3/22/2025

Leap of faith

  Faithという言葉じたいにも理性や理由によらず信じるという意味があるが、leap of faithとは信じて(よい結果になるか悪い結果になるかはわからないけれど)跳躍、つまり行動することである。キルケゴールが提唱したqualitative leapが基になっているという。ただそれ以前にも、超越した神や真実に近づくための神秘主義的な方法としてのleapを提唱した人はたくさんいた。

 先日、生体腎ドナーについての生体腎ドナーによる文章のなかに、「臓器提供によって何がどうなるかと言うデータが乏しいので、leap of faithで提供するしかなかった(もっとデータがないと、提供者は増えないし安心して提供もできないだろう)」というのがあった。

 移植全体として、レシピエントには「よかったですね」「始まりですね」とあれこれとサポートするが、ドナーは術後翌日には退院し、正直あまりフォローする機会がない(主にドナーのPCPが行っている)。レシピエントに「ドナーを見つけましょう(あるいは、自分から見つけるのが気が引けるなら、代弁者になってくれるliving donor championを見つけましょう)」としきりに勧める以上、ドナーが臓器提供によって何がどうなるかを、もう少し知らなければならないと思った。

忘れられない一言 79

 What if it wasn’t treatment-resistant mental illness that had been sending me ever deeper into the depths of despair and dysfunction, but the treatment itself?

 という気づきを得たLaura Delanoさんは、13歳から27歳まで薬を飲んで、薬がどんどん増えていた。そこで、がんばって時間をかけて薬を減らして、ついに薬を飲まなくてよくなった(New York Times 3/17/2025の記事より)。

  漸減はすべての人に向いているとは限らないし、必要な時に必要な治療を受けることは大切だ。ただ、医者は薬を増やすのは得意だが、減らすのは苦手だ(人の処方した薬は減らしやすいが)。しかし漫然と継続するのではなく減らすことを考えましょう、という動きも出てきて、最近英国NICEガイドラインがそのような勧告をだした。

 どのような治療がどのような人に向いているのか、の逆、どのような漸減がどのような人に向いているのか、は、まだ誰も知らない。だから、医師より患者のほうが多くの知見を持っている可能性もある。

 そして、Lauraさんは漸減のアドバイスをするサービスを開始した。医師免許があるわけではないので、アドバイスによって再発した際の免責事項などをはっきりさせているのだろうが、自分のやっていることは正しいという信念があるのだろう。

 患者がこうしたややアンダーグラウンドなアドバイザーに頼らなくてすむためには、医師と医療界(と製薬業界)が漸減治験やデータ蓄積を行うなど正式に取り扱わなければならない。Less is moreである。


移植腎盂腎炎と拒絶

 移植腎盂腎炎には、①腎機能低下をきたすこと、②しばしば再発すること、③腎病理のみで診断される無症候性のケースがあること、④拒絶を合併ないし惹起することなど、いくつかユニークな点がある。

 ①は血行動態などの問題(腎グラフトが腸管に近いためか下痢を合併することも多い)のほか、「尿細管が好中球で詰まってしまう」などと腎病理の先生が説明することもある。②はVURの影響が大きい(VURを泌尿器科的に治療すると激減するという報告もある)。

 ③は奇妙だが、好中球の浸潤・尿細管内腔の充満があれば、(髄質優位、病歴、好酸球など薬剤性間質性腎炎を疑う所見がない限り)腎盂腎炎とされる。一施設の後方視研究が散見されるようになり、症状・臨床所見(膿尿・尿培養陽性など)の有無にかかわらず腎グラフト予後に影響することが分かっている。たいがいは治療してしまうので、こうした無症候性の「組織学的」腎盂腎炎を治療した群と経過観察した群で比較することはできない。

 ④については、興味深い報告があって(Clin Transplant 2016; 30: 1115–1133)、移植腎の腎盂腎炎はネイティブの腎盂腎炎に比べて、拒絶に近い遺伝子発現パターンをしているという。移植腎盂腎炎と拒絶はT細胞が出すIFNγによって調節される遺伝子群の発現が亢進し、ネイティブ腎盂腎炎は(細菌を貪食した好中球が出す)ERK1/2によって調節される遺伝子群の発現が亢進していた。 

 移植腎盂腎炎も細菌感染であるから、できれば好中球に細菌を貪食してERK1/2を出してもらいたいところだが、それが起きにくくなっていることは、免疫抑制の影響かもしれないし、もしかすると移植腎盂腎炎が再発しやすい理由のひとつなのかもしれない。

 ・・ただ、移植腎盂腎炎と拒絶が似た遺伝子発現パターンということは、移植腎盂腎炎には拒絶の治療も組み合わせた方がいい?ということになると、抗菌薬+ステロイド、などというCOPD急性増悪のような治療が理にかなっているのかもしれない。MMFを反射的に中止するのが本当に理にかなっているかも、わからなくなってくる。

 でも、現状打破のためにはより深い病態理解が必要なので、こうしたmolecular microscopicな研究の蓄積が新しい診療につながると期待したい。


3/15/2025

ESBL and Bactrim

 抗菌薬の使用はどんどん短くなる傾向にあって、昨日NEJMに掲載された(発表自体は昨年11月)菌血症に対する抗菌薬7日と14日を比較した非米国(カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等)によるBALANCE試験では、両者に90日死亡率の有意差はなかった。ただし、MRSAや免疫抑制患者は除外された。

 腎移植後でもっとも多い細菌感染症のひとつ腎盂腎炎も、治療期間は14日間が主流になりつつある(最新のガイドラインは2-3週間としている)。7日と14日を比較する試験もフランスで行われている。そんなことをしたら再発するのではないか?という心配はもっともだが、その場合には長期間(6ヵ月、終生など)のsuppressionを行うこともある。

 それにしても、移植後腎盂腎炎ではESBL KlebsiellaとESBL E Coliを診る機会が本当に多い。自施設に限った話ではなく、世界的に増えているという。術後すぐに腸細菌叢に見つかるという報告もある。困ったことである。

 IDSAはESBLの第一選択をSMZ/MTXに変更した。しかし、移植患者では第一選択はカルバペネムである(セフメタゾールはない)。退院後は、カフ付き中心静脈カテーテルを留置してエトラペネムを継続するか、経口でフルオロキノロンかSMZ/TMPになる。ニトロフラントインもあるが、あまり有効ではないため用いられない。つまり、選択肢が少ない。

 フルオロキノロンとSMZ/TMPだったら、感染症科的にはフルオロキノロンを取っておいて、SMZ/TMPを推奨するだろう。

 しかし、腎臓内科的には、SMZ/TMPはクレアチニン排泄抑制とK排泄抑制を起こすので、治療量で用いると結構派手にCrとKが上昇することがある。そのため、使うからにはCrが上がっても慌てず、Kが上がったらロケルマ(あるいはVeltassa)・・と、覚悟しておかないといけない。

 ESBLに有効な新しい経口薬(Pivmecilinam、Sulopenem-etzadroxil-probenecidは2024年に承認、Gepotidacinは2025年に承認予定)もあるが、どういうわけか(マーケティングの事情か)いずれも適応はuncomplicated UTIなので、注意して使わないと耐性ができて大変なことになるかもしれない。


Multiple donors

 日本でも米国でも生体腎ドナーの多くは患者家族であり、複数の家族が同時にドナーになれるかの評価を受けることも珍しくない(ただし、混乱を避けるため外来は違う日にしたほうがよい)。

 もし複数の家族がドナーとして認められたら、どうするか。技術的な問題(マッチ、解剖など)、社会的な問題(休みの取りやすさ、住む場所など)等を踏まえて、話し合いになる。

 親と子(患者の兄弟)がドナー候補になった場合、子は2番目の移植候補にするほうが理にかなっている。いっぽう、親と患者の年齢*・サイズなどにミスマッチがあれば、スワップを検討することもある(ただし、親子は免疫学的な利点もあるので、ケースバイケース)。

 *chronological mismatchなどとも呼ばれる。

AVF post biopsy

 腎生検後のAVF(動静脈瘻)は、約20%弱に診られるという。UpToDateには"usually clinically silent and resolve spontaneously over one to two years"と書かれている。典拠がなかったが、スペインの1施設報告(BMC Nephrol 2017 18 365)では、14.3%に診られ、うち8割は1cm未満で、約半数が30日以内に閉鎖し、95.4%が3ヵ月以内に閉鎖した。

 Diagnostic and interventional nephrologyという専門科がある施設による貴重な報告で、超音波に習熟した手技専従の腎臓内科(とそのtrainees)が生検を行うだけでなく、術翌日にも超音波を当て、AVFが診られた例は1か月毎週フォロー(それ以降は毎月フォロー)していた。使用した生検針は日本のTSK社製、超音波はToshiba製だった。

 AVFは95%が無症候性だったが、2例で生検12時間以内の超選択的塞栓術が行われた(血行動態が不安定な急性出血をきたしたため)。

 なお30年前の報告(JASN 1994 5 1300)では、移植後約4週間で突然高血圧・腎機能低下をきたしたことで気づかれ(post-perfusion biopsyが行われたが、移植直後の超音波ではAVFはなかった)、3cmもあったため超選択的塞栓術が考慮されたが、数日で自然に閉鎖した(腎機能もベースラインに戻った)例が報告されている。シャントによりAVF領域に虚血を生じrenin産生が増える?などの機序が推察されていた。

 

3/12/2025

移植施設のやりくり

  移植は手術なので、手術を中心に保険(医業収入)が支払われる仕組みになっている。しかし、移植は虫垂摘出のように「やればそれで終わり」という治療ではない。そのため移植後のさまざまなケアにも医療資源が必要(手のかかるケースが増えれば尚更のこと)だが、これらは手術を中心に得たお金でやりくりすることになる。

 しかし、ハイリスク症例が増えてくると、周術期の費用がかさむ(入院日数が伸びる、入院後の透析費用、など)。そのため、いろいろ収入を得る方法(と支出を抑える方法)を考えなければならない。

 たとえば、ローリスク症例の底上げ(紹介率の向上)、340B drug pricing programを活用してBelatacept点滴から収入を得る(そのため、可能な限り自施設のinfusion centerで行うようにする)、移植待ち患者リストを逐一見直して必要な検査がきちんと行われるようにする(そのぶん収入になる)、medicare cost reportを活用して患者診療にかかった時間をきちんと記載し報告する、など。

 支出を抑える方法は、コーディネーターなどスタッフのretention向上(離職率低下:スタッフが離職すると、リクルートメントだけでなく、新スタッフの教育に時間を要するため、ダメージが大きい)など。

 また、治験の収入を増やす意味では、腎グラフト予後の代理エンドポイントとして期待されるiBoxが、現在FDAで審議中という。あくまで代理エンドポイントではあるが、認可されれば、長期フォローアップにかかっていた手間とお金が節約できる。

 こうした話は、C-suiteやleadershipとの話し合いで行われるが、できれば移植センターの管理職が自らやりくりして提案して不採算なら撤回する、などのイニシアチブをもって取り組んだほうが、信頼関係も得られ、win-winになりやすい。

 ただ、手術に診療に・・と忙しいと、そこまで手が回らないのも確かなようだ(cost reportのように「ちゃんと報告しただけで収入が増える」low-hanging fruitでさえ、多忙だとできなかったりするらしい)。

 いずれにせよ、移植センターの宿命は、とにかく拡大し続けることにある。移植にかぎらず、手術や手技というのは、そういうものなようだ。ただ、一気にやろうとしても、人員や資源が希薄になって破綻するので、持続的成長がポイントだ。移植件数増加のインセンティブIOTAも、3年間のrolling averageを成長率の尺度に用いている※。

 ※たとえば、毎年100件でやってきた施設が資源(資本)を投入してIOTA初年度に120件行ったとしても、次年度に120×1.2=144件行う必要はなく、106(rolling average)×1.2=127件行えばいい(その次は100、120、127の平均115×1.2=138件)ということ。


Plasma and Kidney

 移植でもよく用いられるIVIGを含むplasma製剤の80%は、オーストリア・ハンガリー・チェコ・ドイツ・米国の5か国で製造されている。共通点は、どの国も提供者に対価を支払っていることだ。もっとも生産量の多い米国は世界の医療を支えているだけでなく、plasma製剤の輸出で37億ドル(2023年)の収入を得てもいる。

 血清ドナーに対価を支払うべき、という英エコノミスト誌の論調は、それにより供給が安定し、コストが下がる(献血の宣伝や献血者に対する金銭以外のお礼のほうが高くつく)という。また、ドナーの安全性や頻回献血による品質の低下に明確な根拠はないうえ、それらを理由に支払わない国も、結局支払う国からの製剤を輸入しているので、欺瞞だという。

 なるほどなあ(知らなかったなあ)、と思っていたら、もっとびっくりする話を知った。それは、現在米国下院で審議中の、End Kidney Death Act(HR9275)である。ご存じの方もいるかもしれないが、non-directed kidney donorに国から5万ドル相当の税控除(1万ドル×5年間)を支払う、という法案だ。

 さすがにこれは、なるほど・・ではなく、だめでしょ!・・と感じたが、移植雑誌に反対のexpert insightが載った(Transplantation 2025 109 403)。Directed donorや献腎ドナーの家族に対して不公平になり、支払額の根拠もあいまいで、経済的弱者がabuseされる可能性もある(そもそも、すでに課税されていない低所得者には恩恵がない)。

 イランや中国返還後の香港で実行された例はあるが、上手くいかず廃止されている。自分や家族が提供しなくても、お金が欲しい人に提供してもらえばいいじゃないか、という気持ちになるため、directed donorやdeceased donorが減るという。

 とはいえ、金銭的な事情が米国の生体腎移植件数が伸び悩む要因であることも確かである。そのためドナー保護法案(Living Donor Protection Act、HR1255)が何年も前から提出されているが、実現されていない。おそらく財源などが問題なのだろう。米国はWHOも脱退しているし、HR1255よりも先にHR9275が先に可決される・・なんてことが、(あっては欲しくないが)あり得ない話ではないのかもしれない。


One-time scrub

 以前ディスペンサーについて書いたが、今いる施設の手術室・手技室にもディスペンサーがある。そして、スクラブ(術衣)の扱いはかなり厳格で、必要とするスタッフに必要な枚数分だけ供給されるようになっている。・・ので、1回手術を見学したい、という人は使えない。そのため、不織布(のような紙のような素材)でできた「使い捨てスクラブ」が用意されている。

3/08/2025

Endothelial cell crossmatch

  急性抗体関連拒絶(ABMR)の所見が組織にあっても、抗ドナーHLA抗体(DSA)が見つからない、ということはよくある。「血中にないのは、抗体がすべて組織に吸着してしまったからだ」というもっともらしい仮説を聴くこともあるが、非HLA抗体によるABMRなのかもしれない。

 非HLA抗体には抗AT1R抗体、MHAクラスI関連A鎖(MICA)、抗Vimentin、抗LG3などいくつかあるが、基本的には内皮細胞またはその周囲にある抗原に対する抗体である(KI  2021 100 787)。だから、ドナー内皮細胞とレシピエント血清のクロスマッチを行うと、非HLA抗体があるかが判定できる。

 ・・らしい。まだ一般的な診療になっていないので、やっている施設ばかりではない(会議で他施設の発表を聞くまで知らなかった)。また、個々の非HLA抗体についても、ELISAだったりSABだったり、色々だ。自施設は最も有名な抗AT1R抗体を外注で調べるが、施設によってはパネルで複数調べることもできるらしい。

 非HLA抗体の標的抗原は、内皮細胞に関連する分子であり、それはドナー特異的なのか?というのは、議論がある。たとえば抗AT1R抗体は、自己抗体としてpre-eclampsiaの病原となることが知られている。ただ、自己抗体であれドナー抗原に特異的な抗原であれ、治療は同じだ。


Entitlement

  Entitlementとは、「何かを受け取って(あるいは何らかの扱いを受けて)当然の権利がある」という意識のことを言う。先日のホワイトハウスで起きた事件のあと、アメリカ副大統領は「(ウクライナ大統領には)sense of entitlementが感じられた」と言っていたそうだ。

 移植においても、「私は移植を受けて当然の権利がある」という意識が話題になることがある。たとえるなら、公民権や選挙権のように。①「人種によって移植率に差があるのはおかしい」、②「(高度肥満などの)移植のハードルを撤廃すべきだ」というわけだ。

 移植についての評価を受けることは、すべての人に保障された権利であるべきだ。そして、①については、人種・保険の種類・学歴・所得などによって移植紹介率に差があるのは事実で、それは是正されるべきだ。

 ただ、移植がすべての人に向いている、すべての人に与えられるべき権利かというと、必ずしもそうではない。

 その点、②は微妙だ。うまくいく人もいるし、データ的に透析を受け続けるよりもsurvival benefitがある。しかし、周術期リスクやDGFリスクなどは非高度肥満群よりも高い。移植施設のアグレッシブさ・患者のリスク許容度などに応じた、ケース・バイ・ケースになる。

 

Donor care unit

  Donor care unitという言葉を初めて聞いた。死後のドナーを専門に診るユニットで、臓器提供だけでなく、臓器の質を最適化することを目標にしている。最初に始めたのはセントルイスのMid America Transplantであるが、米国各地にある。

 臓器提供の意思が示され、死亡確認が(脳死・循環死を問わず)なされたら、少しでも多くの臓器を少しでも高い質で提供するために手を尽くすことは、レシピエント・移植施設だけでなく、遺族の希望に沿うことでもある。

 そして、臓器提供の業務は患者診療の片手間に行えるほど簡単なものではない(うえ、たとえば集中治療室のなかに目標の違う患者が混在していては混乱するだろう)。

 もちろん、donor care unitが成り立つためには、お金が必要だ。詳しくは分からないが、移植施設が移植の際に受け取るお金の一部が、臓器提供ごとにOPOやdonor care unitに支払われていると思われる。

 ただし、輸送費用(飛行機だととても高くなる)、臓器潅流(とポンプを管理する専門職にかかる)費用などは、移植施設が支払うようだ。つまり、近隣のOPOからOOSで臓器を受け取ることは、輸送費用の節約になる。

3/03/2025

General Nephrologists

 腎移植施設として成功したかったら、施設の中で人脈や体制が必要なことはもちろんだが、施設の外、とくに一般腎臓内科医との関係もとても大切だ。Win-winでなければ、good luck with that(まあ無理だと思うけど、せいぜい頑張って)になってしまう。

 最も大切なことは、「患者を返す」ことである。米国の腎臓内科医は、移植後患者もフォローする。そして、同じ患者を二人の腎臓内科医が診ることはできない(一人しか請求できない)。だから、「移植後(たとえば)1年お預かりしたあとは、お返ししますよ」と約束していれば、「あそこは患者を取る」というトラブルにならない。

 要は金銭的な事情であり、移植や米国に限った話でもない(「一般内科医の診ているCKD患者を腎臓内科医が取ってしまう」も、よく聞く話である)。でも、大事な話である(金銭的にいえば、米国は透析患者を移植にreferするインセンティブはあるが、透析前CKD患者をreferするインセンティブはないので、透析前の紹介は善意に頼るしかないのが実情だ)。

 「僕たちは移植後患者さんをずっと診ます」と言えば、責任感があると思われるかもしれないが、そうばかりも言っていられない(もっとも、移植をすればするほど移植後患者は増えるので、お返ししなければならない移植施設側の切実な事情もあるのだが)。

 大事なことは、連携することである。必要な時にはすぐに移植施設に連絡してもらうように、良好で密接な関係を築くことである。金もさることながら、「あそこはちゃんと診てくれるしいつでも相談に乗ってくれる」と思われれば、引き続き患者を紹介してくれるだろう。

 米国で腎臓内科医が移植後患者を診るといっても、フェローシップでは3か月程度しか腎移植内科を回らない。だから、そんなに難しいことを求められるわけではなく、免疫抑制薬のマネジメントが落ち着いた患者を、CKD-T患者(移植後ではあるが、メインはCKD管理の患者)として診てもらう。CKD管理じたいは、腎移植内科医より経験があるのだから、むしろ腎移植内科医が診続けるよりも患者には有益かもしれない。

 そして、想定外の事態や疑問があったら、いつでも移植施設に相談する。AKIがあれば、「CNI?移植腎動脈狭窄?尿管狭窄?尿管膀胱逆流?移植腎盂腎炎?拒絶?BK?・・」と、腎移植内科医の出番になる。

 

Timeliness of the Times

 移植学会の行う会議(Cutting Edge of Transplant)の前日、New York TimesがOOSに関する記事を載せた。私を含め、会議初日の朝、飛行機に乗る前に記事を知った人がとても多く、何かにつけてこの記事が話題になった。

 High-impact non-medical literatureであり、記事の正確さに言いたいことがある関係者は多かったと思われるが、publicに対するaccountabilityが足りないという反省は、されていた。「私たち自身がもっと発信しているべきだった(ある朝New York Timesに出し抜かれるのではなく)」という声は多かった。

 秘密にしていたわけではないが、public opinionを形成するには発信の程度が足りなかった。そして、発信を十分にしないと、ワクチンなどと一緒で、正しいかどうかに関わらず、I don't like it(または、I don't like you)という感情が凝り固まってしまう。

 たとえば、臓器のnon-useについて言えば(OOSが始まってもnon-useは増え続けている)、non-useの割合そのものは変わっておらず、臓器移植そのものが増えているので、必然的にnon-useの件数も増えている。むしろ、ここ数年で臓器保存方法が改善したため、今まで使っていなかったDCD臓器の使用はどんどん増えている。そのいっぽうで、1年グラフト予後は低下していない。

 また、2025年7月からは全国半数の移植施設でMedicare主導のIOTA(Increasing Organ Transplant Access)モデルが採用される。移植件数(Medicare患者か否かを問わず)を増やすほどインセンティブがもらえる施策で、「いきなり増やせと言われても人員や体制などが整わない」などの課題はあるが、うまくやれば起爆剤になるとも期待されている。IOTA(アイオータ)は会議でbuzzwordsの一つだった。

 正直私も、こういった説明を聞くまでは「non-useの数が増えているなんて!」という意見だった。だから、こういった説明は広くpublicizeされるべきだと思った。・・そして、publicizeもこの会議のテーマの一つだった(keynoteで詳しく述べられ議論されていた)。


Life-savingness of transplant

  会議の冒頭、心移植レシピエントのTristan Mace氏がスピーチを行った。数年前に突然心不全になり、移植で一命をとりとめたものの、感染症・大腿骨頭壊死・移植前数年間の健忘などさまざまな目にあった。しかし、I am still here、と言う。また、Transplant is not always a rainbow or unicorn、とも。

 どちらもその通りで、色々あっても移植がなければ命を取り留めることはできなかった。心臓・肝臓・肺はその性質が特に強く、移植待ちリストも重症度が最優先されている。それに対して腎臓は、透析よりも生命予後が優れているという意味ではlife-savingだが、リストでは重症度よりも待ち時間(とくに、透析期間)が重視される。

 膵単独移植(pancreas transplant alone、PTA)は、さらに特殊だ。従来はhypoglycemic unawareness(寝ている間に低血糖になり亡くなった例もあるという)が重視され、life-savingであったが、現在はCGM(持続的血糖モニタリング)が普及し、夜間に低血糖でも気がつけるようになった。

 PTAの素晴らしいところは、(1型の場合)糖尿病が治癒すること、そしてインスリンが不要になることである。どちらも素晴らしい利点であるが、膵臓は取り扱いの難しい臓器なので、急性膵炎・ARDSなどの術後合併症、免疫抑制過剰による感染症などの合併症、グラフト動静脈の血栓予防による出血などの合併症などにも目を向けなければならない。

 Living life is not without risksであるが、リスクと利益のどちらをどうとるか、という選択が移植にはとても多い。心移植の移植待ち最重症(status 1)であれば、迷うことはないだろう。ただ「この腎臓を移植するのと、より”良い”腎臓のオファーが来るのを待って透析を受けるのと、どちらがよいか」などは、悩ましい。そのため、移植には決定分析に必要なデータ収集が欠かせない。

 

Granularity and Bucket

 Granularといえば「顆粒」と習うが、一般的な会話では、より詳細で具体的な、というニュアンスで用いられる。We need more granular data(たとえば、単に「グラフト喪失」ではなく、拒絶の割合はどうだったのか、免疫学的リスクはどうだったのか・・など)という具合だ。

 Bucketといえばバケツであるが、これは「(主要な)カテゴリー」と同じ意味で用いられる。「腎機能低下の原因にもいろいろあるが、まず大きなバケツの一つが血行動態(脱水、低血圧、CNI濃度、腎血管狭窄・・)で、次が・・」という具合だ。ジェスチャーでバケツ(器)を描くことも多い。

Idioms and Quotes

 A picture is worth thousand words(百聞は一見に如かず)。Beat a dead horse(同じ話を蒸し返す)。Continuous improvement is better than delayed perfection(マーク・トウェイン)。rearranging the deck chairs on the Titanic(問題の解決にならない無益な努力)。Low-hanging fruit(簡単に実現できるもの)。

 

Go-to person

 腎移植が移植外科医と腎臓内科医だけで成立するわけはなく、たとえば移植前の評価では患者の既往症に応じて循環器科医、血液内科医、腫瘍内科医・・などさまざまな科に相談する必要がある。

 そして、どの移植施設にも、「この科ならこの先生」という相談相手がいる。こういった先生方は、移植施設と関係を築いているので、移植施設が何を求めているかを理解してくれる。しかし、最初からそううまくいくわけではない。

 だから、最初は科のトップに相談に行って「移植担当」の先生を割り当ててもらったり、その先生とも最初のうちは色々誤解などがあっても、徐々に関係を築いていく・・といった工夫と辛抱強さが必要である。給料の割合、といった話も避けては通れない(貢献に応じて移植センターから出すことになる)。

 また、すべての科にそういった担当医師をお願いできるわけではないし、担当の医師も本業があるので、移植直後や入院中などまでカバーすることはできない。

 ・・が、移植施設を拡大するには、そうした体制の充実が非常に重要になってくる。移植によって受けられる医業収入を、どのように最大化し、効率的に振り分けて、成長につなげるか。


Cemiplimab

 移植後にリスクが増える悪性腫瘍の代表は皮膚腫瘍である。日光が当たる腕などに小さいのができて、切除すれば済む・・くらいの場合も多いが、残念ながらアグレッシブなSCC(有棘細胞癌)が広く深く進行する場合もある。

 近年は進行した皮膚腫瘍に対する免疫療法がさかんに行われているが、移植後患者に対する免疫療法は臓器拒絶のリスク因子(30%とも)である。つまり、突き詰めれば「癌に勝つためなら透析も厭わない」か、「透析になるくらいなら死を選ぶ」という悲惨な選択になってしまう。また、たとえ前者を選んでも、腎機能が低下すると癌治療の選択肢が減ってしまうこともあるので、あまりよい選択とは言えない。
 
 そこで、免疫療法を行いながら拒絶のリスクを減らす方法はないか?と誰もが考える。たとえば、進行SCCに用いられる(neo-adjuvant therapyの報告はNEJM 2022 387 1557)Cemiplimabを受けた腎移植後患者における、シロリムスとステロイドの拒絶予防効果を調べた治験、NCT04339062がある(JCO 2024 42 1021)。


Haplotype

 Haplotypeとはよく耳にするものの、遺伝学用語なこともあり、ピンと来なかったのであるが、halpoとはギリシャ語の「半分(haploos)」に由来するという。ああそれで、父親から(母親から)もらう半分、とは納得したが、他にhaploがつく言葉があまりないので、応用は効かない。なお、2つ同じアルファベットが続くつづりで1つを省くこと(misspellをmispellとつづるなど)をhaplographyというそうだ。

 遺伝学用語でhaplotypeの意味する内容は幅広いが、移植において問題になるのは兄弟姉妹間の遺伝的共有度だ。ただし、移植で問題になるのはHLAだから、それらが載っている6番染色体が問題になる(全ての染色体が同じ一卵性双生児とは違う)。子供の6番染色体は、父の持つAとB、母の持つCとDから1本ずつ受け取るので、AC、AD、BC、BDの四通り。

 そして、兄弟姉妹間でAC・ADのように片方(敢えて「半分」言ってもよい)が同じ場合を1 haplotype matchと呼ぶ(50%)。AC・ADのように両方が同じ場合は、2 haplotype match、またはhaploidenticalと呼ぶ(25%)。AC・BDのようにどれも同じでない場合は、0 haplotype matchである(25%)。

 2 haplotype matchの場合、HLA-A・B・DRが同じ6/6 matchなだけでなく、HLA-C・DP・DQも含めてフルマッチになる。・・ならば、免疫抑制薬は不要なのか?と思うが、一応免疫抑制は行われる。しかし、それによる感染症や悪性腫瘍などで苦しむ場合もある(たとえば、Transplantation Reports 2022 7 100101)。

 だから、「少なめ」でよさそうであるが、どれくらいの導入・維持・漸減タイミングがよいのかというデータはない。あるいは、「不要(免疫寛容)」なのかもしれない。今後の課題である。