残念ながら、どの国でも腎移植について説明を受ける患者は少ない。そのため、移植について知らされずに腹膜透析または血液透析を受けている患者がたくさんいる。そうした患者が透析を何年もしてから「移植という選択肢があると知った(あるいは医師から聞いた)」と移植施設にやってきた場合、以前は知らずに過ごした透析年数をwait timeにカウントできなかった。こうした不公平を被ってきた患者は非白人に多かったこともあり、現在では透析を開始してからの時間に変更されている。
移植を受けた患者の腎グラフトが廃絶して、二度目・三度目の移植を希望する場合のwait timeは、また別にカウントされる。先行移植(透析を必要とする前に移植すること)を希望する患者が多いので、eGFRが20ml/min/1.73m2未満になった時点から待機リストに入れる。しかし、過去のドナーに感作されているため、適合するドナーを見つけることは難しい。そこで2014年にKAS(kidney allocation system)が変更され、感作の程度に応じたポイントが付与されるようになった。それでも待機時間はまだ長く、脱感作の治療を受ける患者もいる。
では、せっかく何年も待って移植を受けたのに、その腎臓が一度も目覚めず機能しなかった場合はどうか?これは「最初から機能していなかった腎臓(primary non-function)」と呼ばる。CIT(臓器の搬送にかかった時間)、WIT(臓器の死体ドナーからの摘出と患者への移植にかかった時間)、ドナー腎臓の質など、原因はさまざまである※。
※移植を待ちながら亡くなる患者が多い(20人に1人)なか、本来なら移植できたはずの腎臓が数多く捨てられていることが社会的な問題になった。そこで2019年、トランプ大統領のexecutive orderによる国家的な取り組み、Advancing American Kidney Health Initiativeが始まった。これにより、KDPI(10項目程度のドナーリスクをスコアにしたもの:100%が最も質が低い)、EPTS(移植後の生存期間をスコアにしたもの:100%が最も短く、高スコア群には質の低い臓器を移植することが正当化される)などをもとに、ある程度共通のルールでどんどん腎臓を移植することになった。
そんな腎臓を移植されたら、当然誰しもアンハッピーである。伝える側もつらい。怒りや不安、悲しみなど、さまざまな感情が表現される。
しかし、ここがアメリカの凄いところだなとつくづく思うのであるが、この国は「こぼれた乳を嘆いても無駄(no use crying over spilt milk)」、とにかく今できることをしよう、という考え方で動いている。そこで、それを移植された患者はwait timeが引き継がれるのみならず、リストの上位に来る。そのため、感作されていなければ、数か月で別の腎臓が移植される。「もう自分は一生透析のままなのか・・」と絶望せずに済むのは、よいことである。
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