移植腎盂腎炎には、①腎機能低下をきたすこと、②しばしば再発すること、③腎病理のみで診断される無症候性のケースがあること、④拒絶を合併ないし惹起することなど、いくつかユニークな点がある。
①は血行動態などの問題(腎グラフトが腸管に近いためか下痢を合併することも多い)のほか、「尿細管が好中球で詰まってしまう」などと腎病理の先生が説明することもある。②はVURの影響が大きい(VURを泌尿器科的に治療すると激減するという報告もある)。
③は奇妙だが、好中球の浸潤・尿細管内腔の充満があれば、(髄質優位、病歴、好酸球など薬剤性間質性腎炎を疑う所見がない限り)腎盂腎炎とされる。一施設の後方視研究が散見されるようになり、症状・臨床所見(膿尿・尿培養陽性など)の有無にかかわらず腎グラフト予後に影響することが分かっている。たいがいは治療してしまうので、こうした無症候性の「組織学的」腎盂腎炎を治療した群と経過観察した群で比較することはできない。
④については、興味深い報告があって(Clin Transplant 2016; 30: 1115–1133)、移植腎の腎盂腎炎はネイティブの腎盂腎炎に比べて、拒絶に近い遺伝子発現パターンをしているという。移植腎盂腎炎と拒絶はT細胞が出すIFNγによって調節される遺伝子群の発現が亢進し、ネイティブ腎盂腎炎は(細菌を貪食した好中球が出す)ERK1/2によって調節される遺伝子群の発現が亢進していた。
移植腎盂腎炎も細菌感染であるから、できれば好中球に細菌を貪食してERK1/2を出してもらいたいところだが、それが起きにくくなっていることは、免疫抑制の影響かもしれないし、もしかすると移植腎盂腎炎が再発しやすい理由のひとつなのかもしれない。
・・ただ、移植腎盂腎炎と拒絶が似た遺伝子発現パターンということは、移植腎盂腎炎には拒絶の治療も組み合わせた方がいい?ということになると、抗菌薬+ステロイド、などというCOPD急性増悪のような治療が理にかなっているのかもしれない。MMFを反射的に中止するのが本当に理にかなっているかも、わからなくなってくる。
でも、現状打破のためにはより深い病態理解が必要なので、こうしたmolecular microscopicな研究の蓄積が新しい診療につながると期待したい。