2/17/2025

扉の向こうから、扉のこちら側へ

  日本の腎移植は世界一、とよく言われるが、べつに過大評価ではない。腎グラフト予後・生命予後については、本当に世界一なのだろうと思う。極めて限られた少数の低リスク症例に行ったあと、極めてきめ細かにフォローするからだ。それに、生体腎移植がほとんどだ。

 もし日本がもっと献腎移植をするようになって、もっとリスクの高い患者(高齢、多くの併存疾患、肥満、長い透析年数、高度のHLA感作)にも移植するようになったら、腎グラフト予後と生命予後は、現状より下がるかもしれない。

 それをどこまで許容するかは、医療者側と、患者側と、社会が決めること。

 ただ、自分は移植がもっと一般的な医療がどんなかを診てきた。元気な人もいたし、元気でない人もいた。順調な人もいたし、大変な人もいた。透析のほうがましといった人もいたし、それでも透析よりはましといった人もいた。かなりアグレッシブでリスクを取る移植施設で学べたおかげで、夢ばかりでなく現実も診られて、よかった。

 腎臓内科医(少なくとも、今回勉強するまでの私)にとって移植は「扉の向こう」の遠い話だった。でも扉の向こうにいる今は、腎移植がもっと一般的な医療のほうがいいなと思う。

 いずれにせよ、もっと腎移植をするようになったら、もっと人手が必要になることだけは、間違いない。

 たとえば、外科医、泌尿器科医(外科医が泌尿器科医でない場合)、腎病理医、HLAラボの医師とスタッフ、感染症科医、循環器科医、麻酔・ICU医、手術室スタッフ(献腎移植は緊急になるうえ、生体腎移植はドナーとレシピエントの入室時間をコーディネートしなければならない)、移植前・移植後コーディネーター、薬剤師、臓器移植ネットワーク(献腎の意思確認などを行う係)、臓器の摘出を行う係、搬送する係、透析室スタッフ(入院中、退院後の不規則な透析スケジュールに付き合ってもらわなければならない)・・まだまだ、ある。

 つまり、腎臓内科医が一人いたって何にもならない。でも、人は考える葦だから、考えを伝えることはできると信じたい。