腎移植後に血中のviral loadを測る主なウイルスといえばCMVとBKVであるが、CMVはいったんでると毎週チェックして、治療効果があるかをこまめに調べる。もっとも、治療開始して効果が出るまでには1-2週かかるので、直後にウイルス量が増えたからと言って耐性などを心配する必要はない。いっぽうのBKはというと、直接の治療がないこともあって、なかなかすぐには消えない。また、諸臓器にCMV diseaseを起こすCMVと違って、BKウイルスが腎と尿路以外にあたえる影響はほとんどない。なので、まあ、免疫抑制薬を減らしてゆっくり様子を見よう、という感じになる(IVIGが試みられることもあるが、エビデンスは乏しい)。
人と外国語と音楽が好きで、世界に通用する実力と癒やしをもったお医者さんを目指しています。国内外いろんなところでいろんな経験をしてきて、逆境も多かったけど、そのぶん得られたしなやかな強さと優しさをもって、周りの世界を少しだけ幸せにできたらなと思っています。
4/13/2025
こだわり
論文を読んでいると、時々些細なこだわりに気づくことがある。
たとえば、BMIのことをQuelet indexと称したり。調べてみるとたしかに、BMIの式はベルギーの数学者・天文学者・統計学者のAdolphe Quetelet(1796 – 1874)が初めて提唱した。人間の成長変化が身長と体重でどう違うかに注目して生まれたもので、当時は肥満との関連はあまりなかった。それが1972年、アメリカの生理学者Ancel KeysによってBMIと改称されたという(NDT 2008 23 47)。
他にも、シェーグレン症候群のことをGougerot-Sjögren症候群と称したり。フランス人医師Henri Gougerot(1881 – 1955)がシェーグレンよりも前に発表していたらしく(のちにSjogrenの報告が英訳されて有名になったんだとか、J Maxillofac Oral Surg 2011 11 373)、Gourgerotのほうが先だもんね、というこだわりなのだろう。
4/11/2025
忘れられない一言 80
"So, simply put, what do you think needs to be done?"とは、いかにも外科医らしい言葉である。状況を詳しく説明したり、とるべき選択肢の長所と短所を並べたりするのも大事だが、ときには(敢えて)短絡的に行動しなければどうにもならないこともある。
Bw4 and Bw6
B4wとBw6は、B抗原と言うわけではなくて(紛らわしいのだが)、Class I HLA抗原の中にある2つの主要なグループのことである。Exon 2に高度に保存された領域(塩基80/82/83)があって、これをepitopeとして認識する抗体は、10個以上のHLA抗原を認識してしまう。
通常私たちはB4wとBw6のどちらかを両親からもらうので、B4w/B4wか、B4w/B6wか、B6w/B6wである。そのため、B4w/B4wのひとはB6wグループに対する抗体を作りうる。そんなわけで、UNOSはA、B、DRなどと共に、Bw4とBw6の情報も集めることを求めている。
What's on the beads?
細胞を必要としないHLA抗体アッセイのことをsolid phaseというが、主にはbeadsのことである(platesもあったそうだが、今はあまり用いられない)。
ビーズにはsingle antigen beads(SAB)とscreening (phenotype) beads(PRA)があり、SAB機器にはOneLambda SABとImmucor SAB、PRA機器にはLuminex PRAとFlow PRAがある。
SABはrecombinant HLAを載せるため、認識する抗体のすべてが実際に生体内でも抗原を認識しているとは限らない欠点がある。また、1つのビーズにびっしり1種類の抗原を載せているため、抗体検出感度が高い。偽陽性の可能性がある一方、shared antigen(Bw4や共有エピトープなど)があると抗体が分散してしまう。10×10の100個の抗原しか調べられないが、100個あれば人口のほとんどをカバーできるので問題ないらしい。
一方PRAは、1つのビーズにたくさんの抗原を載せているので、スクリーニングに適している(機器当たりのビーズ数は30程度)。また、載せる抗原はimmortalized B cellsから作られたnative antigenである。
なお、IVIGとrATGは(いわば中和抗体として働いてしまい)、PRAに干渉するため注意が必要だ。
BMT and SOT
HLAといえば骨髄移植を想像する方も多いだろう。骨髄移植では5座(A, B, C, DRB1, DQ, DP)を合わせる(DPを合わせるのは難しい為、permissive mismatchを許すこともあるそうだ)。また、些細なアミノ酸配列の違いもGVHDの元になるため、高解像度の解析で2nd fieldまで合わせなければならない。
いっぽう固形臓器移植(solid organ transplant)ではserotypeしか合わせないので低解像度の解析でよさそうなものであるが、近年は高解像度の解析をするようになった。些細なアミンさん配列の違いが、エピトープ解析などに役立つためだ。
HLA nomeclature
HLA抗原の話をするときに、「たとえば私がA2だったとしよう」とよく言う。なぜA1ではないのかというと、A2が全人類の約半数がもっている最も高頻度な抗原だからだ。
HLA抗原の不思議なのは、きれいにA1、A2、A3・・と並んでいないことだ。たとえばA抗原は、1、2、203、210、3、9、10、11、19、23(9)、24(9)、2403、25(10)、26(10)、28、29(19)、30(19)、31(19)、32(19)、33(19)、34(10)、68(28)、74(19)、80が見つかっている。カッコがついた抗原は、カッコ内の抗原から分かれたものと思われる。
考えてみれば、CD4、CD8といったCD抗原も、順番通りに並んでいない。なので、これらの数字じたいに余り意味はない。また、頻度が少ないものも多いため、これらすべてを覚える必要もない(極論すれば、A2だけ知っていればよい)。
ただ、「抗原リストがないと落ち着かない」という人もいるかもしれない。そういう人のために、HLA nomenclature websiteが一覧を載せている。
HLA antigen and domain
Class IのHLA抗原遺伝子は8つのexonから構成され、1はleaderといって最終的には切断される。2と3は抗原認識部位をコードするため、多型が集中する。4は抗原認識部位ではないが細胞外ドメイン(α3)をコードするため、抗体が認識可能な部位でエピトープになりえる。5は膜貫通ドメイン、6-8は細胞質内ドメインをコードする。
Class IIは6つのexonから構成され、exon 1と2の間にながいintronがある。exon 2-3は抗原認識部位を、4は膜貫通ドメインを、そして5-6は細胞質内ドメインをコードする。
抗原認識部位であれ非抗原認識部位であれ、抗体ができてしまうと困ったことであるが、困る程度は発現のレベルにもよる。A、B、DRB1は発現が多いのに対して、DRB3-5 (serotype DR51-53)、DQ、DP、Cwは発現が少ない。
Numbers of HLA antigen
HLA抗原はこれまでに4万くらい見つかっている。解像度が上がって遺伝子塩基配列レベルのささいな違いまで分析できるようになり、多人種・他地域のサンプルを幅広く解析するようになったためだ。世界には100万くらいHLA抗原があると言われている。
100万の4%しか見つかっていないとはさぞかし不完全に思われるが、現在わかっている分だけでも人口のほとんどをカバーしているので、臨床的には問題にならない。
多様性(多型)の程度は座によって差があり、Bがもっともpolymorphicだ。Class IIでは、α鎖をコードする座(たとえばDRA;DR alphaと読む)は比較的保存されており多型が少ない。だからA/B/DRと言った場合のDRは、ほとんどDRB(DRB1)で、わずかにDRB3、4、5が含まれる(それぞれDR51、52、53)。
なお、HLA抗原の数や一覧はIMGT websiteでみることができる。
HLA antigen and 4 fields
HLA抗原は古典的にはserotypeであったため、A2のようにAのあと1個しか数字がなかった。しかし、HLA座の遺伝子解析ができるようになって、数字が一気に増えた。たとえば、DRB4*01:03:01:02Nといった具合だ。
Field 1は前述のserotypeだが、field 2は蛋白の違い(アミノ酸配列に影響を及ぼす遺伝子多型がによる)、field 3は遺伝子の違い(蛋白は同じだが、コード領域の塩基配列に違いがみられる)、そしてfield 4は非コード領域 (intron)の違い。さらに、最後にアルファベットが追加されることもある。これはexpression variantと呼ばれ、Nはnull、Lはlow、Qはquestionable。
Cross over
HLAの座は6番染色体に点在しており、距離の離れた座どうしはcross over(乗り換え)が怒る。その割合はDR-Bで50%、C-Aで36%、DP-DQで9%、C-Bで3%。いっぽう、DQとDRは50kbsしか離れていないため、乗り換えることはまずない。Cross overは、親子・兄弟間のhaplotypeマッチを考える際に問題になる。