10/27/2024

忘れられない一言 77

  先日紹介した"Sick Girl"を読んだ。移植医療の患者視点を、非常に深く正確に(理解できるように、あるいは理解できないことを理解できるように)これでもかと教えてくれる本だった。

 一番の衝撃は、人生の意味についてのやりとりだった。もうこれ以上は無理であると絶望的に伝える患者に対して、主治医が「あなたの人生に意味を与えるものは何ですか?」と聞いた。

 こんな質問をすることはまずない医師であったが、移植後10年以上の診療を経ての、絶望と怒りの果てに出た訴えに対するやり取りなので、そういう話にもなったのだろう。医師はまず仕事、そして家族を例に挙げる。

 しかし、家族を置いて治療を放棄するのは無責任、といった批判でひっこめるほど単純な苦しみではない。たとえ非難されても仕方ない、自分のことは自分で決める、と思えるほど作者は追い詰められていた。

 移植以来ずっと、作者にとって人生の意味は生きること(survival)だった。生きていなければ、その他のことなど何もない。だから、いつ拒絶するかもしれない、いつ感染やがんになるかもしれない、と思いながら必死に「患者」を生きてきた。

 だから、主治医の質問に答えるには、移植をいったん脇に置いて、想像したこともないことを想像して、夢をみなければならない。そして、彼女から出た一言は:

 "I'd like to write."

 だった。

 主治医は「じゃあ、書けばいい」と言う。書こうとしたが駄目だった、大学時代にクラスに何度か行ったが心臓病になり行けなかった、今からやろうとしても合うクラスがない、やっぱり無理だから薬(免疫抑制薬)を飲むのをやめる!

 ・・と、彼女は言い放った。

 主治医はさらっと「免疫抑制薬を減らして、2週間後にレベルをチェックしましょう」、「それまでは毎週会いましょう」と言った。そして去り際に、「大学に確認して、個人教授のレッスンを組むこともできます、あなたのスケジュールに合わせられますよ」と言った。

 この時のことを彼女は、I was caught up with olive branches(ノアの箱舟の例え)、と書いている。結果的に、そのおかげでこの本ができた。

 二つ考察しなければならない。一つには、人生の意味について考えさせられた。生存、所属、愛情、・・自己実現と言ってしまえばそれまでだが、そこにこそドラマがある。単純に「次のレベルはこれかな?」とすくすくやっていけるほど、人生は甘くない。

 もう一つは、医師に求められる落ち着きである。患者に「人生の意味は何ですか?」と聞くほど思い上がる気はないにしても、「治療をやめたい」という問いかけにどう向き合うかはどの医師も経験することだ。

 この時主治医がとった対応は、患者が生きる意味を持っていて、でも心理的に溺れかけていて、「オリーブの枝を必要としていた」からこそ正解なのだろう。患者中心医療といっても、このようにリードすることが必要な場合もある。



10/10/2024

移植腎生検あれこれ

  ピアノレッスンは、先生の演奏を観て聴いて学ぶことはあまりなく、先生はアドバイスをすることが多い(ピアノが2台あって、マスタークラスのようなレッスンなら別だろうが)。しかし、いまの施設での腎生検は、指導医の手技を診て学ぶ機会もけっこうある。

 指導医の手技は自分(針先)がどこにいるのか、そしてどこにいるべきなのかが分かりやすい。浅すぎず、深すぎず。たいていは、ちょうどよい当たりで押し付けすぎずにトリガーを引く。かといって、引き気味というほどではない。トリガーを引くときには、しっかりその位置を保つようにしないと、組織が固めの時に発射の内筒が刺さらず跳ね返ってしまう。

 いまの施設での腎生検は、超音波技師が描出してくれる。そして、生検する際は腎臓の下極(尾側)を少しだけ横断面で写す。そのため、刺入範囲に髄質や腎門がない。また、ドップラーで腎周囲に血管がないことを確認する。

 

Medical Non-adherence

 どんなにすばらしい治療や薬も、アドヒアランス(medical non-adherence, MNA)がよくなければ意味がない。アドヒアランスを保つのは難しく、それは医療者自身にとっても例外ではない。血中濃度やリフィルの回数などで確認できるが、簡単なのは患者に「この4週間で飲まなかったことがありましたか?」「この4週間で続けて飲まなかったことがありましたか?」と聞くことである。

 MNAのリスクは、

・医療制度/医療者:保険、診療へのアクセス、医療者-患者間のコミュニケーション、小児から成人への移行

・社会疫学的な面:思春期/若い成人、マイノリティー、低い社会経済ステータス、家家庭内不和

・患者関連の心理社会面:過去のアドヒアランス不良、ヘルス・リテラシーや病識の低さ、心理的な問題を抱えている、自分で考え行動する力(self-efficacy)が低い、社会的支援が少ない、忘れやすさ/認知機能低下、日々のルーチンの変化

・治療関連:頻回な内服、内服薬の多さ、副作用、味/大きさ

・その他:移植後の経過が長い、生体ドナー、自分は健康だという思い込み、身体的な問題

 さらに、テーマとして:

・Nonadherence:拒否、人生における大きな出来事、忘れっぽさ、費用、薬を手に入れる大変さ

・Partial adherence:副作用を最小限にしたい、忘れっぽさ、ルティーンの変化、処方の変化、人生に起きるさまざまな障壁(仕事、育児など)

・Total adherence:移植臓器を守る、ドナー/医療者への感謝、自分の健康に責任を持つ、副作用を忍容する、飲まないことによる結果を恐れる、リマインダーや予定表を使う、人の助け

 などがある。

 ・・それは、そうだ。単に忘れるだけなら、さまざまな工夫がある。コストなども、さまざまな支援がある。言うほど簡単なことではないが、取り組んでいけばよい。

 ・・一方で、考えさせられたのは、演者の薬剤師(奇しくも筆者と同じ施設!)が紹介した、Amy Silversteinさんのエッセイ、"My Transplanted Heart and I Will Die Soon"だ(New York Times 2023年4月18日付)。

 高い教育を受け臓器(心臓、2度の移植)を守るために完璧なケアをしてきた彼女は、免疫抑制薬の副作用と言える悪性腫瘍のため、エッセイがでてすぐの5月5日に59歳で世を去った。

 医療者が簡単にアドヒアランスを守ればよい、と一概に言えるようなものではない、移植患者が経験するさまざまな苦悩と困難がある。彼女は"Sick Girl"と"My Glory Was I Had Such Friends"の2作品を残している。読んでみようと思う。


(出典はNew York Timesの追悼記事
 

10/09/2024

拒絶のマーカー探し

・kSORT(Kidney Solid Organ Response Test):レシピエント血液の遺伝子発現パターンを調べて拒絶を予測しようとするもの。近年の大規模試験では予測できなかった(AJT 2021 21 740)。

・PIRCHE(relevance of predicted indirectly recognizable HLA epitopes):DSAがClass IIMHCの抗原提示によって間接的にCD4T細胞に提示されることから、CD4T細胞の認識するエピトープを解析することでDSAリスクを予測しようとするもの(AJT 2017 17 3076)。

・mRNA signature、ddcfDNA:以前紹介した

・Gene expression profile(GEP):120の遺伝子を分析するTruGrafアルゴリズム。CTOT-08スタディ(Am J Transplant 2019 19 98)でvalidateされた。AlloSureと組み合わせたスタディがKidney360に最近でた(DOI:10.34067/KID.0000000000000549)。

・尿中マーカー:RNA(NEJM 2013 369 20、CTOT-04スタディ)、CXCL9(AJT 2013 13 2634、CTOT-01スタディ)、CXCL10(JASN 2023 34 1456)、exosomal RNA(JASN 2021 32 994)。

・Implantable Bioelectronic Systems:拒絶したら腎臓が熱くなるのでは?というわけで、腎臓に電極を貼り付けて温度を測った実験(Science 2023 381 1105)。

(出典はScience 2023 381 1105)


VXM

 クロスマッチといえばCDC(補体依存細胞傷害)とFlowの二つと思っていたが、Virtual XM(crossmatch)というのもある。CDCとFlowをあわせてPhysical XM(PXM)と呼び、ドナーとレシピエントどちらの検体も必要なため、それを運んできて、実験室で混ぜて・・と手間と時間がかかる。とくに献腎ドナーの場合に、レシピエントを探す時間がかかってしまう。

 それに対してVXMは、レシピエントの抗HLA抗体とドナーのHLAさえわかればよい。レシピエントに抗HLA抗体がなければ、ドナーがどんなHLAでもPXMは陰性になる・・はずである。問題は、本当にないのか?という偽陰性の可能性と、抗HLA抗体がある場合である(KI Reports 2022 7 1179)。

 偽陰性の可能性として、検体への添加物や希釈の影響、共有する複数のHLA抗原に抗体が分散して結合してMFIが低くなる(ある意味、希釈される)、プロゾーン効果(抗体が多すぎて希釈しないと検出できない)などが挙げられる。

 また、HLA抗体を検出するソリッド・フェーズ・アッセイのビーズは100個程度なので、そこに含まれない抗原に対するHLA抗体の有無はわからない。

(出典はBr Med Bull 2014 110 23)

 抗HLA抗体があった場合、MFIなどによってどこまで許容するかが問題になる。許容できない(unacceptable)抗原としてリストすれば、そのHLAを持たないドナーであればVXMは陰性で、おそらくPXMも陰性になるはずである。

 MFIが低いなどの理由で許容できる(present but weak)抗原とみなせば、そのHLAを持つドナーも対象となり、抗体はDSAとなる。その場合、VXMを陽性・陰性とするかは施設の判断となる。

 PXMをすればはっきりするが、PXMは自己抗体などがあると陽性になってしまうなどの限界もある。

 VXMをPXMに代替してよいかについては議論があり(反論はKI 2020 97 659)、VXMとPXMを比較するUCLA Virtual Crossmatch Exchanges(Transplantation 2023 107 1776)なども行われた。

 その結果、2023年12月28日にCMS Final RulesでVXMを最終クロスマッチとすることが許されるようになった。現在、CMS guidance document on virtual crossmatchingが編集中だという。


10/08/2024

Epitopes and Paratopes

 HLAの話は遺伝学と免疫学が交差して複雑な上、色んな概念が抽象的に説明されることがおおく理解しにくい。そのため何度も何度もrevisitして多面的に理解しようとしているのだが、今回エピトープに相補的なパラトープという言葉を習った。

 抗体にはH鎖とL鎖に3つずつ相補性決定領域(complementarity-determining region CDR)があり、6つ合わせて抗原受容体を形成する。そして、1つのIgG分子には二つの抗原受容体がある。

(出典はWikipedia)

 CDR6個による約50アミノ酸残基、650-900平方オングストロームの領域のなかに、抗原と直接結合する部分がいくつかある。平均すると20アミノ酸残基くらいで、CDRとオーバーラップするが同じではない(下図では、CDR L2が抗原と結合していない)。これが、パラトープである。

(出典はPediatr Nephrol 2017 32 1861)
 パラトープが認識する15-22のアミノ酸残基からなる領域をエピトープと呼び、その中心にある2-5アミノ残基(半径3オングストローム)の領域をエプレットと呼ぶ。

 エピトープはHLA分子間で共有されうるので、たとえばDQ〇〇に対するde novo DSAができると、その抗体はエピトープを共有する他のDQや、DRなど他の座にあるHLA分子に対しても結合するため、cPRAが高くなる。

 なお、抗体のパラトープが認識しているエピトープはB細胞エピトープである。それに対して、T細胞のTCRがMHCに提示された抗原を認識する際の認識部位は、T細胞エピトープと呼ばれ、両者は別物である。


Controlled hypothermic Perfusion

 「臓器保存には4Cが最適」とよく言われる。冷蔵庫内も、JIS規格で2-5Cが適切とされている。だが、氷は0Cであるから、氷で冷やしただけでは凍ってしまう。そのため、肺のように繊細な臓器では、凍ってしまい最適とは言えない。さらに、肺を長持ちさせるにはどの温度がちょうどよいかを研究したところ、10Cがちょうどよいことがわかった(Sci Transl Med 2021 13 eabf7601)。イタコン酸が増えることでクエン酸回路の一部が止まり、活性酸素などが減るのではないかと推察されている。

(出典はSci Transl Med 2021 13 eabf7601)
 この研究に基づき、Paragonix Technologies社が10Cで庫内を維持する装置を開発し、臓器を遠くから比較的安価に運ぶことや、手術を日中に行うことができるようになった(NEJM Evid、doi:10.1056/EVIDoa2300008)。

機械潅流と低体温

 機械潅流後の腎臓移植は、1968年にウィスコンシン大学のDr. Belzerにより初めて報告された(NEJM 1968 278 608)。潅流液にUWという種類があるように、同大学・同医師は臓器潅流のパイオニアである。

 さて、腎移植における臓器潅流・低体温で覚えておくべきスタディが3つある。一つ目は以前少し紹介した2009年のEUROTRANSPLANT試験。Mate kidney studyで、平均CITは15時間、DGFが氷冷保存の26%に比べて20%と有意に低かった。

 ただし技術的問題か機械潅流群の25例が氷冷保存にクロスオーバーしており、メインデータではDCDのDGFは機械潅流群で数字上低いものの有意ではなかった。

 二つ目は、2015年の脳死ドナー低体温試験(NEJM 2015 373 405)。34-35Cの低体温群で、36.5-37.5Cの正常体温群に比べてDGFが有意に低く(28% v. 39%)、試験は早期中止になった。

 ただし、ドナーはランダム化されたがレシピエントはランダム化されておらず、プライマリ・アウトカムのDGFが低いのはよいが、より長期のグラフト生存率には有意差がなかった。

 三つ目は、2023年の低体温と機械潅流を単独・併用した群を比較した試験(NEJM 2023 388 418)※。米国の6移植施設が参加したプラグマティック試験で、DGFの調整後リスク比は:

・低体温で機械潅流に比して1.72 (95%CI 1.35-2.17)

・低体温で併用に比して1.57 (1.26-1.96)

・併用で機械潅流に比して1.09 (0.85-1.40)

 つまり、低体温は機械潅流よりDGF予防の効果が弱く、併用しても相乗効果はないという結果だった。ただ、二つ目と同様に、1年後のグラフト生存率に有意差はなかった。いまでも機械潅流が標準治療にはなっていない理由である。

 ※この論文も、昨年以前の職場で研修医向けのJournal Clubで取り上げていた。

虚血のない移植

  虚血後再灌流が問題なら、いっそ虚血も再灌流もない移植はできないか?というわけで、臓器を摘出する前から機械潅流につなぎ、血液が流れ続けるようにしておけば、原理的には可能である。肝移植では確立しつつあり、中国で行われたIFLT-DBD試験で通常の肝移植に比べて術後のグラフト機能不全や各種合併症が有意に少なかった(J Hepatol 2023 79 394)。

(出典はJ Hepatol 2023 79 394)
 実は腎臓でも行われており、2019年に発表された最初の報告によれば(Front Med Lausanne 2019 6 276)、術後は当然透析も要せず、経過は良好であったという。潅流のため大動脈・大静脈が残ること、(潅流液の一部として白血球を除去した)輸血を必要とすることはデメリットだが、原理的には可能ということだろう。なお、ex vivoの潅流中にも腎グラフトは尿を作り続ける。

(出典はFront Med Lausanne 2019 6 276)


DAMPs

 移植直後に程度の差はあれ避けられないのが、虚血後再灌流傷害(ischemia reperfusion injury、IRI)である。要は細胞が少し壊れて、炎症や免疫反応の元になるのだが、この壊れた欠片を詳しく調べる、DAMPs(damage-associated molecular patterns)の研究が進んでいる。

 DAMPsは、病原体の破片が自然免疫(innate immunity)を惹起する仕組み、PAMPs(pathogen-associated molecular patterns)に類似した概念である。

(出典はJASN 2011 22 416)
 DAMPsといっても、要は細胞の欠片であるから、HMGB1、Vimentin、Hyaluronan、S100、尿酸結晶、DNA、ATP、HSPなどたくさんある。そして、それらを認識する受容体も、TLR、RAGE(advanced glycation end products受容体)、インフラマソームなどたくさんある。傷害初期のDAMPは炎症、後期のは修復に働くなど、理解が少しずつ進んでいるようだ。

(出典はFront Immunol 2021 12 611910)
 なかでもIL-33は、IL-1に類似し核内に存在するサイトカインで、type 2 immune responseに関連する。Type 2 immune responseは従来、寄生虫の除去やアレルギーなどを指すが、最近は組織修復にも関わることが分かっている。そして腎移植においては、IL-33がST2/IL-1RAcP受容体をもつTreg細胞などを介して慢性拒絶を抑制する可能性が示されている(Annu Rev Immunol 2022 40 15)。

臓器提供時のさまざまな考慮点

  臓器がprocureされた後で、そのオファーを受けるかどうかの決断は、移植外科がしている施設が多いが、移植内科にとっても大問題である。また、外科で困ったときに内科が相談を受けることもあるので、内科医も経験(知識もさることながら、場数を踏むことで得られるニュアンス)を積んでおかなければならない。

・動脈の石灰化(プラーク)→喫煙歴を確認。

・CVA(脳血管障害)→高血圧など、心血管系リスクを示唆。

・腎生検→凍結標本、必ずしも腎病理医が読むとは限らないなど、限界が多い。皮質壊死(cortical necrosis)の除外には使える。

・ドナーとレシピエントのサイズ・ミスマッチを考慮する必要あり。

・高リスク腎なら、out-of-sequenceで自施設で待つより高齢なレシピエントへの移植も考慮。

・高リスク腎なら、二個移植(dual kidney)も検討。

・感染症例では、免疫関連腎症も考慮し、できれば尿検査データを入手したい。とくに、terminal Crが徐々に上昇しているような場合。

・糖尿病例でも、ドナーの糖尿病性腎症を考慮し、やはり尿検査データを入手したい。

・若いレシピエントなら、できることなら少しでもHLAを合わせたい。

・高齢レシピエントなら、生命予後がどれくらい改善できるかと、周術期リスクにどれくらい耐えられるかを考える。生体ドナーのみを受け入れる選択もあり(DGFリスクが低く、緊急ではなく計画的にリスクを最適化してから手術できる)。

・生体ドナーと年齢差があり過ぎる場合、paired exchangeも考慮。

・HIV治療例であれば、できればタクロリムスとの薬剤相互作用を起こさないレジメンに変更を依頼(タクロリムスが0.5mg1週間ごと、といった極端な用量になると、管理が難しくなるため)。

・レシピエントのBMIが高いのも問題だが、低いのも問題。

・心肺蘇生の長さにも注目。


ImmuKnow

 免疫抑制薬で免疫がどれくらい抑制されているかを定量できれば、「拒絶を抑えるにはこれ以上、でも感染を防ぐにはこれ以下にしましょう」などと診療できるようになるが、今のところそのようなものはない。

 ・・と思っていたら、世の中にはLIT(Leukocyte ImmunoTest)、ImmuKnow®などの検査があった。LITは主に好中球の機能を調べるもので、phorbol 12-myristate 13-acetateに反応して産生された活性酸素のレベルを測定する。移植よりは、がんの早期診断などに試みられている。

 ImmuKnowはCD4T細胞の機能を調べるもので、phytohemagglutininで刺激した全血からCD4T細胞を単離し、細胞内ATPを蛍光標識して測定する。2002年にFDAが認可し、拒絶時に高く感染時に低かったという報告は散見されるものの、一般的には用いられていない。

他臓器移植

  肝移植については、以前MELD 3.0を紹介したが、他にexception pointsという特例があり、代表的な例は肝細胞癌である。また、HRSのAKIによるCr 2.0と、CKDによるCr 2.0では当然死亡率も違う(Crの変動幅による死亡率の違いを示した論文に、Hepatology 2022 76 1069など)。昨年、肝移植のNEJMレビューがでた(NEJM 2023 389 1888)。

 心移植については、レシピエント選択基準とマネジメントについての国際心肺移植学会ガイドラインが2024年にでた(J Heart Lung Transplant 2024 43 1529)。HeartMate3の3年生存率が移植と同等という報告(ただし入院は多い、doi:10.1016/j.jtcvs.2023.12.019)、循環死(circulatory death)後に体外循環を用いた心移植(NEJM 2023 388 2121)の成績が、標準的な氷の保存を行った脳死後の心移植に比べて6ヵ月後の生存において非劣性だった報告※などが話題だった。

 ※昨年、前の職場で研修医を対象にしたJournal Clubで取り上げた論文だった。

 なお、透析がないのでDGFとは言わず、ドナー由来の機能不全をPGD(primary graft dysfunction)という。

 肺移植については、年間3000例程度おこなわれ、3年の生存率は72%という。こちらもグラフト機能不全はCLAD(chronic lung allograft dysfunction)と総称され、BOS(bronchiolitis obliterans syndrome)とRAS(restrictive allograft syndrome)に分けられる。

 Cystic fibrosisに対する分子標的治療(Trikafta®、Symdeko®、Orkambi®、Kalydeco®など)が始まって肺移植が減り、割り当てルールが変更されてILDによる移植がCOPDを抜いて1位になった。

 肺移植は、他臓器に先駆けてCAS(composite allocation score)というスコアを用いている。さまざまな要素を下図のように重み付けして患者ごとのスコアを算出して割り当てに用いるもので、他臓器への応用が待たれる。

(出典はこちら



10/07/2024

多臓器移植と単独腎移植

 質の高い腎臓が優先的に心腎・肝腎・膵腎・肺腎移植に提供されるルールについては以前紹介した。それについての論文(AJT 2021 21 2161)。腎臓は二つあるので、一つが多臓器移植(multi-organ transplant、MOT)に提供されても、もう一つは腎臓単独移植(kidney along transplant、KAT)に提供される。

 そこで、MOTをうけた患者、mate kidneyを移植されたKAT・SPK(simultaneous pancreas/kidney)患者、MOTに優先されなければその腎臓を受け取っていたであろうnext-sequential KAT candidatesを同定し比較した。

 すると、next-sequential KAT candidatesはMOTを受けた患者より若く、マイノリティの割合が高く、高度感作の割合が高く、28%が移植待ちリストから外れるか死亡するかであった。Mate kidneyを提供されたKAT・SPK患者群に比べても、死亡率が有意に高かった(ハザード比1.55、95%CI 1.44-1.66)。

 腎臓内科医としては複雑であるが、腎臓を含む多臓器移植の成績が、腎臓を含まない心・肝・肺移植の成績にくらべてよいことも確かである。OPTN/UNOSが決めたルールに基づき、コミュニケーションを取りながら診療し、データを積み重ねてルールを定期的に見直すことになるのだろう。


腎移植の意義

  腎移植の意義のなかで、生命予後については以前紹介したが、QOLと費用対効果について。QOL向上は自明なようにも思われるが、システマティック・レビュー(AJT 2011 11 2093)を見ると、その傾向は確かなものの、すべてが薔薇色というわけではない。

(出典はAJT 2011 11 2093)

 現場にいると、術後の創傷治癒が悪い場合や、腎グラフト機能が低い場合(貧血を伴う)など、「そんなに元気(ハッピー)でもない」という声を聴くことは珍しくない。子供が産まれると直後は不眠などで幸福度が低下するという調査結果があったと思うが、それに少し似ているかもしれない。

 それもあってか、移植後の患者に”You've got a new baby!”と声をかけるスタッフもいる。「慣れないこと、不安、なんやかんやのケアなどで忙しく大変ですが大丈夫、一日一日できることからやっていきましょう」というメッセージが伝わりやすい。

 コストについては、周術期にまとまってお金がかかるが、以後は免疫抑制薬の分くらいで安上がりになるとよく言われる。ただし、移植のタイプによって費用に差があり、血漿交換などを要する不適合移植や、術後に透析を要する高リスク(KDPI>85)移植では多めにお金がかかる(AJT 2018 18 1168)。

(出典はAJT 2018 18 1168)

10/02/2024

Collateral information

  移植前評価に来る患者の既往歴については、ある程度は患者に確認し、ある程度は詳細が聴けるが、それだけで十分とは言えない。米国には紹介状はないが、他院・他科のカルテも参照できるため、それらをしっかり確認しなければならない。疾患や病状によっては、移植をするにあたっての意見を求める必要があることもある。外来中の短時間でチェックするのはまだ難しいが、慣れるだろう。

9/30/2024

思わぬ発見

 フェロー・シンポジウムで演者が"If I have seen further, it is by standing on th shoulders of giants"というアイザック・ニュートンの言葉を引用していた。Google Scholarのウェブサイトにも引用されている言葉だが、文脈を知らなくても趣意が解るので深く調べたことはなかった。

 ニュートンがロバートフックに宛てた書簡に見られる言葉だが、英国哲学者ソルスベリーのジョンがシャルトル学派のベルナールの言葉として紹介しているのが始まりという。そして、シャルトル大聖堂のステンドグラスには、旧約聖書の預言者4人の肩の上に、新約聖書の福音書を書いた4人が載っているという。


9/28/2024

思わぬ再会

 米国移植学会の主催するFellow Symposiumで、思わぬ再会があった。一つは、私と同じ病院でレジデンシーをしたフェローに出会ったことによる、当時同級生だった(現在はその病院でプログラム・ディレクターをしている)医師との間接的な再会。

そのフェローとはディナーのテーブルが同じで、Two Truths and a Lieゲームをしていた時に出身病院の話題になり、たまたま同じ病院でレジデンシーをしていたことがわかった。袖触れ合うも他生の縁とはよく言ったものである。

 もう一つは、腎移植のドナー・レシピエント選択についての(このドナーのこの腎臓を移植すべきか?このレシピエントに腎臓を移植すべきか?などの難しい判断をみんなで考える)セッションでのこと。

 「高KDPI(移植直後に機能しない可能性や、臓器寿命が短い可能性が高い)腎臓を先行的に移植するメリットはあるか?」という話題になり、「メリットはあるという報告がある(なぜ知っているかというと、私のグループが昨年CJASNに発表したからだ)」と一人の先生が言った。

 そしてその論文をさっそく調べると、見覚えがある・・と思ったら、2023年に前の職場で行っていたJournal Clubで取り上げた論文だった(CJASN 2023 18 634)!さらに、そのグループによる別の論文(AJT 2013 13 2083)をちょうど前日読んだところだった!

 講師も受講者も同じホテルに泊まり、同じ食事をして、同じ踊りを踊る(らしい・・)、合宿のような機会で、受講した先生方がみんな口をそろえて勧めたのも納得である。あと2日、楽しんで帰ってこよう。


9/25/2024

CMV-TCIP and ALC

  移植前にワクチンをたくさん打っておくことからもわかるように、移植後の免疫抑制で各種ウイルスに対する免疫が完全にワイプアウトされてしまうわけではない。ただ、ワクチンは主に液性免疫(抗体を産生するB細胞)の話で、移植後のCMV感染により関連するのは細胞性免疫(T細胞)である。

 移植後の免疫抑制下で、CMVに対してどれくらい細胞性免疫が残っているのかがわかれば、患者ごとのリスク評価に役立つ。

 たとえば、Quantiferon®‐CMVアッセイは、全血を21のCMVエピトープに曝露し、活性化されたCD8+T細胞が放出したINF-γを測定する。

 T-Track CMV®、T-SPOT®‐CMVアッセイは、末梢単核細胞(T細胞やNK細胞を含むざっくりした集まり)を取り出し、さまざまなCMV抗原やCMV分解産物に曝露し、活性化された細胞が放出するINF-γを測定する。

 これらのほかに、米国で用いられているのがViracor® CMV T-cell Immunity Panel(CMV-TCIP)である。これは全血をCMVペプチドと分解産物に曝露させたあとでフローサイトメトリーを用いてCMV特異CD4+T細胞とCD8+T細胞※の割合を測定する。

 ※CMVに反応したT細胞はCD69とIFNγを表出するはずなので、それらに対する蛍光標識した抗体を用いる(下図、上段はCD4+、下段はCD8+、左は陽性例、右は陰性例)。

(出典はBMC Infectious Diseases 2020 20 58)

 使い方はさまざまで、CMV感染の治療後にどれくらい免疫があるかを再発リスクの評価につかう場合や、移植後に測定してCMV発症リスクや予防投薬の必要性を評価する場合(Transpl Infect Dis 2014 26 e14291)などに試されている。

 ただ、これを毎月測るのと、CMV-PCRを測るのと、だいたいで何か月と期間を決めて予防内服するのと、どれがもっとも費用対効果が高いかは、まだ一概には言えない。

 そのため、最も安価かつ簡便として注目されているのがリンパ球数(absolute lymphocyte count, ALC)である。血算・分画にもれなくついてくる。日本からの報告もあり、導入にthymoを用いないこともあり高めのカットオフだが、移植後4週のALCが1100/mm3以下と以上で、CMV発症を区別した(Trans Proc 2023 55 1594)。

9/24/2024

MMFと腸肝循環

 MMFは1g1日2回で開始し、徐々に500mg1日2回にするのが現施設の通例だ。その背景には、MMFの腸肝循環が関係している。

 MMFは腸で吸収されてMPAとなったあと、門脈から肝臓に至り、肝細胞でグルクロン酸抱合を受けてから胆汁に排出される。腸管に戻ってきたグルクロン酸抱合MPAは腸内細菌叢によってふたたびMPAとなり、ふたたび体内に吸収される。

(出典はKI 2021 100 1185)

 MMFが登場したころに主に併用されたCNIであるシクロスポリンは、肝細胞がグルクロン酸抱合MPAを胆管に排泄する際のトランスポーター、mrp-2(またはABCC2)をブロックする。

(出典はKI 2021 100 1185)

 そのため腸肝循環に回るMPAが減り、AUCが場合によっては40%低下し、シクロスポリン併用時のMMF用量は1g1日2回でも足りない可能性が指摘されてきた。しかし、現在主流のタクロリムスはMMFの腸肝循環を阻害しないため、1g1日2回も要らないのではないかという考え方がでてきた。

 本当はMPAのAUCを測定すればよい(30-60mg*h/Lが目標とされる)のだが、ルーチンには行われない。そこで、移植直後は1g1日2回としておき、免疫学的なリスクに応じて徐々に500mg1日2回にするようになった。

忘れられない一言 76

 移植患者は移植後、移植前にできなかったことができるようになることが多いので、外来でそうした話を聴くと嬉しい気持ちになる。なかでも、膵腎同時移植は透析とインスリンが要らなくなるので、腎単独移植よりも手術の負担は大きいが、得られるものは多い。

 先日、患者の一人が「今朝シリアルを食べて、泣きそうになった」と言った。

 シリアルと言えば、「まだ寿命に余裕があるから食べてられんのよ」「まだ朝の寝ぼけてる時やから食べてられんのや」「朝から楽して腹を満たしたいという煩悩の塊」などと、2019年M-1グランプリでネタになったことでもお馴染みである。

 しかし、シリアルを食べて泣きそうになることも、ある。1型糖尿病であり、炭水化物のためずっと食べられなかったのだという。

 それを聞いて、少しもらい泣きしそうになった。


9/18/2024

忘れられない一言 75

  外来にはたくさんの患者さんが来て、たいていは指導医2人(または指導医1人とANP1人)で切り盛りしている。フェローは数をこなすことは求められておらず、一例一例から学んでくれればよい・・ことになっていることを、初めて知った。

 忙しかった外来で一緒に働いた先生から、翌日「昨日君はたくさんの患者を診ていたが、そんなに診させるべきではなかった、私たちはフェローに一例一例から学んでほしいと思っている」と言われたからだ。

 もちろんそのあとで、「とはいえ量を診ることも大事だが」とも言われた。そうだなと思う。たくさんの患者を把握すればするほど、視野が広がる。

 試しに先日、1コマの外来にくる約20人の患者について、基本的なデータ(原疾患、移植日、免疫抑制薬と目標トラフ、降圧薬・利尿薬、腎機能、蛋白尿、ddcfDNA、DSA)を拾って表にしてみた。

 すると、患者ごとの「だいたい同じだけど、少しちがう」点が際立って見えてきた。これをやってみなければ、見えなかった観察だと思う。

 毎日そうやって工夫しながら成長したり感動したりできるのは、喜びだ。


 

Tacrology 2

  入院中のタクロリムス管理は難しい。採血が一定時間でないこともあるし、患者が定常状態でない(嘔吐、絶食、下痢など)ことも多いし、そもそも用量調節後に血中濃度が新しいレベルに達するまでには数日かかる(徐放のEnvarsusなら尚更だ)。

 しかし、タクロリムス濃度の患者内(intra-patient)変動が高いことと、治療域にある時間の割合が低いことは、新規DSAや拒絶、グラフト喪失のリスクになる。どちらかというと、治療域にある時間が短いほうが、変動幅よりも問題なことが分かった(Transplantation 2020 104 881)。

 入院に限ったデータがあるかはわからないが、いっそうタクロロジーの修行に励まなければならないと思った。


9/14/2024

CD3

  T細胞関連拒絶は軽症ならステロイドパルスだが、重症例(や形質細胞・好酸球優位の例、ステロイド不応例)ではThymoが用いられる。

 Thymoを用いると、胸腺細胞すなわちT細胞がいなくなるはずである。そのため血算と白血球分画をモニターし、白血球があまりにも減ると連用しづらい(休薬して数が回復してから少量で投与するなど、工夫する)。

 しかし、いなくなってくれないと、効いているか疑問である。そこで、T細胞が血中からいなくなったかを確認する方法が、CD3 flowである。CD3はCD4+、CD8+を問わずT細胞に共通して存在するT細胞受容体を構成するため、T細胞のマーカーになる。

 それにしても、移植内科にいると血液内科かと思うくらい血液のことを勉強する(もっとも、血液内科にいたらこんな程度では済まないのであるが・・)。


Synopsis

 初めての入院コンサルト5週間が終わった。患者の情報をいかに把握するかが、最大の焦点だった。そして、工夫して至ったのが、synopsisである。例えば(もちろん架空の患者である):

 65才男性、既往に睡眠時無呼吸症候群、EF低下心不全、心房細動でエリキュースを内服、末期腎不全(原疾患は糖尿病、腎生検なし)で2017年から左上腕内シャントで血液透析(Dr. Reedが診ていた)、2020年12月4日に献腎移植(脳死ドナー、KDPI 60%、cPRA 0%、2/2/1ミスマッチ)、Thymo 4.5mg/kg導入、リンパ嚢腫を合併しドレーン排液後、ベースラインのクレアチニンは2.0mg/dl(移植腎生検2023年3月11日、拒絶なし、小動脈硬化あり)で維持免疫抑制はベラタセプト(次回9月21日)、タクロリムス2/2mg(目標トラフ3-5ng/ml)、プレドニゾン5mg(Dr. Reedが診ている)。9月13日に過大シャント血流(6L/min)によるとみられる心不全で入院。Cr 2.5mg/dl、利尿薬を使いつつシャント結紮を検討中。

 といった具合である。

 米国のカルテはすべからくこうした「1行サマリー」が必ず記載されるが、実際には誰かが作ったものをコピーすることが多い。とはいえ、移植についての情報が満載のこの文章を自分で作ると、把握は半分くらい終わる。

 ※あとは、いかにこれを覚えておくかである。今の工夫は、上記の文章を全員分集めて印刷した紙を持ち歩いている。幸い略語が多いので、英語で書くと20人いても3枚くらいで済む。面白いから上記文章を英語に直すと:

 65 yo M with PMH of OSA, HFrEF, Afib on Eliquis, ESKD 2/2 DM2 (no biopsy) on HD via LUE AVF since 2017 seen by Dr. Reed, s/p DDKT on 12/4/2020 (DBD, KDPI 50%, cPRA 0%, 2/2/1MM), Thymo 4.5mg/kg induction, c/b lymphocele s/p drainage, baseline Cr 2.0 (biopsy shows arteriosclerosis, no rejection) on bela (next 9/21), tacro 2/2mg goal 3-5, prednisone 5mg seen by Dr. Reed. Admitted on 9/13 for HOHF (AVF 6L/min), diuresed, AVF ligation being discussed.

 残りの半分は、リアルタイムのバイタルサイン、検査値、処方薬一覧である。これらを全部含むハンドアウトを印刷することは可能であるが、かさばるのでしていない。スマートフォンから参照できる電子カルテアプリ、Haikuを利用することもあるが、抜けがでることもある。

 これらをどのように把握するかが、今後の課題である。そのうち、コツが見つかるだろう。


9/11/2024

CMV prophylaxis and treatment

  CMVの予防内服はリスクによって異なり、施設にもよるが高リスク(D+/R-)でvalganciclovir 900mg1日1回を6ヵ月、中リスク(R+)でvalganciclovir 900mg1日1回を3ヵ月、低リスク(D-/R-)でacyclovir 400mg1日1回を3ヵ月などと決まっている。

 治療用量はvalganciclovir 900mg1日2回ないし静注ganciclovir 5mg/kg1日2回。腎用量はCrCl 40以上60未満ml/minで valganciclovir 450mg1日1回、25以上40未満で450mg隔日(または週3回)、10以上25未満で450mg週3回、10未満またはHDで100mg週3回(透析後)、CRRTで静注ganciclovir 2.5mg/kg1日1回。

 ganciclovirは1988年、valvanciclovirは2001年から使用されているが、いずれもCMV DNA polymeraseの阻害薬である。理想の世界ではウイルスのDNAのみに作用するはずであるが、現実の世界では宿主細胞のDNAにも作用し、とくに骨髄抑制が問題になる。

 代替薬には、LetermovirとMaribavirの二つがある。

 Letermovirは造血細胞移植レシピエントのCMV予防内服に対して2017年に承認された。CMVのエンベロープにCMV1個分のDNAを切り取って注入するterminase complexを阻害する。

出典はViruses 2019 11 219
 

 他の臓器移植患者に対しては未承認だが、昨年CMVハイリスクの腎移植レシピエント601人をvalganciclovir群(900mg1日1回)とletermovir群(480mg1日1回、CMV以外のヘルペスウイルス予防にaciclovir 400mg1日2回を併用)を比較した試験結果が発表された(JAMA 2023 330 33)。

 結果、52週までのCMV疾患は両群とも約10%で、letermovir群はvalganciclovir群に対して非劣性であった。そして好中球減少はletermovir群で2.7%で、vaganciclovir群の16.5%よりも有意に少なった。Letermovir群で多かった有害事象は下痢、振戦、尿路感染症だが、これらはvalganciclovir群と同程度だった。

 なお、原疾患や免疫抑制レジメンなどは両群間で調整されたが、letermovirはCYP3A4を阻害するため、CNIやmTOR阻害薬の減量が必要になる。逆に、シクロスポリン内服患者ではletermovir用量を半減しなければならない(シクロスポリンがOAT1B1/3を阻害するため)。Double-masked, double-dummyではあるが、用量調節で患者がどちらの群か分かった可能性はある。

 いずれにせよ、骨髄抑制でvalvanciclovirを中止せざるを得ない患者には新しい選択肢として使用が広がっている。

 Maribavirは、pUL97 kinase inhibitorであるが、同種幹細胞移植患者の予防内服で第三相試験がアウトカムを達成できなかったため、他薬に不応のCMV感染に対する治療薬として2021年に認可された。


King and Four Wives

 17時、ERで入院になる患者に会いに行った。問診や診察をしていたが、患者には何となくたくさん話したい気持ちが感じられた。そして、こちらも会話を切り上げようとするのをやめた。そうはいっても話は終わったかなと、closingに「腎臓は良くなると思いますよ」と言った。気休めなどではなく、可逆的な増悪であることが分かっていたからだ。

 すると、どういうわけか患者が「君はどこの国の出身だい?」と言った。そして日本だと答えると、「君は王と4人の妻の話を知っているか?いつかGoogleで調べるといい」と言った。そして、調べる前に話をすっかり教えてくれた。彼のバージョンは次のようなものだった(もとは四婦喩経という仏教の説教のようだ)。

 死期を悟った王が、一人で死ぬのがさびしくて4人の妻に一緒に死んでくれないかと頼んだ。

 最も愛する何でも買い与えた4番目の妻は、何も言わずに去った。最も自慢のどこにでも連れて行った3番目の妻は、「この世が好きなのであなたが死んだら再婚します」と言った。最も信頼していた2番目の妻は、「申し訳ないけれど無理です、葬式はしてあげます」と言った。
 
 しかし、最も尽くしてくれていたが王がまったく顧みることのなかった1番目の妻が「いつまでもどこまでも一緒に行きましょう」と言った。王は、「そんなことならあなたをもっと大切にすればよかった」と言った。
 
 4番目の妻は身体、3番目の妻は所有(財産、地位、名誉など)、2番目の妻は家族の比喩である。いずれも、あの世に持っていくことはできない。そして1番目の妻は、患者によればsoulの比喩だという。
 
 なぜ患者がこの話をしたのか?彼の見たこの説話の動画にでてくる東洋人の雰囲気に私が似ている、というような話だった気がする。ただ、なぜあのタイミングで話し始めたのかはわからない。おたがい前回入院時から知っていたので、関係ない話もしやすかったのだとは思う。

 患者は翌日退院した。まさに、一期一会である。もちろん、再入院しないことを願う。


9/08/2024

ALECT2

  ALECT2とは、leukocyte chemotactic factor 2(LECT2)によるアミロイドーシスのことで、初めに報告されたのは2008年のことである(参考文献:J Investig Med 2022 70 348)。主に腎臓、次いで肝臓に沈着するが、他のアミロイド蛋白は変異したものだけが異常に重合してアミロイドとなるが、LECT2は変異がないものもアミロイドとなる。

 Hispanic ethnicityに多いと言われ、米国の陽性例は約90%がそうである(とくに、Mexican Americans)。だが、現在ではBanjab、Han Chinese、Egyptian、First Nations People(British Columbia)など他のethnicityにも見られることが分かっている。

 腎臓のアミロイドーシスと言えば、ALアミロイドーシスをはじめ糸球体に沈着して蛋白尿・ネフローゼ症候群などを起こすものが多い。しかし、LECT2は主に間質に沈着し、CKDパターンをきたす。

 なので、蛋白尿のない(あるいは目立たない)原因不明のCKDに腎生検を行い、皮質の間質におかしな沈着があるのでアミロイドの染色をしたら陽性(strikingly positive、かつAA・AL・ATTRではない)・・という具合に診断される。生検されず未診断の患者も多いと思われる。

  なお、LECT2そのものは脂肪肝などで惹起される炎症にともない異常に肝臓から産生されることが分かっているが、なぜ腎臓の間質に目立って沈着するのかは分かっていない。肝臓由来の疾患であるため、腎移植後も再発しうる(CJASN 2015 10 2084)。

上図がCongo Red、下図がLECT2の免疫染色
(出典はAJKD 2019 74 563) 

 移植においては、移植腎生検で見つかることが多い。つまり、ドナーにもともと腎疾患があったことになり、ドナーにとってもレシピエントにとっても「移植してよかったのか?」という話になる。少なくともレシピエントにとっては、5例ながら腎機能低下はみられなかったという報告がある(AJKD 2019 74 563)。


9/07/2024

Fodder for growth

  フェロー生活をしていると、指導医と1対1の時間が多く、「これはどう?」「あれはどうだった?」という知っているかの質問や、「どうしてこうだと思う?」といった考えさせる質問をたくさん受ける。そして、今はまだ「・・・(知りません)」と返すことが多い。

 「こんなこともわからないとは・・」とちょっと残念に思うこともあるが、これは成長の機会である。指導医もそれは分かっている。知らないことを指摘し、知らないことに気づかせるのが指導医の役目。

 そもそも、最初からすべて分かっているなら、フェローシップをする必要はない。コンフォート・ゾーンから少しだけ外れた成長のエッジ(根の先端や骨端線のような、成長していく部分)に自分を置いてこそ、自分を拡大・進化させることができる。

 そうした部分にいると、常に工夫する。今日はこうしてみよう、明日はこうしてみよう、うまくいったならよかった、うまくいかなくても、次がある・・という繰り返しである。自分を卑下するのでも相手を逆恨みするのでもなく、ただ、努力すること。

 それが、成長の秘訣であろう。日本で同じことをしていては得られなかった貴重な機会に、感謝しかない。


HD

  腎移植内科といえども、透析と無縁ではなく、たとえばDGF(術後1週間以内の透析)、あるいはfailing allograft(年余を経てグラフト機能が廃絶すること)のために透析を必要とする患者のために透析オーダーを入力することは稀ではない。

 筆者が主にかかわるのは入院血液透析(acute hemodialysis)であるが、日本との違いも少なからず目につく。たとえば:

・透析用ベッドが7床と、本館だけで436床(ICU 52床)ある施設としては非常に少ない。そのぶん、3シフトで回している。そして、第一シフトは朝4時ころから始まる。

 ※早朝から始まるのは外来透析も同じである。

・透析室では体重を測らない。したがって、だいたいの感覚で除水量を決める(2000-3000ml、MAP目標65mmHg以上、など)。体重は、病棟で測ったものを参考にするが、ベッドの秤は当てにならないこともある。

 ※外来透析では、もちろん体重を前後で測定している。

・短期カテーテルは基本的に用いない(ICUでは病棟で短期カテーテルを挿入するが、一般病棟の場合はトンネルカテーテルを放射線科で挿入してもらう)。以前触れたが、腎臓内科医がカテーテルを挿入することは、ない。

9/06/2024

Living donor

  米国は「2026年までに年間6万件の移植を」をイニシアティブにしており、確かに献腎移植は増えているが生体腎移植は増えていない。とはいえ、生体腎移植を増やす工夫も行われている。大きくは①リスク評価、②免疫学的評価、③金銭面に分けられる。

 ①のリスク評価については、よりリベラルに生体腎ドナーを認めるようになった。ランドマークスタディは2016年に発表された、複数のESKDリスク因子を総合的に評価するツールを実証したものだ(NEJM 2016  374 411)。

 それにより、たとえば「30歳のアフリカ系女性で蛋白尿はないが血圧が140mmHgあり降圧薬を内服している非喫煙者」のドナー候補は、ドナーをしない場合の生涯ESKDリスクが1.9%、などと算定できるようになった。

 そのうえで、ドナーになった場合にそのリスクがどれくらい増えるかを加味して、総リスクが(たとえば)5%未満ならドナーを認めましょう、といった枠組みが2017年のKDIGOガイドライン(Transplantation 2017 101 S7-S105)に採用された。

(出典はTransplantation 2017 101 1783)

 もっとも、移植によるESKDリスクは個別化されておらず、より厳しい基準の生体腎ドナーについて調べたスタディしかないため(15年で0.27%とされる)、上図はいまだ架空の概念である。しかし、今後ドナーの移植によるESKDリスクがより正確かつ個別に予測できるようになれば、認定する際の大きな助けになるだろう。

 ②と③については以前にも触れたが、皆が生体腎を望む裏で、唯一かつ最も負担を強いられるの生体腎ドナーである、という主張が昨年Kidney360に発表された(Kidney360 2023 4 987)。前述のNKR(national kidney registry)のほか、国の支援機関であるNLDAC(National Living Donor Assisstance Center)もある。

 しかし、金銭・雇用面の負担や保険の差別などから生体ドナーを守ろうというLiving Donor Protection Actが共和党・民主党両方の議員達から提案されているものの、10年以上たった今なお採択には至っていない。

 それにしても、生体ドナー支援センターなどと聞くと、どうしてもKazuo Ishiguroの”Never let me go”を思い出してしまう。生体ドナーがリスクフリーなわけではないので、異種移植に期待がかかる。筆者が引退するまでに実現するだろうか、とふと思う。

To be a specialist

  入院(コンサルト)診療は、患者の入れ替わりが激しく、患者情報をチェックする時間も限られているため、いかに大事な情報を把握するかが課題となる。そして、少なくとも今は大事な情報さえもすべての患者で把握することはできないので、穴があく(指導医に尋ねられても、答えられない)。

 しかし、その過程を経なければ、成長することはできない。毎日、工夫の連続である。すくなくとも、

・移植日

・移植施設

・フォローする施設、腎臓内科医

・免疫抑制薬と目標トラフ(月1回のBelataceptなら、最終投与日)

・ベースラインのクレアチニン

・蛋白尿

 くらいは、知っておかなければならない。考えてみれば、腎移植内科コンサルトなのだから、当たり前である。腎移植内科以外の情報も集めようとするあまり、もっとも基本的な情報が後回しになっていることに気づいた。

8/31/2024

Labs

  検査(とくに血液検査)が欠かせない腎臓内科であるが、発見もある。たとえば、凝固検査の一つPT-INRは、point-of-careの検査キットがあり、血糖のように指先から数滴の血液を採取するだけで測定できる。以前はCoumadin Clinicで頻回に採血してワーファリンの効き具合を確認していたが、少し手間が減ったようだ(もっとも、採血が不要なDOACのほうが便利)。

 あとは、生化学のみを提出していた場合にも、その検体で血算を追加することができる。これは原理上不可能に思えるが、実際行われているので、可能なのだろう。そうだとすれば、検体を遠心するまえのサンプルを少し取っておくのかもしれない。いつか検査科に聞いてみようと思っている。

 他にも、電子カルテ上のオーダーで、「毎日」と選択すると自動的に毎日検査できる(毎日必要な状況では役に立つが、そうでないと過剰になるので、使い方次第)。また、standing order(必要な時に使えるようになっているオーダー、日本で言う必要時指示のようなもの)があれば、検査日を指定しなくても患者が都合の良い時に来て検査を受けられる。

8/28/2024

Big Guns

 一般的な病原体が多い・・と言いつつも、免疫抑制患者に起きる特殊な感染症にも注意しなければならない・・というわけで、なかなか一筋縄で行かないのが、移植患者の感染症診療である。

 と習って、はや12年。未だに苦労しているが、新たに知ったことの一つがノロウイルス感染症である。ノロウイルスと言えば施設などでの集団感染が問題になる下痢性ウイルスだが、腎移植患者において慢性かつ消耗性の感染を起こすことが2009年に報告された(NDT 2009 24 1051)。

 Viral sheddingが多い時期でないと診断がつきにくいうえ、根本的な治療はなく(nitazoxanideが試みられることはある)、免疫抑制を弱めるのが唯一の対処法であるが、当然拒絶のリスクは上がるので、なかなか厄介な疾患である。とにかく、慢性下痢と消耗をみたら、ノロを疑わなければならない。

 もっとも、複雑な症例は感染症科にお任せになり勝ちだが・・。そんな頼れる彼らは、使う薬もごつい。Cefoderocol、Durlobactam/sulbactam、Ceftazidime/avibactamなど、高度耐性菌に用いられる新しい抗菌薬など。また、C diffにはfidaxomicinが用いられる。

 恐ろしいのは、上述の4種類のうち、2023年にFDAに認可されたばかりのDurlobactam/sulbactam以外の3種類は、すべて日本にもあることだ・・。耐性菌パンデミックとよく言われるが、PIPC/TAZ、Cefepime、Meropenem、Vancomycinなどが効かない菌が問題になっているのを痛感する。拡げぬよう、回診時はprecautionを徹底している。


Abbreviations

 英語には漢字がないため、熟語の代わりに略語が用いられる。例えば献腎移植ならDDKT(deceased donor kidney transplant)、生体腎(血縁)腎移植ならLRKT(living related kidney transplant)といったように。

 移植にはそういった略語が多く、KDPI(kidney donor profile index)、DCD(donation after cardiac death)、DBD(death after brain death)、cPRA(calculated panel reactive antibody)、DSA(donor specific antibody)、DGF(delayed graft function)、、などキリがない。

 が、それとは別に、単に文章が長くならないように略される表現もある。s/p(status post、〇〇の手術や治療の後)、h/o(history of、〇〇の既往のある)などは有名だが、他にも結構あり、以前より増えた印象もある。そこで、少し目にしたものを書き残しておく。

RTC  return to clinic 
LUTS  lower urinary tract symptoms
gtt  drip ("gutta"という「滴」を意味するラテン語より)
c/b  complicated by
c/f  concern for
2/2  secondary to
NYOD  not yet on dialysis
p/w  present with
HSQ  heparin SQ
s/s  signs and symptoms
PTA  prior to admission
iso  in the setting of
CTM       continue to monitor

OR

 腎移植内科フェローシップはACGME認定ではないが、AST(米国移植学会)の定める要件があって、それを満たすことで移植センターのdirector資格が得られる。どれも件数で、外来フォローが何件、腎生検が何件、といった具合であるが、その一つが生体腎ドナー・レシピエントの手術である。

 そんなわけで、今日は仕事の合間に(同僚にカバーしてもらって)どちらも診ることができた。日本でも診たことがあり、米国でも手術そのものはだいたい同じあるが、違いもある。

・外科医が多い。A医師とB医師がドナーを手術し、C医師とD医師がレシピエントを手術し、E医師とF医師はその間に別の献腎移植を行っている。指導医もいるが、フェローもいる。腎移植を主にやる移植外科医もいるが、肝移植を主にやる移植外科医も手伝っている。

・手技が「どしどし」行われる。臓器の虚血時間を短くしたい意味もあるだろうが、始まる際にも日本のように「よろしくお願いします」の掛け声はなく、ぐいぐい、えいやっと、組織を押したり引いたりしながら分け入っていく。電気凝固の出力はCUTもCOAGも40Wである。

・グラフトの潅流液は、Custodiol®が用いられる。ヒスチジン・トリプトファン・ケトグルタル酸塩を含むためHTK solutionとも呼ばれ、名前は知っていたが初めて見た。脈管の露出と形成、縫合は同じだが、「さっさか」やるので、anastomosis timeは30分ほどである。

・いっぽうで、大きな組織ゆえにドナーとレシピエントの入室時間をうまくコーディネートすることが難しかったり、用意していなかった薬剤をオーダーして手に入れるまでに時間がかかったりする。

・面白いのは、麻酔科側と外科医側がまったく別の世界であることだ。タイムアウト、免疫抑制薬・フロセミド・マンニトールなどの注射タイミング、体位の変更、臓器潅流時の血圧維持、メチレンブルーの膀胱内潅流と尿道カテーテルのクランプなど、必要なコミュニケーションはするが、それくらいである。もっとも、これは日本も同じかもしれない。


8/24/2024

Survival Benefit

 「腎移植は生命予後の成績が透析よりも優れている」は、米国において良くも悪くも一貫して正しいため、腎移植を推進する大きな根拠になっている。腎移植ができる患者のほうが腎移植ができない透析患者より健康というだけではなく、(腎移植ができる)移植待ち透析患者と比較しても優れているからだ。

 代表的なのは、1991-1996年に透析を開始された70歳未満の患者のなかから、初回献腎移植を受けた群と移植待ちリストに載って透析を受け続けた群を比較した1999年のスタディである(NEJM 1999 341 1725)。その結果、多変量解析後の死亡リスクは術後106日までは透析患者より高く、術後244日以降からはsurvival benefitが見られた。

 では、高齢者の場合はどうか?

 2013年、1995-2007年に透析を開始され(または先行腎移植を受け)献腎移植待ちリストに載った65歳以上の患者について、その心血管系リスクに応じた移植のsurvival benefitを調べたスタディが発表された(AJT 2013 13 427)。

 また、移植のタイプについても調べ、ECD(extended criteria donor、現在の高KDPIドナー)、SCD(standard criteria donor)、LD(living donor)について分けて解析した。

 すると、高リスク群・ECDであっても前掲論文と同様のトレンド(術直後が最もリスクが高く、以後低下する)がみられ、術後半年程度で死亡ハザード比は透析患者と等しくなった。さらに、生体腎移植を受けた患者については、そもそも術直後から死亡ハザード比が透析患者よりも低い結果が見られた。

 これを受けて、移植施設はこぞって「生体腎ドナーがいるなら、ぜひ生体腎移植を(いなくても、探してみましょう)!」と啓発するようになった。・・が、実際には米国の生体腎移植は年間0.6万件程度で頭打ちである(それに対して、献腎はこの10年で年間約1.6万から約2.7万件に増えた)。※移植待ち患者は約9万人いる。


Ureteral stricture

 移植後のグラフト尿管狭窄は、術直後は手術等に関わる機械的な問題が多いが、年月が経つとBKウイルス・CMV・尿管癌なども原因になる。手術については、複数腎動脈がある場合や高齢者でリスクが高いとされ、「下極血流の低下(insufficient inferior pole perfusion)」によるものと仮説されている。

 尿管狭窄が起きると、まず尿道カテーテルを挿入し、それでも改善しなければPCN(percutanous nephrostomy腎ろう)を挿入する。そのうえで、anterograde nephrostogram(順行性の腎ろう造影)を行い、尿管狭窄の程度や部位を確認する。

 尿管狭窄が強ければ、PCNU(percutanous nephroureterostomy、腎尿管ろう)を挿入し、狭窄部位にカテーテルを通過させる。しばらくして、PCNUをキャップして「下から(順行性に)」尿がでるかを確認する。出れば、PCNUを抜去する。出なければ、尿管ステントを挿入するが、その場合異物が体内に残る(internalize)ため、3ヵ月に1回交換しなければならない。

 

8/23/2024

Pump and normothermic regional perfusion

 移植臓器といえば氷で冷やして届けられるイメージを持つ方も多いだろう。獲得されてから運搬等にかかる時間をCIT(cold ischemia time)と呼ぶのも、そのためである。米国ではUPSが請け負うことが多いが、近年はUAV(unmanned aereal vehicle、要はドローン)による輸送も試みられているという。

 CITが長いとDGFのリスクは高くなる。そのため、輸送による臓器の質低下を防ぐ試みもなされており、一つはpumpである。冷やすのは同じであるが、機械によって潅流液を循環させる。

 発想自体は1800年代からあり、1849年にはマールブルグの Carl Eduard Loebellがブタの腎臓に潅流液を注入し、腎静脈から血液がでてくる(尿管から尿がでてくる)ことを確認している。以後忘れられた時期もあったが、臓器保存のために再認識され現在に至る。

 Pumpingには、栄養を内皮細胞に届ける、微小循環を維持するなどの長所が考えられている。では実際にはどうかというと、2009年にオランダのグループが発表したEUROTRANSPLANT RCTスタディ(NEJM 2009 360 7)でDGFが有意に低下していた。

 機械循環のほうがコストがかかるが、DGFによる入院費用とグラフト予後の低下、Pumpがないことで捨てられる腎臓(とくにDCD)の問題を考えれば、見合ったコストと考えられるようになってきた。現在、少なくともイリノイ州ではすべてのDCDがon pumpで搬送される。

 ・・ということは、次世代の方法も試みられているということである。それが、normothermic regional perfusion(NRP)である。早い話が、ECMOである。DCDドナーに対して、死亡確認後に大動脈と右心房にカニュレートしてECMOを回す。脳循環は不要なため、大動脈弓の3分枝はクランプされる。

 ここまで大掛かりなことをやれるのは心臓外科医くらいである。というわけで、腎グラフトのためだけではなく、心グラフトのためでもある(他国では、腎臓により特化した腹部だけのperfusionも行われる)。

 限られた施設でしか行われないが、UNOS/OPTNデータベースの解析(Transplantation 2024 108 516)によれば、2022年にはNRPによって91件の心移植と170件の腎移植が行われた。ドナーは対照DCDに比べ若く、KDPIも平均20%と低かった。

 アウトカムではDGFが有意に低く、総グラフト予後も低い傾向にあったがサンプル数が少ないこともあってか有意差はなかった。

 観察期間が短いため長期の生命・グラフト予後のベネフィットは未知だが、DCDの質をDBDに近づけようとする試みである。そうすればDCDの捨てられる割合を減らせるかもしれない。その割合はNRP群で8%と、対照DCD群の29%よりも有意に低かった(が、これはそもそもKDPIが低かったためであろう)。

250 NM

  献腎がOPO(organ procurement organization、イリノイ州ではGift of Hopeと呼ばれる)によってprocure(獲得)されると、臓器のallocation(割り当て)が始まる。最優先されるのは、心腎・肝腎・膵腎・肺腎などの同時移植待ちレシピエントである。

 ※そのようなアルゴリズムになっているが、きわめて質の良い腎臓が同時移植に優先されることが本当に公平なのかについては議論もある。心臓や肝臓を移植されたあと1年以内に腎移植も必要になった患者にも、優先的に腎臓が割り当てられる(safety net)。

 その次に、腎臓単独移植待ちレシピエントの選定が行われ、レシピエントには透析年数、感作の程度(cPRA)、マッチ数(とくにDR)、などのポイントがあり、ポイント高い患者の施設から声を掛ける。

 基本的には透析(ないし移植リストに載ってからの)期間1年が1ポイントであるが、たとえばcPRA 100%だと200ポイントで、事実上すべての献腎に対して1位になる。ただし、HLA適合ドナーに出会う確率は1万分の1以下である。そのため、脱感作療法でなんとか抗体価を許容範囲内まで下げ、適合ドナーに出会う確率を上げることになる。

 こうしたランキングは、献腎の発生した病院から一定距離の範囲内で行われる(どこからも断られれば、その範囲を越えて受け入れ先を探すこともある)。そしてその範囲は、なぜか、半径250海里(nautical miles)と決まっている。

 UNOSによれば、その理由は「臓器搬送が250海里以内なら陸路、250海里以上なら空路となるため」という。なお1海里は1.852kmと、1マイルの1.6kmより少し長い。よって250海里は463kmで、東京からだとだいたい大津、金沢、石巻くらいまでの距離である。

  もっとも、それだけではなぜnautical mileかの説明にはならないが、Wikipediaによればnautical mileは元々地球の緯度1分(1度の1/60)に相当し、「海面上の長さや航海・航空距離などを表すのに便利」なのだという。なるほど。

Language Line

  外国語を話す患者と家族の問診や診察は、Language Lineを使って行う。たいていはベッドサイドに置かれたビデオ画面・タッチパネルのついた端末を用いる(下図)が、より簡単には、自分のスマートフォン端末からLanguage Lineに電話すればよい。

(出典はこちら
 すると、「スペイン語は2、アラビア語は3・・・」などと自動音声が流れ、選択するとその言語の通訳がでる。そして「品質・トレーニング目的に録音されることがあります」「部門と患者カルテ番号を教えてください」「患者さんに自己紹介してよいですか」となる。

 そのあとは、スピーカーをONにして、こちらから質問すると通訳がそれを伝え、患者が答えると通訳がそれを伝え(あるいは、その逆)・・という当たり前のやり取りが行われる。確実により時間がかかるが、それさえ我慢すれば文明の利器である。

 なお、Language Lineは固有名詞であり、より正確にはLanguage Line Solutions社と言い、ベトナム戦争に海兵隊として従軍していたMichael McFerrinと、警察官のJeff Munksが1982年に移民支援のために始めた。現在は240か国語・9000人以上のスタッフを持つ、世界最大の通訳会社だ。

 


8/22/2024

A2 Transplant

  以前も、血液型にA2型(AB型の場合はA2B型)というのがあって、A2型ドナーの腎臓はその細胞表面にA抗原がほとんどないため、B型で抗A抗体の少ないレシピエントにはABO適合のように脱感作なしで移植できると書いたが、実際に経験する機会はなかった。

 このたび経験することになり、事前にもらった参考資料(Transplantation Direct 2021 7 e662)を読んだ。勉強して、実地に活かしたい。まとめると:

・A2型が注目される理由の一つは、B型レシピエントの待ち時間が長く(2年以内の移植率は18%)、彼らの多く(70%以上)がアフリカ系やヒスパニックといったマイノリティーであること。

・多くの施設は抗A抗体8倍未満をカットオフにしている(UNOSは基準を設けていないが、高抗体価例では脱感作する)が、16倍以下をカットオフにしている施設もある(この資料を発表したAlbert Einstein College of Medicineのグループ)。

・同施設では、A2/A2B→B型(A2不適合)移植の導入はrATG 4.5mg/kg(通常、PRA20%以下はbasilisimab、それ以上はrATG)。DSAがあればIVIG+rATG 6mg/kg。維持はprednisone/MMF/tacrolimus。

・2015-2019年に行われたA2不適合移植は41件(適合は75件だから、全体の約1/3)。うち、抗A2抗体価が8倍以上の患者は11人(8倍が6、16倍が5)。

※レシピエントの平均年齢は53歳、約80%がアフリカ系とヒスパニック、38件が献腎(平均KDPIは52%)、3件が生体腎、4件が先行移植。8件で移植前DSAが陽性、3例でフロークロスマッチ陽性も、補体依存細胞傷害(CDC)クロスマッチは陰性。

・平均32か月の観察期間で、生命予後・グラフト予後・Cr・蛋白尿に有意差はなかった。TCMR・ABMR・各種感染症にも有意差はなかった。グラフト喪失の内訳はノンアドヒアランスによるABMR、MMF中止(敗血症)後の急性TCMR、術中の腎梗塞、COVID関連AKI。

・(プロトコルではなく、臨床的に適応があっての)生検では、拒絶所見のないC4d陽性が7例にみられたが、うちDSA陽性は1例。移植後の抗A2抗体価は、測られなかった(急性ABMRは1例も起こらなかったが・・気になるところである)。


Pre-emptive KT Caveat

  先行的腎移植の術後には、患者の(native)腎臓、移植腎(allograft)のどちらも考慮する必要があり、尿がでているからといって移植腎が機能しているとは限らない。術前に比べて多いか、腎機能が改善しているか、などで評価することになる。

 いっぽう、術後に尿が出ない場合には、移植腎だけでなく患者の腎臓も機能していないことになる。そのため、3つの腎臓すべてに作用する病態(低血圧など血行動態の異常、尿閉など)が起きていることになる!

 移植腎臓内科は、移植固有の問題と、移植以外の腎臓内科上の問題のどちらも扱う必要があり、どちらかだけを診ていてはだめなのであるが、こういうちょっとした秘訣(caveats)を集めていくと、状況に応じて適切に考えられるようになるだろう。

8/20/2024

HLA 2

 HLAといえばA、B、DR(それに、C、DQ、DP)と習ったが、レポートを読むともう少しいろいろ書いてある。混乱するので読み飛ばしていたが、少し分かってきた。

・小文字のwとCREG

 歴史的には抗原特異性が確立していない(provisional)ことを示し、wは'workshop'の略である。

 現在では特異性が特定のHLA抗原に限定されない普遍的な(public)抗原に用いられる。たとえばHLA-Bw4とBw6の抗原は、ほぼすべてのHLA-B分子に存在するだけでなく、HLA-AとHLA-C分子にまで存在する。

 なお、こうした血清学的な抗原(serotype antigen)を共有する分子的・遺伝子的な抗原(HLA antigens)のグループを、CREG(cross-reactive group)と呼ぶ。そして、複数の抗原が共有するアミノ酸配列や認識部位のことをエピトープと呼ぶ。たとえば、Bw4とBw6のエピトープは、α1ドメインのヘリックスにあることが分かっている。

 HLA-Cのserotype antigenはその多くにwがついているが。これはC抗原が言わば「非A非B」のカテゴリーとして新設され、未だに抗原特異性が完全に解明されず保留のためだとwikipediaには書いてある。だが、補体因子(complement factor)と区別するためだとする成書もある。

・Class IIのAやB

 HLAクラスI分子はβ2ミクログロブリンとヘテロマーを作るが、クラスII分子はαサブユニット、βサブユニットともにHLA遺伝子にコードされる。DP(Q、R)のαサブユニットはDP(Q、R)A遺伝子、βサブユニットはDP(Q、R)B遺伝子といった具合である。

 ただし、DRB遺伝子以外は1セットしかないが、DRB遺伝子にはDRB1・DBR3・DRB4・DRB5という4つのパラログが存在する(他にもDRB2など多数の偽遺伝子が存在する)。なお、DRB1は他の5倍程度と、パラログのなかで最も多い。

 DRA遺伝子のコードするαサブユニットにはあまりバリエーションがなく、DRの抗原特異性はβサブユニットに由来する。ほとんどはDRB1に関係するが、DR52はDRB3遺伝子、DR53はDRB4、DR51はDRB5遺伝子の抗原である。

 なんで順番が逆(51、52、53でなく、52、53、51)かは、serotypeのほうが先にあって、そのあと遺伝子が分かったからではないかと、筆者は推察する。いっぽう、遺伝子が先にみつかったDQA1、DPA1、DPB1抗原などには、対応する「DP24」などの(背番号みたいな)serotypeがない。

・DRとextra points 

 腎移植で気にするA、B、DRのなかでは、Class IIなこともあってかDRミスマッチが最もグラフト予後に影響する。そのため、ドナーのDRが0ミスマッチ(ないし1マスマッチ)のレシピエントは、DRが2ミスマッチのレシピエントよりも優先される。


8/18/2024

忘れられない一言 74

 入院している移植後患者全員を把握はするが、全員を毎日診て回る余裕はなく、回診もフェローだけ独自にまわる余裕はない(新しいコンサルトでは、できるだけ独自に把握・診察してプランを考えてから指導医に相談するが)。

 逆に言うと、回診では指導医が患者と話すのをじっくり黙って聴くことができる。しっかりとした説明は、「なるほど、こういうふうに言えばよいのか」と思わされ、思わず頭の中でシャドーイングしている。

 これも大事な教育機会なのだろうなと思う。患者への説明、言葉以外のコミュニケーションなどは、見なければ教わることはできないからだ。思い返せば、自分がよく使う言い回しのなかにも、「あれは〇〇先生の言い回しだったなあ」というものは多い。

 さておき、きょう書き留めておきたいのは、"You only need to have an excellent wound care to recover."である。

 「あとは、良い創傷ケアを受ければ回復するでしょう」、ということだが、筆者はとっさに「よほど良い創傷ケアを受けない限り、回復は難しいでしょう」と訳してしまった。

 というのも、肥満(BMI 35以上)患者をどんどん移植するようになって、創の治りが悪くて治療に難渋する例をたくさん見るからだ。手術や洗浄、陰圧閉鎖療法などさまざまな手を使うが、入院を繰り返す例も多い。

 創に限らず、ハイリスクな移植はたくさんある。しかし、前向きでなければならない。半分水の入ったコップはhalf emptyではなく、half fullである。そしてすべての雲には、日光が差し込む銀色の縁(silver lining)がある。

 色々あってつらいだろう患者に掛ける言葉であれば、尚更だ。


8/17/2024

Beep, ding, ping

  入院診療では、コンサルトのファースト・コールとなるポケットベル(pager)を持つため、それがひっきりなしにピーピー鳴る。さらに、電子カルテのチャットシステムで質問や相談が来るのだが、それがスマートフォンと連動しているため、ピコピコ鳴る。さらに、チーム内のやりとりがショートメッセージ(text)で行われるため、ピコピコ鳴る。さらに、すべてのピーピーとピコピコに反応しなければならない(ポケットベルの場合は電話で返事、ピコピコはスマホかパソコンで返事)。集中が削がれやすい環境だが、一瞬一瞬に集中していれば、なんとか乗り切れる。最大瞬間風速がどれだけ速くても、実際には無風のほうがずっと多いからだ。

Dialysis Catheter

 血液透析が透析カテーテルを介して始められる例は多い。たいては緊急で始められるため、何かと患者によくないことが起りがちで、自己・人工血管内シャントを事前に確立しておくことが求められる。
 透析カテーテルを挿入されると、挿入部位の静脈が狭窄したり、血栓を作ったりする※。とはいえ抜去してしまえば以後それほど問題になることは少ないのであるが・・腎移植の際に思わぬ痛い目にあうことがある。
 たとえば、手術のために中心静脈カテーテルを挿入したくても、狭窄のため内頚静脈に挿入できなかったり、挿入に手間取ったりする。透析カテーテルが入っていたためであるが、何年も前のことであるから、事前に把握できないこともある。
 また、米国では上肢内シャントの閉塞・内頚静脈カテーテルの機能不全などにより大腿静脈カテーテルで透析を受ける患者もいるが、そうした既往がある場合、外腸骨静脈に血栓や狭窄があってグラフト腎静脈を吻合できない、といったことも起こりうる。

 【おまけ】10年前、筆者がいたころの米国では緊急時には一時的透析カテーテルを(時に苦労しながら)挿入し、以後シャントや長期的透析カテーテルに切り替えていたが、現在の米国ではIR(透視を行う放射線科)が挿入し、しかも全例長期的透析カテーテルである。

8/16/2024

Tacrologist

  入院診療はコンサルタントとして働くため、術後3ヵ月以内は移植外科、それ以降はホスピタリストが主な主治医となるが、副甲状腺摘出目的の内分泌外科入院や、腎摘目的の泌尿器科入院などのように、他科から相談を受けることもある。多彩な病態、重症度にどしどし触れられる貴重な機会であるが、最も重要な仕事は免疫抑制薬の管理、なかでもタクロリムスの調節である。・・そして、それが結構難しい。

 まず、結果がすぐに出ない!信じられないが、試薬が特別なのか、これだけ件数があっても5-6時間かかり、5時に採血しても11時ころまで待たなければならない。※外来だと、第2・第3便にまわるのでもっと遅くなる。

 そのうえで、「1日休薬したから低いのかもしれない」「12時間トラフではなく10時間トラフになっている」「まだ3回しか内服していない」「先週濃度が高くて用量をいくつに減らした」「先月に目標トラフ濃度が6-8から5-7に引き下げられた」「下痢をしている」「目標濃度から0.1しか外れていないが、上昇傾向のトレンドを見ると減らしておくべき」・・など、さまざまな要因を考慮しなければならない。

 そして、こうした熟慮のうえで出した決断は、腎グラフトの寿命と拒絶に直結しているのである。

 仕事をするまでは、タクロリムスといえば試験問題などがそうであるように、相互作用(エリスロマイシン、ジルチアゼムなど)を意識すればよいのかな?くらいに思っていた。しかし実際には、tacrologyとも言うべき、「タクロリムス学(道)」がある。Tacrologistを目指して、頑張ろう。


(出典はこちら



8/15/2024

Failing kidney allograft

  筆者は以前、透析患者さんに「移植は10年しかもたないからねえ」と言われ、ハッとしたことがある。10年先のことすら頭に入れていなかったのだから、「あたかも一万年も生きるかのように行動するな」と言ったマルクス・アウレリウスが聞いたら、さぞかし落胆するだろう。

 患者さんのおっしゃる通りで、米国データでは生体腎の平均寿命は約12年、献腎の場合は質により、KDPI 20未満で11年、20-95%で9年、95%以上で6年である。余命にもよるが、多くの人にとって移植というのは、したらそれで終わりというものではない。

 しかし、筆者に限らず、腎移植・腎臓内科スタッフと患者さん、どちらもその準備はあまりスムーズにできていない。その結果、再移植のタイミングを逸したり、透析開始前後の死亡やトラブルが起きがちである。

 そこで、「問題あれば解決あり」というわけで、「備えあれば憂いなし」を目指す大きなカンファレンスが2020年代に2つ行われ、それぞれ発表された。一つ目は米国移植学会によるもの(AJT 2021 21 2937)、二つ目はKDIGOによるもの(KI 2023 104 1076)だ。

 どちらも大意は同じで、主な論点は①定義、②免疫抑制薬、③グラフト不耐症候群(intolerance syndrome)、④腎代替療法の再選択、⑤一般腎臓内科との連携、⑥保険や政策である。簡単にまとめると:

 ①定義:failureという言葉は印象が悪いが、他に言葉があまりない(poorly functioning and decliningなど?)。eGFRは保存期CKD患者が移植リストに入れる20ml/min/1.73m2未満を仮に設定。

 ②移植が早期に見込まれるか、残腎機能があるかで異なる。基本はまずantimetabolites(MMF、AZA)から減量中止。タクロリムスも減量するが、すればするほどDSAが出やすい。そのためベラタセプトに切り替える試験が進行中(NCT01921218)。

 ③免疫抑制薬を中止して起きる合併症で、典型的にはグラフトの痛みや腫脹・発熱・血尿などだが、倦怠感や炎症・ESA不応の貧血など非特異的なことも。ステロイドパルスに反応する場合もあるが、再発する場合は摘出や塞栓術を行う。

 ※グラフト摘出が感作を増やすか減らすかは、諸説あり。無くなれば免疫抑制薬は要らなくなるはずだが、術前の(摘出の理由となった)拒絶・術後の(術中出血による)輸血などの影響もあるため。

 ④透析前に再移植の評価をうける患者はかなり少なく(15%)、減少傾向にあり、社会的要因も大きい。透析開始後数年は死亡率が高く、バスキュラーアクセスなしで開始される患者が多い。CKMも選択肢として考えられ始めている。

 ⑤一般腎臓内科との連携はあまり十分ではない。誰が中心になって話をするかも不明確で、スムーズな再移植・透析移行を阻害している。英国はlow-clearance transplant clinicという多職種クリニックを作った。

 ⑥先行的再移植を行いたくても、腎機能が残っているため保険がカバーしないことがある。Medicareは、kidney care choices modelというインセンティブを試行している(2022-2026年)。

 ※いずれも著者に筆者の過去・現在の上司が含まれており、移植の世界に近づいたなあと感慨深い。また、他に参考にしたグラフト機能低下時の保存的腎臓療法についての文献(Semin Nephrol 2023 43 151401)を書いたのは、友人である。


8/14/2024

MELD 3.0

  肝移植待ち患者のスコアといえば2002年に始まったMELDであるが、当時はINR・総ビリルビン・クレアチニンの3項目であった。それが、2016年にMELD-Naに改訂され、さらに2023年にはMELD 3.0に改訂されていたことを知った。

 MELD-Naは、血清ナトリウム値が加わり、低いほどスコアが高くなる。具体的には137との差で表され、たとえば130mEq/lなら7に係数をかけたスコアがつく。ただし、137以上であれば137を用い、125未満であれば125を用いる。

 これにより移植を待っている間の死亡率は12%から6.7%に改善されたが、ビリルビン値があまり影響しないMASLD(代謝機能不全関連脂肪性肝疾患、NAFLDから改称された)、筋肉量が少なくクレアチニン値が上昇しにくい女性などに不公平との声が上がっていた。

 そこでMELD 3.0は、クレアチニンによる最高スコアがつくカットオフ値を4mg/dlから3mg/dlとし、性別とアルブミンを新たに加え、クレアチニンとアルブミン、ナトリウムとビリルビンの重み付けを変更した。

 たとえば、クレアチニン値が高くなるほど、アルブミン値が重要でなくなる。これにより「重症患者でHRSの除外・腹腔穿刺等にアルブミンを使いたいが、アルブミン値が上がってしまうとMELDスコアが下がってしまう」という悩みが軽くなった。

 米国の移植統括機関UNOSの科学部門、SRTRの統計チームが開発したもので、これにより移植を待っている間の死亡率は6.7%から5.8%に改善したという。今後、腎機能をどう正確に評価するかなどが課題である。肝疾患患者でCrの信頼性が低いことはよく知られており、シスタチンCなどが用いられるようになるかもしれない。

 なお、元祖MELDは本来、TIPSを行う際の死亡率予測に開発されたツールであり、その目的では今でも使われるという。※参考文献:Am J Gastroenterol 2024 00 1-4

 

8/03/2024

Steroid avoidance

 古くから用いられ、良くも悪くもfact of lifeとなっているステロイドだが、これだけ新しい免疫抑制薬が出ているのだから、そろそろステロイドを使わないレジメンがあってもよさそうなものである。

 そして、ステロイドを使わないレジメンは存在する。しかし、シクロスポリンの時代に拒絶が多い報告がみられたため、今でも普遍的にはなっていない。移植後1年時には米国腎移植患者の約30%がステロイド・フリーである(OPTN/SRTR 2017年次報告、in CJASN 2021 16 1264)。

 よく用いられるのは、副作用の影響がより心配で、拒絶の心配がより少ない、高齢者である。2005-2016年のMedicare加入患者を調べた結果では(Transplantation 2021 105 1840)、65歳以上の約24%がステロイド非使用レジメンであった。

 そして、6ヵ月-3年後の急性拒絶は約5%と、ステロイド使用レジメン群の8-11%よりも低かった。もちろん相関であり、ステロイド非使用レジメン群のほうが免疫学的リスクは低い。また、6ヵ月‐5年後のグラフト予後と生命予後にも差はなかった。

 また、1999-2015年の1施設報告(ミネソタ大学)によれば、ステロイド非使用レジメン群は新規糖尿病・心血管系・CMV感染症・無血管性骨壊死などの非グラフト関連合併症が有意に少なかった。

 拒絶と合併症はどちらも大事なため、結局は、”What are you trying to achieve?”ということになる。そのため、1か月以内に5mg/dまで減量することで副作用を最小限にし、そこからは生涯継続して拒絶のお守りにする、といったレジメンが多数派である。

 なお拒絶に関しては、basilisimab+ステロイド早期終了(8日目)とthymo+ステロイド早期終了(8日目)を比較したHARMONY試験があり(Lancet 2016 388 3006)、両群で生検で診断された拒絶と12か月後のグラフト・生命予後に有意差はなかった。

 ステロイド非使用患者の割合は10年以上変わっていないため、よほどすごいレジメンが見つかるまではこのままであろう。いつか、見つかるといいなと思う。


8/02/2024

Expedited Placement Variance

  献腎移植のためにprocure(獲得、調達)された腎臓のうち、20%以上は使われない。既往症・肥満など、ハイリスクなドナーからの腎臓の場合その割合は高くなり、KDPIが85%以上の腎臓は60%以上が使われない。※婉曲的にunused/not usedとも言われるし、批判的にdiscardedとも言われる。

 「良い腎臓」を届けたいという外科医の気持ちもあるし、腎臓を受け入れた際のさまざまな手間、施設の移植成績がさがる懸念、受け入れに対するインセンティブのなさなども原因と思われるが、ハイリスクな腎臓でも十分に生命予後を改善させることから、近年使われない腎臓の割合を減らす圧力が強まっている。

 そんななか、2023年12月21日に(やや唐突に短い準備期間のあとで)国の移植を司る機関、OPTNから発表されたのが、Expedited Placement Varianceである。Open offer、out of sequenceなどとも呼ばれる。

 これは、これまでの移植待ちリストとは関係なく、「高リスクの腎臓を受け入れます」と意思表示した移植施設に優先的に高リスクの腎臓を受け入れる権利を与える。さらに、移植施設は自分たちで「この腎臓で最も利益を得られるのは誰か」を考えて、その患者をレシピエントにすることができる。

 移植待ちリストの順番にやると、A市のX病院に断られ、次はB市のY病院に・・と言っている間に臓器のCITが延びてしまうだけでなく、手間も大きく、最終的にその腎臓は使われなくなりがちだ。しかし、新しい提案では、たとえ第一候補患者が急遽無理になっても(当日COVIDにかかるとか、移植までに感作されてクロスマッチが陽性になってしまうとか)、第二候補患者に待機してもらうことができる。

 しかし、米国腎臓学会と米国腎臓財団は、いずれもこの提案に懸念を示している。

 もちろん両団体ともに臓器が使われるようにすることには賛成だ。しかし、いちばんの問題は、透明性と公平性だという。「そもそも、新しいvarianceという例外を認める前に、今の割り当てシステム(allocation system)を直すべき」「utility、equity、transparencyはいずれも大事な3本柱であり、1つのために他の2つを犠牲にしてはならない」と言うわけだ。

 それでも、米国らしく、とにかく第一歩から始めなければならない(You've got to start from somewhere)という認識は全員一致しており、両団体とも「ここをこう直しましょう」という提案で文書を締めくくっている。


8/01/2024

Global Payment and Immuno Bill

  移植医療も腎代替療法の一つであり、透析と同様に保険適応となる。Medicare Part A(入院診療の保険)は:

・入院治療費

・腎臓登録費

・レシピエントとドナーの評価費用

・腎臓を見つけるための費用

・ドナーの術後に発生した問題の入院治療費

・輸血、血液製剤

 などをカバーする。また、ドナーのケア(術前、手術、術後を含む)も含まれ、ドナーのケアについてはレシピエント・ドナーともに自己負担は発生しない。

 Medicare Part B(外来診療の保険)は、輸血、血液製剤、移植手術とドナー入院治療のdoctors' servicesをカバーするほか、移植がMedicare保険で行われた場合には免疫抑制薬をカバーする。

 こうしたルールは医師よりも事務のほうが詳しく、例外などもあって複雑であるが、耳にしたことが二つある。一つはglobal paymentで、移植後3ヵ月間については内科・外科・泌尿器科などを含めた包括的な治療費が支払われる。理論上は、経過良好な症例が多いほど施設のもうけが多くなる。

 もう一つは2020年に可決されたImmuno Bill(Immunosuppressive Drug Coverage fo Kidney Transplant Patients Act)で、これにより免疫抑制薬が生涯カバーされるようになった。それまでは3年間しかカバーされなかったため、3年目からグラフト成績が低下するという如実な結果がみられていた。


Preoperative BP and DGF

  腎移植を受けるうえでの禁忌といえば、管理不良の感染症、悪性腫瘍、喫煙、低アドヒアランスなどを思いつくかもしれないが、大事なものの一つが低血圧である。そのため、長年の糖尿病による起立性低血圧や長年の血液透析による低血圧は、腎移植を考慮するうえでの大きなハードルになる。

 周術期の低血圧がグラフト予後に及ぼす影響を明快に示した論文がある(Clin Transp 2022 36 e14776)。ピッツバーグ大学のグループによるもので、献腎移植をうけたレシピエント562人を調べたところ、術前のMAPが1mmHg低下するごとにDGFのリスクが2%上昇していた。


 術前低血圧は糖尿病や透析年数と相関していたが、ほかにもBMIに相関しており、BMIが高いほど血圧が低い傾向がみられた。経験的に分かっていたことが、ここまでクリアに示されると、調べた人に脱帽する。

 [2024/8/22追記]透析中・後の低血圧に対して用いられるミドドリンがDGFリスクとなることを示した米国透析レジストリの後方視解析は2016年に発表され(Transplantation 2016 100 1086)、"a newly identified risk marker"と題されていた。相関であるが、移植前のミドドリン使用群は非使用群に比べてDGFが有意に高く(32% v. 19%、p < 0.05)、多変量解析後のハザード比は2.0(95%CI 1.18 - 3.39)であった。


ddcfDNA and RNA signiture

  腎臓の働きが異常な時には、腎臓に何かが起きているはずで、究極的には腎臓を生検して組織を調べる。だが、それ以外の方法となると、蛋白尿とクレアチニンくらいしかない。しかし、蛋白尿とクレアチニンは非特異的なため、もうすこし特異的に「この値が異常(あるいは正常)なので、拒絶である(あるいは拒絶ではない)」と言える検査を人々は探した。

 より普及しているのはddcfDNA(donor-derived cell-free DNA)で、血液中の細胞遊離DNAに占めるドナー由来DNAの割合を調べる。この割合が高ければ(カットオフは1.0%であるが、トレンドも重要である)ドナーの細胞が破壊されたことを意味する。AlloSure®とProspera®の2商品があり、前者が行ったDART試験(JASN 2017 28 2221)はddcfDNAがFDAに認可されるきっかけとなった。

 ただし、ddcfDNAは拒絶以外の細胞傷害(尿細管壊死、BKウイルス腎症など)でも陽性となるため、特異度は高くない。その反面、negative-predictive valueは80%以上と高いため、本来は「陰性だから大丈夫(assured)」という検査である。・・が、実際にはこの検査が陰性でも腎生検は行われる。そして、たいてい拒絶ではないが、CNI毒性などが分かればbelataceptに切り替える。

 次世代の検査に、RNA signitureがある。これは、患者血液のRNAを調べることで同定された拒絶で転写される遺伝子群の動きを検知するものだ。2021年に56才で亡くなったBarbara Murphy先生が中心になって進めてきた遺業であり、彼女と深いかかわりのあるVerici DX社のTutivia®のほかに、Trugraf®がある。前者は移植早期の拒絶、後者は移植後期の拒絶を調べるため、扱う遺伝子群は全く異なる。

 Tutiviaの診断確度を前向きに検証した試験(AJT 2024 24 436)によれば、positive predictive valueは75%、negative predictive valueは63%とさほど高くはなかったが、BKウイルス腎症ではこれらの遺伝子に動きがみられなかった点は興味深い(もっとも、それだけでBK腎症をrule inすることはできないが)。

 今はまだ、いずれの試験も「高いわりに・・」の感は否めない(Tutiviaは今のところ会社が検査費用を負担している)が、新しい診療の始まりという気がする。


7/31/2024

Biopsy techniques

 腎生検の手技は施設によって異なるため、様々な施設のやり方を知ると良いところを参考にできる。たとえば:

 ①穿刺針のガイドを穿刺針の太さと同じものにする。以前は「きつくならないように」と18G針より少し大きな(17Gや16G)ものを使っていた。ぴったりにすると非常に通しにくいが、そのぶん針が皮下でぶれないので、超音波画面に映りやすい。

 ※コツは、プローブの面とガイドの角度をよく見て、無理して入れようとしないことである。無理して入れると、途中でひっかかり、上手くいかない。最初のうちは「こんなところでつまづくとは・・」という気持ちになるくらい入らなかったが、徐々に慣れてきた。

 ②超音波プローブをちょうどよい位置に置いた状態で穿刺針を通す。以前は、穿刺針を通してからプローブを当てていた。しかしそれだと、腎臓からや麻酔した場所から位置がずれてしまう。

 ※穿刺針を通す場所を皮切することもない。ある程度の抵抗はあるが、適切な力をいれれば刺入できる。

 ③皮下に入った後も角度をぴったりガイドに合わせる。これをやらないと、針が反ってしまい、針先が画面に映りづらくなるのみならず、引き金を引いた後にうまく針先が刺さらないことがある。

 この三つに気をつけることで、だいぶんI know what I am doingな感じになってきた。「説明できない奥義」のような腎生検の手技も、こうしてある程度かいつまんで解説すれば、未習熟な手技者のスキルアップにつなげられる。


7/30/2024

de novo DSA and ABMR

1.de novo DSA(dnDNA)

 dnDNAによるABMRは、preformed DSAによるABMRに比べて蛋白尿が多くtransplant glomerulopathyを起こしやすくグラフト予後が不良な傾向にある。dnDNAは移植後5年で15-25%に起きるとされ、リスク因子にアドヒアランス不良、免疫抑制薬の減量、高率のeplet mismatch、若年、先行するTCMRなどが挙げられる。

 免疫抑制薬のなかで特に重要なのはタクロリムスで、同薬中心のレジメンはシクロスポリン中心のレジメンに比べてdnDNAが生じにくい。タクロリムスのトラフ濃度を下げ過ぎないことも重要で、最初の1年は少なくとも7-8ng/ml以上、1年後からは5-6ng/ml以上でdnDNAを予防できる。

 ただし長期のCNIは腎毒性を生じるため、施設や症例によってはBelataceptへの切り替えが考慮されることは以前に述べた。BelataceptがdnDNAを生じにくいのは、Tfh(follicular helper T)細胞がB細胞を活性化・分化させるのに必要なB7/CD28共刺激シグナルをブロックするためと考えられている。

2.MHC Class

 クラスIはほぼすべての細胞にあり、他者(ウイルス、がんなど)に侵された際に抗原を提示して自らを細胞傷害性(CD8+)T細胞に破壊してもらう警報のような役割をしている。HLAクラスIIは抗原提示能を持つ細胞にあり、貪食した細菌などをヘルパー(CD4+)T細胞に提示して、CD8+T細胞やB細胞を活性化・分化させる。

 現在腎移植ではクラスIのHLA-A・BとクラスIIのHLA-DRの3×2=6 allellesをマッチングの対象にしているが、抗HLA抗体はクラスIIに対する抗体のほうがクラスIに対する抗体よりも消えにくいことが分かっている。

 HLA-DQ・DRをマッチさせればグラフト予後を改善できるが、クラスII抗原はクラスIよりも多型が多く、そんなことをすれば移植を受けられる患者は激減してしまう。現行のA・B・DRですら、2/2/2ミスマッチと分かっていても免疫抑制でなんとかしている。

3.Eplet

 抗HLA抗体が認識するのは抗原の一部であり、その15-22アミノ酸配列(直径1.5nm程度)をepitopeと呼ぶ。抗体の認識に決定的な部位はさらに小さく、数アミノ酸配列(直径0.3nm程度)しかない。これをepletと呼び、あるHLA抗原に固有のものと、他のHLA抗原と共有されているものがある。

 現在では前述のおおざっぱなHLAミスマッチだけでなく、eplet mismatchや、アミノ酸配列レベルのミスマッチまで調べることができる(epitopes.netやhistocheck.orgなどのソフトフェアがある)。そして、当然ながら同じHLAミスマッチでも、eplet mismatchが多いほどDSA産生やグラフト喪失のリスクが高いことが知られている。

 ただし、すべてのeplet mismatchが同じリスクなわけではなく、アミノ酸配列や極性、親水・疎水性などに左右される。どこに何個どのようなミスマッチがあると総和リスクはどれくらいかが分かるようになるのは、もう少し先のようだ。

4.Pathogenicity  

 すべてのDSAが同じ拒絶リスクを持つわけではない。MHCクラスについてはすでに述べたが、高MFI、IgG3サブクラス、C1q結合能はリスク因子である(そもそも、IgG3は全サブクラスのなかでもっとも補体結合能が高い)。また、Fc部分の糖鎖配列、抗原との親和性、グラフトにおけるHLA抗原の分布なども影響すると考えられている。


 

7/28/2024

Treatment of ABMR

 移植腎が廃絶する原因で最も多いのがABMRであり、ABMRの治療は難しい。抗体による疾患と言う意味では自己免疫疾患に似ているし、抗体産生の元がB細胞や形質細胞であるという意味では血液疾患にも似ている。下図のようにさまざまな治療ターゲットについてさまざまな治療が行われ(試され)ているが、効果と安全性は一貫していない。

(出典はCurr Opin Organ Transplant 2022 27 405)

 このなかで、現在よく行われるのは血漿交換とIVIGである。血漿交換は血漿量×1‐1.5の除去を連日または隔日×4‐6回、IVIGは血漿交換ごとに100‐200mg/kg、または単独で2g/kgが通例である。

 なおエキスパート・コンセンサス(Transplantation 2020 104 911)はステロイドも標準治療に載せている。経験的なものであるが、上図のようにB細胞の活性化にはT細胞(とくにfollicular helper、Tfh cell)が重要である。また、純粋なABMRということはあまりなく、多くはTCMRを合併している。そのため、Thymoが併用されることもある。

 抗体そのものをターゲットにした治療に、IdeS(imlifidase)がある。IdeSはStreprococcus pyogenesで見つかったIgG全クラスの重鎖を切断する酵素に由来し、腫瘍崩壊症候群の高尿酸血症に対するrasburicaseのように、一時的に血中のIgGを激減させる。現在は移植直前の脱感作に用いられているが、ABMRにも治験されている(NCT03897205)。

 次に標準的になりつつあるのがRTXで、375mg/m2の単回投与が通例である。よく引用されるエビデンスのRITUX-ERAH試験(Transplantation 2016 100 391)は、血漿交換3回+IVIGを受けた38例のABMR患者をRTX群とプラセボ群に分け、その後血漿交換2回+IVIGを行ったものだ。12か月後のグラフト機能・予後に有意差はなかったが、プラセボ群の8例もrescue therapyとしてRTXを受けたので、解釈は難しい。ステロイド併用例にRTXを追加した効果を調べる治験が進行中である(NCT03994783)。

 また、抗CD20モノクローナル抗体でRTXよりもヒト化されたObinutuzumabも、RTXよりも効きそう?というわけで試されることがある。

 他にB細胞をターゲットにした治療に、syk(spleen tyrosine kinase)阻害薬のFostamatinib、抗IL-6受容体モノクローナル抗体のTocilizumab、抗IL-6モノクローナル抗体のClazakizumabなどが試みられているほか、DSAを減らす効果のあるBelataceptのBELACOR試験(Am J Transplant 2019 19 894)も行われている。

 しかし、感作されたB細胞は、メモリーB細胞や形質芽球、形質細胞に分化してしまう(下図)。そこで、Bortezomib、抗CD38モノクローナル抗体Felzartamabなど、骨髄腫に用いられてきた薬が治験されている。Felzartamabの第2相結果は7月11日に発表され(NEJM 2024 391 122)、安全性はacceptableであった。

(出典はBiol Blood Marrow Transplant 2009 15 104-113、*形質芽球はCD20陰性)

 なお、CD38は炎症の主役であるNK細胞にもあることから、抗体産生だけでなく拒絶反応を緩和する効果も期待されている。

 抗体が血管内皮細胞に結合した後の補体反応を抑える治療に、C5ないしC1をターゲットにしたものがある。抗体は消せなくても、補体反応を抑えればそこで傷害をシールドできるから大丈夫、という考え方である。

 C5についてはモノクローナル抗体eculizumabが試されている。よく知られているのは、移植前後に何十回も血漿交換で脱感作しても3週以内に重度のABMRを起こした患者5例に、脾摘とeculizumabを併用したところ、1例のグラフト廃絶もtransplant glomerulopathyも起きなかったという報告である(Transplant 2014 98 857)。DSAは消えなかったが、補体反応はシールドできることが実証された。

 しかし、患者には尿路感染症(80%)、肺炎(40%)、CMV血症(20%)、菌血症ないし敗血症(40%)、皮膚軟部組織感染症(60%)、C. diff感染症(60%)などが起き、これらは脾摘単独やeculizumab単独に比べて多い結果だった。

 「ふたつよいこと、さてないものよ」とはよく言ったものだが、現時点では最終兵器の位置づけである。今後、長時間作用の第二世代ravulizumabなども試されるかもしれない。

 抗C1治療には、C1-INH(Cinryze®とBerinert®)と、抗C1モノクローナル抗体Sutimlimabがあり、それぞれ遺伝性血管浮腫、寒冷凝集素症に認可されている。

 C1-INHは標準治療にadd-onして6ヵ月後の腎生検でtransplant glomerulopathyが診らなかったという報告はある(AJT 2016 16 3468)が、その後のRCTは有効性が示せず中止されている。

 Sutimlimabは第1相試験で腎機能に変化はなかったが、患者の多くで腎病理のC4d沈着が消えていた(AJT 2018 18 916)。現在、第2相試験が行われている(NCT05156710)。

 ・・ここまで、さまざまな治療選択肢を紹介したが、これだけ知っていても「こういうときにはどうしよう?」という治療戦略はわからない。それは診療経験を積む中で培うしかないとも言えるが、次回はその参考になるかもしれない、さまざまな免疫学的リスク因子についてまとめたい。

7/27/2024

Treatment of TCMR

  拒絶の治療は、ざっくり言えば①TCMRにはステロイドとThymo、②ABMRには血漿交換とIVIGとRTXである。とくに前者は余り変化がなく、例えば

・Banff Ia        mPSL 500mg × 3-5日

・Banff Ib        mPSL 500mg × 3-5日

                        または

                      Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

・Banff II/III   Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

 といった具合である(CJASN 2020 15 430)。もちろん、施設・医師・ケースごとに差があり、ステロイドなら250mgなこともあれば1000mgなこともある。データは質量ともに乏しく、一応KDIGOガイドラインはあるが(AJT 2009 9 S1-S155)、

・Subclinical/borderlineな急性拒絶も治療すべき(2D)

・初期治療はステロイドを推奨(1D)

・ステロイド非使用レジメンの患者には維持ステロイドの使用を推奨(2D)

・ステロイド不応例にはThymo/OKT3の使用を示唆(2C)

 としか書かれていない。前述のように過去には「ステロイド反応拒絶」と言われていたので、治療の基本はステロイドである。



7/26/2024

忘れられない一言 73

  外来でプレゼンしていたら、指導医が"Thank you for being thorough"と言った。カルテのどこにどんな情報があるかが少しずつ分かってきたためであるが、嬉しかった。こが先生は非常にthoroughを大事にしていることは知っていたが、すごいのは「もっとthoroughにならなければいけない」というnegative reinforcementではなく、positive reinforcementを自然にしていることだ。

 Positive reinforcementの重要性は誰だって理解しているし、自分が教わる立場ならそう言われた方が嬉しいのもわかっている。とはいえ、いざ教える立場になると、どうしても相手の(できない点、というのもよくないので)改善すべき点を指摘しがちである。にもかかわらずpositive reinforcementをするこの先生は、おそらくそうやって教わってきたのだろう。



Banff 3

  ここまで、v・i・t・g・ptc・C4dについてみてきた。これで終わりかと言うと、そんなことはない。アルファベットの練習みたいだが、他にはcg・ct・ci・cv・ti・i-IFTA・t-IFTA・ah・mm・pvlがある。詳しくはBanff財団ウェブサイトを読んで学ぼうと思うが、ざっくり言うと:

 cで始まるものは、chronicを意味する。cg(chronic glomerulopathy)は、基底膜の二重化などを特徴とする慢性の糸球体症で、graft failureの原因になる。cv(vascular fibrous intimal thickening)も、慢性拒絶のサインである。ci(interstitial fibrosis)も線維化なので、慢性変化である。

 ti(total inflammation)・i-IFTA(inflammation in fibrosis)、t-IFTA(tubulitis in fibrosis)は、慢性活動性(chronic active)TCMRに用いられる。

 pvl(polyomavirus load)は、BKウイルス腎症に用いられる。ah(arterial hyalonosis)とct(tubular atrophy)は、典型的なCNIの腎毒性である。mm(mesangial matrix expansion)は、IgA腎症の再発などで見られる。

 

Banff 2

  抗体関連拒絶は、いくつかの変遷を経ている。歴史的には、①急性の組織傷害、②C4d沈着、③血中のDSAのすべてを含むと定義されていた。しかし、②と③は不可欠ではなくなった。

 1つ目の急性の組織傷害とは、①微小血管の炎症(g>0 and/or ptc>0)、②動脈の炎症(v>0)、③TMA、④急性の尿細管傷害のいずれかをいう。gは糸球体炎のことで、全糸球体の25%未満をg=1、25-75%をg=2、75%以上をg=3と定義する。

 ptcはperitubular capilaritis、つまり尿細管のそばにある毛細血管の炎症である。具体的には、皮質にみられる毛細血管の10%以上で、内腔に好中球が集まっていることを指す。好中球が最も重度なところで3-4個集まっていれば軽度(ptc=1)、5-10個なら中等度(ptc=2)、10個以上なら重度(ptc=3)と定義する。

 2つ目のC4dとは、抗体が補体反応を惹起した際に出るsplit productのことであり、「抗体関連拒絶といえばC4dの沈着」というイメージであるが、C4d陰性の抗体関連拒絶が多数報告され、その限りではないことが分かってきた。そのため、g+ptcのスコアが2以上あればC4dに代替できるようになった。

 C4d陰性でも、抗体関連拒絶なら何かしらの特異的な反応は起きているはずである。そしてそれは、「ふむ、どんなものかな」と顕微鏡を眺めているだけでは限界がある(達人の域に達すればわかるのかもしれないが、客観性に乏しい※)。

 そこで、アルバータ大学などのグループがMolecular Microscope®というプロジェクトを始めた。腎生検の検体からmRNA発現の変化を核酸増幅法を用いて調べるもので、これにより抗体関連拒絶で変化する遺伝子産物を同定することが可能になった。

 遺伝子はレシピエントNK細胞由来(FGFBP2、GNLY)、ドナー内皮細胞由来(ROBO4、DARC)などさまざまである(AJT 2017 18 785)。こうしたgene transcrpitsの発現増加も、C4dに代替できるようになった。・・とはいえ、今はまだ研究施設での使用にとどまっている。

 ※なお筆者は、mass spectroscopyや上述のmRNA増幅法など、腎生検の検体を分子生物学的に分析する方法に期待している。それが病態解明につながる道だと思うし、病態が解明されれば診断や治療にもつながると信じたい。

 3つ目のDSAは、「抗体関連ということは、抗HLA抗体が悪いのでしょう?」というわけで考え方としてはわかるが、意外と陰性なことがある。抗体量が組織レベルのごく少量なのか、非HLA抗体(AT1R抗体など)のせいなのか、諸説あり未解明である。

 いずれにしても、現在ではDSAは必ずしも必須ではなくなっている(C4d陽性またはgene transcrpitsの発現増加で代替できるようになった)。


Banff 1

  Banffカテゴリーは全部で5つあるが、①正常組織、②抗体関連拒絶、③ボーダーラインT細胞関連拒絶、④T細胞関連拒絶、⑤BKウイルス関連腎症というわけで、中心は②と④の二つである。そこで、まず④を概観する。なお、定期的に改訂されるBanffであるが④はほとんど変化がないので安心?である。

 T細胞性関連拒絶はv(動脈内膜の炎症)の有無によりIとII/IIIに分けられる。Iは炎症がない(v=0)が、もちろん他の場所には炎症がある。すなわち、間質と尿細管に炎症がある(i≧2、t≧2)。

 間質の炎症があると、尿細管どうしがback-to-backでなくなり、リンパ球が浸潤する。t≧2とは、その範囲が皮質の26%以上(50%未満が2、50%以上が3)ということだ。

 尿細管に炎症があると、尿細管細胞のなかにリンパ球が巣食う。それが中等度(5-10個、t=2)だとIa、重度(10個以上、t=3)だとIbと呼ばれる。

 これらの変化のみならず、動脈内膜にも炎症が有るものをII/IIIと呼ぶ。こちらも動脈内膜・内皮細胞にリンパ球が巣食うが、それが軽度(内腔の25%未満が喪失)だとIIa、中等度(26-50%が喪失)だとIIb、重度(50%以上が喪失)だとIIIになる。

Banff 0

 急性拒絶のリスクは黎明期には100%に近かったが、現在では10%程度である。以前は"steroid responsive"と"steroid non-responsive"に分けられていたが、現在では前者がT細胞関連拒絶(T-cell mediated rejection、TCMR)、後者が抗体関連拒絶(antibody mediated rejection、ABMR)に相当することが分かっている。

 ※このことは、ネフローゼが依然「ステロイド反応型」と「ステロイド不応型」に分けられていることと比較して興味深い。腎生検をしても、しなくても、結局まだ病態が完全に解明されていないので、治療効果で分類するしかない(たとえ「微小変化型」と言われても、ステロイドに不応だと「FSGSかもしれない」などとなる)。

 移植時の拒絶リスクとして重要なのは、①DSA、②A/B/DRミスマッチ、③アフリカ系、④若年患者である。ただし、DSAはMFIや抗体価(希釈倍率)などにもより、MFIが3000以上だと12か月後の拒絶率が高かったという報告がある(AJT 2016 16 3458)。

 移植後の拒絶リスクとして重要なのはタクロリムスの有無とトラフ値である。タクロリムスの非使用・低用量レジメンは腎毒性を改善するが拒絶リスクを高める。またタクロリムス濃度を低下させる原因として大切なのはアドヒアランスであり、若年患者ほどそのリスクが高いとされる。

 拒絶を疑ったら、腎生検がゴールドスタンダードである。そして移植腎病理の診断は1990年代からBanffと決まっている。・・のであるが、全部一気に覚えようとすると挫折する。かといって、「じゃあ本でも一冊買って・・」などとやると、(よほど真面目な友人が抄読会でもしてくれない限りは)仕舞い込んでそのままになってしまう。

 そんなわけで筆者もすべてを一気に知るつもりはないが、徐々に身近なところからまとめてみようと思う(参照はCJASN 2020 14 430)。Let's get your feet wet(いきなり泳ぐ・潜るのではなく、まずは足だけ水につけましょう、というイディオム)!


(出典はこちら


7/25/2024

International cases

 米国の病院で国外の患者が臓器移植を受けることは珍しくない。国外の患者であっても、米国で評価され移植待ちリストに載れば、透析開始からの時間が米国の患者と同じようにwait timeとしてカウントされる。

 ただし、医療費は全額自費である。

 したがって、多いのは(非常に財力があり国民の数が少ない)中東諸国の患者で、医療費と滞在費、交通費が領事館から全額支給される。首長の一族などである必要はなく、国民であればだれでもその権利を得られる(ただし、こうした国は移民に対して滅多に国籍や市民権を与えない)。

 なお、近年はMayo ClinicがUAEに分院を建設する(下図参照)など、そうした国々でも自前で移植が受けられるようになってきた。そのため、どうしても(過去の移植で高度に感作されたなど)困難な症例が米国に紹介されることが多い。


(出典はこちら


Fertility and Pregnancy

  移植後の妊娠についてのレクチャがあった。まとめると、

 妊孕性は(催奇形性のある薬を使っている)移植後6か月余りで回復するため、避妊が重要である。避妊の手段としてはIUDが効果が高く、異物だからといって移植後の禁忌ではない(CJASN 2020 15 563)。エストロゲン含有の薬剤は血栓症・血圧上昇・蛋白尿増加・SLE再燃のリスクがあるため、慎重にモニターしなければならない。

 免疫抑制薬のなかでもアザチオプリンは安心して使える薬であるが、FDAの表示は今でも「D」である。しかし、これは高用量で催奇形性を示すデータが開発初期にみられたためで、移植やそのたの免疫疾患で現在用いられる低用量では安全である。

 現行ガイドラインは移植後1年は妊娠を遅らせることを推奨しているが、その場合でも条件として、①クレアチニンが1.5mg/dl未満、②蛋白尿が0.5g/d未満、③日和見感染リスクが低い、④催奇形性の薬を使用していない、⑤1年以内の拒絶がない、を挙げている(AJT 2009 9 S1-S155)。

 妊娠関連のアウトカムについてはTransplant Pregnancy Registry Internationalというレジストリがあるが、妊娠中の高血圧は約半数に見られ、児の体重は低めである(CJASN 2020 15 120)。また、分娩は32-36週が最も多く(AJT 2013 13 3173)、移植そのものは帝王切開の適応にならない(むしろ、切開する近くに移植腎がある可能性もあるので注意が必要だ)が、帝王切開の割合が高い。

 妊娠中の拒絶は5-10%とされ、これは一般の腎移植患者と同じ確率である。また腎グラフトの予後については、非妊娠患者と比べて差がなかったとするオーストラリアの報告(JASN 2009 20 2433)があり、その後のメタアナリシス(Transplantation 2020 104 1675)でも同様の結果となっている。

 

忘れられない一言 72

  米国の外来は手厚いと言いつつも、医師が何もしなくてよいわけではない。大事な仕事の一つが薬に関するものだ。

 まず、薬をオーダーする。そして、適応病名、処方量(1日1回1錠なら、30錠・90錠など)、リフィル回数(処方箋なしで自動的に継続できる回数)、受け取る薬局(病院そばのこともあれば、自宅近く、あるいは郵送サービスの薬局なこともある)を指定する。

 そして、カルテにある薬のリストを最新のものに変更する。たいていは処方すれば反映されるが、変更した場合には今までの薬を削除し、用量を変えた(が薬は今あるものを使う)場合は新たに処方はしないのでリストを変更する必要がある。

 さらに、患者にわかるよう、AVS(after-visit summary)の注意事項に「この薬を中止する」「この薬を始める」などの文章を追記する。AVSは診察の終わりに渡される紙だが、次回診察や検査の予定だけでなく、ここに薬のリストや注意事項なども記載される。

 どの国でも、患者はたくさんの薬を処方されていることが多い。ある指導医の先生は"I am obsessed with med list"と言っていたが、そのおかげで(筆者が気づかなかった)用量調節の必要性に気づいたり、不要な薬を減らしたりするのを目の当たりにしているので、今は筆者もではなくちゃんと見るクセをつける最中である。


7/24/2024

PTH and Ca reabsorption

 PTHはどのようにカルシウムを再吸収するのだろうか。定説は「遠位ネフロンに作用する」であるが、もう少し詳しく分かりつつあるようだ(Acta Physiologia 2023 238 e13959)。

 腎臓にはPTH受容体のサブタイプPTH1Rがある。In situ hybridizationによれば、足細胞、近位尿細管(主に直部)、TAL、DCTに分布している。定説と異なり、集合管には分布していないという。また、血中を流れるホルモンであるから、内腔側ではなく間質側に分布している。

 近位尿細管でPTHがどのようにCa再吸収に関わるかは、未解明である。NHE3を介したNa再吸収を抑制することはよく知られているため、それにカップリングしたCa再吸収も抑制しそうなものであるが、逆に増加させたという報告もある。Naに依らない、細胞間のClaudin2などに対する別の作用があるのかもしれない。

 TALでPTHがCa再吸収を増加させることはよく知られているが、この現象は皮質のTALで見られるという。近位尿細管と異なり、ここではPTHがCaが流れるための電位差と細胞間のCa透過性の両方を作り出していることが分かっているが、それぞれの機序は未解明である。

 電位差については、PTH受容体が生み出すcAMPがNKCC2チャネルを活性化するのではないかと推察される(バソプレシンは、そのようにして髄質のNKCC2を活性化させる)が、皮質のTALはPTHの有無にかかわらず常に活性化されているため、別の機序があるのかもしれない。

 また細胞間の透過性については、cAMPによるClaudin-16の(217位のセリン)リン酸化が推察されているが、直接の証拠はないうえ、それだけで短時間で再吸収が増加するかには疑問もある。逆に、Claudin-16を閉じるClaudin-14を不活性化する可能性も指摘されている。

 DCTでは、Caは細胞内を通って再吸収される。PTHは、内腔側のTRPV5、細胞内のCalbindin 28K、そして間質側のNCX1の発現を増加させることがわかっている。なかでもPTHが直接作用するのはTRPV5で、protein kinase Aによる開放確率の増加、protein kinase Cによるendocytosisの抑制などが知られている。


Hypercalcemia post KT

  腎機能が低下すると、①ビタミンDが活性化されずにカルシウムの吸収が低下し、②リンが尿に排泄されず、低カルシウム血症と高リン血症が起きる。活性型ビタミンDの低下、低カルシウム血症、高リン血症はいずれも③副甲状腺ホルモン(PTH)を増加させる。その結果、破骨細胞が刺激されて骨からカルシウムが流出し、血管などが石灰化する。いわゆる、CKD-MBDである。

 では、腎臓を移植するとどうなるか?

 ①ビタミンDが活性化されるようになり、カルシウムの吸収が増加し、②リンが尿に排泄され、低リン血症が起きる。③副甲状腺ホルモンは、副甲状腺から自律的に分泌されるので、なかなか減少しない。副甲状腺ホルモンには尿中のカルシウムを再吸収する作用もあるので、①と③を合わせて移植後に高カルシウム血症がみられることがある。

 頻度は15%(Transplantation 2016 100 184)、25%(Front Med 9 821884)などさまざまなであるが、PTHやCaが正常化しない患者は正常化する患者に比べて生命予後・グラフト予後が不良であったという報告もある(Diagnostics 2024 14 1358)。

 そのため、ビタミンD、CaSRアゴニスト、デノスマブ、副甲状腺摘出術などが試みられる。ただし、これらの介入によりPTHは下がるが、骨密度・骨折リスク・腎グラフト予後・生命予後などが改善したという報告はほとんどない。手探りである。


7/23/2024

Drug Gap

  日本と米国の間にはドラッグ・ロスがあるとよく言われる。例えば、IgA腎症において蛋白尿を減らすことが示された、ARB作用とエンドセリン拮抗作用を持つ薬Sparsentan(FILSPARI®)は、2023年に米国で承認されている。

 新薬だけに、さまざまな財政的援助や、安全性についてのプログラム、そして患者一人一人に担当のnurse educatorがついてサポートする仕組みなど、手厚い体制で走り出している。また、担当医師にこの薬が向いているか聞いてみるためのアドバイスなどもある。

 患者にしてみれば、「そんな薬があるならぜひ試してみたい」、「サポート体制があるなら安心だ」と思うことだろう。なおこの薬は7月18日に日本でも治験で患者に投与が開始されたという。発売元は違うが、米国のような手厚い体制がしかれるのか興味深い。

 いっぽう、日本のほうが進んでいる薬も(びっくりしたが)ある。たとえば、鉄利用障害を改善することで貧血を治療するHIF-PH阻害薬は、米国でまず診る機会がない。移植外来では「何それ?」くらいの感じである。移植された腎臓が機能していれば必要ないはずの薬だから、透析外来や腎臓内科外来にならあるのかもしれない。

 薬の話はキリがないが、おどろいたのはカリウム保持性利尿薬spironolactoneが、ざ瘡(ニキビ)に使われていることだ。ステロイドの誘導体であり、男性ホルモンの産生を抑制するため、女性のざ瘡や脱毛に用いられることがあるという(ただし、off-label)。2023年にBMJ誌から発表されたSAFA試験が根拠らしい。所変われば、である。


(出典はこちら


Long-term survival

  移植も透析も、腎臓の代わりをする治療であるから、患者が腎臓病で亡くなることは(治療を差し控える場合を除き)ない。では何で亡くなるのかというと、心血管系疾患、感染症、そして悪性腫瘍である。

 米国腎移植患者の死因第一位は、心血管系疾患である。感染死については、CMV・EBVウイルスなどの予防・監視・治療が確立したことや、免疫抑制薬を必要十分な量まで減量できるようになったことから、大分改善した。

 このことは、日本で透析患者の死因第一位が心血管系疾患から感染症に変わったことと比べて興味深い。大学でも病院でも「透析患者は免疫が低下している(immunocompromised)」と必ず習うが、具体的に何をどのように注意し治療したらよいのかとなると、はっきりしない。

 日本の透析患者は米国腎移植患者とくらべて高齢かつフレイルであり、その免疫力はさらに低い可能性すらある。透析施設はインフルエンザ・COVID・肺炎球菌ワクチン、足の傷チェック、毎月のレントゲンなど、さまざまに対策を講じているが、なかなか難しいのだろう。

 移植医療に携わりながら、なにかアイデアが浮かぶといいなと思っている。


Wait time

 残念ながら、どの国でも腎移植について説明を受ける患者は少ない。そのため、移植について知らされずに腹膜透析または血液透析を受けている患者がたくさんいる。そうした患者が透析を何年もしてから「移植という選択肢があると知った(あるいは医師から聞いた)」と移植施設にやってきた場合、以前は知らずに過ごした透析年数をwait timeにカウントできなかった。こうした不公平を被ってきた患者は非白人に多かったこともあり、現在では透析を開始してからの時間に変更されている。

 移植を受けた患者の腎グラフトが廃絶して、二度目・三度目の移植を希望する場合のwait timeは、また別にカウントされる。先行移植(透析を必要とする前に移植すること)を希望する患者が多いので、eGFRが20ml/min/1.73m2未満になった時点から待機リストに入れる。しかし、過去のドナーに感作されているため、適合するドナーを見つけることは難しい。そこで2014年にKAS(kidney allocation system)が変更され、感作の程度に応じたポイントが付与されるようになった。それでも待機時間はまだ長く、脱感作の治療を受ける患者もいる。

 では、せっかく何年も待って移植を受けたのに、その腎臓が一度も目覚めず機能しなかった場合はどうか?これは「最初から機能していなかった腎臓(primary non-function)」と呼ばる。CIT(臓器の搬送にかかった時間)、WIT(臓器の死体ドナーからの摘出と患者への移植にかかった時間)、ドナー腎臓の質など、原因はさまざまである※。

※移植を待ちながら亡くなる患者が多い(20人に1人)なか、本来なら移植できたはずの腎臓が数多く捨てられていることが社会的な問題になった。そこで2019年、トランプ大統領のexecutive orderによる国家的な取り組み、Advancing American Kidney Health Initiativeが始まった。これにより、KDPI(10項目程度のドナーリスクをスコアにしたもの:100%が最も質が低い)、EPTS(移植後の生存期間をスコアにしたもの:100%が最も短く、高スコア群には質の低い臓器を移植することが正当化される)などをもとに、ある程度共通のルールでどんどん腎臓を移植することになった。

 そんな腎臓を移植されたら、当然誰しもアンハッピーである。伝える側もつらい。怒りや不安、悲しみなど、さまざまな感情が表現される。

 しかし、ここがアメリカの凄いところだなとつくづく思うのであるが、この国は「こぼれた乳を嘆いても無駄(no use crying over spilt milk)」、とにかく今できることをしよう、という考え方で動いている。そこで、それを移植された患者はwait timeが引き継がれるのみならず、リストの上位に来る。そのため、感作されていなければ、数か月で別の腎臓が移植される。「もう自分は一生透析のままなのか・・」と絶望せずに済むのは、よいことである。


(出典はこちら


7/21/2024

Catch

  英語のcatchという言葉を、意外なところで耳にした。一つ目は、スクリュードライバーの先端がネジの凹みにかみ合っていない時。二つ目は、患者さんのベッドについた車輪の一つが地面に付いていない時。どちらも、"it's not catching"と言っていた。

 Catchを英英辞典で調べても、ピンポイントな文例は出てこなかった。「とらえる」「捕捉する」というニュアンスは分かるが、こういう表現は生の英語に触れないと自分からなかなか言えるものではない。

 ちなみに、スクリュードライバーの「+」は英語でPhillips、「-」はflat-headと言う。前者はPhillips社が広めたためそう呼ばれるが、もとはアイオワ出身のJohn P. Thompsonという人がポートランドで発明したものである。他社製もあるので、cross-headとも呼ばれる。


(出典はこちら


7/19/2024

Pre Eval and Staffing

  外来、とくに移植前の患者評価(Pre Eval)は集める情報が多い。ぱっと思いつくだけでも:

 原疾患、生検の有無、いつからどのように発見され進行したか、透析歴、アクセス、腎臓内科/透析医、尿量、移植歴、移植施設、ドナーのタイプ、グラフト不全の理由、生検の有無、生体ドナー候補の有無、心疾患、がん既往とスクリーニング歴、血栓症、抗凝固薬・抗血小板薬の有無と適応、間欠的跛行の有無、肝炎ウイルス・HIV・細菌感染の有無、高血圧と低血圧(透析時のミドドリン使用の有無)、糖尿病と低血糖(インスリン使用の有無)、FRAILスコア(倦怠感、自立歩行距離、自立階段昇降、既往の数、体重減少)、輸血歴、手術歴、内服薬、アレルギー、生活面のサポート、アドヒアランスとそのサポート、住所、喫煙歴、家族歴

 などを聞く必要がある。そのための情報源は大きく二つあり、一つは患者、もう一つは電子カルテである。

 筆者は最初、診察室に放り込まれてこれらを一気に聞けるほど頭のなかにリストが入っていなかったこともあり、患者の前でいくつか質問するとすぐに「えーっと、なんだっけ・・」とネタ切れになった。

 しかし、だからといってカルテから情報を得ようとすると、干し草のなかの針(needle in the haystack)を探すような感じになる。「これかな?・・いや違う、これは眼科のカルテだった」という具合だ。

 しかし、ある程度リストが頭の中に入ると、患者さんに筋道立ててストーリーを引き出せるようになる。また、電子カルテも押さえどころを知ると、要領よく情報を抽出することができる。検査結果をいくつか参照するうちに、ストーリーが浮かび上がってくるようにもなる。

 何事も経験であるが、成長を速めてくれるのがstaffingという制度である。

 まずフェローが先にカルテを読み診察室に入り、得た情報をスタッフに伝える。その話を聴きながらアテンディングが要点をまとめ、足りない情報をカルテや患者から追加で得る。フェローはそれを見ることで、「次はこれを聴こう」「次はここを参照しよう」と学べる。

 外来教育の根幹にかかわる話であるが、これがないと、ピアノの先生に師事せずにピアノを独学で学ぶ生徒のようになってしまう。日本でstaffingがある外来は稀で、教育病院の救急外来ですら、研修医が全症例をstaffingしてもらえる保障はない(それによる悲劇は、報道の通りである)。

 自分でも患者を診つつstaffingもしなければならないので、アテンディングも大変だろうが、基本的な情報をフェローが得てくれるので、結局は時間とエネルギーの節約になる。どうにか、この制度が日本の外来にも広がるとよいなと思う。


(出典はこちら


Because we love

  今日は「私たちはレジデント・フェローを愛しているから」デーで、11時30分になるとphysicians loungeにgrab and goのランチが大量に届けられた。事前に知らされていたレジデントとフェローが押し寄せ、みるみるランチの山が小さくなっていく。同じチームの仲間のぶんまで取っていく者もいる。

 日本の病院でフリーランチというと、各科向けの製薬会社による説明会のお弁当が定番であろう。レジデントは末席に座りこっそり食べるか、先輩医師が取っておいてくれたものをありがたく頂くかである。しかしここには、スタッフ医師や(日本の臨床研修センターにあたる)GMEの人達は、いない。

 レジデントやフェローは、年齢も国籍もさまざまだが、みんな目標をもって頑張っている。そういう人たちを応援したい気持ちは、普遍的なものなのだろうなと思う。フリーランチをもらうと、その気持ちが分かりやすく伝わる。また、頑張っている仲間たちを見ると、連帯感を抱くし、勇気ももらえる。

 そんな気持ちを再び持てただけでも、「フェローになってよかったな」と思えた。


(筆者撮影:2つは同僚の分)


7/17/2024

Bela as maintenance ISP

 3.切替(conversion)

 CNIベースの維持免疫抑制レジメンで拒絶が起きないのはよいが、残念ながら腎機能低下・さまざまな心血管系イベント・悪性腫瘍などの副作用があり、それらは「拒絶さえしなければよいだろう」と無視できるものではない。そんな時にはCNI-sparingレジメンが考慮され、筆者が以前米国にいた2011年にはもっぱらmTOR阻害薬が用いられていたが、今の米国はbelataceptが主流である。

 こうした使用はCNIを続けることが望ましくない場合やde novo DSAが出現した場合に限って症例ごとに退避的に行われる"rescue therapy"がほとんどであり、エビデンスの質は後方視になりがちで高くない。それでも、eGFRやグラフト予後の改善が見られたという報告や、急性細胞性拒絶に有意差がなかったという報告は散見される。切替が術後何年も経って行われることも影響しているだろう。

 なお切替方法は施設・医師・患者ごとにまちまちであり、よく保険が通るなと思うほどであるが、一応準拠するレジメンはある。それは"per protocol"の切り替えを行った多国籍の第3相RCT(JASN 2021 32 3252)で、belataceptは5mg/kgを2週間ごと5回行い、以後は4週間ごとというものだ。CNI(90%がtacrolimus)は4週間で漸減終了した。

 結果は24か月でグラフト予後に有意差はなく、eGFRは切替群で有意に高く(55.5 v. 48.5 ml/min/1.73m2)、de novo DSAは切替群で有意に低く(1% v. 7%)、急性細胞性拒絶は切替群で有意に高かった(8% v. 4%)。

4.CNI with belatacept

 ここまでくると、誰もが①CNIとbelataceptの「いいとこどり」はできないか?、②Belataceptで拒絶する患者のリスク因子は何か?などと考えたくなるだろう。そんなわけで、①については「CNI+belatacept」のレジメンをよく見かける。Belataceptは5mg/kgだが、ローディングは3回なこともあるし、維持量も1-2か月に1回などまちまちである。また、tacrolimusの目標トラフは通常4-6ng/mlのところを3-5ng/ml、といった具合である。

 要は"little bit of both"である。こうなってくると、もはや前向きに有効性を評価することはできないが、医師裁量が広く使いやすくなったとも言える。個人的に心配なのは、「ステロイドとMMFとtacrolimusとbelataceptだと4種類(quad)になってしまう」と言って、割とあっさりMMFが中止されることである。なんとなく、MMF+CNI+belataceptのほうが拒絶しにくくステロイドの副作用も減らせて一石二鳥、と思ってしまう。

5.Patients at risk

 前項②については、免疫学の深みにはまってしまうので、これまた「Thymoで導入したから安心して切り替えられる」とか経験則に基づきがちであるが、せっかく抗CD28の治療と分かっているのだから、T細胞のサブセットやマーカーによってbelataceptで拒絶しやすい群を同定できないかという試みは行われている。

 たとえば、移植前に「CD28+、CD8+のTEMRA細胞(ナイーブT細胞に見られるはずのCD45RAが、いちど消えた後で再び発現している段階)が3%以上」、「CD57+(NK細胞にも見られるマーカー)、PD1-のTEM細胞(effector memory T cell)が多い」などの群である。この辺りの理解が深まると「それなら抗〇〇抗体を併用すれば拒絶が防げるのでは?」といった話にもなってくるが、今はまだ実用的ではない。

 なお、免疫学の深みもさることながら、よく知られたbelataceptの禁忌はEBV陰性である。HIV感染、CMV血症なども慎重投与である。術後のFSGS再発などで血漿交換を行っている場合にも、belataceptは抜けてしまう。また、COVIDワクチンは、belataceptを打ってしまうとその効きがとても悪くなる。

6.おわりに

 筆者は「もうこれは(いろいろ問題もあるけど)やるもんでしょ」という治療に対して、「本当にそうだろうか、それ以外のよりよい方法があるのではないか、全員とは言わないが、他の方法でうまくいく状況と患者がいるのではないか?」と考えてしまうタイプである。その代表がステロイドと透析だった。CNIもまた、40-50年の時を経て「素晴らしい薬だけれど・・問題もある」という場面を迎えていると感じる。

 こういう薬や治療は、それはそれで確立しているわけだから、全員がいきなり乗り換えるような新しい治療は生まれにくい。それでも、「何かあるんじゃないか、きっとあるはずだ」と考え続けていれば、徐々に変わっていくと思う。※筆者はPrograf®(tacrolimus)、MeltDose technologyで徐放化に成功したEnvarsusXR®、Nulogix®(belatacept)の製薬会社と、利益の相反を持たない。


(Bella Notte、出典はこちら



Bela as induction ISP

 1.背景

 ①抗原提示、②共刺激、③サイトカインがT細胞を活性化させる三つの柱である、という仮説を"three signal hypothesis"と呼ぶ。そして、②の代表がCD28-CD80/86(T細胞側‐抗原提示細胞側の順、以下同じ)、CD154-CD40である。

 抗CD154モノクローナル抗体は血小板のCD154と交差して血栓の副作用が多く止めになった。その後Fc部分が問題と分かり、Fab部分に似るが抗体ではないTn3という蛋白をアルブミンに結合させたdazodalibepが開発され治験中である(NCT04046549)。

 CD28をターゲットにした薬は、CD80に結合してCD28-CD80シグナルをオフにする分子、CTLA-4に着目して作られた。第一世代のabataceptはCTLA-4と抗体のFc部分を結合させた薬で、皮下注射でリウマチ等に有効なのは素晴らしいが、非ヒト類人猿では移植の有効性が確認できなかった。

 ※なお、abataceptもbelataceptが使用できなかった際(流通の問題やコロナ禍)の使用経験では有効が確認されており、belataceptから切り替える治験が行われている(NCT04955366)。

 Abataceptに2か所修正を加えてCD80により強く結合するようにした第二世代の薬が、belataceptである。残念ながら点滴の薬で、基本は1か月に1回ある。そのため、ペグ化したりCTLA-4‐CD80の作用は阻害しないようにしたりと工夫した第三世代の薬、FR104(NCT04837092)やLulizumabが治験されている。

2.BENEFITとその後

 2010年に発表された試験で、シクロスポリン群に比して術後のeGFRが高く保たれたがACR(急性細胞性拒絶)は有意に多くかつ重度であったことはよく知られているが、とにかくこれを受けて2011年に米国と欧州でbelataceptは認可された。

 同試験はbelatacept群をmore intensive dose(MI)とless intensive dose(LI)に分け、LIが認可の用量となった。それは、10mg/kgをDay 1、Day 5、Week 2、Week 4でローディングしたあとWeek 8とWeek 12にうち、そこからは5mg/kgを4週ごとというものである。

 しかし、血栓の多い抗凝固薬を使いたい人がいないように、拒絶の多い免疫抑制薬を使いたい人もあまりおらず、betalaceptを導入に使う施設はほとんどない。認可当初から意識的に使っているEmory大学でも、tacrolimusと組み合わせて、用量も「5mg/kgを術中と1ヵ月後、以後毎月」とBENEFITとは異なるレジメンになっている(KI Rep 2023 8 2529)。

 Belatacept使用中の拒絶は術後6ヵ月以内が多い。そのため、さきほどのEmory大学レジメンではtacrolimusを術後11か月用いるようにしている(9か月目からで毎月1/3ずつ漸減して終了する)。

 むしろ、belataceptの美しさは、①eGFRが保たれる、②糖尿病・心血管系イベントなどCNIの副作用を低減できる、③DSAを減らせる、などにある。そのため、使い道としては維持レジメンのほうが向いている。また、③については、AMR(抗体関連拒絶)の治療や脱感作にも試みられている。

 そこで次回は、維持療法・CNI sparing agentとしての役割について書こうと思う。


(la Bella y la Bestia、出典はDisney+)