8/31/2024

Labs

  検査(とくに血液検査)が欠かせない腎臓内科であるが、発見もある。たとえば、凝固検査の一つPT-INRは、point-of-careの検査キットがあり、血糖のように指先から数滴の血液を採取するだけで測定できる。以前はCoumadin Clinicで頻回に採血してワーファリンの効き具合を確認していたが、少し手間が減ったようだ(もっとも、採血が不要なDOACのほうが便利)。

 あとは、生化学のみを提出していた場合にも、その検体で血算を追加することができる。これは原理上不可能に思えるが、実際行われているので、可能なのだろう。そうだとすれば、検体を遠心するまえのサンプルを少し取っておくのかもしれない。いつか検査科に聞いてみようと思っている。

 他にも、電子カルテ上のオーダーで、「毎日」と選択すると自動的に毎日検査できる(毎日必要な状況では役に立つが、そうでないと過剰になるので、使い方次第)。また、standing order(必要な時に使えるようになっているオーダー、日本で言う必要時指示のようなもの)があれば、検査日を指定しなくても患者が都合の良い時に来て検査を受けられる。

8/28/2024

Big Guns

 一般的な病原体が多い・・と言いつつも、免疫抑制患者に起きる特殊な感染症にも注意しなければならない・・というわけで、なかなか一筋縄で行かないのが、移植患者の感染症診療である。

 と習って、はや12年。未だに苦労しているが、新たに知ったことの一つがノロウイルス感染症である。ノロウイルスと言えば施設などでの集団感染が問題になる下痢性ウイルスだが、腎移植患者において慢性かつ消耗性の感染を起こすことが2009年に報告された(NDT 2009 24 1051)。

 Viral sheddingが多い時期でないと診断がつきにくいうえ、根本的な治療はなく(nitazoxanideが試みられることはある)、免疫抑制を弱めるのが唯一の対処法であるが、当然拒絶のリスクは上がるので、なかなか厄介な疾患である。とにかく、慢性下痢と消耗をみたら、ノロを疑わなければならない。

 もっとも、複雑な症例は感染症科にお任せになり勝ちだが・・。そんな頼れる彼らは、使う薬もごつい。Cefoderocol、Durlobactam/sulbactam、Ceftazidime/avibactamなど、高度耐性菌に用いられる新しい抗菌薬など。また、C diffにはfidaxomicinが用いられる。

 恐ろしいのは、上述の4種類のうち、2023年にFDAに認可されたばかりのDurlobactam/sulbactam以外の3種類は、すべて日本にもあることだ・・。耐性菌パンデミックとよく言われるが、PIPC/TAZ、Cefepime、Meropenem、Vancomycinなどが効かない菌が問題になっているのを痛感する。拡げぬよう、回診時はprecautionを徹底している。


Abbreviations

 英語には漢字がないため、熟語の代わりに略語が用いられる。例えば献腎移植ならDDKT(deceased donor kidney transplant)、生体腎(血縁)腎移植ならLRKT(living related kidney transplant)といったように。

 移植にはそういった略語が多く、KDPI(kidney donor profile index)、DCD(donation after cardiac death)、DBD(death after brain death)、cPRA(calculated panel reactive antibody)、DSA(donor specific antibody)、DGF(delayed graft function)、、などキリがない。

 が、それとは別に、単に文章が長くならないように略される表現もある。s/p(status post、〇〇の手術や治療の後)、h/o(history of、〇〇の既往のある)などは有名だが、他にも結構あり、以前より増えた印象もある。そこで、少し目にしたものを書き残しておく。

RTC  return to clinic 
LUTS  lower urinary tract symptoms
gtt  drip ("gutta"という「滴」を意味するラテン語より)
c/b  complicated by
c/f  concern for
2/2  secondary to
NYOD  not yet on dialysis
p/w  present with
HSQ  heparin SQ
s/s  signs and symptoms
PTA  prior to admission
iso  in the setting of
CTM       continue to monitor

OR

 腎移植内科フェローシップはACGME認定ではないが、AST(米国移植学会)の定める要件があって、それを満たすことで移植センターのdirector資格が得られる。どれも件数で、外来フォローが何件、腎生検が何件、といった具合であるが、その一つが生体腎ドナー・レシピエントの手術である。

 そんなわけで、今日は仕事の合間に(同僚にカバーしてもらって)どちらも診ることができた。日本でも診たことがあり、米国でも手術そのものはだいたい同じあるが、違いもある。

・外科医が多い。A医師とB医師がドナーを手術し、C医師とD医師がレシピエントを手術し、E医師とF医師はその間に別の献腎移植を行っている。指導医もいるが、フェローもいる。腎移植を主にやる移植外科医もいるが、肝移植を主にやる移植外科医も手伝っている。

・手技が「どしどし」行われる。臓器の虚血時間を短くしたい意味もあるだろうが、始まる際にも日本のように「よろしくお願いします」の掛け声はなく、ぐいぐい、えいやっと、組織を押したり引いたりしながら分け入っていく。電気凝固の出力はCUTもCOAGも40Wである。

・グラフトの潅流液は、Custodiol®が用いられる。ヒスチジン・トリプトファン・ケトグルタル酸塩を含むためHTK solutionとも呼ばれ、名前は知っていたが初めて見た。脈管の露出と形成、縫合は同じだが、「さっさか」やるので、anastomosis timeは30分ほどである。

・いっぽうで、大きな組織ゆえにドナーとレシピエントの入室時間をうまくコーディネートすることが難しかったり、用意していなかった薬剤をオーダーして手に入れるまでに時間がかかったりする。

・面白いのは、麻酔科側と外科医側がまったく別の世界であることだ。タイムアウト、免疫抑制薬・フロセミド・マンニトールなどの注射タイミング、体位の変更、臓器潅流時の血圧維持、メチレンブルーの膀胱内潅流と尿道カテーテルのクランプなど、必要なコミュニケーションはするが、それくらいである。もっとも、これは日本も同じかもしれない。


8/24/2024

Survival Benefit

 「腎移植は生命予後の成績が透析よりも優れている」は、米国において良くも悪くも一貫して正しいため、腎移植を推進する大きな根拠になっている。腎移植ができる患者のほうが腎移植ができない透析患者より健康というだけではなく、(腎移植ができる)移植待ち透析患者と比較しても優れているからだ。

 代表的なのは、1991-1996年に透析を開始された70歳未満の患者のなかから、初回献腎移植を受けた群と移植待ちリストに載って透析を受け続けた群を比較した1999年のスタディである(NEJM 1999 341 1725)。その結果、多変量解析後の死亡リスクは術後106日までは透析患者より高く、術後244日以降からはsurvival benefitが見られた。

 では、高齢者の場合はどうか?

 2013年、1995-2007年に透析を開始され(または先行腎移植を受け)献腎移植待ちリストに載った65歳以上の患者について、その心血管系リスクに応じた移植のsurvival benefitを調べたスタディが発表された(AJT 2013 13 427)。

 また、移植のタイプについても調べ、ECD(extended criteria donor、現在の高KDPIドナー)、SCD(standard criteria donor)、LD(living donor)について分けて解析した。

 すると、高リスク群・ECDであっても前掲論文と同様のトレンド(術直後が最もリスクが高く、以後低下する)がみられ、術後半年程度で死亡ハザード比は透析患者と等しくなった。さらに、生体腎移植を受けた患者については、そもそも術直後から死亡ハザード比が透析患者よりも低い結果が見られた。

 これを受けて、移植施設はこぞって「生体腎ドナーがいるなら、ぜひ生体腎移植を(いなくても、探してみましょう)!」と啓発するようになった。・・が、実際には米国の生体腎移植は年間0.6万件程度で頭打ちである(それに対して、献腎はこの10年で年間約1.6万から約2.7万件に増えた)。※移植待ち患者は約9万人いる。


Ureteral stricture

 移植後のグラフト尿管狭窄は、術直後は手術等に関わる機械的な問題が多いが、年月が経つとBKウイルス・CMV・尿管癌なども原因になる。手術については、複数腎動脈がある場合や高齢者でリスクが高いとされ、「下極血流の低下(insufficient inferior pole perfusion)」によるものと仮説されている。

 尿管狭窄が起きると、まず尿道カテーテルを挿入し、それでも改善しなければPCN(percutanous nephrostomy腎ろう)を挿入する。そのうえで、anterograde nephrostogram(順行性の腎ろう造影)を行い、尿管狭窄の程度や部位を確認する。

 尿管狭窄が強ければ、PCNU(percutanous nephroureterostomy、腎尿管ろう)を挿入し、狭窄部位にカテーテルを通過させる。しばらくして、PCNUをキャップして「下から(順行性に)」尿がでるかを確認する。出れば、PCNUを抜去する。出なければ、尿管ステントを挿入するが、その場合異物が体内に残る(internalize)ため、3ヵ月に1回交換しなければならない。

 

8/23/2024

Pump and normothermic regional perfusion

 移植臓器といえば氷で冷やして届けられるイメージを持つ方も多いだろう。獲得されてから運搬等にかかる時間をCIT(cold ischemia time)と呼ぶのも、そのためである。米国ではUPSが請け負うことが多いが、近年はUAV(unmanned aereal vehicle、要はドローン)による輸送も試みられているという。

 CITが長いとDGFのリスクは高くなる。そのため、輸送による臓器の質低下を防ぐ試みもなされており、一つはpumpである。冷やすのは同じであるが、機械によって潅流液を循環させる。

 発想自体は1800年代からあり、1849年にはマールブルグの Carl Eduard Loebellがブタの腎臓に潅流液を注入し、腎静脈から血液がでてくる(尿管から尿がでてくる)ことを確認している。以後忘れられた時期もあったが、臓器保存のために再認識され現在に至る。

 Pumpingには、栄養を内皮細胞に届ける、微小循環を維持するなどの長所が考えられている。では実際にはどうかというと、2009年にオランダのグループが発表したEUROTRANSPLANT RCTスタディ(NEJM 2009 360 7)でDGFが有意に低下していた。

 機械循環のほうがコストがかかるが、DGFによる入院費用とグラフト予後の低下、Pumpがないことで捨てられる腎臓(とくにDCD)の問題を考えれば、見合ったコストと考えられるようになってきた。現在、少なくともイリノイ州ではすべてのDCDがon pumpで搬送される。

 ・・ということは、次世代の方法も試みられているということである。それが、normothermic regional perfusion(NRP)である。早い話が、ECMOである。DCDドナーに対して、死亡確認後に大動脈と右心房にカニュレートしてECMOを回す。脳循環は不要なため、大動脈弓の3分枝はクランプされる。

 ここまで大掛かりなことをやれるのは心臓外科医くらいである。というわけで、腎グラフトのためだけではなく、心グラフトのためでもある(他国では、腎臓により特化した腹部だけのperfusionも行われる)。

 限られた施設でしか行われないが、UNOS/OPTNデータベースの解析(Transplantation 2024 108 516)によれば、2022年にはNRPによって91件の心移植と170件の腎移植が行われた。ドナーは対照DCDに比べ若く、KDPIも平均20%と低かった。

 アウトカムではDGFが有意に低く、総グラフト予後も低い傾向にあったがサンプル数が少ないこともあってか有意差はなかった。

 観察期間が短いため長期の生命・グラフト予後のベネフィットは未知だが、DCDの質をDBDに近づけようとする試みである。そうすればDCDの捨てられる割合を減らせるかもしれない。その割合はNRP群で8%と、対照DCD群の29%よりも有意に低かった(が、これはそもそもKDPIが低かったためであろう)。

250 NM

  献腎がOPO(organ procurement organization、イリノイ州ではGift of Hopeと呼ばれる)によってprocure(獲得)されると、臓器のallocation(割り当て)が始まる。最優先されるのは、心腎・肝腎・膵腎・肺腎などの同時移植待ちレシピエントである。

 ※そのようなアルゴリズムになっているが、きわめて質の良い腎臓が同時移植に優先されることが本当に公平なのかについては議論もある。心臓や肝臓を移植されたあと1年以内に腎移植も必要になった患者にも、優先的に腎臓が割り当てられる(safety net)。

 その次に、腎臓単独移植待ちレシピエントの選定が行われ、レシピエントには透析年数、感作の程度(cPRA)、マッチ数(とくにDR)、などのポイントがあり、ポイント高い患者の施設から声を掛ける。

 基本的には透析(ないし移植リストに載ってからの)期間1年が1ポイントであるが、たとえばcPRA 100%だと200ポイントで、事実上すべての献腎に対して1位になる。ただし、HLA適合ドナーに出会う確率は1万分の1以下である。そのため、脱感作療法でなんとか抗体価を許容範囲内まで下げ、適合ドナーに出会う確率を上げることになる。

 こうしたランキングは、献腎の発生した病院から一定距離の範囲内で行われる(どこからも断られれば、その範囲を越えて受け入れ先を探すこともある)。そしてその範囲は、なぜか、半径250海里(nautical miles)と決まっている。

 UNOSによれば、その理由は「臓器搬送が250海里以内なら陸路、250海里以上なら空路となるため」という。なお1海里は1.852kmと、1マイルの1.6kmより少し長い。よって250海里は463kmで、東京からだとだいたい大津、金沢、石巻くらいまでの距離である。

  もっとも、それだけではなぜnautical mileかの説明にはならないが、Wikipediaによればnautical mileは元々地球の緯度1分(1度の1/60)に相当し、「海面上の長さや航海・航空距離などを表すのに便利」なのだという。なるほど。

Language Line

  外国語を話す患者と家族の問診や診察は、Language Lineを使って行う。たいていはベッドサイドに置かれたビデオ画面・タッチパネルのついた端末を用いる(下図)が、より簡単には、自分のスマートフォン端末からLanguage Lineに電話すればよい。

(出典はこちら
 すると、「スペイン語は2、アラビア語は3・・・」などと自動音声が流れ、選択するとその言語の通訳がでる。そして「品質・トレーニング目的に録音されることがあります」「部門と患者カルテ番号を教えてください」「患者さんに自己紹介してよいですか」となる。

 そのあとは、スピーカーをONにして、こちらから質問すると通訳がそれを伝え、患者が答えると通訳がそれを伝え(あるいは、その逆)・・という当たり前のやり取りが行われる。確実により時間がかかるが、それさえ我慢すれば文明の利器である。

 なお、Language Lineは固有名詞であり、より正確にはLanguage Line Solutions社と言い、ベトナム戦争に海兵隊として従軍していたMichael McFerrinと、警察官のJeff Munksが1982年に移民支援のために始めた。現在は240か国語・9000人以上のスタッフを持つ、世界最大の通訳会社だ。

 


8/22/2024

A2 Transplant

  以前も、血液型にA2型(AB型の場合はA2B型)というのがあって、A2型ドナーの腎臓はその細胞表面にA抗原がほとんどないため、B型で抗A抗体の少ないレシピエントにはABO適合のように脱感作なしで移植できると書いたが、実際に経験する機会はなかった。

 このたび経験することになり、事前にもらった参考資料(Transplantation Direct 2021 7 e662)を読んだ。勉強して、実地に活かしたい。まとめると:

・A2型が注目される理由の一つは、B型レシピエントの待ち時間が長く(2年以内の移植率は18%)、彼らの多く(70%以上)がアフリカ系やヒスパニックといったマイノリティーであること。

・多くの施設は抗A抗体8倍未満をカットオフにしている(UNOSは基準を設けていないが、高抗体価例では脱感作する)が、16倍以下をカットオフにしている施設もある(この資料を発表したAlbert Einstein College of Medicineのグループ)。

・同施設では、A2/A2B→B型(A2不適合)移植の導入はrATG 4.5mg/kg(通常、PRA20%以下はbasilisimab、それ以上はrATG)。DSAがあればIVIG+rATG 6mg/kg。維持はprednisone/MMF/tacrolimus。

・2015-2019年に行われたA2不適合移植は41件(適合は75件だから、全体の約1/3)。うち、抗A2抗体価が8倍以上の患者は11人(8倍が6、16倍が5)。

※レシピエントの平均年齢は53歳、約80%がアフリカ系とヒスパニック、38件が献腎(平均KDPIは52%)、3件が生体腎、4件が先行移植。8件で移植前DSAが陽性、3例でフロークロスマッチ陽性も、補体依存細胞傷害(CDC)クロスマッチは陰性。

・平均32か月の観察期間で、生命予後・グラフト予後・Cr・蛋白尿に有意差はなかった。TCMR・ABMR・各種感染症にも有意差はなかった。グラフト喪失の内訳はノンアドヒアランスによるABMR、MMF中止(敗血症)後の急性TCMR、術中の腎梗塞、COVID関連AKI。

・(プロトコルではなく、臨床的に適応があっての)生検では、拒絶所見のないC4d陽性が7例にみられたが、うちDSA陽性は1例。移植後の抗A2抗体価は、測られなかった(急性ABMRは1例も起こらなかったが・・気になるところである)。


Pre-emptive KT Caveat

  先行的腎移植の術後には、患者の(native)腎臓、移植腎(allograft)のどちらも考慮する必要があり、尿がでているからといって移植腎が機能しているとは限らない。術前に比べて多いか、腎機能が改善しているか、などで評価することになる。

 いっぽう、術後に尿が出ない場合には、移植腎だけでなく患者の腎臓も機能していないことになる。そのため、3つの腎臓すべてに作用する病態(低血圧など血行動態の異常、尿閉など)が起きていることになる!

 移植腎臓内科は、移植固有の問題と、移植以外の腎臓内科上の問題のどちらも扱う必要があり、どちらかだけを診ていてはだめなのであるが、こういうちょっとした秘訣(caveats)を集めていくと、状況に応じて適切に考えられるようになるだろう。

8/20/2024

HLA 2

 HLAといえばA、B、DR(それに、C、DQ、DP)と習ったが、レポートを読むともう少しいろいろ書いてある。混乱するので読み飛ばしていたが、少し分かってきた。

・小文字のwとCREG

 歴史的には抗原特異性が確立していない(provisional)ことを示し、wは'workshop'の略である。

 現在では特異性が特定のHLA抗原に限定されない普遍的な(public)抗原に用いられる。たとえばHLA-Bw4とBw6の抗原は、ほぼすべてのHLA-B分子に存在するだけでなく、HLA-AとHLA-C分子にまで存在する。

 なお、こうした血清学的な抗原(serotype antigen)を共有する分子的・遺伝子的な抗原(HLA antigens)のグループを、CREG(cross-reactive group)と呼ぶ。そして、複数の抗原が共有するアミノ酸配列や認識部位のことをエピトープと呼ぶ。たとえば、Bw4とBw6のエピトープは、α1ドメインのヘリックスにあることが分かっている。

 HLA-Cのserotype antigenはその多くにwがついているが。これはC抗原が言わば「非A非B」のカテゴリーとして新設され、未だに抗原特異性が完全に解明されず保留のためだとwikipediaには書いてある。だが、補体因子(complement factor)と区別するためだとする成書もある。

・Class IIのAやB

 HLAクラスI分子はβ2ミクログロブリンとヘテロマーを作るが、クラスII分子はαサブユニット、βサブユニットともにHLA遺伝子にコードされる。DP(Q、R)のαサブユニットはDP(Q、R)A遺伝子、βサブユニットはDP(Q、R)B遺伝子といった具合である。

 ただし、DRB遺伝子以外は1セットしかないが、DRB遺伝子にはDRB1・DBR3・DRB4・DRB5という4つのパラログが存在する(他にもDRB2など多数の偽遺伝子が存在する)。なお、DRB1は他の5倍程度と、パラログのなかで最も多い。

 DRA遺伝子のコードするαサブユニットにはあまりバリエーションがなく、DRの抗原特異性はβサブユニットに由来する。ほとんどはDRB1に関係するが、DR52はDRB3遺伝子、DR53はDRB4、DR51はDRB5遺伝子の抗原である。

 なんで順番が逆(51、52、53でなく、52、53、51)かは、serotypeのほうが先にあって、そのあと遺伝子が分かったからではないかと、筆者は推察する。いっぽう、遺伝子が先にみつかったDQA1、DPA1、DPB1抗原などには、対応する「DP24」などの(背番号みたいな)serotypeがない。

・DRとextra points 

 腎移植で気にするA、B、DRのなかでは、Class IIなこともあってかDRミスマッチが最もグラフト予後に影響する。そのため、ドナーのDRが0ミスマッチ(ないし1マスマッチ)のレシピエントは、DRが2ミスマッチのレシピエントよりも優先される。


8/18/2024

忘れられない一言 74

 入院している移植後患者全員を把握はするが、全員を毎日診て回る余裕はなく、回診もフェローだけ独自にまわる余裕はない(新しいコンサルトでは、できるだけ独自に把握・診察してプランを考えてから指導医に相談するが)。

 逆に言うと、回診では指導医が患者と話すのをじっくり黙って聴くことができる。しっかりとした説明は、「なるほど、こういうふうに言えばよいのか」と思わされ、思わず頭の中でシャドーイングしている。

 これも大事な教育機会なのだろうなと思う。患者への説明、言葉以外のコミュニケーションなどは、見なければ教わることはできないからだ。思い返せば、自分がよく使う言い回しのなかにも、「あれは〇〇先生の言い回しだったなあ」というものは多い。

 さておき、きょう書き留めておきたいのは、"You only need to have an excellent wound care to recover."である。

 「あとは、良い創傷ケアを受ければ回復するでしょう」、ということだが、筆者はとっさに「よほど良い創傷ケアを受けない限り、回復は難しいでしょう」と訳してしまった。

 というのも、肥満(BMI 35以上)患者をどんどん移植するようになって、創の治りが悪くて治療に難渋する例をたくさん見るからだ。手術や洗浄、陰圧閉鎖療法などさまざまな手を使うが、入院を繰り返す例も多い。

 創に限らず、ハイリスクな移植はたくさんある。しかし、前向きでなければならない。半分水の入ったコップはhalf emptyではなく、half fullである。そしてすべての雲には、日光が差し込む銀色の縁(silver lining)がある。

 色々あってつらいだろう患者に掛ける言葉であれば、尚更だ。


8/17/2024

Beep, ding, ping

  入院診療では、コンサルトのファースト・コールとなるポケットベル(pager)を持つため、それがひっきりなしにピーピー鳴る。さらに、電子カルテのチャットシステムで質問や相談が来るのだが、それがスマートフォンと連動しているため、ピコピコ鳴る。さらに、チーム内のやりとりがショートメッセージ(text)で行われるため、ピコピコ鳴る。さらに、すべてのピーピーとピコピコに反応しなければならない(ポケットベルの場合は電話で返事、ピコピコはスマホかパソコンで返事)。集中が削がれやすい環境だが、一瞬一瞬に集中していれば、なんとか乗り切れる。最大瞬間風速がどれだけ速くても、実際には無風のほうがずっと多いからだ。

Dialysis Catheter

 血液透析が透析カテーテルを介して始められる例は多い。たいては緊急で始められるため、何かと患者によくないことが起りがちで、自己・人工血管内シャントを事前に確立しておくことが求められる。
 透析カテーテルを挿入されると、挿入部位の静脈が狭窄したり、血栓を作ったりする※。とはいえ抜去してしまえば以後それほど問題になることは少ないのであるが・・腎移植の際に思わぬ痛い目にあうことがある。
 たとえば、手術のために中心静脈カテーテルを挿入したくても、狭窄のため内頚静脈に挿入できなかったり、挿入に手間取ったりする。透析カテーテルが入っていたためであるが、何年も前のことであるから、事前に把握できないこともある。
 また、米国では上肢内シャントの閉塞・内頚静脈カテーテルの機能不全などにより大腿静脈カテーテルで透析を受ける患者もいるが、そうした既往がある場合、外腸骨静脈に血栓や狭窄があってグラフト腎静脈を吻合できない、といったことも起こりうる。

 【おまけ】10年前、筆者がいたころの米国では緊急時には一時的透析カテーテルを(時に苦労しながら)挿入し、以後シャントや長期的透析カテーテルに切り替えていたが、現在の米国ではIR(透視を行う放射線科)が挿入し、しかも全例長期的透析カテーテルである。

8/16/2024

Tacrologist

  入院診療はコンサルタントとして働くため、術後3ヵ月以内は移植外科、それ以降はホスピタリストが主な主治医となるが、副甲状腺摘出目的の内分泌外科入院や、腎摘目的の泌尿器科入院などのように、他科から相談を受けることもある。多彩な病態、重症度にどしどし触れられる貴重な機会であるが、最も重要な仕事は免疫抑制薬の管理、なかでもタクロリムスの調節である。・・そして、それが結構難しい。

 まず、結果がすぐに出ない!信じられないが、試薬が特別なのか、これだけ件数があっても5-6時間かかり、5時に採血しても11時ころまで待たなければならない。※外来だと、第2・第3便にまわるのでもっと遅くなる。

 そのうえで、「1日休薬したから低いのかもしれない」「12時間トラフではなく10時間トラフになっている」「まだ3回しか内服していない」「先週濃度が高くて用量をいくつに減らした」「先月に目標トラフ濃度が6-8から5-7に引き下げられた」「下痢をしている」「目標濃度から0.1しか外れていないが、上昇傾向のトレンドを見ると減らしておくべき」・・など、さまざまな要因を考慮しなければならない。

 そして、こうした熟慮のうえで出した決断は、腎グラフトの寿命と拒絶に直結しているのである。

 仕事をするまでは、タクロリムスといえば試験問題などがそうであるように、相互作用(エリスロマイシン、ジルチアゼムなど)を意識すればよいのかな?くらいに思っていた。しかし実際には、tacrologyとも言うべき、「タクロリムス学(道)」がある。Tacrologistを目指して、頑張ろう。


(出典はこちら



8/15/2024

Failing kidney allograft

  筆者は以前、透析患者さんに「移植は10年しかもたないからねえ」と言われ、ハッとしたことがある。10年先のことすら頭に入れていなかったのだから、「あたかも一万年も生きるかのように行動するな」と言ったマルクス・アウレリウスが聞いたら、さぞかし落胆するだろう。

 患者さんのおっしゃる通りで、米国データでは生体腎の平均寿命は約12年、献腎の場合は質により、KDPI 20未満で11年、20-95%で9年、95%以上で6年である。余命にもよるが、多くの人にとって移植というのは、したらそれで終わりというものではない。

 しかし、筆者に限らず、腎移植・腎臓内科スタッフと患者さん、どちらもその準備はあまりスムーズにできていない。その結果、再移植のタイミングを逸したり、透析開始前後の死亡やトラブルが起きがちである。

 そこで、「問題あれば解決あり」というわけで、「備えあれば憂いなし」を目指す大きなカンファレンスが2020年代に2つ行われ、それぞれ発表された。一つ目は米国移植学会によるもの(AJT 2021 21 2937)、二つ目はKDIGOによるもの(KI 2023 104 1076)だ。

 どちらも大意は同じで、主な論点は①定義、②免疫抑制薬、③グラフト不耐症候群(intolerance syndrome)、④腎代替療法の再選択、⑤一般腎臓内科との連携、⑥保険や政策である。簡単にまとめると:

 ①定義:failureという言葉は印象が悪いが、他に言葉があまりない(poorly functioning and decliningなど?)。eGFRは保存期CKD患者が移植リストに入れる20ml/min/1.73m2未満を仮に設定。

 ②移植が早期に見込まれるか、残腎機能があるかで異なる。基本はまずantimetabolites(MMF、AZA)から減量中止。タクロリムスも減量するが、すればするほどDSAが出やすい。そのためベラタセプトに切り替える試験が進行中(NCT01921218)。

 ③免疫抑制薬を中止して起きる合併症で、典型的にはグラフトの痛みや腫脹・発熱・血尿などだが、倦怠感や炎症・ESA不応の貧血など非特異的なことも。ステロイドパルスに反応する場合もあるが、再発する場合は摘出や塞栓術を行う。

 ※グラフト摘出が感作を増やすか減らすかは、諸説あり。無くなれば免疫抑制薬は要らなくなるはずだが、術前の(摘出の理由となった)拒絶・術後の(術中出血による)輸血などの影響もあるため。

 ④透析前に再移植の評価をうける患者はかなり少なく(15%)、減少傾向にあり、社会的要因も大きい。透析開始後数年は死亡率が高く、バスキュラーアクセスなしで開始される患者が多い。CKMも選択肢として考えられ始めている。

 ⑤一般腎臓内科との連携はあまり十分ではない。誰が中心になって話をするかも不明確で、スムーズな再移植・透析移行を阻害している。英国はlow-clearance transplant clinicという多職種クリニックを作った。

 ⑥先行的再移植を行いたくても、腎機能が残っているため保険がカバーしないことがある。Medicareは、kidney care choices modelというインセンティブを試行している(2022-2026年)。

 ※いずれも著者に筆者の過去・現在の上司が含まれており、移植の世界に近づいたなあと感慨深い。また、他に参考にしたグラフト機能低下時の保存的腎臓療法についての文献(Semin Nephrol 2023 43 151401)を書いたのは、友人である。


8/14/2024

MELD 3.0

  肝移植待ち患者のスコアといえば2002年に始まったMELDであるが、当時はINR・総ビリルビン・クレアチニンの3項目であった。それが、2016年にMELD-Naに改訂され、さらに2023年にはMELD 3.0に改訂されていたことを知った。

 MELD-Naは、血清ナトリウム値が加わり、低いほどスコアが高くなる。具体的には137との差で表され、たとえば130mEq/lなら7に係数をかけたスコアがつく。ただし、137以上であれば137を用い、125未満であれば125を用いる。

 これにより移植を待っている間の死亡率は12%から6.7%に改善されたが、ビリルビン値があまり影響しないMASLD(代謝機能不全関連脂肪性肝疾患、NAFLDから改称された)、筋肉量が少なくクレアチニン値が上昇しにくい女性などに不公平との声が上がっていた。

 そこでMELD 3.0は、クレアチニンによる最高スコアがつくカットオフ値を4mg/dlから3mg/dlとし、性別とアルブミンを新たに加え、クレアチニンとアルブミン、ナトリウムとビリルビンの重み付けを変更した。

 たとえば、クレアチニン値が高くなるほど、アルブミン値が重要でなくなる。これにより「重症患者でHRSの除外・腹腔穿刺等にアルブミンを使いたいが、アルブミン値が上がってしまうとMELDスコアが下がってしまう」という悩みが軽くなった。

 米国の移植統括機関UNOSの科学部門、SRTRの統計チームが開発したもので、これにより移植を待っている間の死亡率は6.7%から5.8%に改善したという。今後、腎機能をどう正確に評価するかなどが課題である。肝疾患患者でCrの信頼性が低いことはよく知られており、シスタチンCなどが用いられるようになるかもしれない。

 なお、元祖MELDは本来、TIPSを行う際の死亡率予測に開発されたツールであり、その目的では今でも使われるという。※参考文献:Am J Gastroenterol 2024 00 1-4

 

8/03/2024

Steroid avoidance

 古くから用いられ、良くも悪くもfact of lifeとなっているステロイドだが、これだけ新しい免疫抑制薬が出ているのだから、そろそろステロイドを使わないレジメンがあってもよさそうなものである。

 そして、ステロイドを使わないレジメンは存在する。しかし、シクロスポリンの時代に拒絶が多い報告がみられたため、今でも普遍的にはなっていない。移植後1年時には米国腎移植患者の約30%がステロイド・フリーである(OPTN/SRTR 2017年次報告、in CJASN 2021 16 1264)。

 よく用いられるのは、副作用の影響がより心配で、拒絶の心配がより少ない、高齢者である。2005-2016年のMedicare加入患者を調べた結果では(Transplantation 2021 105 1840)、65歳以上の約24%がステロイド非使用レジメンであった。

 そして、6ヵ月-3年後の急性拒絶は約5%と、ステロイド使用レジメン群の8-11%よりも低かった。もちろん相関であり、ステロイド非使用レジメン群のほうが免疫学的リスクは低い。また、6ヵ月‐5年後のグラフト予後と生命予後にも差はなかった。

 また、1999-2015年の1施設報告(ミネソタ大学)によれば、ステロイド非使用レジメン群は新規糖尿病・心血管系・CMV感染症・無血管性骨壊死などの非グラフト関連合併症が有意に少なかった。

 拒絶と合併症はどちらも大事なため、結局は、”What are you trying to achieve?”ということになる。そのため、1か月以内に5mg/dまで減量することで副作用を最小限にし、そこからは生涯継続して拒絶のお守りにする、といったレジメンが多数派である。

 なお拒絶に関しては、basilisimab+ステロイド早期終了(8日目)とthymo+ステロイド早期終了(8日目)を比較したHARMONY試験があり(Lancet 2016 388 3006)、両群で生検で診断された拒絶と12か月後のグラフト・生命予後に有意差はなかった。

 ステロイド非使用患者の割合は10年以上変わっていないため、よほどすごいレジメンが見つかるまではこのままであろう。いつか、見つかるといいなと思う。


8/02/2024

Expedited Placement Variance

  献腎移植のためにprocure(獲得、調達)された腎臓のうち、20%以上は使われない。既往症・肥満など、ハイリスクなドナーからの腎臓の場合その割合は高くなり、KDPIが85%以上の腎臓は60%以上が使われない。※婉曲的にunused/not usedとも言われるし、批判的にdiscardedとも言われる。

 「良い腎臓」を届けたいという外科医の気持ちもあるし、腎臓を受け入れた際のさまざまな手間、施設の移植成績がさがる懸念、受け入れに対するインセンティブのなさなども原因と思われるが、ハイリスクな腎臓でも十分に生命予後を改善させることから、近年使われない腎臓の割合を減らす圧力が強まっている。

 そんななか、2023年12月21日に(やや唐突に短い準備期間のあとで)国の移植を司る機関、OPTNから発表されたのが、Expedited Placement Varianceである。Open offer、out of sequenceなどとも呼ばれる。

 これは、これまでの移植待ちリストとは関係なく、「高リスクの腎臓を受け入れます」と意思表示した移植施設に優先的に高リスクの腎臓を受け入れる権利を与える。さらに、移植施設は自分たちで「この腎臓で最も利益を得られるのは誰か」を考えて、その患者をレシピエントにすることができる。

 移植待ちリストの順番にやると、A市のX病院に断られ、次はB市のY病院に・・と言っている間に臓器のCITが延びてしまうだけでなく、手間も大きく、最終的にその腎臓は使われなくなりがちだ。しかし、新しい提案では、たとえ第一候補患者が急遽無理になっても(当日COVIDにかかるとか、移植までに感作されてクロスマッチが陽性になってしまうとか)、第二候補患者に待機してもらうことができる。

 しかし、米国腎臓学会と米国腎臓財団は、いずれもこの提案に懸念を示している。

 もちろん両団体ともに臓器が使われるようにすることには賛成だ。しかし、いちばんの問題は、透明性と公平性だという。「そもそも、新しいvarianceという例外を認める前に、今の割り当てシステム(allocation system)を直すべき」「utility、equity、transparencyはいずれも大事な3本柱であり、1つのために他の2つを犠牲にしてはならない」と言うわけだ。

 それでも、米国らしく、とにかく第一歩から始めなければならない(You've got to start from somewhere)という認識は全員一致しており、両団体とも「ここをこう直しましょう」という提案で文書を締めくくっている。


8/01/2024

Global Payment and Immuno Bill

  移植医療も腎代替療法の一つであり、透析と同様に保険適応となる。Medicare Part A(入院診療の保険)は:

・入院治療費

・腎臓登録費

・レシピエントとドナーの評価費用

・腎臓を見つけるための費用

・ドナーの術後に発生した問題の入院治療費

・輸血、血液製剤

 などをカバーする。また、ドナーのケア(術前、手術、術後を含む)も含まれ、ドナーのケアについてはレシピエント・ドナーともに自己負担は発生しない。

 Medicare Part B(外来診療の保険)は、輸血、血液製剤、移植手術とドナー入院治療のdoctors' servicesをカバーするほか、移植がMedicare保険で行われた場合には免疫抑制薬をカバーする。

 こうしたルールは医師よりも事務のほうが詳しく、例外などもあって複雑であるが、耳にしたことが二つある。一つはglobal paymentで、移植後3ヵ月間については内科・外科・泌尿器科などを含めた包括的な治療費が支払われる。理論上は、経過良好な症例が多いほど施設のもうけが多くなる。

 もう一つは2020年に可決されたImmuno Bill(Immunosuppressive Drug Coverage fo Kidney Transplant Patients Act)で、これにより免疫抑制薬が生涯カバーされるようになった。それまでは3年間しかカバーされなかったため、3年目からグラフト成績が低下するという如実な結果がみられていた。


Preoperative BP and DGF

  腎移植を受けるうえでの禁忌といえば、管理不良の感染症、悪性腫瘍、喫煙、低アドヒアランスなどを思いつくかもしれないが、大事なものの一つが低血圧である。そのため、長年の糖尿病による起立性低血圧や長年の血液透析による低血圧は、腎移植を考慮するうえでの大きなハードルになる。

 周術期の低血圧がグラフト予後に及ぼす影響を明快に示した論文がある(Clin Transp 2022 36 e14776)。ピッツバーグ大学のグループによるもので、献腎移植をうけたレシピエント562人を調べたところ、術前のMAPが1mmHg低下するごとにDGFのリスクが2%上昇していた。


 術前低血圧は糖尿病や透析年数と相関していたが、ほかにもBMIに相関しており、BMIが高いほど血圧が低い傾向がみられた。経験的に分かっていたことが、ここまでクリアに示されると、調べた人に脱帽する。

 [2024/8/22追記]透析中・後の低血圧に対して用いられるミドドリンがDGFリスクとなることを示した米国透析レジストリの後方視解析は2016年に発表され(Transplantation 2016 100 1086)、"a newly identified risk marker"と題されていた。相関であるが、移植前のミドドリン使用群は非使用群に比べてDGFが有意に高く(32% v. 19%、p < 0.05)、多変量解析後のハザード比は2.0(95%CI 1.18 - 3.39)であった。


ddcfDNA and RNA signiture

  腎臓の働きが異常な時には、腎臓に何かが起きているはずで、究極的には腎臓を生検して組織を調べる。だが、それ以外の方法となると、蛋白尿とクレアチニンくらいしかない。しかし、蛋白尿とクレアチニンは非特異的なため、もうすこし特異的に「この値が異常(あるいは正常)なので、拒絶である(あるいは拒絶ではない)」と言える検査を人々は探した。

 より普及しているのはddcfDNA(donor-derived cell-free DNA)で、血液中の細胞遊離DNAに占めるドナー由来DNAの割合を調べる。この割合が高ければ(カットオフは1.0%であるが、トレンドも重要である)ドナーの細胞が破壊されたことを意味する。AlloSure®とProspera®の2商品があり、前者が行ったDART試験(JASN 2017 28 2221)はddcfDNAがFDAに認可されるきっかけとなった。

 ただし、ddcfDNAは拒絶以外の細胞傷害(尿細管壊死、BKウイルス腎症など)でも陽性となるため、特異度は高くない。その反面、negative-predictive valueは80%以上と高いため、本来は「陰性だから大丈夫(assured)」という検査である。・・が、実際にはこの検査が陰性でも腎生検は行われる。そして、たいてい拒絶ではないが、CNI毒性などが分かればbelataceptに切り替える。

 次世代の検査に、RNA signitureがある。これは、患者血液のRNAを調べることで同定された拒絶で転写される遺伝子群の動きを検知するものだ。2021年に56才で亡くなったBarbara Murphy先生が中心になって進めてきた遺業であり、彼女と深いかかわりのあるVerici DX社のTutivia®のほかに、Trugraf®がある。前者は移植早期の拒絶、後者は移植後期の拒絶を調べるため、扱う遺伝子群は全く異なる。

 Tutiviaの診断確度を前向きに検証した試験(AJT 2024 24 436)によれば、positive predictive valueは75%、negative predictive valueは63%とさほど高くはなかったが、BKウイルス腎症ではこれらの遺伝子に動きがみられなかった点は興味深い(もっとも、それだけでBK腎症をrule inすることはできないが)。

 今はまだ、いずれの試験も「高いわりに・・」の感は否めない(Tutiviaは今のところ会社が検査費用を負担している)が、新しい診療の始まりという気がする。