6/14/2025

補体(主にaHUS)

  補体のブレーキであるH因子・I因子・MCPなどと、補体を活性化するB因子・D因子・C3などのバランスが取れないと、困る。

 補体が働かないケースは、もちろん細菌感染(髄膜炎菌、皮膚壊死など)などが心配だが、ループス腎炎などにも関係する。なぜなら、せっかく抗体が抗原をキャッチしても、古典経路が始まらないので、抗原抗体複合体が消費されずにたまってしまうからだ。腎移植分野では、感染を繰り返し免疫複合体に関連した腎障害で末期腎不全にいたる若年患者のなかに、CFHR3-1遺伝子欠損などによるC3欠乏例があり、(C3を正常につくれる)肝臓も腎臓といっしょに移植しなければならない場合がある(AJT 2020 20 2260-2263)。

 補体が働きすぎる(ブレーキが効かない)ケースは、・・たくさんある。

 ①遺伝性原発性TMA(ADAMTS13変異、補体遺伝子変異によるaHUS、DGKE=diacyclycerol kinase epsilon遺伝子変異によるTMA)、②後天的原発性TMA(抗H因子抗体によるaHUS、抗ADAMSTS13抗体によるTTP)、③二次性TMA(臓器移植後のde novo TMA、骨髄移植後のTMA、薬剤性TMA、HELLP、妊娠関連TMA、悪性高血圧TMA、SLE・カタストロフィックリン脂質抗体症候群・強皮症腎クライシスなどの自己免疫疾患によるTMA、C3腎症・MPGN・FSGS・膜性腎症・IgA腎症・ANCA関連腎炎などの糸球体疾患によるTMA、悪性腫瘍によるTMAなど)、④感染関連TMA(STEC-HUS、肺炎球菌HUS、HIV関連TMAなど)など(CJASN 2018 13 300-317)。

 TMAの理解と認識が進むにつれて報告の頻度はふえているが、とくに腎限局(ハプトグロビンなどに変化がない)TMAはまだまだ見逃されがちで、たとえ腎生検で診断され補体異常が判明しても、エクリズマブによる治療をうける患者はまだ少ない(2009-2020年のフランス多施設後方視研究、KI 2024 105 1100-1112)。

 なぜTMAか?補体と凝固は、相互に活性化し合う。どの補体経路もTF(tissue factor)を活性化し、逆にプロトロンビンはC3とC5を切断する。

 aHUSでは、C3値は正常な場合が多く、遺伝的な原因が最も多い。H因子(27%、予後がもっとも悪い)、次にMCP(13%、予後がもっともよい)、I因子(6%)など。まれに、C3のgain of function(5-7%)、B因子のgain of function(1%)などがある。自己抗体はH因子やI因子に作られる場合もあり、骨髄腫やMGRSを除外する必要がある。いっぽうDDDはC3値が低い場合が多く(60-80%)遺伝子変異による場合は少なく(10-20%)、70-80%が自己抗体による。C3腎症は、aHUSとDDDの中間くらい。なお、aHUSのH因子遺伝子変異はC末端にあり(細胞表面でC3を認識する)、C3腎症のH因子遺伝子変異はN末端にある(fluid phaseでC3を認識する)。

 aHUS=遺伝子変異+トリガー(腎移植、妊娠、感染、その他)。腎移植では虚血後再灌流傷害(3つの補体経路すべてを活性化しうる:近年はレクチン経路が注目されている)、免疫抑制薬(CNI、mTOR阻害薬)、ABMR/DSA、感染症などがトリガーになりうる。抗補体治療でDGFを予防しようという治験は軒並み失敗しているが、タイミングが遅すぎるのかもしれない(虚血後再灌流はprocurementから始まっている:Transplant Review 2025 39 100897)。

 補体遺伝子異常のaHUS症例では、とくに生体腎移植が好まれる(ただし、近親ドナーに変異がないかを確認する必要がある)。aHUSの移植時には、再発リスクに応じてエクリズマブ・血漿交換(抗H因子抗体)などが考慮される。英国のaHUSコンソーシアムはプロトコルを提案している。オランダはエクリズマブを再発してから用いる「内皮細胞保護プロトコル(CIT短縮、CNI低用量、スタチンなど)」を提案していたが、早期に用いないと効果がないことが分かった(KI Rep 2023 8 715-726)。

 エクリズマブの効果モニタリングにはCH50(<10%)がもっとも用いられる。

 妊娠・悪性高血圧・de novo TMA(CNI、ABMR)などの二次性TMA症例のなかに、高率に補体遺伝子変異が見つかることがわかっているが、遺伝子検査のほかに有用な検査がなかった。しかし、近年ヨーロッパで 用いられるex vivo C5b-9は、補体異常をよく検知し(遺伝子異常にかかわらず)、そうした例はエクリズマブによく反応することがわかった(KI Rep 2024 9 2227)。 

6/13/2025

Chioanthus

 日本にしかないとかアメリカにしかないとか、日本はちがうとかアメリカはちがうとか、まあその通りなのだけれど、同じものもある。

  なんじゃもんじゃの木といえば、ふだんは何ということはない木だが、花が咲くと(雪が降ったのかと思うくらい木全体が真っ白になり)びっくりする。和名はヒトツバタゴ、学名はChionanthus retusus。

 こんな変わった木は(日本のなかでも珍しいくらいだから)日本にしかないのかと思っていたら、北アメリカにもChionanthus virginicusという類縁の植物がある。花の形はそっくりだが、日本のようにおおきな樹にならず、藪のようになる。

 和名はアメリカヒトツバタゴ。英名はFringe Tree、またはOld man's beard。


Pebbles

 慣用句ではないが、”We only have only many pebbles”という表現を耳にした。Pebblesとは小石だが、他科に少し無理言って何かをお願いしたり、頼まれて何かをしたりすることを、子供がビー玉を交換したり貸し借りしたりする遊びにたとえている。ある程度まではできるが、それ以上は無理、という意味だ。

Anonymity

 アメリカでも日本でもdeceased donorの善意を称えることに変わりはない。アメリカでは、臓器を取り出す(procurement)前にはネットワークの担当者が「ドナーと家族の善意に感謝します」と言ったのち手術室のみんなが静かに目を閉じ感謝と共にドナーの冥福を祈る。

 だが、ドナーの情報が報道されることはないと思われる。それは、アメリカではドナーの匿名性がとても大事にされているからだ。UNOSのDonor Netに保存されたドナー情報は厳重に管理されているし、レシピエントにも(どこの誰などと)知らせることはない。感謝の手紙も、ネットワークが仲介する。

 個人的には、ドナーの匿名が守られることは、臓器提供を増やすために必要なことに思われる。

Guardian Angels

 一部の患者さんには、移植された腎臓に名前を付ける習慣がある。上司の一人は「移植された腎臓は赤ちゃんのようなものです、最初は手がかかりますが、だんだん手がかからなくなります、一緒に守って行きましょう」と術後の患者さんに説明する。

 どんな名前を付けるかは、もちろん患者さんの裁量である(一部の患者さんなので、付けない人もいる)が、時には「私と同じように移植を受けたがのちに亡くなった友達の名前」「この腎臓を移植される前に亡くなった親の名前」といった答えを聞くこともある。

 献腎移植を待つ人にとって、腎臓を受けることは奇跡のように感じられてもおかしくない(もしかしたら、天国から見守ってくれている誰かの助けがあったのかもしれない・・というように)。あるいは、この腎臓を守ってくれますように、という思いを込めてのことかもしれない。

Haiku

  「電子カルテといえばパソコン」と思っていたが、スマホアプリが登場して10年以上、パソコンにできてスマホにできないことはどんどん減っている。電子カルテ最大手Epicのスマホアプリ、Haiku。いつでもどこでもすぐさま結果を照会できるほか、オーダもできる。Epic chatもあるので、ちょっとした質問や確認がすぐにできる。カルテも、ディクテーション機能を使えば書ける。リモート診察(video visit)も、スマホのカメラとマイクをつかってできる。




GIB in SPK

 膵腎同時移植患者であっても、消化管出血の原因はほかの患者と同様に胃潰瘍・毛細血管拡張・憩室などかもしれないのだが、嫌なのは、グラフトからの出血である。

 といっても、膵臓そのものから出血するわけではなく、膵臓と共に移植されたドナー由来の十二指腸、またはそれがレシピエントの腸管と吻合しているところから出血しうる。内視鏡がとどきにくい部分なので、double-ballon enteroscopyが必要になる。

 膵移植が膀胱との吻合から腸管の吻合に変わって、利点もいろいろ多い(いまでは膀胱と吻合するところはほぼないと思われる)が、消化管出血で上部・下部内視鏡が正常の場合には、注意が必要だ。





Team Building

 NBAファイナルでインディアナ・ペーサーズがチームとしてよく戦っていると礼賛されている。 スーパースターといえる選手はいないかもしれないが、選手層が厚く、みんなで隙を作らずに執念深くタフに戦うチーム作りが何年もしてきて、それがついに実を結びつつあるという。Tanking(敢えて最下位になってドラフトの指名権を獲得すること)を行っていないことも評価されている。

 インディアナ・ペーサーズには1990-2000年代にReggie Millerというスーパースターがいた(写真、右)。現在のように誰もが高い3ポイント成功率を持っていなかった時代に、正確に3ポイントシュートを決める選手で、瞬く間に試合をひっくり返すカリスマを持った選手だった。

 (少し話はそれるが、彼の姉CherylもWNBAリーグが人気を集める前の名選手で、引退後はNBAの解説者として活躍し、のちに彼と同様に殿堂入りしている。先見の明がある姉と弟といえるかもしれない。WNBAリーグといえば、スーパースターのCaitlin Clarkは奇しくもインディアナ・フィーバーに所属している。)

 ただ、1度だけ進出したファイナル(2000年)では、シャキール・オニールやコービー・ブライアントといったスーパースター達を擁するロサンゼルス・レイカーズに2勝4敗で敗れている。今年の相手はSGA選手などを擁し常勝に近いシーズン成績(68勝14敗)の強豪オクラホマ・シティ・サンダー(前身はシアトル・スーパーソニックス)だが、どうなるか。

 ・・もさることながら、バスケットボールに限らず、強いチームを作るには、才能に秀でたメンバーが一人いるだけではどうにもならず、層の厚さと抜け目なさと執念が必要なんだなあ、という参考になった。


2025年6月12日付New York Timesより


I don't know

 I don't knowという間投的に用いられる表現がある。知らないわけではなく、自分の考え(こうしたほうがよい)があるのだが、相手がそう思っているかはわからない(というかどうやらそうは思っていないらしい)ので、それに配慮して挿入される。Iが一番つよいイントネーションである。

6/10/2025

Another Azole

  タクロリムスやシクロスポリンの濃度を上昇させるCYP3A4阻害薬の代表はazole系抗真菌薬である。しかし、同様にazoleと名の付くmetronidazoleは、CYP3A4阻害薬ではないと考えられている(Ann Pharmacother 2007 41 653)。2-methylimidazoleから合成されるためMetronidazoleは呼ばれるようだが、すべてのazoleがCYP3A4を阻害するとは限らないのかもしれない。

回診チームの性比

  毎朝の回診チームにいる人数をざっくり数えると、腎移植外科スタッフ1人、同フェロー1人、同レジデント(外科系のローテーター)1人、同診療看護師2人、腎移植内科スタッフ1人、腎移植内科フェロー2人、移植専門薬剤師1人、ソーシャル・ワーカー1人、エデュケーター1人、栄養師1人の12人。そのうち、女性が10-11人(男性が1-2人)ということが、そんなに珍しくない。もちろん日本でも起こりうることだが。

TPE and CVID

  腎移植で(とくに、拒絶などに対する治療で)免疫抑制をつかうたびに、そんなに使って大丈夫?と心配になってしまう。もちろん、何のリスクもないわけはない。黎明期に怖れられたCMV感染は予防薬によってコントロール可能になったが、たとえばrATGは積算量がたまるとのちのち悪性腫瘍などを起こす。

 ただし、life-prolongingではなくlife-savingな臓器移植の場合、拒絶と悪性腫瘍のどちらを取りますか?とは言えない面もある。以前カンファレンスで肺移植患者でもあるICU医がパネルディスカッションでその質問を(life-prolongingな臓器である腎移植内科医から)されて、やっぱり拒絶のほうが嫌だと答えていたのが印象に残っている。

 「のちのち」の逆に、すぐに困る副作用もあって、たとえば血漿交換をおこなうと免疫グロブリンが(当たり前だが)減る。そのため、もともと免疫グロブリンが少なく皮下注IgG製剤などで補充しているCVID患者などでは、免疫グロブリンがとても低くなってしまう。そのため、FSGS再発例など長期的に多い回数交換を要する場合には、免疫・アレルギー科医と相談しなければならない。

 

IVIG for ABMR

 ABMRの治療、なかでも血漿交換は負担が大きいので、DSAがなければやらない(除く抗体がない、という話になる)。しかし、DSAがあまりに高MFIだと「何をやっても減らせない」という話になり、エクリズマブで抗体(古典経路)による補体活性化を止めようとすることもある。

 逆に負担が少ない治療の代表がIVIGであるが、効いているのか効いていないのかわからない(が、何かしないよりはよい)印象で妥協的に用いられることが多い。しかし最近、塵も積もれば・・ではないがIVIGを根気よく毎月1g/kg×6おこなうと、行わないよりもソフト・エンドポイント(eGFR低下率、ABMRに関わる遺伝子発現パターン)に有意差がみられた(ahead of print、Kidney Int 2025 S0085-2538(25)00406-5)。

 こちらは、異種移植や抗ネフリン抗体の研究で今を時めく(そして今何かと焦点になっているハーバード大学の)Dr. RiellaがX(だかFacebookだか)に紹介していたのを見た先生から聞いた。


FAT1

 マス・スペクトロスコピーによって膜性腎症の標的抗原を同定できるようになったとはいえ、まだまだ標的抗原が分かっていないケースは多い。移植後のde novo 膜性腎症はその一つであるが、昨年一つ抗原が見つかった。もちろんMayo Clinicのグループが報告した。AMRを合併した7例中4例にカドヘリン・スーパーファミリーの1つであるFAT1に対する抗体が見られた(Kidney Int 2024 106 985)。