会議の冒頭、心移植レシピエントのTristan Mace氏がスピーチを行った。数年前に突然心不全になり、移植で一命をとりとめたものの、感染症・大腿骨頭壊死・移植前数年間の健忘などさまざまな目にあった。しかし、I am still here、と言う。また、Transplant is not always a rainbow or unicorn、とも。
どちらもその通りで、色々あっても移植がなければ命を取り留めることはできなかった。心臓・肝臓・肺はその性質が特に強く、移植待ちリストも重症度が最優先されている。それに対して腎臓は、透析よりも生命予後が優れているという意味ではlife-savingだが、リストでは重症度よりも待ち時間(とくに、透析期間)が重視される。
膵単独移植(pancreas transplant alone、PTA)は、さらに特殊だ。従来はhypoglycemic unawareness(寝ている間に低血糖になり亡くなった例もあるという)が重視され、life-savingであったが、現在はCGM(持続的血糖モニタリング)が普及し、夜間に低血糖でも気がつけるようになった。
PTAの素晴らしいところは、(1型の場合)糖尿病が治癒すること、そしてインスリンが不要になることである。どちらも素晴らしい利点であるが、膵臓は取り扱いの難しい臓器なので、急性膵炎・ARDSなどの術後合併症、免疫抑制過剰による感染症などの合併症、グラフト動静脈の血栓予防による出血などの合併症などにも目を向けなければならない。
Living life is not without risksであるが、リスクと利益のどちらをどうとるか、という選択が移植にはとても多い。心移植の移植待ち最重症(status 1)であれば、迷うことはないだろう。ただ「この腎臓を移植するのと、より”良い”腎臓のオファーが来るのを待って透析を受けるのと、どちらがよいか」などは、悩ましい。そのため、移植には決定分析に必要なデータ収集が欠かせない。