VXMについて10月に少し勉強したが、先日ASTのレクチャがあって、フローではなくVXMを基準にして腎移植を行っている施設の先生が講演していた。VXMが陰性なら、たとえフローが陽性でも構わず移植を行っている(2003年から)というが、大丈夫なのだろうか?
結論から言うと、「VXM陰性+フロー陽性」群と、「VXM陰性+フロー陰性」群の間にグラフト予後・急性拒絶・急性抗体関連拒絶などに有意差はなかった(AJT 2016 16 1503)。
なぜか?
VXMといっても要はDSA検索であるから、「VXM陰性+フロー陽性」とは:
・DSAによらないフロー陽性
・VXMで見つからなかったDSAによるフロー陽性
の二つが大きく考えられる。前者にはnon-HLA抗体、自己抗体などの可能性があるが、DSAではないので、そんなフロー陽性に臨床的な意味はないということなのだろう。その立場に立てば、フロー偽陽性が多くの移植機会を逸していることになる。
いっぽう後者には①VXM検体採取から移植までの間におきた感作イベント、②VXM性能が不十分(DP、Cwなどは検知していなかった時代もあった)、③歴史的DSA、④共有抗原などが考えられる。
①は、より最新な検体を使用することや、感作の病歴をチェックすれば防げるかもしれない。②は、いまではVXMの性能が上がってすべてのHLA DSAを測定するようになった(ただし、「VXM陰性+フロー陽性」率は10数パーセントのままで、その割合は下がらなかった)。
③は、記憶されている以上リスクであり、定期的にHLA抗体をフォローしている場合は、過去の抗体歴を知っておくに越したことはない。しかし、だからといって移植をしてはいけないというほどのリスクではないかもしれない。④は、エピトープ解析が進んだ現在はピックアップできる。
論文には感作(PRA>0)患者118例も含まれていたが、腎予後に有意差はなかった(PRA≧80に限っても、有意差はなかった)。
Terasaki先生による歴史的なクロスマッチの論文(NEJM 1969 280 735)が発表されて56年。あれから、超急性期拒絶は過去のものとなりつつあり、免疫抑制薬も進歩し、DSAの検出能力も進歩した。現場にいても、多少であればDSAが移植におよぼす影響はほとんど感じない。DSAによく効くbelataceptもある。
HLA labの負担も考えて、そろそろVXMに移行する時期なのかなと思う。
それにしても、すごい時代だな。