7/26/2024

Banff 2

  抗体関連拒絶は、いくつかの変遷を経ている。歴史的には、①急性の組織傷害、②C4d沈着、③血中のDSAのすべてを含むと定義されていた。しかし、②と③は不可欠ではなくなった。

 1つ目の急性の組織傷害とは、①微小血管の炎症(g>0 and/or ptc>0)、②動脈の炎症(v>0)、③TMA、④急性の尿細管傷害のいずれかをいう。gは糸球体炎のことで、全糸球体の25%未満をg=1、25-75%をg=2、75%以上をg=3と定義する。

 ptcはperitubular capilaritis、つまり尿細管のそばにある毛細血管の炎症である。具体的には、皮質にみられる毛細血管の10%以上で、内腔に好中球が集まっていることを指す。好中球が最も重度なところで3-4個集まっていれば軽度(ptc=1)、5-10個なら中等度(ptc=2)、10個以上なら重度(ptc=3)と定義する。

 2つ目のC4dとは、抗体が補体反応を惹起した際に出るsplit productのことであり、「抗体関連拒絶といえばC4dの沈着」というイメージであるが、C4d陰性の抗体関連拒絶が多数報告され、その限りではないことが分かってきた。そのため、g+ptcのスコアが2以上あればC4dに代替できるようになった。

 C4d陰性でも、抗体関連拒絶なら何かしらの特異的な反応は起きているはずである。そしてそれは、「ふむ、どんなものかな」と顕微鏡を眺めているだけでは限界がある(達人の域に達すればわかるのかもしれないが、客観性に乏しい※)。

 そこで、アルバータ大学などのグループがMolecular Microscope®というプロジェクトを始めた。腎生検の検体からmRNA発現の変化を核酸増幅法を用いて調べるもので、これにより抗体関連拒絶で変化する遺伝子産物を同定することが可能になった。

 遺伝子はレシピエントNK細胞由来(FGFBP2、GNLY)、ドナー内皮細胞由来(ROBO4、DARC)などさまざまである(AJT 2017 18 785)。こうしたgene transcrpitsの発現増加も、C4dに代替できるようになった。・・とはいえ、今はまだ研究施設での使用にとどまっている。

 ※なお筆者は、mass spectroscopyや上述のmRNA増幅法など、腎生検の検体を分子生物学的に分析する方法に期待している。それが病態解明につながる道だと思うし、病態が解明されれば診断や治療にもつながると信じたい。

 3つ目のDSAは、「抗体関連ということは、抗HLA抗体が悪いのでしょう?」というわけで考え方としてはわかるが、意外と陰性なことがある。抗体量が組織レベルのごく少量なのか、非HLA抗体(AT1R抗体など)のせいなのか、諸説あり未解明である。

 いずれにしても、現在ではDSAは必ずしも必須ではなくなっている(C4d陽性またはgene transcrpitsの発現増加で代替できるようになった)。