残基、650-900平方オングストロームの領域のなかに、抗原と直接結合する部分がいくつかある。平均すると20アミノ酸残基くらいで、CDRとオーバーラップするが同じではない(下図では、CDR L2が抗原と結合していない)。これが、パラトープである。

(出典はPediatr Nephrol 2017 32 1861)
 パラトープが認識する15-22のアミノ酸残基からなる領域をエピトープと呼び、その中心にある2-5アミノ残基(半径3オングストローム)の領域をエプレットと呼ぶ。

 エピトープはHLA分子間で共有されうるので、たとえばDQ〇〇に対するde novo DSAができると、その抗体はエピトープを共有する他のDQや、DRなど他の座にあるHLA分子に対しても結合するため、cPRAが高くなる。

 なお、抗体のパラトープが認識しているエピトープはB細胞エピトープである。それに対して、T細胞のTCRがMHCに提示された抗原を認識する際の認識部位は、T細胞エピトープと呼ばれ、両者は別物である。


Controlled hypothermic Perfusion

 「臓器保存には4Cが最適」とよく言われる。冷蔵庫内も、JIS規格で2-5Cが適切とされている。だが、氷は0Cであるから、氷で冷やしただけでは凍ってしまう。そのため、肺のように繊細な臓器では、凍ってしまい最適とは言えない。さらに、肺を長持ちさせるにはどの温度がちょうどよいかを研究したところ、10Cがちょうどよいことがわかった(Sci Transl Med 2021 13 eabf7601)。イタコン酸が増えることでクエン酸回路の一部が止まり、活性酸素などが減るのではないかと推察されている。

(出典はSci Transl Med 2021 13 eabf7601)
 この研究に基づき、Paragonix Technologies社が10Cで庫内を維持する装置を開発し、臓器を遠くから比較的安価に運ぶことや、手術を日中に行うことができるようになった(NEJM Evid、doi:10.1056/EVIDoa2300008)。

機械潅流と低体温

 機械潅流後の腎臓移植は、1968年にウィスコンシン大学のDr. Belzerにより初めて報告された(NEJM 1968 278 608)。潅流液にUWという種類があるように、同大学・同医師は臓器潅流のパイオニアである。

 さて、腎移植における臓器潅流・低体温で覚えておくべきスタディが3つある。一つ目は以前少し紹介した2009年のEUROTRANSPLANT試験。Mate kidney studyで、平均CITは15時間、DGFが氷冷保存の26%に比べて20%と有意に低かった。

 ただし技術的問題か機械潅流群の25例が氷冷保存にクロスオーバーしており、メインデータではDCDのDGFは機械潅流群で数字上低いものの有意ではなかった。

 二つ目は、2015年の脳死ドナー低体温試験(NEJM 2015 373 405)。34-35Cの低体温群で、36.5-37.5Cの正常体温群に比べてDGFが有意に低く(28% v. 39%)、試験は早期中止になった。

 ただし、ドナーはランダム化されたがレシピエントはランダム化されておらず、プライマリ・アウトカムのDGFが低いのはよいが、より長期のグラフト生存率には有意差がなかった。

 三つ目は、2023年の低体温と機械潅流を単独・併用した群を比較した試験(NEJM 2023 388 418)※。米国の6移植施設が参加したプラグマティック試験で、DGFの調整後リスク比は:

・低体温で機械潅流に比して1.72 (95%CI 1.35-2.17)

・低体温で併用に比して1.57 (1.26-1.96)

・併用で機械潅流に比して1.09 (0.85-1.40)

 つまり、低体温は機械潅流よりDGF予防の効果が弱く、併用しても相乗効果はないという結果だった。ただ、二つ目と同様に、1年後のグラフト生存率に有意差はなかった。いまでも機械潅流が標準治療にはなっていない理由である。

 ※この論文も、昨年以前の職場で研修医向けのJournal Clubで取り上げていた。

虚血のない移植

  虚血後再灌流が問題なら、いっそ虚血も再灌流もない移植はできないか?というわけで、臓器を摘出する前から機械潅流につなぎ、血液が流れ続けるようにしておけば、原理的には可能である。肝移植では確立しつつあり、中国で行われたIFLT-DBD試験で通常の肝移植に比べて術後のグラフト機能不全や各種合併症が有意に少なかった(J Hepatol 2023 79 394)。

(出典はJ Hepatol 2023 79 394)
 実は腎臓でも行われており、2019年に発表された最初の報告によれば(Front Med Lausanne 2019 6 276)、術後は当然透析も要せず、経過は良好であったという。潅流のため大動脈・大静脈が残ること、(潅流液の一部として白血球を除去した)輸血を必要とすることはデメリットだが、原理的には可能ということだろう。なお、ex vivoの潅流中にも腎グラフトは尿を作り続ける。

(出典はFront Med Lausanne 2019 6 276)


DAMPs

 移植直後に程度の差はあれ避けられないのが、虚血後再灌流傷害(ischemia reperfusion injury、IRI)である。要は細胞が少し壊れて、炎症や免疫反応の元になるのだが、この壊れた欠片を詳しく調べる、DAMPs(damage-associated molecular patterns)の研究が進んでいる。

 DAMPsは、病原体の破片が自然免疫(innate immunity)を惹起する仕組み、PAMPs(pathogen-associated molecular patterns)に類似した概念である。

(出典はJASN 2011 22 416)
 DAMPsといっても、要は細胞の欠片であるから、HMGB1、Vimentin、Hyaluronan、S100、尿酸結晶、DNA、ATP、HSPなどたくさんある。そして、それらを認識する受容体も、TLR、RAGE(advanced glycation end products受容体)、インフラマソームなどたくさんある。傷害初期のDAMPは炎症、後期のは修復に働くなど、理解が少しずつ進んでいるようだ。

(出典はFront Immunol 2021 12 611910)
 なかでもIL-33は、IL-1に類似し核内に存在するサイトカインで、type 2 immune responseに関連する。Type 2 immune responseは従来、寄生虫の除去やアレルギーなどを指すが、最近は組織修復にも関わることが分かっている。そして腎移植においては、IL-33がST2/IL-1RAcP受容体をもつTreg細胞などを介して慢性拒絶を抑制する可能性が示されている(Annu Rev Immunol 2022 40 15)。

臓器提供時のさまざまな考慮点

  臓器がprocureされた後で、そのオファーを受けるかどうかの決断は、移植外科がしている施設が多いが、移植内科にとっても大問題である。また、外科で困ったときに内科が相談を受けることもあるので、内科医も経験(知識もさることながら、場数を踏むことで得られるニュアンス)を積んでおかなければならない。

・動脈の石灰化(プラーク)→喫煙歴を確認。

・CVA(脳血管障害)→高血圧など、心血管系リスクを示唆。

・腎生検→凍結標本、必ずしも腎病理医が読むとは限らないなど、限界が多い。皮質壊死(cortical necrosis)の除外には使える。

・ドナーとレシピエントのサイズ・ミスマッチを考慮する必要あり。

・高リスク腎なら、out-of-sequenceで自施設で待つより高齢なレシピエントへの移植も考慮。

・高リスク腎なら、二個移植(dual kidney)も検討。

・感染症例では、免疫関連腎症も考慮し、できれば尿検査データを入手したい。とくに、terminal Crが徐々に上昇しているような場合。

・糖尿病例でも、ドナーの糖尿病性腎症を考慮し、やはり尿検査データを入手したい。

・若いレシピエントなら、できることなら少しでもHLAを合わせたい。

・高齢レシピエントなら、生命予後がどれくらい改善できるかと、周術期リスクにどれくらい耐えられるかを考える。生体ドナーのみを受け入れる選択もあり(DGFリスクが低く、緊急ではなく計画的にリスクを最適化してから手術できる)。

・生体ドナーと年齢差があり過ぎる場合、paired exchangeも考慮。

・HIV治療例であれば、できればタクロリムスとの薬剤相互作用を起こさないレジメンに変更を依頼(タクロリムスが0.5mg1週間ごと、といった極端な用量になると、管理が難しくなるため)。

・レシピエントのBMIが高いのも問題だが、低いのも問題。

・心肺蘇生の長さにも注目。


ImmuKnow

 免疫抑制薬で免疫がどれくらい抑制されているかを定量できれば、「拒絶を抑えるにはこれ以上、でも感染を防ぐにはこれ以下にしましょう」などと診療できるようになるが、今のところそのようなものはない。

 ・・と思っていたら、世の中にはLIT(Leukocyte ImmunoTest)、ImmuKnow®などの検査があった。LITは主に好中球の機能を調べるもので、phorbol 12-myristate 13-acetateに反応して産生された活性酸素のレベルを測定する。移植よりは、がんの早期診断などに試みられている。

 ImmuKnowはCD4T細胞の機能を調べるもので、phytohemagglutininで刺激した全血からCD4T細胞を単離し、細胞内ATPを蛍光標識して測定する。2002年にFDAが認可し、拒絶時に高く感染時に低かったという報告は散見されるものの、一般的には用いられていない。

他臓器移植

  肝移植については、以前MELD 3.0を紹介したが、他にexception pointsという特例があり、代表的な例は肝細胞癌である。また、HRSのAKIによるCr 2.0と、CKDによるCr 2.0では当然死亡率も違う(Crの変動幅による死亡率の違いを示した論文に、Hepatology 2022 76 1069など)。昨年、肝移植のNEJMレビューがでた(NEJM 2023 389 1888)。

 心移植については、レシピエント選択基準とマネジメントについての国際心肺移植学会ガイドラインが2024年にでた(J Heart Lung Transplant 2024 43 1529)。HeartMate3の3年生存率が移植と同等という報告(ただし入院は多い、doi:10.1016/j.jtcvs.2023.12.019)、循環死(circulatory death)後に体外循環を用いた心移植(NEJM 2023 388 2121)の成績が、標準的な氷の保存を行った脳死後の心移植に比べて6ヵ月後の生存において非劣性だった報告※などが話題だった。

 ※昨年、前の職場で研修医を対象にしたJournal Clubで取り上げた論文だった。

 なお、透析がないのでDGFとは言わず、ドナー由来の機能不全をPGD(primary graft dysfunction)という。

 肺移植については、年間3000例程度おこなわれ、3年の生存率は72%という。こちらもグラフト機能不全はCLAD(chronic lung allograft dysfunction)と総称され、BOS(bronchiolitis obliterans syndrome)とRAS(restrictive allograft syndrome)に分けられる。

 Cystic fibrosisに対する分子標的治療(Trikafta®、Symdeko®、Orkambi®、Kalydeco®など)が始まって肺移植が減り、割り当てルールが変更されてILDによる移植がCOPDを抜いて1位になった。

 肺移植は、他臓器に先駆けてCAS(composite allocation score)というスコアを用いている。さまざまな要素を下図のように重み付けして患者ごとのスコアを算出して割り当てに用いるもので、他臓器への応用が待たれる。

(出典はこちら



10/07/2024

多臓器移植と単独腎移植

 質の高い腎臓が優先的に心腎・肝腎・膵腎・肺腎移植に提供されるルールについては以前紹介した。それについての論文(AJT 2021 21 2161)。腎臓は二つあるので、一つが多臓器移植(multi-organ transplant、MOT)に提供されても、もう一つは腎臓単独移植(kidney along transplant、KAT)に提供される。

 そこで、MOTをうけた患者、mate kidneyを移植されたKAT・SPK(simultaneous pancreas/kidney)患者、MOTに優先されなければその腎臓を受け取っていたであろうnext-sequential KAT candidatesを同定し比較した。

 すると、next-sequential KAT candidatesはMOTを受けた患者より若く、マイノリティの割合が高く、高度感作の割合が高く、28%が移植待ちリストから外れるか死亡するかであった。Mate kidneyを提供されたKAT・SPK患者群に比べても、死亡率が有意に高かった(ハザード比1.55、95%CI 1.44-1.66)。

 腎臓内科医としては複雑であるが、腎臓を含む多臓器移植の成績が、腎臓を含まない心・肝・肺移植の成績にくらべてよいことも確かである。OPTN/UNOSが決めたルールに基づき、コミュニケーションを取りながら診療し、データを積み重ねてルールを定期的に見直すことになるのだろう。


腎移植の意義

  腎移植の意義のなかで、生命予後については以前紹介したが、QOLと費用対効果について。QOL向上は自明なようにも思われるが、システマティック・レビュー(AJT 2011 11 2093)を見ると、その傾向は確かなものの、すべてが薔薇色というわけではない。

(出典はAJT 2011 11 2093)

 現場にいると、術後の創傷治癒が悪い場合や、腎グラフト機能が低い場合(貧血を伴う)など、「そんなに元気(ハッピー)でもない」という声を聴くことは珍しくない。子供が産まれると直後は不眠などで幸福度が低下するという調査結果があったと思うが、それに少し似ているかもしれない。

 それもあってか、移植後の患者に”You've got a new baby!”と声をかけるスタッフもいる。「慣れないこと、不安、なんやかんやのケアなどで忙しく大変ですが大丈夫、一日一日できることからやっていきましょう」というメッセージが伝わりやすい。

 コストについては、周術期にまとまってお金がかかるが、以後は免疫抑制薬の分くらいで安上がりになるとよく言われる。ただし、移植のタイプによって費用に差があり、血漿交換などを要する不適合移植や、術後に透析を要する高リスク(KDPI>85)移植では多めにお金がかかる(AJT 2018 18 1168)。

(出典はAJT 2018 18 1168)

10/02/2024

Collateral information

  移植前評価に来る患者の既往歴については、ある程度は患者に確認し、ある程度は詳細が聴けるが、それだけで十分とは言えない。米国には紹介状はないが、他院・他科のカルテも参照できるため、それらをしっかり確認しなければならない。疾患や病状によっては、移植をするにあたっての意見を求める必要があることもある。外来中の短時間でチェックするのはまだ難しいが、慣れるだろう。