筆者は以前、透析患者さんに「移植は10年しかもたないからねえ」と言われ、ハッとしたことがある。10年先のことすら頭に入れていなかったのだから、「あたかも一万年も生きるかのように行動するな」と言ったマルクス・アウレリウスが聞いたら、さぞかし落胆するだろう。
患者さんのおっしゃる通りで、米国データでは生体腎の平均寿命は約12年、献腎の場合は質により、KDPI 20未満で11年、20-95%で9年、95%以上で6年である。余命にもよるが、多くの人にとって移植というのは、したらそれで終わりというものではない。
しかし、筆者に限らず、腎移植・腎臓内科スタッフと患者さん、どちらもその準備はあまりスムーズにできていない。その結果、再移植のタイミングを逸したり、透析開始前後の死亡やトラブルが起きがちである。
そこで、「問題あれば解決あり」というわけで、「備えあれば憂いなし」を目指す大きなカンファレンスが2020年代に2つ行われ、それぞれ発表された。一つ目は米国移植学会によるもの(AJT 2021 21 2937)、二つ目はKDIGOによるもの(KI 2023 104 1076)だ。
どちらも大意は同じで、主な論点は①定義、②免疫抑制薬、③グラフト不耐症候群(intolerance syndrome)、④腎代替療法の再選択、⑤一般腎臓内科との連携、⑥保険や政策である。簡単にまとめると:
①定義:failureという言葉は印象が悪いが、他に言葉があまりない(poorly functioning and decliningなど?)。eGFRは保存期CKD患者が移植リストに入れる20ml/min/1.73m2未満を仮に設定。
②移植が早期に見込まれるか、残腎機能があるかで異なる。基本はまずantimetabolites(MMF、AZA)から減量中止。タクロリムスも減量するが、すればするほどDSAが出やすい。そのためベラタセプトに切り替える試験が進行中(NCT01921218)。
③免疫抑制薬を中止して起きる合併症で、典型的にはグラフトの痛みや腫脹・発熱・血尿などだが、倦怠感や炎症・ESA不応の貧血など非特異的なことも。ステロイドパルスに反応する場合もあるが、再発する場合は摘出や塞栓術を行う。
※グラフト摘出が感作を増やすか減らすかは、諸説あり。無くなれば免疫抑制薬は要らなくなるはずだが、術前の(摘出の理由となった)拒絶・術後の(術中出血による)輸血などの影響もあるため。
④透析前に再移植の評価をうける患者はかなり少なく(15%)、減少傾向にあり、社会的要因も大きい。透析開始後数年は死亡率が高く、バスキュラーアクセスなしで開始される患者が多い。CKMも選択肢として考えられ始めている。
⑤一般腎臓内科との連携はあまり十分ではない。誰が中心になって話をするかも不明確で、スムーズな再移植・透析移行を阻害している。英国はlow-clearance transplant clinicという多職種クリニックを作った。
⑥先行的再移植を行いたくても、腎機能が残っているため保険がカバーしないことがある。Medicareは、kidney care choices modelというインセンティブを試行している(2022-2026年)。
※いずれも著者に筆者の過去・現在の上司が含まれており、移植の世界に近づいたなあと感慨深い。また、他に参考にしたグラフト機能低下時の保存的腎臓療法についての文献(Semin Nephrol 2023 43 151401)を書いたのは、友人である。