巨大化するMedicare財政を抑えるのに、日本のように点数で診療行為の報酬が標準化された。これをRVU(relative value unit)といい、1985年のCOBRA(Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act)法で始まった。それまで米国の医療報酬はUCR(usual, customary and reasonable)で、同じ手術をするにも外科医AとBで違う報酬が与えられた。
ところでこのRVU、外科医中心のAMA(American Medical Association)がつくった外科手技一覧のリストに内科系の診療行為を加えてできた。それでか"paid to do, not to think"、手を動かしたほうが儲かる。米国で内科・小児科・家庭医療などの人気が下がった一番の理由はサラリーだが、その元凶はここにある。
1997年にはBalanced Budget Actという、医療費の成長を経済成長にリンクする法律が通った。経済状況を勘案してMedicareが医療費の伸び(SGR、Sustained Growth Rate)を調節するが、医師会の反対を受けた議会が毎年交渉してそれを無効あるいは緩和している(しかし2013年は支出の多い診療行為についてRVUが削られると聞く)。
MedicareはIOM(Institution of Medicine)がquality improvementのために発表していた医原性の合併症にも注目し、「これが入院中に起こったら医療費は払いません」という項目(尿路感染症、褥瘡など)を決めた。現在8項目あるが、将来的には200項目に増えるらしい。合併症が起こらないようにする努力と、「これは入院時からありました」と欠かさずチェックして記入する努力、両方が必要になる…。
さらにJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations、ジェイコ)のquality measuresにも注目し、その病院で「全心不全患者の90%(だったか95%だったか)がACEI/ARBを内服」というのが満たされるとその分医療報酬がおりる仕組みもできた。これはadded value purchacingといって、満たさないとお金がおりないからやはり医療費抑制になる。前の病院で、ホスピタリストは多数あるcore measureのリストを持ち歩いていた。
「偉大な社会」政策から約半世紀、アメリカ医療を考察する材料が得られた。日本から来ると米国医療者が国民皆保険に反対するのが奇妙だが、少し事情がわかった。誰も「貧乏人は死ね」と思っているわけではない(たぶん)。要はMedicareが出来てから米国医療はルールと規制にがんじがらめで、それが彼らの不満なのだ。聴衆はレクチャのあいだ何度も不満気に"Jesus"を連呼していた。