3/12/2025

Plasma and Kidney

 移植でもよく用いられるIVIGを含むplasma製剤の80%は、オーストリア・ハンガリー・チェコ・ドイツ・米国の5か国で製造されている。共通点は、どの国も提供者に対価を支払っていることだ。もっとも生産量の多い米国は世界の医療を支えているだけでなく、plasma製剤の輸出で37億ドル(2023年)の収入を得てもいる。

 血清ドナーに対価を支払うべき、という英エコノミスト誌の論調は、それにより供給が安定し、コストが下がる(献血の宣伝や献血者に対する金銭以外のお礼のほうが高くつく)という。また、ドナーの安全性や頻回献血による品質の低下に明確な根拠はないうえ、それらを理由に支払わない国も、結局支払う国からの製剤を輸入しているので、欺瞞だという。

 なるほどなあ(知らなかったなあ)、と思っていたら、もっとびっくりする話を知った。それは、現在米国下院で審議中の、End Kidney Death Act(HR9275)である。ご存じの方もいるかもしれないが、non-directed kidney donorに国から5万ドル相当の税控除(1万ドル×5年間)を支払う、という法案だ。

 さすがにこれは、なるほど・・ではなく、だめでしょ!・・と感じたが、移植雑誌に反対のexpert insightが載った(Transplantation 2025 109 403)。Directed donorや献腎ドナーの家族に対して不公平になり、支払額の根拠もあいまいで、経済的弱者がabuseされる可能性もある(そもそも、すでに課税されていない低所得者には恩恵がない)。

 イランや中国返還後の香港で実行された例はあるが、上手くいかず廃止されている。自分や家族が提供しなくても、お金が欲しい人に提供してもらえばいいじゃないか、という気持ちになるため、directed donorやdeceased donorが減るという。

 とはいえ、金銭的な事情が米国の生体腎移植件数が伸び悩む要因であることも確かである。そのためドナー保護法案(Living Donor Protection Act、HR1255)が何年も前から提出されているが、実現されていない。おそらく財源などが問題なのだろう。米国はWHOも脱退しているし、HR1255よりも先にHR9275が先に可決される・・なんてことが、(あっては欲しくないが)あり得ない話ではないのかもしれない。