2/21/2025

Letermovir and Tacrolimus

  CMVの予防でValgancyclovirの代替で用いられるLetermovirは、CYP450の阻害作用があるため、タクロリムス濃度を上げる。Fluconazoleやitraconazoleもそうだが、こういった薬が入っている患者は、それを気にしていないと、薬が終了したときにタクロリムス用量調節が変わるのでワタワタする。

 それにしても、あたかもワーファリンのようにチョコチョコ濃度を測って、ワーファリンよりも狭い治療域(6-8、8-10など、幅にしてみれば2ng/mlしかない!)を狙って用量調節するのは、腎障害や振戦と並び、タクロリムスの不都合な点の一つである。用量調節の不要な薬がでないかな・・と思う。もちろんベラタセプトはあるが。治験中の薬では、Tegoprubartが最も実用に近いかな。

Feels so good

 移植腎生検を経皮的に超音波ガイドで行っている者からすると、手術室で露出された腎グラフトを目視で生検するなんて、それ以上に簡単な手技はないように思われる。・・が、針を深く進めて髄質しか取れなかったり、処理を間違ってしまったり(凍結してしまう、別の保存液に入れてしまう・・)で、有益な情報が得られないことがある。

 そんな時には、自分が手術室に入って実際に正しいやり方を見せるのが、最も効果的である。ただ、そのためだけに手術室に行くのは手間だし忙しいので、結局「こうやるんだよ」というだけでなかなか解決せずにいた。それで、このあいだ研修の一環で手術を見学した際にpost-perfusion biopsyを実演した。

 すると、最初は「それじゃあ検体は取れていないのでは?」と不審がられ、適正な検体が取れているとわかると「こうやるのか!」と驚かれ、「これからはそのやり方でやるよ!」と感謝された。さらに、腎臓内科スタッフも腎病理医もカンファレンスで非常に喜んでいた。ちょっとしたことで大きなインパクトを残せるのは、気分がいい。

2/17/2025

扉の向こうから、扉のこちら側へ

  日本の腎移植は世界一、とよく言われるが、べつに過大評価ではない。腎グラフト予後・生命予後については、本当に世界一なのだろうと思う。極めて限られた少数の低リスク症例に行ったあと、極めてきめ細かにフォローするからだ。それに、生体腎移植がほとんどだ。

 もし日本がもっと献腎移植をするようになって、もっとリスクの高い患者(高齢、多くの併存疾患、肥満、長い透析年数、高度のHLA感作)にも移植するようになったら、腎グラフト予後と生命予後は、現状より下がるかもしれない。

 それをどこまで許容するかは、医療者側と、患者側と、社会が決めること。

 ただ、自分は移植がもっと一般的な医療がどんなかを診てきた。元気な人もいたし、元気でない人もいた。順調な人もいたし、大変な人もいた。透析のほうがましといった人もいたし、それでも透析よりはましといった人もいた。かなりアグレッシブでリスクを取る移植施設で学べたおかげで、夢ばかりでなく現実も診られて、よかった。

 腎臓内科医(少なくとも、今回勉強するまでの私)にとって移植は「扉の向こう」の遠い話だった。でも扉の向こうにいる今は、腎移植がもっと一般的な医療のほうがいいなと思う。

 いずれにせよ、もっと腎移植をするようになったら、もっと人手が必要になることだけは、間違いない。

 たとえば、外科医、泌尿器科医(外科医が泌尿器科医でない場合)、腎病理医、HLAラボの医師とスタッフ、感染症科医、循環器科医、麻酔・ICU医、手術室スタッフ(献腎移植は緊急になるうえ、生体腎移植はドナーとレシピエントの入室時間をコーディネートしなければならない)、移植前・移植後コーディネーター、薬剤師、臓器移植ネットワーク(献腎の意思確認などを行う係)、臓器の摘出を行う係、搬送する係、透析室スタッフ(入院中、退院後の不規則な透析スケジュールに付き合ってもらわなければならない)・・まだまだ、ある。

 つまり、腎臓内科医が一人いたって何にもならない。でも、人は考える葦だから、考えを伝えることはできると信じたい。

 

 

Inauguration

  米国大統領就任式をinaugurationと言うが、その語幹であるaugurとは、古代イタリア(エトルリア、ローマ)にあった神職で、主な役割は「鳥の鳴き声や飛翔状況を観察して、その状況を基に神の意思を示すこと」だったという。Augurは、当時はAuspex(avis「鳥」+spicio「観る」)とも呼ばれたが、そのうちAugurに統一された。

 なおローマ時代のVは現在のUだから、avisといっても「アウィス」と読む。そう聞くと、フランス語で鳥を意味するoiseau(オワゾ)、ガチョウを意味するoie「オワ」の元になっていることにも納得できる。ただし、ガチョウのoieは元々oeで、12世紀にoiseauに合わせてiが加わったという説もあるという。

GLP1RA and CKD

  SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず心不全、慢性腎臓病などに適応が拡大した。いっぽうGLP1受容体アゴニストは、糖尿病に適応が通ったあと、同じ薬が違う名前で肥満治療に適応され、SGLT2阻害薬と違う展開になっている。

 だが、GLP1受容体アゴニストも、SGLT2阻害薬と同様に心血管系疾患と慢性腎臓病の進行を遅らせることが示されていることに代わりはない。心血管系疾患についてはすでに「確立した心血管系疾患のある糖尿病患者で心血管系疾患のリスクを下げる」という適応が通っていた。

 そして2025年1月28日には、Ozempic(セマグルチドの、ジェネリックではなく、肥満用でもないほう)が「CKDのある糖尿病患者で腎臓病の進行・腎不全(末期腎不全)・心血管系死亡リスクを下げる」というFDAの適応承認を受けた。

 ただ、糖尿病のないCKD患者に適応が拡大したわけではない。糖尿病のない患者を対象にした大規模スタディにSELECT試験があるが、プライマリ・アウトカムは心血管系イベントであった(腎臓はセカンダリ・アウトカムであった)。適応拡大には、別にスタディが必要だろう。

  

Meds alarm

 8時に外来が始まり、一人目か二人目の患者を診ていると9時が来る。すると、患者のスマートフォンにセットされたアラームが鳴る。12時間ごと(あるいは徐放で24時間ごと)に内服する、タクロリムスを飲む時間だ。

 9時である必要はないが、内服時間は決まっているので、アラームはよい考えだなと思う。ついでに薬と水も持っていなければならないが(外来では、給水機でも提供できる。薬は、さすがに皆持ってきている)。

 薬と言えば、旅行に出かける際には薬を手荷物に入れておくように、と必ずコーディネーターがアドバイスしている。預け荷物に入れて、荷物ごとどこかに行ってしまったら困るためだ。 

 

Resulted, 100%

  検査結果が出ることを、resultedと言うのは、今回初めて聞いた。It's not resulted yet(まだ結果が出ていない)などのように用いられる。また、「まったくその通り」という意味で100%(hundred percent)という表現も、今回新たに耳にした。Absolutelyなどよりよく使われている印象がある。

2/12/2025

VXM 2

  VXMについて10月に少し勉強したが、先日ASTのレクチャがあって、フローではなくVXMを基準にして腎移植を行っている施設の先生が講演していた。VXMが陰性なら、たとえフローが陽性でも構わず移植を行っている(2003年から)というが、大丈夫なのだろうか?

 結論から言うと、「VXM陰性+フロー陽性」群と、「VXM陰性+フロー陰性」群の間にグラフト予後・急性拒絶・急性抗体関連拒絶などに有意差はなかった(AJT 2016 16 1503)。

 なぜか?

 VXMといっても要はDSA検索であるから、「VXM陰性+フロー陽性」とは:

・DSAによらないフロー陽性

・VXMで見つからなかったDSAによるフロー陽性

 の二つが大きく考えられる。前者にはnon-HLA抗体、自己抗体などの可能性があるが、DSAではないので、そんなフロー陽性に臨床的な意味はないということなのだろう。その立場に立てば、フロー偽陽性が多くの移植機会を逸していることになる。

 いっぽう後者には①VXM検体採取から移植までの間におきた感作イベント、②VXM性能が不十分(DP、Cwなどは検知していなかった時代もあった)、③歴史的DSA、④共有抗原などが考えられる。

 ①は、より最新な検体を使用することや、感作の病歴をチェックすれば防げるかもしれない。②は、いまではVXMの性能が上がってすべてのHLA DSAを測定するようになった(ただし、「VXM陰性+フロー陽性」率は10数パーセントのままで、その割合は下がらなかった)。

 ③は、記憶されている以上リスクであり、定期的にHLA抗体をフォローしている場合は、過去の抗体歴を知っておくに越したことはない。しかし、だからといって移植をしてはいけないというほどのリスクではないかもしれない。④は、エピトープ解析が進んだ現在はピックアップできる。

 論文には感作(PRA>0)患者118例も含まれていたが、腎予後に有意差はなかった(PRA≧80に限っても、有意差はなかった)。

 Terasaki先生による歴史的なクロスマッチの論文(NEJM 1969 280 735)が発表されて56年。あれから、超急性期拒絶は過去のものとなりつつあり、免疫抑制薬も進歩し、DSAの検出能力も進歩した。現場にいても、多少であればDSAが移植におよぼす影響はほとんど感じない。DSAによく効くbelataceptもある。

 HLA labの負担も考えて、そろそろVXMに移行する時期なのかなと思う。

 それにしても、すごい時代だな。


OOS

  半年前に話題にしたexpedited placement varianceが、AJTの表紙に取り上げられた。いまでは論文・学会などではout of sequence、OOSと呼ばれることが多い(移植施設内では、自分たちでどの患者に移植するかを決められるためopen offerと呼ばれる)。衝撃なのは、いまやOOSが米国腎移植の20%を占めるようになったことだ。

2025年2月号AJT表紙

 移植待ちリストに従って移植施設に声を掛けても断られ続けた腎臓をOOSに回すことで、捨てられる運命を回避しているはずで、絵のように待っている人がいるのに「横入り」をしているわけではない・・はずである。

 しかし、「捨てるべからず」のプレッシャーが強くかかっているOPO(臓器調達機関)にしてみれれば、OOSで受け取ってくれるという当てがある移植施設は有難い存在で、中には通常の手続きを経ず直接OOSに回しているケースもあった。特定の移植施設との「パイプ」も、明らかになった。

 問題は、OOSの腎臓と通常手続きの腎臓の質が必ずしもはっきり分かれていないことである(赤が通常手続き、緑がOOS、青が移植されなかった腎臓)。これでは、横入りといわれても仕方がない。患者にしてみれば、OOSをたくさん受けれる施設に登録した方がお得、ということになる。


AJT 2025 25 343

 また、OOSで移植された患者はより高齢(腎臓の耐用年数が短いと見込まれるため)なだけでなく、白人・アジア系・女性がより多いといった偏りも明らかになり、公平性に大きな疑問符が付いた形だ。

 OOSを始めれば、移植件数を増やしたい施設がどんどん参加して、いろんな偏りと不透明さが生まれるであろうことは目に見えていた。通常手続きのなかで何とかする方法があればよかったのだろうが、見つけられなかったのだから、仕方がないとも言える。

 今後「OOSありき」になれば、移植施設ごとのOOS件数や、OPOごとのOOS腎臓の提供先などが開示されるようになるかもしれない。あるいは、通常手続きのなかで何とかする方法を誰かが編み出すかもしれない(そして、その人達には臓器割り当てで2度目のノーベル賞が与えられるかもしれない?)。



2/11/2025

Orthostatic test

 移植腎の機能に最も高頻度で影響するのは、拒絶・・ではなく血行動態で、体液量や血管調節機能の評価に最も重要な診察の一つが起立性低血圧のチェックである。ただし、臥位→座位→立位で血圧と脈拍を測定するのは結構手間だが、巨大な診察台を傾斜させて行うtilt testよりはずっと簡便なので、わりと高頻度で行われる。

 今いる施設の外来では、医師が自らやらなくても、バイタルサインを測定する係(physician assistantか)に言えばやってくれるし、結果を知らせてくれる(カルテにも載せてくれる)ので有難い。入院では担当看護師さんにお願いするが、バイタルの表には載らず、看護記録に載るので、探すのが少し大変なことがある。

 ただ、グラム染色などと同じで、医師がやるとinter-operator variabilityがまちまちになるうえ、それを基に点滴するか(グラム染色ならどの抗菌薬にするか)などを決めることも考えると、いつもやっている慣れた人がやってちゃんと記載するほうが質が確保されるようにも思われる。

 

Calcinosis cutis

  異所性石灰化の結節病変といえば、calciphylaxis(またはCUA、calcified uremic arteriolopathy)で診られるような大きいものを想像していたが、疣贅くらいの大きさなこともある。

 そして、広義にはcalcinosis cutisという概念があり、腎障害やカルシウム・リンの異常によって起きるものをmetastatic calcinosis cutisと言う。他にも、皮膚の異常や炎症などその他の原因によって起こるものなどさまざまだ。

 たとえば、dystrophic calcinosis cutisは強皮症・皮膚筋炎・SLEなどに関連する。PCT(porphyria cutanea tarda)は耳介・頭皮・頸部・手背など日の当たる場所に主に石灰化する。遺伝疾患(genodermatoses)ではpseudoxanthoma elasticum、Werner syndrome、Ehlers-Danlosなど。腫瘍性疾患ではpilomatrocoma、pilar cystなど。感染症ではonchoceriasis、cysticercosisなど。

 他にも原発性(idiopathic calcification of the scrotum、subepidermal calcified nodule、tumoral calcinosisなど)、医原性(カルシウム製剤の血管外漏出、脳波や筋電図の電極など)などがある。

2/08/2025

Unilateral v. Consensus

  治療方針を自分で決めてしまうと、あとで何かあったときに自分でしか責任を取れない。治療方針を合議すると、責任は薄まるが、百家争鳴して結局何も変わらない(責任を取る人の言いなり)になりがちだ。

 責任を取る人が必ずしも責任を取れないこともあるし、現場から見て効果・リスクともにベストだと治療方針があるのなら、それは信じた方がいい。少し根回しすると、意外と(全会一致ではないにしても)複数・多数の人が同じ意見なこともある。

 

Xeno Trials

 いままで実験的に行われてきた異種移植が、ついに治験として行われるようになった。臓器を提供するUnited Therapeutics CorpとeGenesisの2社によるもので、医学的な理由で移植を受けられない(または移植を受けるまでに5年以上かかると見込まれる)患者が対象だ。

 2024年11月に移植を受けたTowana Looneyさんが、いままでの患者さんと違ってよい経過であることも後押ししたかもしれない。ちなみに彼女は1999年に彼女の母親に腎臓を提供したドナーである。その後妊娠に関連する腎臓病となった。

 ドナーが万一腎臓移植が必要になった場合、待ち患者リストのトップにくることになっている。しかし彼女は感作されていたため、透析を始めて7年たってもドナーは見つからなかった。異種移植は、少なくとも抗HLA抗体の影響は受けない(HLAとはhuman leukocyte antigenの略である)。

 ただ、もし彼女にHLA適合の献腎(または生体腎)ドナーが現れたら、どうするのだろう?彼女に限らず、移植待ちリストに載っている治験参加者にも言えることだが・・。おそらく、異種移植腎が機能している限りは、オファーを見送ることになると思われる。異種移植が何年もつのかは、まだわからない(動物でのデータならあるのだろうが)。

 すべてはこれからだ。

 だが、すべてがここから始まる。

 

General nephrologist mind

 移植腎臓内科医になると、一般腎臓内科医の仕事をしなくなることが多い(大きな移植プログラムであればなおさらだ)。すると、考え方に一般腎臓内科医と開きがでてくる。たとえば、浮腫などがない限り、利尿薬を使うことをためらいがちになる。難治性高血圧の定義は利尿薬を含む降圧薬3剤に抵抗性なこと(や、CNIによる高血圧に対してはサイアザイドが理にかなっていること)は知りつつも、利尿薬なしの3剤で「血圧が管理できない」と嘆いたりする。同様に、蛋白尿などがない限り、RAA系阻害薬もなかなか使わない。ESAの使用頻度も、低い印象がある(もっとも、だいたい患者は機能的鉄欠乏=利用障害があるので、HIF-PH阻害薬のほうが有効だろうが:米国ではまだあまり使われない)。

Proximal

  移植腎の血流といえば一番気にするのは移植腎動脈狭窄であるが、ときにはその上流、総腸骨動脈などに狭窄がある場合もある。移植外科医は腎動脈を吻合するターゲットを探すので総腸骨動脈や外腸骨動脈について意識することが多いが、移植内科医はどうしても腎臓周囲にばかり意識が向きがちなので、注意が必要だ。

Isolated V lesion

  Banff基準にはi、t、g、ptcなどさまざまな項目があるけれども、vは血管病変のことである。多くは拒絶に関係するが、時には内膜動脈炎(intimal arteritis)がその他の拒絶所見なしで単独にみられることがある。移植後早期に見られることが多く、これが拒絶か拒絶でないかは、治療に関わる重大な問題である。

 そこで近年議論されているが、RT-qPCRによって遺伝子転写パターンを調べたグループによれば、早期(術後1か月以内)+C4d陰性+DSA陰性の単独V病変例の転写パターンは拒絶パターンではなかった(Clinical Science 2018 132 2269)。そのため、虚血後再灌流など免疫を必ずしも介さない傷害である可能性が示唆された。また、移植腎動脈狭窄が見つかった報告もある(Transplant Proceedings 2021 53 2536)。


 

Agent regret

  以前double effectについて学ぶ機会があったが、今度はagent regretについて学ぶ機会があった。「良かれと思って起きた悪いことは仕方がない」というdouble effectは気持ちを楽にしてくれるが、「自分のせいなわけでも意図したわけでもないけれど、自分がしたことで結果的に起きた悪い事に対する申し訳ない気持ち」が起きるのも無理からぬことである。それが、agent regretである。この言葉を最初に使ったのはBernard Williamsだという。

 そもそも、agent regretを感じるべきなのか?にも議論がある。感じるべきとまでは言えない(周囲がagent regretを期待する場合もある)が、当事者(行為者)であることで感じてしまうものなのかもしれない。しかし大事なことは、それからどうするかである。自分にはどうにもできないことがある、けれど、自分にどうにかできることもある。そのうえで、どう生きるか(Topol 2024 43 447)。




2/06/2025

Biopsy pearls

  移植腎の周囲が瘢痕などで硬い場合、押し返されて生検針がうまく射出せず、刺さりはするが検体は得られない(トリガーの半分しか開かない)ことがある。生検針をしっかり持ってトリガーを引くか、瘢痕を確実に超えてからトリガーを引くかであるが、後者の場合は腎臓より深いところまで刺入する恐れがあるので、厚め(で深いところに何もない)場所を選ぶ必要がある。

 時々、生検針がシャドーを引いて、針先がまだ腎臓に達していないのにシャドーが腎臓のなかに見えることがある。そんな時は、シャドーであるという確信が持てるまでは深入りしない方がいいが、シャドーであると確信できるなら深く入らなければならない。確信を持つには、徐々に刺入することで針先を見失わないようにすること。それから、検査技師さん(technicianよりも、ultrasonographerというと、聞こえがいい)の目を借りること。


Push back, move forward

  今回の米国生活で初めて聞いたイディオムに、push backとmove forwardがある。Push backは、postponeの意味。Backというが日にちは先なので、慣れるまで少し違和感があった。Move forwardはfrom now onの意味で、moving forwardと句にして使われる。

Big Change

  移植後に腎機能があまりよくない患者さんが心配したり不満だったりするのはよくあることだが、腎機能がよいからといってハッピーかと言うと、必ずしもそうではない。術後はとくに何かと症状がある場合もある。

 また、術後しばらくたった患者でも、生活が大きく変わったことで戸惑うことがある。透析に慣れて、友達もいたのに、透析から解放されて、友達とも会わなくなって、さあどうしよう・・と途方に暮れるのだろう。

 腎移植内科医はそんな時、「ともかく、腎臓はちゃんと働いています」と伝えがちだが、悩みの原因は腎機能ではない(腎機能がよいことによる悩み、とも言える)ので、そんな時はカウンセラーや精神科を紹介する。

Big Country

  米国は広大なので、車で2-3時間のところに住む患者さんもけっこういる。ただ、定期的な検査は近くにある分院または検査会社(Questなど)でできるし、診察もビデオでできるので、なんとかなる。また、1年経つと地元の一般腎臓内科医にケアをお願いする。

 私たちは年1回しかみない;ただし、診る必要がある患者はlong-termという枠で定期フォローする。何年移植施設で診るかはまちまちで、ずっと診つづけるという施設もある。

 通えないところから移植を希望して受診する場合もあり、そういう時には病院の近くに住居を確保するか、親せきや友人の家を利用するか、になる。献腎移植の場合は手術の予定が組めないので、少し困る。いつでも乗れる航空券を持っている、という人もいた。

 それにしても、米国は広大なので、何をするにも移動に時間がかかる。これは患者に限ったことではなく、たとえば「カンファレンスが〇〇州である」といっても、飛行機で4時間+時差2時間、といったことになる。2泊3日程度だと、最初と最後は実質移動日になってしまう(よほど早いまたは遅い便なら別だが)。


 

2/05/2025

Pulmonary hypertension

  移植前評価では必ず心機能を評価するが、なかでも重要なのが肺高血圧だ。高度の肺高血圧があると、黄色信号が点灯する。その理由は、心腎症候群・低心機能を反映していると考えられるためだ。

 ただ、肺高血圧にも肺血管・肺・その他などさまざまあり、なかでも体液過剰のサインである場合には、透析によって体液除去を図るなどで改善が見込める。また、過剰血流内シャントなどの場合にも、それを治療することで改善が見込める。もちろんPAHであれば血管拡張薬などの適応となるが、あまりそういったケースにはお目にかからない。

 ここまでだと、臨床で経験する事実と、ちょっと指導医に質問して得た耳学問の域を出ない。もう少し、調べてみよう。

2/02/2025

Tacrolimus Rapid Metabolizer

  タクロリムスの代謝が速い患者は、ピークが高くトラフが低くなる。そのため、トラフが低いからと言って用量をあげると、ピークが高くなってしまい、振戦・混乱などの副作用が出やすくなる。また、代謝が遅い患者にくらべてAUCが小さいため、ステロイドやMMFをある程度しっかり効かせておかないと、「3薬のつもりが2.2薬」というunder-immunosuppressionになる恐れがある。こうした問題点があるため徐放のEnvarsus®があり、そのほうがいろいろ安定はするが、代謝の早い患者では引き続き注意が必要だ。

Labs and Studies

  米国ではCRPを(膵炎、冠動脈疾患リスクとしての高感度CRPなどを除き)測らないので、白血球数に対する信頼度が高い。なので、無症状で「まあ移植後でステロイド高用量なので高くもなるでしょう」と思っている時でも、しっかり感染症の除外をしに行く。

 検査値といえば、カリウムに対する動きもしっかりしている。基準値から少し外れただけでも、必ず対処する。高カリウム血症が起りやすい(CNI、ST合剤、高血糖=インスリン不足、グラフト機能があまりよくないなど)ため先手を打っておく必要があるのと、心血管系疾患の合併が多く低カリウム血症による不整脈のリスクが高いためだろう。

 また、これも検査値だがQTcを非常に気にする。影響する薬剤(フルコナゾール、キノロン系など)を用いる際には、その前に必ず心電図をとる。

 

Desensitization

  脱感作は、特定の生体ドナーに対する抗HLA抗体を対象にする場合と、不特定の適合献腎ドナーが見つかりやすくする場合がある。

 ※ただし前者の場合も、あまりにも抗HLA抗体の抗体価(にある程度まで相当するMFI)が高い場合には、無理なのでスワップを模索する。患者に提供したい生体ドナーは別の患者に移植し、そのかわり他の生体ドナーから移植提供を受ける道であるが、その場合も適合ドナーが見つかりやすくするために脱感作が必要になる。

 適合献腎ドナーを見つかりやすくする方法は、ちょっとトリッキーである。なぜならば、臓器割り当てルールが改正されたからだ。高度感作患者は非常に高いポイント(200点)が与えられて、適合ドナーがいた場合リストのトップにくる。また、広いドナー検索範囲(アメリカ全国)から適合ドナーを探せる。

 これにより、ポイントがもらえなく(ドナー検索範囲が狭く)なりすぎない程度に脱感作したほうが、適合献腎ドナーが見つかりやすくなった。

 そして、リストする抗HLA抗体の選び方も重要になった。移植施設は、たとえば「この患者さんの抗A2抗体はMFIが3000ですが、うちは5000までは不適合とみなさず、リストには載せないことにします」と言える裁量がある。そうすれば、A2のドナーもこの患者さんに回ってくることになる。回ってきても、ドナー腎の質やクロスマッチの結果などによっては移植を断念することもあるが、すくなくともチャンスは来る。

 ただ、不適合抗体を載せなさすぎると、こんどはcPRAが下がってしまうので、ポイントがつかなくなったり、検索範囲が狭くなったりしてしまう。だから、ほどよくMFIのカットオフを選んだり、載せる感作HLAを選んだりする必要がある。

 脱感作は、頻回な血漿交換を必要とする上、そうして移植に持ち込んでも免疫学的リスクは高く、さまざまな追加治療(IVIG、抗CD20モノクローナル抗体、抗形質細胞小分子など)を必要とする。それらを要しない適合献腎ドナーが見つかるなら、それに越したことはない。


 

Phone call

 移植後、透析が不要になると、外来透析施設に連絡する。退院前に透析が不要になるのが理想だが、DGF(delayed graft function、移植後1週間以内に透析を必要とすること)が続くと、退院後も外来透析に通うことになる。

 患者さんとしては、ちょっと「出戻り」感があるが、だいたいは透析を離脱できる。その場合、外来のコーディネータから透析施設に電話して、その席(chair)をキャンセルする。いったんキャンセルするともう戻れない(万一そのあとで透析が必要になった場合は、入院するしかない)ので、少し慎重にはなるが、離脱して1週間もすればだいたい確実に手放せる。

 こないだ、そんな電話を横で聞いていたら、コーディネータもハッピーで、透析施設も患者さんの尿量がたくさんで腎機能も回復したと聞いて喜んでくれていた。こういう透析離脱もあると、あらためて実感した。