7/31/2024

Biopsy techniques

 腎生検の手技は施設によって異なるため、様々な施設のやり方を知ると良いところを参考にできる。たとえば:

 ①穿刺針のガイドを穿刺針の太さと同じものにする。以前は「きつくならないように」と18G針より少し大きな(17Gや16G)ものを使っていた。ぴったりにすると非常に通しにくいが、そのぶん針が皮下でぶれないので、超音波画面に映りやすい。

 ※コツは、プローブの面とガイドの角度をよく見て、無理して入れようとしないことである。無理して入れると、途中でひっかかり、上手くいかない。最初のうちは「こんなところでつまづくとは・・」という気持ちになるくらい入らなかったが、徐々に慣れてきた。

 ②超音波プローブをちょうどよい位置に置いた状態で穿刺針を通す。以前は、穿刺針を通してからプローブを当てていた。しかしそれだと、腎臓からや麻酔した場所から位置がずれてしまう。

 ※穿刺針を通す場所を皮切することもない。ある程度の抵抗はあるが、適切な力をいれれば刺入できる。

 ③皮下に入った後も角度をぴったりガイドに合わせる。これをやらないと、針が反ってしまい、針先が画面に映りづらくなるのみならず、引き金を引いた後にうまく針先が刺さらないことがある。

 この三つに気をつけることで、だいぶんI know what I am doingな感じになってきた。「説明できない奥義」のような腎生検の手技も、こうしてある程度かいつまんで解説すれば、未習熟な手技者のスキルアップにつなげられる。


7/30/2024

de novo DSA and ABMR

1.de novo DSA(dnDNA)

 dnDNAによるABMRは、preformed DSAによるABMRに比べて蛋白尿が多くtransplant glomerulopathyを起こしやすくグラフト予後が不良な傾向にある。dnDNAは移植後5年で15-25%に起きるとされ、リスク因子にアドヒアランス不良、免疫抑制薬の減量、高率のeplet mismatch、若年、先行するTCMRなどが挙げられる。

 免疫抑制薬のなかで特に重要なのはタクロリムスで、同薬中心のレジメンはシクロスポリン中心のレジメンに比べてdnDNAが生じにくい。タクロリムスのトラフ濃度を下げ過ぎないことも重要で、最初の1年は少なくとも7-8ng/ml以上、1年後からは5-6ng/ml以上でdnDNAを予防できる。

 ただし長期のCNIは腎毒性を生じるため、施設や症例によってはBelataceptへの切り替えが考慮されることは以前に述べた。BelataceptがdnDNAを生じにくいのは、Tfh(follicular helper T)細胞がB細胞を活性化・分化させるのに必要なB7/CD28共刺激シグナルをブロックするためと考えられている。

2.MHC Class

 クラスIはほぼすべての細胞にあり、他者(ウイルス、がんなど)に侵された際に抗原を提示して自らを細胞傷害性(CD8+)T細胞に破壊してもらう警報のような役割をしている。HLAクラスIIは抗原提示能を持つ細胞にあり、貪食した細菌などをヘルパー(CD4+)T細胞に提示して、CD8+T細胞やB細胞を活性化・分化させる。

 現在腎移植ではクラスIのHLA-A・BとクラスIIのHLA-DRの3×2=6 allellesをマッチングの対象にしているが、抗HLA抗体はクラスIIに対する抗体のほうがクラスIに対する抗体よりも消えにくいことが分かっている。

 HLA-DQ・DRをマッチさせればグラフト予後を改善できるが、クラスII抗原はクラスIよりも多型が多く、そんなことをすれば移植を受けられる患者は激減してしまう。現行のA・B・DRですら、2/2/2ミスマッチと分かっていても免疫抑制でなんとかしている。

3.Eplet

 抗HLA抗体が認識するのは抗原の一部であり、その15-22アミノ酸配列(直径1.5nm程度)をepitopeと呼ぶ。抗体の認識に決定的な部位はさらに小さく、数アミノ酸配列(直径0.3nm程度)しかない。これをepletと呼び、あるHLA抗原に固有のものと、他のHLA抗原と共有されているものがある。

 現在では前述のおおざっぱなHLAミスマッチだけでなく、eplet mismatchや、アミノ酸配列レベルのミスマッチまで調べることができる(epitopes.netやhistocheck.orgなどのソフトフェアがある)。そして、当然ながら同じHLAミスマッチでも、eplet mismatchが多いほどDSA産生やグラフト喪失のリスクが高いことが知られている。

 ただし、すべてのeplet mismatchが同じリスクなわけではなく、アミノ酸配列や極性、親水・疎水性などに左右される。どこに何個どのようなミスマッチがあると総和リスクはどれくらいかが分かるようになるのは、もう少し先のようだ。

4.Pathogenicity  

 すべてのDSAが同じ拒絶リスクを持つわけではない。MHCクラスについてはすでに述べたが、高MFI、IgG3サブクラス、C1q結合能はリスク因子である(そもそも、IgG3は全サブクラスのなかでもっとも補体結合能が高い)。また、Fc部分の糖鎖配列、抗原との親和性、グラフトにおけるHLA抗原の分布なども影響すると考えられている。


 

7/28/2024

Treatment of ABMR

 移植腎が廃絶する原因で最も多いのがABMRであり、ABMRの治療は難しい。抗体による疾患と言う意味では自己免疫疾患に似ているし、抗体産生の元がB細胞や形質細胞であるという意味では血液疾患にも似ている。下図のようにさまざまな治療ターゲットについてさまざまな治療が行われ(試され)ているが、効果と安全性は一貫していない。

(出典はCurr Opin Organ Transplant 2022 27 405)

 このなかで、現在よく行われるのは血漿交換とIVIGである。血漿交換は血漿量×1‐1.5の除去を連日または隔日×4‐6回、IVIGは血漿交換ごとに100‐200mg/kg、または単独で2g/kgが通例である。

 なおエキスパート・コンセンサス(Transplantation 2020 104 911)はステロイドも標準治療に載せている。経験的なものであるが、上図のようにB細胞の活性化にはT細胞(とくにfollicular helper、Tfh cell)が重要である。また、純粋なABMRということはあまりなく、多くはTCMRを合併している。そのため、Thymoが併用されることもある。

 抗体そのものをターゲットにした治療に、IdeS(imlifidase)がある。IdeSはStreprococcus pyogenesで見つかったIgG全クラスの重鎖を切断する酵素に由来し、腫瘍崩壊症候群の高尿酸血症に対するrasburicaseのように、一時的に血中のIgGを激減させる。現在は移植直前の脱感作に用いられているが、ABMRにも治験されている(NCT03897205)。

 次に標準的になりつつあるのがRTXで、375mg/m2の単回投与が通例である。よく引用されるエビデンスのRITUX-ERAH試験(Transplantation 2016 100 391)は、血漿交換3回+IVIGを受けた38例のABMR患者をRTX群とプラセボ群に分け、その後血漿交換2回+IVIGを行ったものだ。12か月後のグラフト機能・予後に有意差はなかったが、プラセボ群の8例もrescue therapyとしてRTXを受けたので、解釈は難しい。ステロイド併用例にRTXを追加した効果を調べる治験が進行中である(NCT03994783)。

 また、抗CD20モノクローナル抗体でRTXよりもヒト化されたObinutuzumabも、RTXよりも効きそう?というわけで試されることがある。

 他にB細胞をターゲットにした治療に、syk(spleen tyrosine kinase)阻害薬のFostamatinib、抗IL-6受容体モノクローナル抗体のTocilizumab、抗IL-6モノクローナル抗体のClazakizumabなどが試みられているほか、DSAを減らす効果のあるBelataceptのBELACOR試験(Am J Transplant 2019 19 894)も行われている。

 しかし、感作されたB細胞は、メモリーB細胞や形質芽球、形質細胞に分化してしまう(下図)。そこで、Bortezomib、抗CD38モノクローナル抗体Felzartamabなど、骨髄腫に用いられてきた薬が治験されている。Felzartamabの第2相結果は7月11日に発表され(NEJM 2024 391 122)、安全性はacceptableであった。

(出典はBiol Blood Marrow Transplant 2009 15 104-113、*形質芽球はCD20陰性)

 なお、CD38は炎症の主役であるNK細胞にもあることから、抗体産生だけでなく拒絶反応を緩和する効果も期待されている。

 抗体が血管内皮細胞に結合した後の補体反応を抑える治療に、C5ないしC1をターゲットにしたものがある。抗体は消せなくても、補体反応を抑えればそこで傷害をシールドできるから大丈夫、という考え方である。

 C5についてはモノクローナル抗体eculizumabが試されている。よく知られているのは、移植前後に何十回も血漿交換で脱感作しても3週以内に重度のABMRを起こした患者5例に、脾摘とeculizumabを併用したところ、1例のグラフト廃絶もtransplant glomerulopathyも起きなかったという報告である(Transplant 2014 98 857)。DSAは消えなかったが、補体反応はシールドできることが実証された。

 しかし、患者には尿路感染症(80%)、肺炎(40%)、CMV血症(20%)、菌血症ないし敗血症(40%)、皮膚軟部組織感染症(60%)、C. diff感染症(60%)などが起き、これらは脾摘単独やeculizumab単独に比べて多い結果だった。

 「ふたつよいこと、さてないものよ」とはよく言ったものだが、現時点では最終兵器の位置づけである。今後、長時間作用の第二世代ravulizumabなども試されるかもしれない。

 抗C1治療には、C1-INH(Cinryze®とBerinert®)と、抗C1モノクローナル抗体Sutimlimabがあり、それぞれ遺伝性血管浮腫、寒冷凝集素症に認可されている。

 C1-INHは標準治療にadd-onして6ヵ月後の腎生検でtransplant glomerulopathyが診らなかったという報告はある(AJT 2016 16 3468)が、その後のRCTは有効性が示せず中止されている。

 Sutimlimabは第1相試験で腎機能に変化はなかったが、患者の多くで腎病理のC4d沈着が消えていた(AJT 2018 18 916)。現在、第2相試験が行われている(NCT05156710)。

 ・・ここまで、さまざまな治療選択肢を紹介したが、これだけ知っていても「こういうときにはどうしよう?」という治療戦略はわからない。それは診療経験を積む中で培うしかないとも言えるが、次回はその参考になるかもしれない、さまざまな免疫学的リスク因子についてまとめたい。

7/27/2024

Treatment of TCMR

  拒絶の治療は、ざっくり言えば①TCMRにはステロイドとThymo、②ABMRには血漿交換とIVIGとRTXである。とくに前者は余り変化がなく、例えば

・Banff Ia        mPSL 500mg × 3-5日

・Banff Ib        mPSL 500mg × 3-5日

                        または

                      Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

・Banff II/III   Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

 といった具合である(CJASN 2020 15 430)。もちろん、施設・医師・ケースごとに差があり、ステロイドなら250mgなこともあれば1000mgなこともある。データは質量ともに乏しく、一応KDIGOガイドラインはあるが(AJT 2009 9 S1-S155)、

・Subclinical/borderlineな急性拒絶も治療すべき(2D)

・初期治療はステロイドを推奨(1D)

・ステロイド非使用レジメンの患者には維持ステロイドの使用を推奨(2D)

・ステロイド不応例にはThymo/OKT3の使用を示唆(2C)

 としか書かれていない。前述のように過去には「ステロイド反応拒絶」と言われていたので、治療の基本はステロイドである。



7/26/2024

忘れられない一言 73

  外来でプレゼンしていたら、指導医が"Thank you for being thorough"と言った。カルテのどこにどんな情報があるかが少しずつ分かってきたためであるが、嬉しかった。こが先生は非常にthoroughを大事にしていることは知っていたが、すごいのは「もっとthoroughにならなければいけない」というnegative reinforcementではなく、positive reinforcementを自然にしていることだ。

 Positive reinforcementの重要性は誰だって理解しているし、自分が教わる立場ならそう言われた方が嬉しいのもわかっている。とはいえ、いざ教える立場になると、どうしても相手の(できない点、というのもよくないので)改善すべき点を指摘しがちである。にもかかわらずpositive reinforcementをするこの先生は、おそらくそうやって教わってきたのだろう。



Banff 3

  ここまで、v・i・t・g・ptc・C4dについてみてきた。これで終わりかと言うと、そんなことはない。アルファベットの練習みたいだが、他にはcg・ct・ci・cv・ti・i-IFTA・t-IFTA・ah・mm・pvlがある。詳しくはBanff財団ウェブサイトを読んで学ぼうと思うが、ざっくり言うと:

 cで始まるものは、chronicを意味する。cg(chronic glomerulopathy)は、基底膜の二重化などを特徴とする慢性の糸球体症で、graft failureの原因になる。cv(vascular fibrous intimal thickening)も、慢性拒絶のサインである。ci(interstitial fibrosis)も線維化なので、慢性変化である。

 ti(total inflammation)・i-IFTA(inflammation in fibrosis)、t-IFTA(tubulitis in fibrosis)は、慢性活動性(chronic active)TCMRに用いられる。

 pvl(polyomavirus load)は、BKウイルス腎症に用いられる。ah(arterial hyalonosis)とct(tubular atrophy)は、典型的なCNIの腎毒性である。mm(mesangial matrix expansion)は、IgA腎症の再発などで見られる。

 

Banff 2

  抗体関連拒絶は、いくつかの変遷を経ている。歴史的には、①急性の組織傷害、②C4d沈着、③血中のDSAのすべてを含むと定義されていた。しかし、②と③は不可欠ではなくなった。

 1つ目の急性の組織傷害とは、①微小血管の炎症(g>0 and/or ptc>0)、②動脈の炎症(v>0)、③TMA、④急性の尿細管傷害のいずれかをいう。gは糸球体炎のことで、全糸球体の25%未満をg=1、25-75%をg=2、75%以上をg=3と定義する。

 ptcはperitubular capilaritis、つまり尿細管のそばにある毛細血管の炎症である。具体的には、皮質にみられる毛細血管の10%以上で、内腔に好中球が集まっていることを指す。好中球が最も重度なところで3-4個集まっていれば軽度(ptc=1)、5-10個なら中等度(ptc=2)、10個以上なら重度(ptc=3)と定義する。

 2つ目のC4dとは、抗体が補体反応を惹起した際に出るsplit productのことであり、「抗体関連拒絶といえばC4dの沈着」というイメージであるが、C4d陰性の抗体関連拒絶が多数報告され、その限りではないことが分かってきた。そのため、g+ptcのスコアが2以上あればC4dに代替できるようになった。

 C4d陰性でも、抗体関連拒絶なら何かしらの特異的な反応は起きているはずである。そしてそれは、「ふむ、どんなものかな」と顕微鏡を眺めているだけでは限界がある(達人の域に達すればわかるのかもしれないが、客観性に乏しい※)。

 そこで、アルバータ大学などのグループがMolecular Microscope®というプロジェクトを始めた。腎生検の検体からmRNA発現の変化を核酸増幅法を用いて調べるもので、これにより抗体関連拒絶で変化する遺伝子産物を同定することが可能になった。

 遺伝子はレシピエントNK細胞由来(FGFBP2、GNLY)、ドナー内皮細胞由来(ROBO4、DARC)などさまざまである(AJT 2017 18 785)。こうしたgene transcrpitsの発現増加も、C4dに代替できるようになった。・・とはいえ、今はまだ研究施設での使用にとどまっている。

 ※なお筆者は、mass spectroscopyや上述のmRNA増幅法など、腎生検の検体を分子生物学的に分析する方法に期待している。それが病態解明につながる道だと思うし、病態が解明されれば診断や治療にもつながると信じたい。

 3つ目のDSAは、「抗体関連ということは、抗HLA抗体が悪いのでしょう?」というわけで考え方としてはわかるが、意外と陰性なことがある。抗体量が組織レベルのごく少量なのか、非HLA抗体(AT1R抗体など)のせいなのか、諸説あり未解明である。

 いずれにしても、現在ではDSAは必ずしも必須ではなくなっている(C4d陽性またはgene transcrpitsの発現増加で代替できるようになった)。


Banff 1

  Banffカテゴリーは全部で5つあるが、①正常組織、②抗体関連拒絶、③ボーダーラインT細胞関連拒絶、④T細胞関連拒絶、⑤BKウイルス関連腎症というわけで、中心は②と④の二つである。そこで、まず④を概観する。なお、定期的に改訂されるBanffであるが④はほとんど変化がないので安心?である。

 T細胞性関連拒絶はv(動脈内膜の炎症)の有無によりIとII/IIIに分けられる。Iは炎症がない(v=0)が、もちろん他の場所には炎症がある。すなわち、間質と尿細管に炎症がある(i≧2、t≧2)。

 間質の炎症があると、尿細管どうしがback-to-backでなくなり、リンパ球が浸潤する。t≧2とは、その範囲が皮質の26%以上(50%未満が2、50%以上が3)ということだ。

 尿細管に炎症があると、尿細管細胞のなかにリンパ球が巣食う。それが中等度(5-10個、t=2)だとIa、重度(10個以上、t=3)だとIbと呼ばれる。

 これらの変化のみならず、動脈内膜にも炎症が有るものをII/IIIと呼ぶ。こちらも動脈内膜・内皮細胞にリンパ球が巣食うが、それが軽度(内腔の25%未満が喪失)だとIIa、中等度(26-50%が喪失)だとIIb、重度(50%以上が喪失)だとIIIになる。

Banff 0

 急性拒絶のリスクは黎明期には100%に近かったが、現在では10%程度である。以前は"steroid responsive"と"steroid non-responsive"に分けられていたが、現在では前者がT細胞関連拒絶(T-cell mediated rejection、TCMR)、後者が抗体関連拒絶(antibody mediated rejection、ABMR)に相当することが分かっている。

 ※このことは、ネフローゼが依然「ステロイド反応型」と「ステロイド不応型」に分けられていることと比較して興味深い。腎生検をしても、しなくても、結局まだ病態が完全に解明されていないので、治療効果で分類するしかない(たとえ「微小変化型」と言われても、ステロイドに不応だと「FSGSかもしれない」などとなる)。

 移植時の拒絶リスクとして重要なのは、①DSA、②A/B/DRミスマッチ、③アフリカ系、④若年患者である。ただし、DSAはMFIや抗体価(希釈倍率)などにもより、MFIが3000以上だと12か月後の拒絶率が高かったという報告がある(AJT 2016 16 3458)。

 移植後の拒絶リスクとして重要なのはタクロリムスの有無とトラフ値である。タクロリムスの非使用・低用量レジメンは腎毒性を改善するが拒絶リスクを高める。またタクロリムス濃度を低下させる原因として大切なのはアドヒアランスであり、若年患者ほどそのリスクが高いとされる。

 拒絶を疑ったら、腎生検がゴールドスタンダードである。そして移植腎病理の診断は1990年代からBanffと決まっている。・・のであるが、全部一気に覚えようとすると挫折する。かといって、「じゃあ本でも一冊買って・・」などとやると、(よほど真面目な友人が抄読会でもしてくれない限りは)仕舞い込んでそのままになってしまう。

 そんなわけで筆者もすべてを一気に知るつもりはないが、徐々に身近なところからまとめてみようと思う(参照はCJASN 2020 14 430)。Let's get your feet wet(いきなり泳ぐ・潜るのではなく、まずは足だけ水につけましょう、というイディオム)!


(出典はこちら


7/25/2024

International cases

 米国の病院で国外の患者が臓器移植を受けることは珍しくない。国外の患者であっても、米国で評価され移植待ちリストに載れば、透析開始からの時間が米国の患者と同じようにwait timeとしてカウントされる。

 ただし、医療費は全額自費である。

 したがって、多いのは(非常に財力があり国民の数が少ない)中東諸国の患者で、医療費と滞在費、交通費が領事館から全額支給される。首長の一族などである必要はなく、国民であればだれでもその権利を得られる(ただし、こうした国は移民に対して滅多に国籍や市民権を与えない)。

 なお、近年はMayo ClinicがUAEに分院を建設する(下図参照)など、そうした国々でも自前で移植が受けられるようになってきた。そのため、どうしても(過去の移植で高度に感作されたなど)困難な症例が米国に紹介されることが多い。


(出典はこちら


Fertility and Pregnancy

  移植後の妊娠についてのレクチャがあった。まとめると、

 妊孕性は(催奇形性のある薬を使っている)移植後6か月余りで回復するため、避妊が重要である。避妊の手段としてはIUDが効果が高く、異物だからといって移植後の禁忌ではない(CJASN 2020 15 563)。エストロゲン含有の薬剤は血栓症・血圧上昇・蛋白尿増加・SLE再燃のリスクがあるため、慎重にモニターしなければならない。

 免疫抑制薬のなかでもアザチオプリンは安心して使える薬であるが、FDAの表示は今でも「D」である。しかし、これは高用量で催奇形性を示すデータが開発初期にみられたためで、移植やそのたの免疫疾患で現在用いられる低用量では安全である。

 現行ガイドラインは移植後1年は妊娠を遅らせることを推奨しているが、その場合でも条件として、①クレアチニンが1.5mg/dl未満、②蛋白尿が0.5g/d未満、③日和見感染リスクが低い、④催奇形性の薬を使用していない、⑤1年以内の拒絶がない、を挙げている(AJT 2009 9 S1-S155)。

 妊娠関連のアウトカムについてはTransplant Pregnancy Registry Internationalというレジストリがあるが、妊娠中の高血圧は約半数に見られ、児の体重は低めである(CJASN 2020 15 120)。また、分娩は32-36週が最も多く(AJT 2013 13 3173)、移植そのものは帝王切開の適応にならない(むしろ、切開する近くに移植腎がある可能性もあるので注意が必要だ)が、帝王切開の割合が高い。

 妊娠中の拒絶は5-10%とされ、これは一般の腎移植患者と同じ確率である。また腎グラフトの予後については、非妊娠患者と比べて差がなかったとするオーストラリアの報告(JASN 2009 20 2433)があり、その後のメタアナリシス(Transplantation 2020 104 1675)でも同様の結果となっている。

 

忘れられない一言 72

  米国の外来は手厚いと言いつつも、医師が何もしなくてよいわけではない。大事な仕事の一つが薬に関するものだ。

 まず、薬をオーダーする。そして、適応病名、処方量(1日1回1錠なら、30錠・90錠など)、リフィル回数(処方箋なしで自動的に継続できる回数)、受け取る薬局(病院そばのこともあれば、自宅近く、あるいは郵送サービスの薬局なこともある)を指定する。

 そして、カルテにある薬のリストを最新のものに変更する。たいていは処方すれば反映されるが、変更した場合には今までの薬を削除し、用量を変えた(が薬は今あるものを使う)場合は新たに処方はしないのでリストを変更する必要がある。

 さらに、患者にわかるよう、AVS(after-visit summary)の注意事項に「この薬を中止する」「この薬を始める」などの文章を追記する。AVSは診察の終わりに渡される紙だが、次回診察や検査の予定だけでなく、ここに薬のリストや注意事項なども記載される。

 どの国でも、患者はたくさんの薬を処方されていることが多い。ある指導医の先生は"I am obsessed with med list"と言っていたが、そのおかげで(筆者が気づかなかった)用量調節の必要性に気づいたり、不要な薬を減らしたりするのを目の当たりにしているので、今は筆者もではなくちゃんと見るクセをつける最中である。


7/24/2024

PTH and Ca reabsorption

 PTHはどのようにカルシウムを再吸収するのだろうか。定説は「遠位ネフロンに作用する」であるが、もう少し詳しく分かりつつあるようだ(Acta Physiologia 2023 238 e13959)。

 腎臓にはPTH受容体のサブタイプPTH1Rがある。In situ hybridizationによれば、足細胞、近位尿細管(主に直部)、TAL、DCTに分布している。定説と異なり、集合管には分布していないという。また、血中を流れるホルモンであるから、内腔側ではなく間質側に分布している。

 近位尿細管でPTHがどのようにCa再吸収に関わるかは、未解明である。NHE3を介したNa再吸収を抑制することはよく知られているため、それにカップリングしたCa再吸収も抑制しそうなものであるが、逆に増加させたという報告もある。Naに依らない、細胞間のClaudin2などに対する別の作用があるのかもしれない。

 TALでPTHがCa再吸収を増加させることはよく知られているが、この現象は皮質のTALで見られるという。近位尿細管と異なり、ここではPTHがCaが流れるための電位差と細胞間のCa透過性の両方を作り出していることが分かっているが、それぞれの機序は未解明である。

 電位差については、PTH受容体が生み出すcAMPがNKCC2チャネルを活性化するのではないかと推察される(バソプレシンは、そのようにして髄質のNKCC2を活性化させる)が、皮質のTALはPTHの有無にかかわらず常に活性化されているため、別の機序があるのかもしれない。

 また細胞間の透過性については、cAMPによるClaudin-16の(217位のセリン)リン酸化が推察されているが、直接の証拠はないうえ、それだけで短時間で再吸収が増加するかには疑問もある。逆に、Claudin-16を閉じるClaudin-14を不活性化する可能性も指摘されている。

 DCTでは、Caは細胞内を通って再吸収される。PTHは、内腔側のTRPV5、細胞内のCalbindin 28K、そして間質側のNCX1の発現を増加させることがわかっている。なかでもPTHが直接作用するのはTRPV5で、protein kinase Aによる開放確率の増加、protein kinase Cによるendocytosisの抑制などが知られている。


Hypercalcemia post KT

  腎機能が低下すると、①ビタミンDが活性化されずにカルシウムの吸収が低下し、②リンが尿に排泄されず、低カルシウム血症と高リン血症が起きる。活性型ビタミンDの低下、低カルシウム血症、高リン血症はいずれも③副甲状腺ホルモン(PTH)を増加させる。その結果、破骨細胞が刺激されて骨からカルシウムが流出し、血管などが石灰化する。いわゆる、CKD-MBDである。

 では、腎臓を移植するとどうなるか?

 ①ビタミンDが活性化されるようになり、カルシウムの吸収が増加し、②リンが尿に排泄され、低リン血症が起きる。③副甲状腺ホルモンは、副甲状腺から自律的に分泌されるので、なかなか減少しない。副甲状腺ホルモンには尿中のカルシウムを再吸収する作用もあるので、①と③を合わせて移植後に高カルシウム血症がみられることがある。

 頻度は15%(Transplantation 2016 100 184)、25%(Front Med 9 821884)などさまざまなであるが、PTHやCaが正常化しない患者は正常化する患者に比べて生命予後・グラフト予後が不良であったという報告もある(Diagnostics 2024 14 1358)。

 そのため、ビタミンD、CaSRアゴニスト、デノスマブ、副甲状腺摘出術などが試みられる。ただし、これらの介入によりPTHは下がるが、骨密度・骨折リスク・腎グラフト予後・生命予後などが改善したという報告はほとんどない。手探りである。


7/23/2024

Drug Gap

  日本と米国の間にはドラッグ・ロスがあるとよく言われる。例えば、IgA腎症において蛋白尿を減らすことが示された、ARB作用とエンドセリン拮抗作用を持つ薬Sparsentan(FILSPARI®)は、2023年に米国で承認されている。

 新薬だけに、さまざまな財政的援助や、安全性についてのプログラム、そして患者一人一人に担当のnurse educatorがついてサポートする仕組みなど、手厚い体制で走り出している。また、担当医師にこの薬が向いているか聞いてみるためのアドバイスなどもある。

 患者にしてみれば、「そんな薬があるならぜひ試してみたい」、「サポート体制があるなら安心だ」と思うことだろう。なおこの薬は7月18日に日本でも治験で患者に投与が開始されたという。発売元は違うが、米国のような手厚い体制がしかれるのか興味深い。

 いっぽう、日本のほうが進んでいる薬も(びっくりしたが)ある。たとえば、鉄利用障害を改善することで貧血を治療するHIF-PH阻害薬は、米国でまず診る機会がない。移植外来では「何それ?」くらいの感じである。移植された腎臓が機能していれば必要ないはずの薬だから、透析外来や腎臓内科外来にならあるのかもしれない。

 薬の話はキリがないが、おどろいたのはカリウム保持性利尿薬spironolactoneが、ざ瘡(ニキビ)に使われていることだ。ステロイドの誘導体であり、男性ホルモンの産生を抑制するため、女性のざ瘡や脱毛に用いられることがあるという(ただし、off-label)。2023年にBMJ誌から発表されたSAFA試験が根拠らしい。所変われば、である。


(出典はこちら


Long-term survival

  移植も透析も、腎臓の代わりをする治療であるから、患者が腎臓病で亡くなることは(治療を差し控える場合を除き)ない。では何で亡くなるのかというと、心血管系疾患、感染症、そして悪性腫瘍である。

 米国腎移植患者の死因第一位は、心血管系疾患である。感染死については、CMV・EBVウイルスなどの予防・監視・治療が確立したことや、免疫抑制薬を必要十分な量まで減量できるようになったことから、大分改善した。

 このことは、日本で透析患者の死因第一位が心血管系疾患から感染症に変わったことと比べて興味深い。大学でも病院でも「透析患者は免疫が低下している(immunocompromised)」と必ず習うが、具体的に何をどのように注意し治療したらよいのかとなると、はっきりしない。

 日本の透析患者は米国腎移植患者とくらべて高齢かつフレイルであり、その免疫力はさらに低い可能性すらある。透析施設はインフルエンザ・COVID・肺炎球菌ワクチン、足の傷チェック、毎月のレントゲンなど、さまざまに対策を講じているが、なかなか難しいのだろう。

 移植医療に携わりながら、なにかアイデアが浮かぶといいなと思っている。


Wait time

 残念ながら、どの国でも腎移植について説明を受ける患者は少ない。そのため、移植について知らされずに腹膜透析または血液透析を受けている患者がたくさんいる。そうした患者が透析を何年もしてから「移植という選択肢があると知った(あるいは医師から聞いた)」と移植施設にやってきた場合、以前は知らずに過ごした透析年数をwait timeにカウントできなかった。こうした不公平を被ってきた患者は非白人に多かったこともあり、現在では透析を開始してからの時間に変更されている。

 移植を受けた患者の腎グラフトが廃絶して、二度目・三度目の移植を希望する場合のwait timeは、また別にカウントされる。先行移植(透析を必要とする前に移植すること)を希望する患者が多いので、eGFRが20ml/min/1.73m2未満になった時点から待機リストに入れる。しかし、過去のドナーに感作されているため、適合するドナーを見つけることは難しい。そこで2014年にKAS(kidney allocation system)が変更され、感作の程度に応じたポイントが付与されるようになった。それでも待機時間はまだ長く、脱感作の治療を受ける患者もいる。

 では、せっかく何年も待って移植を受けたのに、その腎臓が一度も目覚めず機能しなかった場合はどうか?これは「最初から機能していなかった腎臓(primary non-function)」と呼ばる。CIT(臓器の搬送にかかった時間)、WIT(臓器の死体ドナーからの摘出と患者への移植にかかった時間)、ドナー腎臓の質など、原因はさまざまである※。

※移植を待ちながら亡くなる患者が多い(20人に1人)なか、本来なら移植できたはずの腎臓が数多く捨てられていることが社会的な問題になった。そこで2019年、トランプ大統領のexecutive orderによる国家的な取り組み、Advancing American Kidney Health Initiativeが始まった。これにより、KDPI(10項目程度のドナーリスクをスコアにしたもの:100%が最も質が低い)、EPTS(移植後の生存期間をスコアにしたもの:100%が最も短く、高スコア群には質の低い臓器を移植することが正当化される)などをもとに、ある程度共通のルールでどんどん腎臓を移植することになった。

 そんな腎臓を移植されたら、当然誰しもアンハッピーである。伝える側もつらい。怒りや不安、悲しみなど、さまざまな感情が表現される。

 しかし、ここがアメリカの凄いところだなとつくづく思うのであるが、この国は「こぼれた乳を嘆いても無駄(no use crying over spilt milk)」、とにかく今できることをしよう、という考え方で動いている。そこで、それを移植された患者はwait timeが引き継がれるのみならず、リストの上位に来る。そのため、感作されていなければ、数か月で別の腎臓が移植される。「もう自分は一生透析のままなのか・・」と絶望せずに済むのは、よいことである。


(出典はこちら


7/21/2024

Catch

  英語のcatchという言葉を、意外なところで耳にした。一つ目は、スクリュードライバーの先端がネジの凹みにかみ合っていない時。二つ目は、患者さんのベッドについた車輪の一つが地面に付いていない時。どちらも、"it's not catching"と言っていた。

 Catchを英英辞典で調べても、ピンポイントな文例は出てこなかった。「とらえる」「捕捉する」というニュアンスは分かるが、こういう表現は生の英語に触れないと自分からなかなか言えるものではない。

 ちなみに、スクリュードライバーの「+」は英語でPhillips、「-」はflat-headと言う。前者はPhillips社が広めたためそう呼ばれるが、もとはアイオワ出身のJohn P. Thompsonという人がポートランドで発明したものである。他社製もあるので、cross-headとも呼ばれる。


(出典はこちら


7/19/2024

Pre Eval and Staffing

  外来、とくに移植前の患者評価(Pre Eval)は集める情報が多い。ぱっと思いつくだけでも:

 原疾患、生検の有無、いつからどのように発見され進行したか、透析歴、アクセス、腎臓内科/透析医、尿量、移植歴、移植施設、ドナーのタイプ、グラフト不全の理由、生検の有無、生体ドナー候補の有無、心疾患、がん既往とスクリーニング歴、血栓症、抗凝固薬・抗血小板薬の有無と適応、間欠的跛行の有無、肝炎ウイルス・HIV・細菌感染の有無、高血圧と低血圧(透析時のミドドリン使用の有無)、糖尿病と低血糖(インスリン使用の有無)、FRAILスコア(倦怠感、自立歩行距離、自立階段昇降、既往の数、体重減少)、輸血歴、手術歴、内服薬、アレルギー、生活面のサポート、アドヒアランスとそのサポート、住所、喫煙歴、家族歴

 などを聞く必要がある。そのための情報源は大きく二つあり、一つは患者、もう一つは電子カルテである。

 筆者は最初、診察室に放り込まれてこれらを一気に聞けるほど頭のなかにリストが入っていなかったこともあり、患者の前でいくつか質問するとすぐに「えーっと、なんだっけ・・」とネタ切れになった。

 しかし、だからといってカルテから情報を得ようとすると、干し草のなかの針(needle in the haystack)を探すような感じになる。「これかな?・・いや違う、これは眼科のカルテだった」という具合だ。

 しかし、ある程度リストが頭の中に入ると、患者さんに筋道立ててストーリーを引き出せるようになる。また、電子カルテも押さえどころを知ると、要領よく情報を抽出することができる。検査結果をいくつか参照するうちに、ストーリーが浮かび上がってくるようにもなる。

 何事も経験であるが、成長を速めてくれるのがstaffingという制度である。

 まずフェローが先にカルテを読み診察室に入り、得た情報をスタッフに伝える。その話を聴きながらアテンディングが要点をまとめ、足りない情報をカルテや患者から追加で得る。フェローはそれを見ることで、「次はこれを聴こう」「次はここを参照しよう」と学べる。

 外来教育の根幹にかかわる話であるが、これがないと、ピアノの先生に師事せずにピアノを独学で学ぶ生徒のようになってしまう。日本でstaffingがある外来は稀で、教育病院の救急外来ですら、研修医が全症例をstaffingしてもらえる保障はない(それによる悲劇は、報道の通りである)。

 自分でも患者を診つつstaffingもしなければならないので、アテンディングも大変だろうが、基本的な情報をフェローが得てくれるので、結局は時間とエネルギーの節約になる。どうにか、この制度が日本の外来にも広がるとよいなと思う。


(出典はこちら


Because we love

  今日は「私たちはレジデント・フェローを愛しているから」デーで、11時30分になるとphysicians loungeにgrab and goのランチが大量に届けられた。事前に知らされていたレジデントとフェローが押し寄せ、みるみるランチの山が小さくなっていく。同じチームの仲間のぶんまで取っていく者もいる。

 日本の病院でフリーランチというと、各科向けの製薬会社による説明会のお弁当が定番であろう。レジデントは末席に座りこっそり食べるか、先輩医師が取っておいてくれたものをありがたく頂くかである。しかしここには、スタッフ医師や(日本の臨床研修センターにあたる)GMEの人達は、いない。

 レジデントやフェローは、年齢も国籍もさまざまだが、みんな目標をもって頑張っている。そういう人たちを応援したい気持ちは、普遍的なものなのだろうなと思う。フリーランチをもらうと、その気持ちが分かりやすく伝わる。また、頑張っている仲間たちを見ると、連帯感を抱くし、勇気ももらえる。

 そんな気持ちを再び持てただけでも、「フェローになってよかったな」と思えた。


(筆者撮影:2つは同僚の分)


7/17/2024

Bela as maintenance ISP

 3.切替(conversion)

 CNIベースの維持免疫抑制レジメンで拒絶が起きないのはよいが、残念ながら腎機能低下・さまざまな心血管系イベント・悪性腫瘍などの副作用があり、それらは「拒絶さえしなければよいだろう」と無視できるものではない。そんな時にはCNI-sparingレジメンが考慮され、筆者が以前米国にいた2011年にはもっぱらmTOR阻害薬が用いられていたが、今の米国はbelataceptが主流である。

 こうした使用はCNIを続けることが望ましくない場合やde novo DSAが出現した場合に限って症例ごとに退避的に行われる"rescue therapy"がほとんどであり、エビデンスの質は後方視になりがちで高くない。それでも、eGFRやグラフト予後の改善が見られたという報告や、急性細胞性拒絶に有意差がなかったという報告は散見される。切替が術後何年も経って行われることも影響しているだろう。

 なお切替方法は施設・医師・患者ごとにまちまちであり、よく保険が通るなと思うほどであるが、一応準拠するレジメンはある。それは"per protocol"の切り替えを行った多国籍の第3相RCT(JASN 2021 32 3252)で、belataceptは5mg/kgを2週間ごと5回行い、以後は4週間ごとというものだ。CNI(90%がtacrolimus)は4週間で漸減終了した。

 結果は24か月でグラフト予後に有意差はなく、eGFRは切替群で有意に高く(55.5 v. 48.5 ml/min/1.73m2)、de novo DSAは切替群で有意に低く(1% v. 7%)、急性細胞性拒絶は切替群で有意に高かった(8% v. 4%)。

4.CNI with belatacept

 ここまでくると、誰もが①CNIとbelataceptの「いいとこどり」はできないか?、②Belataceptで拒絶する患者のリスク因子は何か?などと考えたくなるだろう。そんなわけで、①については「CNI+belatacept」のレジメンをよく見かける。Belataceptは5mg/kgだが、ローディングは3回なこともあるし、維持量も1-2か月に1回などまちまちである。また、tacrolimusの目標トラフは通常4-6ng/mlのところを3-5ng/ml、といった具合である。

 要は"little bit of both"である。こうなってくると、もはや前向きに有効性を評価することはできないが、医師裁量が広く使いやすくなったとも言える。個人的に心配なのは、「ステロイドとMMFとtacrolimusとbelataceptだと4種類(quad)になってしまう」と言って、割とあっさりMMFが中止されることである。なんとなく、MMF+CNI+belataceptのほうが拒絶しにくくステロイドの副作用も減らせて一石二鳥、と思ってしまう。

5.Patients at risk

 前項②については、免疫学の深みにはまってしまうので、これまた「Thymoで導入したから安心して切り替えられる」とか経験則に基づきがちであるが、せっかく抗CD28の治療と分かっているのだから、T細胞のサブセットやマーカーによってbelataceptで拒絶しやすい群を同定できないかという試みは行われている。

 たとえば、移植前に「CD28+、CD8+のTEMRA細胞(ナイーブT細胞に見られるはずのCD45RAが、いちど消えた後で再び発現している段階)が3%以上」、「CD57+(NK細胞にも見られるマーカー)、PD1-のTEM細胞(effector memory T cell)が多い」などの群である。この辺りの理解が深まると「それなら抗〇〇抗体を併用すれば拒絶が防げるのでは?」といった話にもなってくるが、今はまだ実用的ではない。

 なお、免疫学の深みもさることながら、よく知られたbelataceptの禁忌はEBV陰性である。HIV感染、CMV血症なども慎重投与である。術後のFSGS再発などで血漿交換を行っている場合にも、belataceptは抜けてしまう。また、COVIDワクチンは、belataceptを打ってしまうとその効きがとても悪くなる。

6.おわりに

 筆者は「もうこれは(いろいろ問題もあるけど)やるもんでしょ」という治療に対して、「本当にそうだろうか、それ以外のよりよい方法があるのではないか、全員とは言わないが、他の方法でうまくいく状況と患者がいるのではないか?」と考えてしまうタイプである。その代表がステロイドと透析だった。CNIもまた、40-50年の時を経て「素晴らしい薬だけれど・・問題もある」という場面を迎えていると感じる。

 こういう薬や治療は、それはそれで確立しているわけだから、全員がいきなり乗り換えるような新しい治療は生まれにくい。それでも、「何かあるんじゃないか、きっとあるはずだ」と考え続けていれば、徐々に変わっていくと思う。※筆者はPrograf®(tacrolimus)、MeltDose technologyで徐放化に成功したEnvarsusXR®、Nulogix®(belatacept)の製薬会社と、利益の相反を持たない。


(Bella Notte、出典はこちら



Bela as induction ISP

 1.背景

 ①抗原提示、②共刺激、③サイトカインがT細胞を活性化させる三つの柱である、という仮説を"three signal hypothesis"と呼ぶ。そして、②の代表がCD28-CD80/86(T細胞側‐抗原提示細胞側の順、以下同じ)、CD154-CD40である。

 抗CD154モノクローナル抗体は血小板のCD154と交差して血栓の副作用が多く止めになった。その後Fc部分が問題と分かり、Fab部分に似るが抗体ではないTn3という蛋白をアルブミンに結合させたdazodalibepが開発され治験中である(NCT04046549)。

 CD28をターゲットにした薬は、CD80に結合してCD28-CD80シグナルをオフにする分子、CTLA-4に着目して作られた。第一世代のabataceptはCTLA-4と抗体のFc部分を結合させた薬で、皮下注射でリウマチ等に有効なのは素晴らしいが、非ヒト類人猿では移植の有効性が確認できなかった。

 ※なお、abataceptもbelataceptが使用できなかった際(流通の問題やコロナ禍)の使用経験では有効が確認されており、belataceptから切り替える治験が行われている(NCT04955366)。

 Abataceptに2か所修正を加えてCD80により強く結合するようにした第二世代の薬が、belataceptである。残念ながら点滴の薬で、基本は1か月に1回ある。そのため、ペグ化したりCTLA-4‐CD80の作用は阻害しないようにしたりと工夫した第三世代の薬、FR104(NCT04837092)やLulizumabが治験されている。

2.BENEFITとその後

 2010年に発表された試験で、シクロスポリン群に比して術後のeGFRが高く保たれたがACR(急性細胞性拒絶)は有意に多くかつ重度であったことはよく知られているが、とにかくこれを受けて2011年に米国と欧州でbelataceptは認可された。

 同試験はbelatacept群をmore intensive dose(MI)とless intensive dose(LI)に分け、LIが認可の用量となった。それは、10mg/kgをDay 1、Day 5、Week 2、Week 4でローディングしたあとWeek 8とWeek 12にうち、そこからは5mg/kgを4週ごとというものである。

 しかし、血栓の多い抗凝固薬を使いたい人がいないように、拒絶の多い免疫抑制薬を使いたい人もあまりおらず、betalaceptを導入に使う施設はほとんどない。認可当初から意識的に使っているEmory大学でも、tacrolimusと組み合わせて、用量も「5mg/kgを術中と1ヵ月後、以後毎月」とBENEFITとは異なるレジメンになっている(KI Rep 2023 8 2529)。

 Belatacept使用中の拒絶は術後6ヵ月以内が多い。そのため、さきほどのEmory大学レジメンではtacrolimusを術後11か月用いるようにしている(9か月目からで毎月1/3ずつ漸減して終了する)。

 むしろ、belataceptの美しさは、①eGFRが保たれる、②糖尿病・心血管系イベントなどCNIの副作用を低減できる、③DSAを減らせる、などにある。そのため、使い道としては維持レジメンのほうが向いている。また、③については、AMR(抗体関連拒絶)の治療や脱感作にも試みられている。

 そこで次回は、維持療法・CNI sparing agentとしての役割について書こうと思う。


(la Bella y la Bestia、出典はDisney+)


7/16/2024

PharmD

  移植外来は手厚いと書いた中で言及しなかったのが、薬剤師さんの存在だ。スタッフルームで患者全員のカルテを見張ってくれているので、「この患者さんは腎機能が悪化したのでBactrimとValcyteとFluconazoleは週3回にしよう」などとすぐに教えてくれる。そうした変化はスタッフならすぐ気づくのだろうが、見落としがない心強さがある。

 また、QIという意味では、タクロリムスの血中濃度に基づく用量調節アルゴリズム(protocol)などを作成してくれるのも薬剤師さんである。こないだ試案が紹介されたが、「例外や注意点はこれこれ」「医師(NPさんのこともあるので、最近はproviderと総称する)に連絡するのはこんな時」「PrografとEnvarsusではこう違う」など、餅は餅屋の仕上がりであった。

 さらに、「Leflunomideはすべての患者に有効ではないが、著効した症例は確かXXXさんだったよね」「Leflunomideは催奇形性が強いので妊娠希望時にはcholestyramineで胆汁酸ごと吸着するんだ」「Belataceptのレジメンはまちまちだが、ランドマーク・スタディのBENEFIT試験のレジメンがそもそも奇妙で・・(以下、詳細なレジメンの紹介)」など、聴けば何でも教えてくれる。

 参謀・軍師のような存在であるが、そんな薬剤師さんは一日にして成らずであり、PharmDという特別な資格をもって専門分野に特化して経験を積んでいる。こうした人材に触れると、医師の役割は、単に知識をため込むことではなく、そうしたリソースを活用しつつ、患者ごと状況ごとにベストな判断を下すことだなと再認識する。


Fantastic Four and A-Team

  日本にいる間、何度かファンタスティック・フォー(βB、MRB、ARNI、SGLT2i)の由来を調べたが見つからなかったのであるが、ある日街の現代美術館に行ったところ、ファンタスティック・フォーがアメリカン・コミックであることが分かった。4人のキャラクターはそれぞれ(下図参照、出典はWikipedia):

・The Thing

・Mister Fantastic

・Invisible Woman

・the Human Torch

 と言う。なお、美術館ではThe Thingを描いた作品が展示されており、そこに「この作品はアメリカン・コミックのファンタスティック・フォーの・・・」と書いてあるのを読んだときには、「これだったのか!」と(心が)小躍りした。



 それだけでブログにするのもな・・と思っていたら、今度は外来で指導医が看護師さんと私のいる診察室に入ってきて、「私たちはA-Teamです」と言った。単に"a team"と言う意味かと思ったら、これまた4人組が活躍するTVシリーズであった(邦題は『特攻野郎Aチーム』)。4人のキャラクターはそれぞれ(下図参照、出典はWikipedia):

John "Hannibal" Smith

・"Face" or "Faceman"

・H.M. "Howling Mad" Murdock

・Bosco "B.A.", or "Bad Attitude", Baracus


 そのあとみんながにっこりし、看護師さんが「私はMr. T(図の右端、Bosco B. A. Baracusを演じた俳優)ね!」と冗談を引き継いだ。Wikipediaによれば同作品は「個性的で愉快な」メンバーと「日用品を利用したDIY精神溢れる作戦」が最大の特徴らしく、指導医は魅力的なチームと思ってくれているのかな、と思った。


7/15/2024

Levo

 LOVEのOとEをひっくり返すとLEVOであるが、Levoといえば、甲状腺ホルモン補充の薬levothyroxineや、フルオロキノロン系抗生物質levofloxacin、ドパミン補充の薬levodopaの接頭辞でもある。

 今日まで知らなかったが、levoは「左」を意味するラテン語laevusに由来する。右はdextro。つまり、二種類の光学異性体、LとDのことである。

 それはいいとして、ラテン語族のフランス語で左はgauche。むしろ英語のleftのほうが、levoに近く感じられる。また、左のラテン語といえばsinisterでは?と思った方もいるかもしれない。

 語源を調べると、どうやら「右」に「正しい」という意味付けが加わっているせいで、「左」はなにかと好くない意味付けがついて、話が複雑になっているらしい。しかし、levoには「不器用、不運」などといった意味付けが比較的薄いようだ。それに、ちょっと工学的な響きがあって格好いい。




7/14/2024

Post-transplant RN checklist

  先日外来の手厚さについて触れたが、看護師さんは患者さんと話すときにチェックリストを用いる。「だいたいあれやこれを聴くのかな?」とは想像できるだろうが、漏らしがないようにするのがチェックリストであるから、その一例を紹介する。

・日付、患者氏名:移植外来に来るのはみんな移植患者であるから、忙しいと「あれ、いま誰の話をしている?」と混乱することもある。せっかくチェックリストを使っても、取り違えては意味がない。

・移植日(腎臓、腎臓/膵臓、多臓器):慣れてくると、日付と移植日だけで「3週間後のフォローだね」はおろか「26日だからぎりぎり4週間は経っていないね」などまで、すぐわかるようになる。

・次回受診日:プロトコルで決まっているが、透析を離脱できそう、腎生検を計画している、創部やドレーンの経過を見ている、などの場合は早まることもある。※だいたいの方針を伝えたら、予約は患者が受付で行う。

・次回検査日:検査は毎週・隔週・毎月と、受診の合間にも行われる。

・Prograf、Envarsus(1日1回のタクロリムス)、Sirolimus、Cyclosporineなど、用量調節の必要な薬の直近用量

・採血時間:12時間トラフであったかの確認に用いられる。

・免疫抑制薬と用量:Prograf、Envarsus、MMF、Myfortic(MMFのプロドラッグで下痢の副作用が少ないとされる)、Prednisone、Sirolimus、Cyclosporine、Bela(ベラタセプト)、Arava(レフルノミド:BKウイルス感染の治療にも用いられるが、抗RA薬であり免疫抑制作用も期待されている)

・血圧、体重、直近の体重、心拍数

・Incision(手術創)、抜鈎の有無:問題なければCDI(clean/dry/intact)と表現される。経過がよければ術後4週間程度で抜鈎し、処置は看護師さんが行う。問題があれば移植外科医をコールする。

・尿管ステントの有無と抜去日:泌尿器科医が行い、事前に尿培養を提出して結果に応じて抗生物質を投与するプロトコルがある。患者さんは苦痛を訴えることが多く、痛みがあまりにもひどい場合には全身麻酔で行われることもある。

・24時間尿量、飲水量:ccまたはoz(オンス、1ozは約30cc)で表される。患者は退院時に尿器やカップ、量を記載するノートを渡される。数か月してグラフト機能が安定すれば、不要となる。

・浮腫、下痢/便秘、悪心/嘔吐、振戦、発熱、腹痛:あてはまるものに〇をし、情報を追記する。

・頻尿、尿意切迫、出づらさ、痛み、血尿など、尿に関する症状:頻尿は、「無尿が長い人は膀胱が縮んでいるが、徐々にまた拡がる」などと説明されることが多い。

・CMVリスク:低/中/高、Valcyte(valgancyclovir)/Acyclovirをいつまで、など。

・EBVリスク、BKウイルス血症

・カルテを自分で閲覧できる機能を使用しているか:これがあるので、少なくとも外来では、検査結果を印刷して渡すことはなくなった。質問などをチャットする機能や、その回答をビデオ電話で受ける機能もある。まずこれらの窓口になるのは、患者の担当コーディネーターである。

・Karnofsky Score:Performance statusを表すスコアで、100%が最もよい。

・タクロリムスの目標トラフ:移植後3ヵ月、6ヵ月、12か月で少しずつ下がる。最近は前述のBelaを追加してCNIを減量するケースも多い。

・コメント/質問/心配:これを聴きとってくれるので、acknowledge(そうだったんですね、の部分)はある程度済んでおり、医師はaddress(それはこういうことだと思いますから、こうしてみましょう、の部分)に重きを置いて話ができる。

 ここまでやってくれるので有難いが、当然それなりに時間がかかる。そのあと医師が診察し、決めた方針を看護師さんに伝えるのであるが、伝えようにも看護師さんは次の患者の診察室にいる、といったことが起こる。

 また、せっかくすべてが早く終わっても、肝心の当日採血の結果がまだ出ていない、といったことも起こる。その場合、直近の結果を参照して帰宅となるが、当日の結果が出た後で「あれをしようこれをしよう」と患者に伝えるため、二度手間になる(外来後の業務に影響する)。

 前日に採血してもらう(遠くに住んでいても、近所の病院や採血施設でできる)と、当日の動きはだいぶんスムーズになる。タクロリムスのように、1時間では結果が出ないものも、1日あれば出ている。しかし、結果が前日に出てしまうと、それを誰がフォローするんだという話になる。月曜日の外来では、日曜日にオンコール医師がフォローすることになってしまう。

 手厚いのはよいが、外来はやればやるほど患者が増える。そのため、どの国でもどの科でも、それなりに大変(challenging)だ。それでも、手厚くないよりは、よい。私がとくに好きなのは、患者の質問や心配にちゃんと答えるところ、簡潔ながらも全員に身体診察を行うところ、そして、たとえ忙しくても少しは患者の生活と人生について話す余裕があるところである。

 

7/13/2024

Thymo

  Thymo(antithymoglobulin, ATG)といえば、ヒト胸腺細胞に対するウサギまたはウマ由来の抗体である。現在に至るまで、免疫学的にハイリスクなケースでは第一選択の導入免疫抑制薬である。ウマ由来とウサギ由来を比べたスタディもあり、より一般的に用いられるのはウサギ由来のATGである。

 モノクローナル抗体にチロシンキナーゼ阻害薬にsiRNAにと次々と分子標的薬が応用される現在において、いまだに「ヒトの胸腺細胞を入れたウサギが作った血液(の抽出物)」が移植に用いられているというのは、奇異とも言える。

 ひとつには、それがポリクローナルであり、T細胞の活性化・増殖シグナルを幅広く抑えるためであろう。モノクローナルに抑えようとすると、たとえば抗CD25(IL-2受容体)のbasiliximabのように弱くなるか、抗CD52(広汎かつ多量にリンパ球表面に分布する蛋白)のalemtuzumabのように強すぎるかである。ちょうどよい標的分子がみつかるまではThymoの役目(とウサギの悲運)は終わりそうもない。

 それにしても、「なぜウサギ?」と思う。少し調べると、事の始まりは1899年、当時パスツール研究所にいたロシア(現在のウクライナ)人科学者Élie Metchnikoffの実験だという。彼はマウスのリンパ節から取り出した細胞をモルモットに注射し、その血液から抗マウスリンパ球抗体を得ることに成功した。

 もちろん、ただ抗体ができるかを確かめたかったわけではなく、その抗体をマウスに注射し、マウスの血中リンパ球数が激減することを確認した。抗生物質ができる前の時代は「抗体で治そう!」がパラダイムであり、Mechnikoffはパリに移るまでオデーサの研究所で狂犬病ワクチンを製造していた。1908年には免疫学に関する業績によりノーベル医学生理学賞を受賞している。

 もっとも当初はその効果が疑問視されていたようだが、徐々に知見が蓄積し(当時はantilymphocytic serumなどと呼ばれた)、1966年にはMGHの移植外科医Anthony Monacoらがマウスの皮膚移植で拒絶反応を抑制することを示し、1971年にはボストン大学・タフツ大学・ハーバード大学などのグループが初めて献腎移植ドナーに用いた症例を報告した(NEJM 1971 284 1109)。以後改良されて現在に至る。

 その、最大の功労者の一人であろうMonaco先生(1932-2022)は、2015年にTransplantation誌のエディターを引退する記念に同誌からインタビューを受けている(Transplantation 2015 99 10)。その最後に、移植医療を志す若い臨床/科学者へのメッセージを載せているので、紹介したい。

I say to our young clinician/scientists that your career in transplantation should be an enjoyable, rewarding, albeit a demanding journey. Be proud of your clinical and research accomplishments. Learn from, but do not be limited or paralyzed by your mistakes. Do not be consumed by the demands of or your devotion to transplantation to the detriment of your family, friends and loved ones. Keep your family and loved ones close to you and let them share in the joy of your successes and the disappointment of your failures.

訳:若い臨床/科学者に伝えたい。あなたの移植におけるキャリアは楽しくやりがいがあるが、厳しい旅になるだろう。自分の臨床/研究業績を誇りに思いなさい。たとえ間違っても、縛られたり動けなくなったりするのではなく、そこから学びなさい。移植の厳しさや移植への献身に時間とエネルギーを消耗しすぎて、家族・友人・愛する人たちを犠牲にしてはいけない。家族や愛する人たちとは親密にして、成功した時の喜びやうまくいかなかった時の失望を分かち合いなさい。


Soliciting a donor

 移植を希望して外来を受診しても、ドナー候補がいないということはよくある。しかし、米国のほうが献腎移植の待機時間が短いとはいえ、生体腎移植の方が圧倒的に短いことは言うまでもない。とくに、透析が必要となる前に先行的腎移植を受けたい場合には、生体腎移植のほうがずっと現実的である。

 ドナー候補がいないとはいえ、実はいるのかもしれない。米国には何親等までという制限もないので、声を掛け続けていたら見つかる、ということもある。そこで、どの施設も「ドナーを探す(英語では、懇請する、声を掛ける、を意味するsolicitと呼ばれる)方法」を紹介して、ソーシャルワーカーなどを通じて必要なリソースにつないでいる。

 とはいえ、いきなり友人にメールしたり、X(旧twitter)・Facebookなどに投稿しろといわれても、どうすればよいかわからない。そこで、こうしたリソースでは文例まで提示している。例を挙げると、こんな感じである。

 My name is ______. I have _______, which is a condition that has caused my kidneys to stop working. Because of this, ( I am at risk for being / I am on dialysis ), which I can take up to X hours of my week. I am hoping for a quality of life that will allow me to use those hours towards ( hobbies, spending time with loved ones - specific names, goals, upcoming life events ). One of the ways to make sure I can live my life to the fullest is to find a living donor. Please share this post in the event someone would be interested in getting evaluated to donate their kidney. This is truely a lifesaving gift. My family and I are grateful for the support!

 訳:__です。私は__という病状をかかえ、腎臓の機能がなくなってしまいました。そのため、私は(透析になり/ 透析になるリスクがあり)、そのため週にX時間を費やさなければなりません。私は、生活の質をとりもどし、その時間を(趣味、愛する人たちとの時間、目標、近々のライフイベントなど)のために使えるよう願っています。私の人生をできるかぎり充実したものにする方法の一つは、生体腎ドナーを見つけることです。もしあなたの周りで誰か腎臓を提供ための評価を受けることに興味のある人がいたら、この投稿をシェアしてください。これは真の意味で命を救う贈り物です。私と家族はその支援に心から感謝します!

 もちろん、この文章一つですぐにドナーが見つかるわけではないだろう。ただ、患者の事情と思いがしっかり込められているのは間違いない。そしてそれは、「たしかにそれは移植ドナーを見つけたいという気持ちにもなるだろう」という共感を得られるだろう。ドナー探しの際には、「私の信仰する教会はとても規模が大きいので、助けてくれる人がいるかもしれない(神様が助けてくれるかもしれない)」といった言葉を聴くこともある。何事も、始めてみないことには何も始まらない。


7/12/2024

Pre Eval

  移植を希望する患者さんが、移植施設で断られてから別の移植施設を訪れることは珍しくない。EpicにはCare Everywhereと呼ばれる機能があって、そこを開くと他施設の診療記録が閲覧できるので、何が問題だったかは調べることができる。 

 そうした患者さんを診る前には、きっと問題は解決していないだろう、といった先入観を持たないことが大切だ。たとえば、社会的サポートが足りないため断られた患者さんが、世話をしてくれる人を見つけて、その人と一緒に診察室にいる、といった場合もある。

 また、もし問題が解決していなくても、難しい(challenge)ことを共に認識したうえで、一緒にがんばろうと話しかけることが大切だ。そしてなにより、一度(または二度以上)断られても、ここに来てくれたことに感謝の気持ちを伝えることが大切だ。

7/11/2024

Donor Counseling

  ドナー志願者に伝えることはいくつかあるが、まずは感謝の気持ちである。一つには、レシピエントが助かるたけであるが、もう一つには、生体腎移植を受けることで献腎移植リストから外れれば、それだけ献腎移植を待つ患者さんが助かる。

 そのうえでリスクを伝える。移植後に代償されるとはいえ、25%程度は腎機能を失うことになる。それでも多くの人達は大丈夫なのであるが、血圧が少し上がるリスクがある。とはいえ、現在では降圧薬で管理良好な高血圧患者もドナーになれる(十分安全であるというスタディがでたらしい)。また、単腎になるため尿路結石の既往は知っておく必要がある。

 ほかにも、前の投稿でふれた家族歴(APOL1遺伝子を含む)、ドナー志願者ごとのリスク(耐糖能異常、肥満、顕微鏡的血尿など)について話をする。

 また、志願するにあたってはさまざまな思いや事情があるため、それについても敬意をもって耳を傾ける。たいていは、ハート・ウォーミングでポジティブな雰囲気になる。志願者の全員がドナーになれるわけではない。中には、最初から難しいと思われる人もいるかもしれない。しかしそれでも、まずは話を聴くことが第一である。

 また、どう見ても健康そうな志願者に思わぬ支障が見つかることもある(極論すれば、腎臓が生まれつき一つしかなかったなど)。そうした場合も、よく話をして「ドナーになれるといいですね」と心が通い合っていた方が、お互いにbad newsをやり取りしやすい。


Donor Eval

  ドナー志願者の評価は、腎機能測定、蛋白尿、血圧、血糖、各種感染症、腎形態評価(左右差、個数、器質的な異常)、心機能評価、心理的評価など実にさまざまな評価がおこなわれる。しかし、医師がまず診察室でする仕事はhistory and physical(詳細な病歴聴取と身体診察)である。少しユニークな点も挙げると:

・かかりつけ医、健康保険:どちらも持っていない場合がある。ドナー志願者としての受診はレシピエントの保険で賄われる場合もあるようだが、ドナーなったあとは健康チェックが必要になる(移植後2年は移植施設が診る)ため、かかりつけ医を持つ必要がある。

・生活歴:移植前後に世話をしてくれるサポートがあるかどうかを必ず聴取する。早ければ移植翌日には退院するが、術後はなにかと世話が必要なこともあるし、遠方で移植手術が行われる場合もある。

・家族歴:レシピエントが家族である場合、同じ病気がドナーにみられることもあるため、重要である。アフリカ系アメリカ人の場合は、APOL1遺伝子変異の検査について話し合う。リスク変異があるというだけでドナーを却下するわけではないようだが、リスクを知っておくことは大切だからだ。

 なお、万一ドナーが末期腎不全になった場合には、優先的に腎臓が移植できるようになっている。そういうことはまずないのであるが、事故や他の疾患などによって腎機能が低下することはあり得る。


7/10/2024

Transplant information

 外来カルテは医師ごとに異なるフォーマットが使われているが、どれも最初は下記の基礎情報が載っている。これらの情報を1から拾い集めるのは大変だが、さいわいカルテにまとめてある(個々のカルテ以外にも、これらを記載する欄がある)ので助かる。まだ数日なのですべてを把握しているわけではないが、チェックリスト代わりにここに書いておく。

・移植日:誕生日のようにわかりきっていると思いがちだが、腎移植が2回目以降な場合や、他臓器移植の後に腎移植を受ける場合もあるので、そこは注意しなければならない。

・原疾患:移植腎に再発することもあるため、腎生検の有無が透析患者などよりもより重視されている。

・UNOS ID/Match ID:照会したことはないが、かならず記載されているので、そういうものなのだろう。

・移植のタイプ:LRKT(living related kidney transplant)、LUKT(living unrelated、ABO不適合などを回避すスワップなど)、DDKT(deceased donor)など。DDKTの場合、KDPI、DBD(donation after brain death)またはDCD(donation after cardiac death)なども付記される。

・手術情報:WIT(warm ischemia time)、CIT(cold ischemia time)、腎グラフトの血管本数、外科医など。

・術後情報:入院日数の短い米国では、IGF(immediate graft function)であれば3-4日で退院するが、術後に透析を要するDGF(delayed graft function)の場合は、その限りではない。KDPIの高いグラフトを捨てずに移植する機運もあり、そうした入院は増えている。また、グラフト周囲のlymphocele(リンパ液の貯留)などでドレーンを挿入されたまま退院する例も多い。

・免疫学的リスク:cPRA、A/B/DR MM(mismatch)、DSA(donor-specific antibodies)など。

・CMV serostatus:D-/R-(ドナーとレシピエントがともに陰性)を低リスク、D+/R+またはD-/R+を中リスク、D+/R-を高リスクと呼ぶ。

・EBV serostatus:CMVと同様であるが、D+/R-はEBウイルス関連悪性腫瘍の発生リスクが高いことから特別に「mismatch」と呼ばれる。

・導入免疫抑制:Thymo(抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン)、Basiliximabなど。

・維持免疫抑制:たいていPrednisone/MMF/Tacrolimusであるが、タクロリムスの腎毒性を低減するためにBelataceptも多用されるようになっている。その場合、タクロリムスのトラフ目標は少し下がる。

・一般腎臓内科医:元来は「移植前は外科医、移植後は腎臓内科医」の住み分けがあって、移植施設が末永く移植後のフォローを行っていた。しかし、移植件数が格段に増えたことや、移植前から腎臓内科医がかかわるようになったことから、1年・2年などの区切りでフォローを一般腎臓内科医に任せる(移植施設の受診は必要時とする)ようになった。


7/09/2024

CRRT

  General nephrologyのフェロー達がやってきて、腎臓内科が華やいでいる。不安と期待の混じった彼らにさっそくレクチャーが組まれており、CRRTに関するものに参加させてもらった。そのまま内容を写しても仕方がないので、目立った違いをいくつか。

・常時8-9台のCRRTがまわっているというだけあって、腎臓内科フェローが透析カテーテルを挿入することはない(ICUサービス、外科医などが挿入する)。理由の一つは、CV挿入のリスク管理が徹底しているだめであろう。入職前のトレーニング・モジュールもかなり厳しく、手技の一つ一つが確認できないと合格できないようになっていた。

 また、「忙しいから無理(we've got too many things to do)」と集団的に言える文化も理由に挙げられるだろう。もちろん、透析オーダーは腎臓内科なしには開始できないようになっており、始めたい人が勝手に始められるようにはなっていない。

・血液流量が250-300ml/minと速い。この施設は全国的にも速く、抗凝固の必要を減らすためという。これにより、抗凝固を要する患者は10-15%まで減少したという。

・透析液はリスク管理と感染管理の観点から既製品を用いているが、カリウム濃度は2mEq/lと4mEq/lの2種類がある。また、高価なため採用はしていないが、リンを含む透析液もあるという。カルシウム・炭酸水素イオンと混在しても石灰化しない仕組みがあるのだろう。

・また、ナトリウム濃度は140mEq/lと決まっているため、高ナトリウム血症を維持したい脳浮腫患者では3%NaCl溶液をpost-filter(透析膜の下流)から流し、低ナトリウム血症を緩徐に補正したい場合には5%糖液を流す。※施設によっては透析液を蒸留水で希釈するところもあるという。

・透析機械は、Fresenius社傘下のNxStageを用いている(写真)。米国のCRRTと言えばBaxter社のPrismaflexシリーズの印象が強く、NxStageは在宅透析のイメージであったが、ポータブルで使いやすいようだ。同じように、在宅透析に新規参入したOutset Medical社のTabloシリーズもCRRTに用いられているという。ICUで始められた患者が退院後に在宅透析となった際などは、すでに患者が機械に慣れているため都合がいいらしい。


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7/07/2024

忘れられない一言 71

  電子カルテは大手のEpicを使っている。以前にも使ってはいたが、今回来て見ると、多大な進化を遂げておりまるで別物であった。特徴をここに書ききることなど到底できないが、患者診療だけでなくQI目的のツールがかなり充実しており、Epicのなかだけでかなりの質問に対して答えが返ってくるようだった。

 とはいえ電子カルテの最大の目的は患者診療であり、ログインできないことには始まらないのであるが、なんと10個以上のトレーニング・モジュールをクリアしないとログインさせてもらえない。そんなわけで初日はモジュールに追われ、終わったと思ってITに電話すると「まだこれが残っている」と言われ、それもやって・・という具合であった。

 なんとか開けたものの、最初は外来のスケジュールすら出せなかったが、とても電子カルテに詳しい先生が色々と必要な患者リストなどを入れてくれた。今回の一言は、その先生が何気なく口にした「時間のある時に、すべてのボタンを試しなさい」である(もちろん、テスト患者を使っての話である)。

 山に例えれば、一般的な登山ルートを知っているだけでは、道案内とは言えない。ありとあらゆる道と、障害物と、道から外れたところを知り尽くしてこその、専門家である。そして、それを時間のある時にやるというのが大事なのだろう。少しずつ、色々試して経験を蓄えていくその差が、非エキスパートとエキスパートの分かれ目である。

 というわけで、色々押してみたが、いまだに入院患者のリストすら出せない(笑)。同僚はその先生に入れてもらったというが、できれば自力でなんとかしたいものである。そして、もしその先生の力を借りるなら(おそらくそうなるだろうが)、そのやり方を覚えておこうと思う。


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7/05/2024

Outpatient

  外来で一番気づくのは、手厚さである。受付し、roomingと言って部屋に案内され、フィジシャン・アシスタントがバイタルサインなどをチェックし、看護師がくる。看護師がさまざまな病歴を確認し、生活のさまざまな点にも耳を傾け、尿量・飲水量・薬の残り数などにまで目を配る。

 さらに、その報告を受けた医師(フェローがいればまずフェロー)が、血液検査データや診断・治療などを踏まえたより専門的な観点から話を聴き、さらにこまごまな点までもaddress(なるほどそうですか、それについてはこう思います、などと取り合う)してゆく。また、患者の心理的な側面についてもフォローする。

 そのうえで、決まった方針を医師が看護師に伝える。医師はオーダーし、看護師やソーシャルワーカーがフォローアップしてくれる(訪問リハビリをセットアップするとか、皮下注射を打つとか、創部のステープルを抜鈎するとか)。オーダーのないこと(透析施設に、患者が移植後に透析を離脱することになったと伝える、など)も、フォローしてくれる。

 人件費と医療費と言ってしまえばそれまでだが、やはり私が大事だと思うのは「患者が診察室に案内され、そこに人々が入っていく仕組み」である。

 ちょっとしたことだが、そもそも、医師に呼びだされるのと、医師やスタッフのほうから患者のところに行くのだけでも、印象はだいぶん違う。はやい話が、文字通り「患者中心」の動線になる。部屋に案内されれば、(たとえ待っても)患者にはプライバシーがある。

 また、スタッフがワークルームに集まることで、コミュニケーションも生まれやすい。看護師Aと医師が話をしていたら、看護師Bが「その患者さんなら前回見たけどこうだった」などと知恵を分けてくれることもある。医師どうしでも相談できるから、とても心強い。レジデントやフェローなら、なおさらだろう。


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7/03/2024

Transplant Kidney Biopsy

  よかったことをいくつか挙げると、まずは超音波技師さんが付き添ってくれる。そして、事前にちょうどよい位置や角度をある程度示してくれるだけでなく、拡大縮小や輝度を適宜調節してくれる。そのため、穿刺針の位置や腎臓内外の構造が非常に見えやすい。日本でも、生理検査室でやるなら、(検査技師さんの人出があるならば)付き添ってもらうと超音波を使いこなせるだろう。

 次に、生検に必要な物品がキットになっている。そのため、あれとあれと・・などと探したり(持参し忘れたり)することが防がれる。キット以外で必要なのは、スパイナル針、穿刺針、滅菌手袋くらいである。リドカインも5mlが2アンプル入っている。自前ではなく製品なので、さまざまな臓器の生検に汎用できるのだろう。そして、その費用を上回る金額を請求できるのだろう。

 最後に、医師が一人で施行する。エコーの保持と穿刺を一人で行う医師は日本でも珍しくないが、検体の処理、患者の搬入搬出なども一人でやる。また、「生検曜日」が決まっていて、その日に生検担当の医師がまとめてやる。そのため、他医師がオーダーしたものも、(よほど安全性や必要性に疑問がなければ)やる。そのため、生検担当の医師はほんの数年で1000件を超える。そして、細かいようでとても大切なコツを蓄えることができる。 

 何よりも、そうして得られた頼もしさは、患者さんとその家族に安心感を与える。

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Advaned Nurse Practitioner

 診療看護師(nurse practitioner、NP)は日本でも徐々に活躍の場が広まっているが、本場?米国はAdvanced Practice Registered Nurse(APRN)たちがもっと活躍している。APRNの資格で働ける4つの職種の1つがNP、という関係にあるので、たいした違いはない。しかし、米国のARPNはすでに医療の根幹をなしている。

 たとえば朝のチーム回診前に患者を診察してみんなの前でプレゼンするのは、彼女たちである。レジデントの役目に近いが、レジデントよりも情報収集や問題点の抽出はしっかりしている。また、billing(診断病名やケアのレベルを入力して、診療報酬を請求すること)もできるので、アテンディングのような役目を果たしている場合もある。

 レジデントは卒業したらどこかにいってしまうレジデントよりも、ARPN達がいてくれるほうが人材不足になりにくい。医師の安定供給はどの国でも大変だから、今後日本でも診療看護師の需要は増えていくと思われる。問題はそれを供給できる(医師たちが供給を許す)かであるが・・。


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7/02/2024

Kidney Voucher Program

 アメリカはあまり生体腎移植をしないとよく言われるが、献腎移植が相対的に多いだけで、実際には日本よりもおこなわれている。一回腎移植カンファレンスに出席しただけでも、生体腎移植を可能にするさまざまな仕組みがうかがわれた。

  たとえば、kidney voucher programである。米国ではNational Kidney Registry(NKR)が中心に行っており、standard voucher、family voucher、swap saver、real time swap saverなどがある。

 Standard voucherとは、自分が本来提供したかったレシピエントとマッチせず腎臓を提供できない場合に、他のドナーに提供することで、そのレシピエントが「腎臓優待券(voucher)」をもらう。それにより、本来あげたかった相手が移植されやすくなる。

 Family voucherとは、非特定の相手に腎提供することで、家族5人に「優待券」を届けることができる。それにより、いつか誰かが腎臓病になった際に、その人が移植されやすくなる(券を使えるのは一人)。

 Swap saverとreal time swap saverは、paired kidney donation(いわゆるドミノ移植)に関係したもので、自分の家族や友人が(体調不良などで)移植を受けられなくても、ドミノを止めないように腎提供を行った場合、その家族や友人が(体調がよくなったら)優先的に移植を受けられるというものだ。

 また、生体腎移植ドナーの経済的負担をカバーするDonor Shieldという制度もあることがわかった。治療・検査費用、移植を受けるための旅費(同じ町でできるとは限らない)だけでなく、仕事ができない間の保障、入院中の子供や高齢者の世話にかかる費用など、さまざまな負担がカバーされるという。


(NKRのYouTubeビデオより)