4/26/2025

PPI/ICI-AIN

  免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫関連有害事象(irAE)に急性間質性腎炎(AIN)があって、そのリスクはプロトンポンプ阻害薬(PPI)服用患者で高いと報告されている。なぜか?

 ICIは自己寛容を誘導するメカニズムを阻害することで自己に反応するT細胞を活性化する。ICI-AINで多く見られるリンパ球はT細胞で、ICIによって活性化したT細胞が腎臓(自己)に集まってきていると想像される。

 ただ、ICIは腎臓に限らず全身にirAEを起こしうるうえ、すべての患者がirAEを発症するわけではない。だから、とくにICI-AINを惹起する、別の要素があると考えられる。その一つが、PPIなのかもしれない。

 PPI、NSAIDs、抗菌薬などAINを起こしやすい薬物には、T細胞による免疫反応を起こすポテンシャルがあると考えられる。より詳しくは、PPIそのものに抗原性があるというよりも、PPIが体内で蛋白質と結合することで抗原性が生まれると考えられている(そのような役目をする物質をハプテンという)。

 PPI/蛋白質抗原は腎臓の中(尿細管や間質)で作られているかもしれないし、腎臓の外で作られて尿細管や間質に達する(糸球体で濾過され、尿細管で再吸収される)のかもしれない。そして、間質の抗原提示細胞(樹状細胞)に提示され、T細胞による免疫反応を惹起するのかもしれない。

 ・・という話を一般腎臓内科フェロー向け病理カンファレンスで聞いた(CKJ 2023 16 1834)。急性間質性腎炎はT細胞による炎症なので、好中球よりも特異性が高く(adaptive immunity)、病態理解が近いのかもしれない。



If a tree falls

  ”If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, does it make a sound?とは、認識されないものは存在するのかという問いで、時々耳にする。考えはじめると、こうした例はたくさんある。たとえば、プロトコル腎生検でしかみつからないサブクリニカルな拒絶は、プロトコル生検をしなけば存在しないのと同じことになる。

Miralax

  Miralax®とはポリエチレングリコールの下剤で(miracle + laxativeの造語と思われる)、日本でも最近は大腸内視鏡の準備だけでなく下剤としても処方できるようになった(モビコール®、move + colonの造語と思われる)。

 名前の通りエチレングリコールの重合体であり、重合しているのでエチレングリコールのようにシュウ酸尿症・腎症を起こすことはない・・と思い込んでいたら、稀ながら報告されている(KI Report 2024 9 S618)。製造の過程で混入すると推察されている(あくまでも推察である)。

 安全な薬の認識して移植後患者の便秘によく推奨していたが、シュウ酸尿症や腎症が心配される例には、使用してはいけないとまでは言わないが注意が必要だ。

Missed dialysis

 献腎移植の知らせは突然やってくる(リストに載り始めたら、そろそろと知らせることもあるが・・しかし最近はOOSがあるので飛び越されてしまうかもしれない)。なので、それだけ予期せぬ要素が多い。

 多いのは、透析のタイミングだ。月水金クールの患者で月曜日に移植するとなると、入院後に少しでも透析してから移植に臨むよう試みる。

 では、月水金クールの患者が木曜日に移植する場合は安全かというと、必ずしもそうとは言えない。患者が(どういうわけか)透析をスキップしていることもあるからだ。米国では珍しい事ではない。

 入院時に知らされて、血液検査でカリウムが著しく高値・・なんてこともある。もちろん緊急透析後に移植となる(移植後もカリウムだけのために透析を要することもある)。

 患者にliving donor onlyのオプションを提示する理由は、このようなさまざまな予測不能(管理不能)因子を減らすためでもある。


P2Y12

 抗血小板薬、とくにクロピドグレル・プラスグレル・チカグレロル・チクロピジンを中止したあと、まだ効果が残っているかを調べる血液検査があり、Platelet P2Y12 Inhibition Test(VerifyNow®)という。

 PRU(P2Y12 reaction units)が194以下で薬がまだ効いており、それ以上で薬はもう効いていないのだという。自施設では消化器内科が頻繁に用いるそうだが、比較的緊急の腎生検で患者がいつ抗血小板薬を中止したか定かでないようなときには参考になるかもしれない。

 腎生検の出血リスクを決める因子は結局どこをどう射すか、と言ってしまえば元も子もないが。とくに、皮質が菲薄した腎臓は穿刺針がすぐに髄質に達してしまうので注意が必要だ(そもそも必要なのかをよく考えた方がいい)。


忘れられない一言 81

  回診で退院前の患者になされた「退院後最も気をつけなければならないのは血糖です、血糖をコントロールしないと再入院になることもありますし、カリウム値が高くなることもありますし、手術創が治りにくくなりますし、さらに尿路感染症になりやすくもなります」という説明。

 本当に、これらすべてによる再入院をよく診る。

 術後3-4日で退院するため、ステロイド用量も未だ多く(20mg/d)、インスリンや血糖測定の指導などが間に合わないこともある。高カリウム血症も(GI両方の逆で)高血糖とセットでよく診る。創部も、抜鈎するのは術後3週間程度だし、尿路感染症についても尿管ステント抜去は術後4週間程度だ。

 逆に言えば、もしこれらの再入院が高血糖と関係しているのなら、ステロイドの早期(7日間)終了レジメンが助けになるかもしれない。例によって、免疫学的に低リスクの症例に限られるのかもしれないが。

 

VZV and CMV

 移植後の帯状疱疹は移植前にワクチンを打つので起きないと思っていたが、移植前のワクチンは必ずしも徹底されていないらしく、残念ながらたまに見かける。時に複数のdermatomeに広がることもあり、aciclovir静注の入院治療を要する。

 混乱しがちだが、aciclovir(valaciclovir)はHSV・VZVに効果があり、GANciclovir(valGANciclovir)はCMVに効果がある。免疫抑制過剰でCMV血症を合併することもあるので、そんな時は両方必要になる。

 免疫抑制薬を減らせればよいのだが、とくに移植初期はantimetabolitesを中断するくらいしかできないので、抗ウイルス薬に頼るしかない。

 

 

4/25/2025

Early steroid withdrawal

  以前ステロイド早期終了レジメンについて書いたが、実は早期終了レジメンを支持するきちんとしたRCTは存在する(Ann Surg 2008 248 564)。

 8日目からステロイドをゼロmg/dにする群と、その後も5mg/dまで漸減しながら6ヵ月継続した群をプラセボ対照で比較したもので、生命予後・グラフト予後・中等度/重度拒絶に有意差はなかった。生検で確認された拒絶は早期終了群で多かったものの、多くはBanff 1A TCMRで、ステロイドにより治療可能だった。

 その後このようなRCTは出ていないが、このRCT対象患者を平均約15年追跡した(OPTNデータで確認できる部分に限ってだが)ところ、長期予後にも有意差はなかった。また、OPTNデータから抽出した同RCTに当てはまる患者について調べたところ、同様の結果だった(JAMA Surg 2021 156 307)。

 ステロイド早期終了レジメンと言えば免疫学的低リスク群に試みられるというのが定説であるが、このRCTも生体腎ドナーが多く、cPRAは低く、アフリカ系は少なく、30%がnon-depleting antibody(バシリキシマブ)導入だった。また、感作イベントとなりうるDGF症例は除外されていた。

 それでも、逆に言えばRCTに当てはまる群はステロイド早期終了でよい(逆に言えば、ステロイド継続の必要はない、または、その必要性を正当化できない)とも言える。どこの国も出ステロイドに依存しているのは医療者で、そう感じるのにも事情があるのはわかるが、正しく怖れないと、良かれと思って患者を害しているかもしれない。



Many hands

 "many hands make light work"とは、人手があると仕事がはかどり助かるという意味だが、横になった患者をベッドの上で動かすときなどは、文字通り複数の人達で一斉に動かした方が軽くなって助かる。当たり前すぎてイディオムっぽくないが、いつか使う機会があるかもしれない。

Protocol Biopsies

  Kidney360の4月号に、移植後のプロトコル腎生検の是非が議論されていた。米国でプロトコル生検(PB, protocol biopsies)を行っている移植施設は1/3ほどでさほど多くはないが、まだまだ多いとも言える。それでこそのPRO and CONなのだろう。

 CON側は(Kidney360 2025 6 504)、免疫抑制薬の進歩やDSA把握レベルが進歩して拒絶が減ったこと、ddcfDNAやmRNA転写パターンなどのバイオマーカーがあること、subclinical rejectionを治療する意義が薄いことなどから、PBは不要という。

 対するPRO側は(Kidney360 2025 6 501)、CON側の論拠を認めつつも、ハイリスク症例にはいまだ有用であり、そうした症例を多く移植するhigh-volume centersではメリットのほうがデメリットよりも多いと主張する。

 最後にCommentaryがあって、低リスク群には不要と思われる(for cause biopsiesで十分)が、高リスク群の(とくに移植後早期の)PBは有用と思われる、と言っていた。そして、よりよいデータが必要、と締めくくっていた。

 データと言えば、0、1、2、3、6ヵ月後PB群と0、6ヵ月後PB群を比較した前向きに検討したデータはあり(AJT 2007 7 2538)、グラフト予後に有意差はなかった。ただしsubclinical rejectionの割合は6-9%と低かった。また頻回PB群はドロップアウトが多かった。

 先日患者家族とお話した際に、「ここは(同都市他施設とちがって)PBをやらないので負担が少なくて助かる」と言っていたのが印象的だった。「PBしておかないと拒絶を見逃すますよ?」と言われればやらなければと思うのが患者心理だろうが、必ずしもそうではないなら、いたずらに不安を煽ったり合併症に遭わせたりすべきではない。


VA

 VA(visual abstract)という、論文の要旨を1枚のポスターで分かりやすく説明するグラフィックを見かける機会がとても多くなったが、それを請け負う人が身近にいることもあり、すこし勉強になった。

 VAで特徴的なのはアイコンは、その素材をNoun projectやFreepikといったサイトをサブスクライブすることで入手するらしい。とくに、Noun projectはPowerPointのタブに組み込まれるので、作業がしやすいそうだ。

 いかに分かりやすく簡潔なVAを作るかは職人の技で、師匠と仰ぐ人のスタイルを見習いながら自分らしさを作っていくのだという。たとえば、スコットランドにいるMichelle Lim先生は草分け的存在で、VAが知見を広めるのに役立っていることを論文で主張してもいる(Ulster Med J 2022 91 67)。




4/20/2025

Reglan and Zofran

 制吐剤のひとつメトクロプラミドがなぜ日本でプリンペランなどという(チャランポランな)商品名なのかは未確認だが、なぜ英語の商品名がReglanというのかについての仮説を思いついた。

 スペイン語で「整える、直す、回復する」などを意味する動詞にarreglarというのがあって、3人称複数現在形はarreglanという。まだ裏を取ったわけではないが、関係あるように思えてならない。

 次の質問は、別クラスの制吐剤の一つで(どういうわけか日本では抗がん剤後などを除きほとんど使われることのない)オンダンセトロンの商品名がなぜReglanに似たZofranなのか?であるが、こちらはまだわからない。開発したGSK社に聞けばわかるのかもしれないが・・。

 【2025年4月27日追記】Reglanの姉妹薬にTigan(Trimethobenzamide)があることを知った。

 【2025年5月27日追記】音が似ているAllegraは、Allergyとalegrar(cheer up、make happyを意味するスペイン語)を掛けた言葉と推察される。

Lorna Doone

 ショートブレッド・クッキーといえば、スコットランドのWalkersが有名で、最近は日本でも駅のキオスクですら手に入るほどの人気であるが、こないだ患者さんのおやつにLorna Dooneというブランドが提供されていることを知った。元祖はシカゴのベーカリーらしいが、レシピ(とベーカリーそのもの)が売られるなどして、1902年からナビスコがこの名前で製造販売しているという。

 お菓子にしては格式の高いフォントなので、歴史があるのかなと思ったら、同名の小説があった(1869年、R. D. Blackmoore作)。あらすじを少し確認したが、当時にしても歴史小説で、ロマンスで、イギリス文学らしく?激情と複雑な家や位の事情と数奇な運命に翻弄される人々の物語で、Lorna Dooneはそのヒロインだった。




2, 8-dihydroxyadenine

 覚えにくい名前なので、略称の2,8-DHAと、2,8-ジヒドロキシアデニンと音訳も載せておく。腎病理でシュウ酸カルシウム結石を疑った時の鑑別疾患で、偏光顕微鏡で緑色に光る(positively birefrengent)ことで区別される。核酸の一つアデニンの代謝に関わるAPRT(adenine phosphoribosyltransferase)を欠損する稀なautosomal recessive disorderで、CKDやESKDをきたすほか、移植腎への再発も報告されている。報告は日本、アイスランド、フランスからが多いという(AJT 2014 14 2623)。核酸代謝異常であり、XO阻害薬で治療できる。

4/13/2025

CMV and BKV

 腎移植後に血中のviral loadを測る主なウイルスといえばCMVとBKVであるが、CMVはいったんでると毎週チェックして、治療効果があるかをこまめに調べる。もっとも、治療開始して効果が出るまでには1-2週かかるので、直後にウイルス量が増えたからと言って耐性などを心配する必要はない。いっぽうのBKはというと、直接の治療がないこともあって、なかなかすぐには消えない。また、諸臓器にCMV diseaseを起こすCMVと違って、BKウイルスが腎と尿路以外にあたえる影響はほとんどない。なので、まあ、免疫抑制薬を減らしてゆっくり様子を見よう、という感じになる(IVIGが試みられることもあるが、エビデンスは乏しい)。

こだわり

 論文を読んでいると、時々些細なこだわりに気づくことがある。

 たとえば、BMIのことをQuelet indexと称したり。調べてみるとたしかに、BMIの式はベルギーの数学者・天文学者・統計学者のAdolphe Quetelet(1796 – 1874)が初めて提唱した。人間の成長変化が身長と体重でどう違うかに注目して生まれたもので、当時は肥満との関連はあまりなかった。それが1972年、アメリカの生理学者Ancel KeysによってBMIと改称されたという(NDT 2008 23 47)。

 他にも、シェーグレン症候群のことをGougerot-Sjögren症候群と称したり。フランス人医師Henri Gougerot(1881 – 1955)がシェーグレンよりも前に発表していたらしく(のちにSjogrenの報告が英訳されて有名になったんだとか、J Maxillofac Oral Surg 2011 11 373)、Gourgerotのほうが先だもんね、というこだわりなのだろう。

4/11/2025

忘れられない一言 80

 "So, simply put, what do you think needs to be done?"とは、いかにも外科医らしい言葉である。状況を詳しく説明したり、とるべき選択肢の長所と短所を並べたりするのも大事だが、ときには(敢えて)短絡的に行動しなければどうにもならないこともある。

Bw4 and Bw6

 B4wとBw6は、B抗原と言うわけではなくて(紛らわしいのだが)、Class I HLA抗原の中にある2つの主要なグループのことである。Exon 2に高度に保存された領域(塩基80/82/83)があって、これをepitopeとして認識する抗体は、10個以上のHLA抗原を認識してしまう。

 通常私たちはB4wとBw6のどちらかを両親からもらうので、B4w/B4wか、B4w/B6wか、B6w/B6wである。そのため、B4w/B4wのひとはB6wグループに対する抗体を作りうる。そんなわけで、UNOSはA、B、DRなどと共に、Bw4とBw6の情報も集めることを求めている。


What's on the beads?

 細胞を必要としないHLA抗体アッセイのことをsolid phaseというが、主にはbeadsのことである(platesもあったそうだが、今はあまり用いられない)。

 ビーズにはsingle antigen beads(SAB)とscreening (phenotype) beads(PRA)があり、SAB機器にはOneLambda SABとImmucor SAB、PRA機器にはLuminex PRAとFlow PRAがある。

 SABはrecombinant HLAを載せるため、認識する抗体のすべてが実際に生体内でも抗原を認識しているとは限らない欠点がある。また、1つのビーズにびっしり1種類の抗原を載せているため、抗体検出感度が高い。偽陽性の可能性がある一方、shared antigen(Bw4や共有エピトープなど)があると抗体が分散してしまう。10×10の100個の抗原しか調べられないが、100個あれば人口のほとんどをカバーできるので問題ないらしい。

 一方PRAは、1つのビーズにたくさんの抗原を載せているので、スクリーニングに適している(機器当たりのビーズ数は30程度)。また、載せる抗原はimmortalized B cellsから作られたnative antigenである。

 なお、IVIGとrATGは(いわば中和抗体として働いてしまい)、PRAに干渉するため注意が必要だ。


BMT and SOT

 HLAといえば骨髄移植を想像する方も多いだろう。骨髄移植では5座(A, B, C, DRB1, DQ, DP)を合わせる(DPを合わせるのは難しい為、permissive mismatchを許すこともあるそうだ)。また、些細なアミノ酸配列の違いもGVHDの元になるため、高解像度の解析で2nd fieldまで合わせなければならない。

 いっぽう固形臓器移植(solid organ transplant)ではserotypeしか合わせないので低解像度の解析でよさそうなものであるが、近年は高解像度の解析をするようになった。些細なアミンさん配列の違いが、エピトープ解析などに役立つためだ。

 

HLA nomeclature

 HLA抗原の話をするときに、「たとえば私がA2だったとしよう」とよく言う。なぜA1ではないのかというと、A2が全人類の約半数がもっている最も高頻度な抗原だからだ。

 HLA抗原の不思議なのは、きれいにA1、A2、A3・・と並んでいないことだ。たとえばA抗原は、1、2、203、210、3、9、10、11、19、23(9)、24(9)、2403、25(10)、26(10)、28、29(19)、30(19)、31(19)、32(19)、33(19)、34(10)、68(28)、74(19)、80が見つかっている。カッコがついた抗原は、カッコ内の抗原から分かれたものと思われる。

 考えてみれば、CD4、CD8といったCD抗原も、順番通りに並んでいない。なので、これらの数字じたいに余り意味はない。また、頻度が少ないものも多いため、これらすべてを覚える必要もない(極論すれば、A2だけ知っていればよい)。

 ただ、「抗原リストがないと落ち着かない」という人もいるかもしれない。そういう人のために、HLA nomenclature websiteが一覧を載せている

HLA antigen and domain

 Class IのHLA抗原遺伝子は8つのexonから構成され、1はleaderといって最終的には切断される。2と3は抗原認識部位をコードするため、多型が集中する。4は抗原認識部位ではないが細胞外ドメイン(α3)をコードするため、抗体が認識可能な部位でエピトープになりえる。5は膜貫通ドメイン、6-8は細胞質内ドメインをコードする。

 Class IIは6つのexonから構成され、exon 1と2の間にながいintronがある。exon 2-3は抗原認識部位を、4は膜貫通ドメインを、そして5-6は細胞質内ドメインをコードする。

 抗原認識部位であれ非抗原認識部位であれ、抗体ができてしまうと困ったことであるが、困る程度は発現のレベルにもよる。A、B、DRB1は発現が多いのに対して、DRB3-5 (serotype DR51-53)、DQ、DP、Cwは発現が少ない。 


Numbers of HLA antigen

 HLA抗原はこれまでに4万くらい見つかっている。解像度が上がって遺伝子塩基配列レベルのささいな違いまで分析できるようになり、多人種・他地域のサンプルを幅広く解析するようになったためだ。世界には100万くらいHLA抗原があると言われている。

 100万の4%しか見つかっていないとはさぞかし不完全に思われるが、現在わかっている分だけでも人口のほとんどをカバーしているので、臨床的には問題にならない。

 多様性(多型)の程度は座によって差があり、Bがもっともpolymorphicだ。Class IIでは、α鎖をコードする座(たとえばDRA;DR alphaと読む)は比較的保存されており多型が少ない。だからA/B/DRと言った場合のDRは、ほとんどDRB(DRB1)で、わずかにDRB3、4、5が含まれる(それぞれDR51、52、53)。

 なお、HLA抗原の数や一覧はIMGT websiteでみることができる。

HLA antigen and 4 fields

 HLA抗原は古典的にはserotypeであったため、A2のようにAのあと1個しか数字がなかった。しかし、HLA座の遺伝子解析ができるようになって、数字が一気に増えた。たとえば、DRB4*01:03:01:02Nといった具合だ。

 Field 1は前述のserotypeだが、field 2は蛋白の違い(アミノ酸配列に影響を及ぼす遺伝子多型がによる)、field 3は遺伝子の違い(蛋白は同じだが、コード領域の塩基配列に違いがみられる)、そしてfield 4は非コード領域 (intron)の違い。さらに、最後にアルファベットが追加されることもある。これはexpression variantと呼ばれ、Nはnull、Lはlow、Qはquestionable。


Cross over

 HLAの座は6番染色体に点在しており、距離の離れた座どうしはcross over(乗り換え)が怒る。その割合はDR-Bで50%、C-Aで36%、DP-DQで9%、C-Bで3%。いっぽう、DQとDRは50kbsしか離れていないため、乗り換えることはまずない。Cross overは、親子・兄弟間のhaplotypeマッチを考える際に問題になる。