3/03/2025

General Nephrologists

 腎移植施設として成功したかったら、施設の中で人脈や体制が必要なことはもちろんだが、施設の外、とくに一般腎臓内科医との関係もとても大切だ。Win-winでなければ、good luck with that(まあ無理だと思うけど、せいぜい頑張って)になってしまう。

 最も大切なことは、「患者を返す」ことである。米国の腎臓内科医は、移植後患者もフォローする。そして、同じ患者を二人の腎臓内科医が診ることはできない(一人しか請求できない)。だから、「移植後(たとえば)1年お預かりしたあとは、お返ししますよ」と約束していれば、「あそこは患者を取る」というトラブルにならない。

 要は金銭的な事情であり、移植や米国に限った話でもない(「一般内科医の診ているCKD患者を腎臓内科医が取ってしまう」も、よく聞く話である)。でも、大事な話である(金銭的にいえば、米国は透析患者を移植にreferするインセンティブはあるが、透析前CKD患者をreferするインセンティブはないので、透析前の紹介は善意に頼るしかないのが実情だ)。

 「僕たちは移植後患者さんをずっと診ます」と言えば、責任感があると思われるかもしれないが、そうばかりも言っていられない(もっとも、移植をすればするほど移植後患者は増えるので、お返ししなければならない移植施設側の切実な事情もあるのだが)。

 大事なことは、連携することである。必要な時にはすぐに移植施設に連絡してもらうように、良好で密接な関係を築くことである。金もさることながら、「あそこはちゃんと診てくれるしいつでも相談に乗ってくれる」と思われれば、引き続き患者を紹介してくれるだろう。

 米国で腎臓内科医が移植後患者を診るといっても、フェローシップでは3か月程度しか腎移植内科を回らない。だから、そんなに難しいことを求められるわけではなく、免疫抑制薬のマネジメントが落ち着いた患者を、CKD-T患者(移植後ではあるが、メインはCKD管理の患者)として診てもらう。CKD管理じたいは、腎移植内科医より経験があるのだから、むしろ腎移植内科医が診続けるよりも患者には有益かもしれない。

 そして、想定外の事態や疑問があったら、いつでも移植施設に相談する。AKIがあれば、「CNI?移植腎動脈狭窄?尿管狭窄?尿管膀胱逆流?移植腎盂腎炎?拒絶?BK?・・」と、腎移植内科医の出番になる。

 

Timeliness of the Times

 移植学会の行う会議(Cutting Edge of Transplant)の前日、New York TimesがOOSに関する記事を載せた。私を含め、会議初日の朝、飛行機に乗る前に記事を知った人がとても多く、何かにつけてこの記事が話題になった。

 High-impact non-medical literatureであり、記事の正確さに言いたいことがある関係者は多かったと思われるが、publicに対するaccountabilityが足りないという反省は、されていた。「私たち自身がもっと発信しているべきだった(ある朝New York Timesに出し抜かれるのではなく)」という声は多かった。

 秘密にしていたわけではないが、public opinionを形成するには発信の程度が足りなかった。そして、発信を十分にしないと、ワクチンなどと一緒で、正しいかどうかに関わらず、I don't like it(または、I don't like you)という感情が凝り固まってしまう。

 たとえば、臓器のnon-useについて言えば(OOSが始まってもnon-useは増え続けている)、non-useの割合そのものは変わっておらず、臓器移植そのものが増えているので、必然的にnon-useの件数も増えている。むしろ、ここ数年で臓器保存方法が改善したため、今まで使っていなかったDCD臓器の使用はどんどん増えている。そのいっぽうで、1年グラフト予後は低下していない。

 また、2025年7月からは全国半数の移植施設でMedicare主導のIOTA(Increasing Organ Transplant Access)モデルが採用される。移植件数(Medicare患者か否かを問わず)を増やすほどインセンティブがもらえる施策で、「いきなり増やせと言われても人員や体制などが整わない」などの課題はあるが、うまくやれば起爆剤になるとも期待されている。IOTA(アイオータ)は会議でbuzzwordsの一つだった。

 正直私も、こういった説明を聞くまでは「non-useの数が増えているなんて!」という意見だった。だから、こういった説明は広くpublicizeされるべきだと思った。・・そして、publicizeもこの会議のテーマの一つだった(keynoteで詳しく述べられ議論されていた)。


Life-savingness of transplant

  会議の冒頭、心移植レシピエントのTristan Mace氏がスピーチを行った。数年前に突然心不全になり、移植で一命をとりとめたものの、感染症・大腿骨頭壊死・移植前数年間の健忘などさまざまな目にあった。しかし、I am still here、と言う。また、Transplant is not always a rainbow or unicorn、とも。

 どちらもその通りで、色々あっても移植がなければ命を取り留めることはできなかった。心臓・肝臓・肺はその性質が特に強く、移植待ちリストも重症度が最優先されている。それに対して腎臓は、透析よりも生命予後が優れているという意味ではlife-savingだが、リストでは重症度よりも待ち時間(とくに、透析期間)が重視される。

 膵単独移植(pancreas transplant alone、PTA)は、さらに特殊だ。従来はhypoglycemic unawareness(寝ている間に低血糖になり亡くなった例もあるという)が重視され、life-savingであったが、現在はCGM(持続的血糖モニタリング)が普及し、夜間に低血糖でも気がつけるようになった。

 PTAの素晴らしいところは、(1型の場合)糖尿病が治癒すること、そしてインスリンが不要になることである。どちらも素晴らしい利点であるが、膵臓は取り扱いの難しい臓器なので、急性膵炎・ARDSなどの術後合併症、免疫抑制過剰による感染症などの合併症、グラフト動静脈の血栓予防による出血などの合併症などにも目を向けなければならない。

 Living life is not without risksであるが、リスクと利益のどちらをどうとるか、という選択が移植にはとても多い。心移植の移植待ち最重症(status 1)であれば、迷うことはないだろう。ただ「この腎臓を移植するのと、より”良い”腎臓のオファーが来るのを待って透析を受けるのと、どちらがよいか」などは、悩ましい。そのため、移植には決定分析に必要なデータ収集が欠かせない。

 

Granularity and Bucket

 Granularといえば「顆粒」と習うが、一般的な会話では、より詳細で具体的な、というニュアンスで用いられる。We need more granular data(たとえば、単に「グラフト喪失」ではなく、拒絶の割合はどうだったのか、免疫学的リスクはどうだったのか・・など)という具合だ。

 Bucketといえばバケツであるが、これは「(主要な)カテゴリー」と同じ意味で用いられる。「腎機能低下の原因にもいろいろあるが、まず大きなバケツの一つが血行動態(脱水、低血圧、CNI濃度、腎血管狭窄・・)で、次が・・」という具合だ。ジェスチャーでバケツ(器)を描くことも多い。

Idioms and Quotes

 A picture is worth thousand words(百聞は一見に如かず)。Beat a dead horse(同じ話を蒸し返す)。Continuous improvement is better than delayed perfection(マーク・トウェイン)。rearranging the deck chairs on the Titanic(問題の解決にならない無益な努力)。Low-hanging fruit(簡単に実現できるもの)。

 

Go-to person

 腎移植が移植外科医と腎臓内科医だけで成立するわけはなく、たとえば移植前の評価では患者の既往症に応じて循環器科医、血液内科医、腫瘍内科医・・などさまざまな科に相談する必要がある。

 そして、どの移植施設にも、「この科ならこの先生」という相談相手がいる。こういった先生方は、移植施設と関係を築いているので、移植施設が何を求めているかを理解してくれる。しかし、最初からそううまくいくわけではない。

 だから、最初は科のトップに相談に行って「移植担当」の先生を割り当ててもらったり、その先生とも最初のうちは色々誤解などがあっても、徐々に関係を築いていく・・といった工夫と辛抱強さが必要である。給料の割合、といった話も避けては通れない(貢献に応じて移植センターから出すことになる)。

 また、すべての科にそういった担当医師をお願いできるわけではないし、担当の医師も本業があるので、移植直後や入院中などまでカバーすることはできない。

 ・・が、移植施設を拡大するには、そうした体制の充実が非常に重要になってくる。移植によって受けられる医業収入を、どのように最大化し、効率的に振り分けて、成長につなげるか。


Cemiplimab

 移植後にリスクが増える悪性腫瘍の代表は皮膚腫瘍である。日光が当たる腕などに小さいのができて、切除すれば済む・・くらいの場合も多いが、残念ながらアグレッシブなSCC(有棘細胞癌)が広く深く進行する場合もある。

 近年は進行した皮膚腫瘍に対する免疫療法がさかんに行われているが、移植後患者に対する免疫療法は臓器拒絶のリスク因子(30%とも)である。つまり、突き詰めれば「癌に勝つためなら透析も厭わない」か、「透析になるくらいなら死を選ぶ」という悲惨な選択になってしまう。また、たとえ前者を選んでも、腎機能が低下すると癌治療の選択肢が減ってしまうこともあるので、あまりよい選択とは言えない。
 
 そこで、免疫療法を行いながら拒絶のリスクを減らす方法はないか?と誰もが考える。たとえば、進行SCCに用いられる(neo-adjuvant therapyの報告はNEJM 2022 387 1557)Cemiplimabを受けた腎移植後患者における、シロリムスとステロイドの拒絶予防効果を調べた治験、NCT04339062がある(JCO 2024 42 1021)。


Haplotype

 Haplotypeとはよく耳にするものの、遺伝学用語なこともあり、ピンと来なかったのであるが、halpoとはギリシャ語の「半分(haploos)」に由来するという。ああそれで、父親から(母親から)もらう半分、とは納得したが、他にhaploがつく言葉があまりないので、応用は効かない。なお、2つ同じアルファベットが続くつづりで1つを省くこと(misspellをmispellとつづるなど)をhaplographyというそうだ。

 遺伝学用語でhaplotypeの意味する内容は幅広いが、移植において問題になるのは兄弟姉妹間の遺伝的共有度だ。ただし、移植で問題になるのはHLAだから、それらが載っている6番染色体が問題になる(全ての染色体が同じ一卵性双生児とは違う)。子供の6番染色体は、父の持つAとB、母の持つCとDから1本ずつ受け取るので、AC、AD、BC、BDの四通り。

 そして、兄弟姉妹間でAC・ADのように片方(敢えて「半分」言ってもよい)が同じ場合を1 haplotype matchと呼ぶ(50%)。AC・ADのように両方が同じ場合は、2 haplotype match、またはhaploidenticalと呼ぶ(25%)。AC・BDのようにどれも同じでない場合は、0 haplotype matchである(25%)。

 2 haplotype matchの場合、HLA-A・B・DRが同じ6/6 matchなだけでなく、HLA-C・DP・DQも含めてフルマッチになる。・・ならば、免疫抑制薬は不要なのか?と思うが、一応免疫抑制は行われる。しかし、それによる感染症や悪性腫瘍などで苦しむ場合もある(たとえば、Transplantation Reports 2022 7 100101)。

 だから、「少なめ」でよさそうであるが、どれくらいの導入・維持・漸減タイミングがよいのかというデータはない。あるいは、「不要(免疫寛容)」なのかもしれない。今後の課題である。